それはとある日の出来事。
遅い時間の帰宅になり、はもう夢の世界。
だけが、帰宅した俺を出迎えた。
「お帰りなさい、景吾さん」
そう言いながら俺に近づいてくる
出迎えのキスは忘れない。

ダイニングで一人だけの夕食。
どんなに遅く帰っても、の作る手料理だけは食べるようにしている。
の作る料理は美味いからな。
食事は取らなくとも、が同じ卓に座っているだけでも食は進む。
俺が食事を終えた頃だった。
突然、の携帯電話が鳴り出した。
慌てて電話を取る
俺を気にしてか、電話に応対しながらキッチンの方へと行ってしまった。
別に、その場で話していても良いのにな。
の声が聞えてくる。
「え?永峰のおばさんが?」
「そうなの…」
「うん…そうしたいのはやまやまだけど、も居るし……」
聞えてくる声は、随分と深刻そうだ。

電話での会話を終えて、俺の居るダイニングへと戻ってくる
さえない表情をしている。
「どうした、何かあったのか?」
俺はに問いかける。
「あ、いえ…。たいした事ではないんです」
は慌てて頭を振る。
しかし、俺の眼は誤魔化せない。
「何があった?」
俺はもう一度強い口調で言う。
するとはそれに負けたように言葉をつむぎ始めた。

どうやら、遠方に住むの遠縁の女性が亡くなり、葬儀をする事になったのだという。
しかも、その女性には身寄りがなく、葬儀に人手が必要らしい。
その事を、の母親が電話で連絡してきたらしいのだ。
通夜は明日、葬儀は明後日の日程とのこと。
しかし、遠方であるので少なくとも明日の朝から明後日の夜遅くまでは帰れそうにない。
落ち着きが殆どない年頃の娘のは連れてゆける訳もなく…。
という訳で、断りを入れたとの事だった。

「いってこい」
俺はの眼を見詰めて言う。
「無理ですよ。だいいちはどうするんですか?明日も明後日も、景吾さんはお仕事だし、まだお留守番が出来る子じゃないし……」
困ったような顔をして言う
「俺の実家からメイドを呼んで面倒見させりゃ良いだろうが。たった二日くらいどうって事ねぇだろ」
俺の言葉にはそう言って頭を振った。
「そんな、わざわざ迷惑になりますっ!」
相変わらず、余計な事に気を回す女だな……。
「なら、明日 明後日、俺が休みを取っての面倒を見てやる。丁度、明日 明後日の予定に重要なものはなかったし、先週と先々週に日曜出勤だったしな、その分の休みを使える。俺は何の迷惑も感じねぇ」
の反論を見越して言葉を紡いでやれば、返せる返事は「でも…」という中身の見えない言葉だけ。
「決まりだな。明日に必要な準備をするぞ」
俺はの言葉を待たず、先に先にと話を進めてゆく。
するとは小さくため息をついて「わかりました」と従うのだった。

そして、あくる朝。
玄関口で、出かけてゆくと一緒に見送る。
いつもと逆だな。
、パパのいう事ちゃんと聞いて、いい子にしてるのよ?」
の言葉には「うん!」と大きく頷いた。
「スミマセン、景吾さん…。の事よろしくお願いします」
そう言うとは深々と頭を下げて玄関のドアを開けて出てゆく。
「ママ いてあっさ〜い」
がそう言ってに手を振った。

今日明日まるまる、と二人きり。
たまにはこういうのも悪くない。
が出て行った後、は俺を見上げてにっこり笑った。







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