妹の学費の為にと、高校進学を諦めて働く事にした私。
そんな私の仕事は、とあるお屋敷の使用人。
年齢、性別、経験不問。
初心者でもOK。
住み込みで、食事支給有り。
そんな条件がそろって、更に高月給。
幸い家事全般は得意分野。
ならば、やれるのではと、面接に望んだ。
そして、嬉しい事に内定が貰え、春から就職と相成ったのでぅ。
あ、申し遅れました。
私は、。
年は15歳。
家族構成は13歳の妹だけ。
名前は。
可愛い女の子なのよ。
ちなみに、私も女の子です。
あ、喋ってれば解る?
私達姉妹の両親は、私が10歳の時に交通事故で他界。
その時妹は8歳。
その後、妹共々叔母夫婦に引き取られたの。
けれど、その叔母夫婦ともいろいろあって、私が中2の時に児童養護施設へと預けられる事になり……。
それで今に至るのです。
両親がいないので、妹ののこれから先の学費を稼ぐのは私の仕事なの。
もちろん、学費免除だとか、奨学金だとか、そういう制度がある事は知ってるよ。
でも、それだけでは まかなえないものだってあるでしょ?
学費免除もしてもらえなければ、奨学金を使えない事だってあるかもしれないし……。
そんな事を考えたら、進学なんて出来ないと思ったの。
中学の進路指導の先生は、私の成績なら、色々な制度を利用して高校まで進学できると言って、進学を勧めてくれたんだけど…。
けれど、私が高校に行っていたら、もし、の学費が必要になったって時にどうしようもなくなるでしょ?
だから、私は高校進学を選択肢から外したの。
就職して、働いてお金を貯めようって。
妹が好きな高校を選べるように……。
幸い、妹が高校に上がるまでには少しの猶予がある。
それまで、いっぱい働いてお金を貯めるの。
そんな風に息巻いている私に飛び込んできたのが、使用人のお仕事。
進路指導の先生が、知り合いのつてで見つけてきたものらしい。
そして、その条件があまりに魅力的だったから、面接を受ける事にしたの。
面接は、とある公共施設の会議室で。
色々な人が面接に来てた。
その中で、私が一番最年少。
……当たり前か……。
人のよさそうな、壮年の男性と女性が面接官。
「うちでは住み込みで働いていただく事になるんですが、ご両親には了承を得ていらっしゃいますか?」
「何故、うちで働こうと思われたんですか?」
面接の時、男性にそう問われた。
もちろん、正直に答えたわよ。
「私には両親がおりません。私にとっての家族は、妹だけです」
「両親の変わりに、妹を大学まで進学させる為のお金が必要だからです」
そしたら、男の人は少し同情を含んだ眼をして私を見た。
……同情されるような事じゃないと思うんだけどなぁ…?
あ、でもね、隣に居た女の人は、ニコニコ微笑を浮かべて私を見てたの。
すっごく優しい笑顔だったなぁ……。
そして、面接の合否は後に連絡するという話で、面接は締めくくられた。
それから数日後、私が住んでいる児童養護施設に電話がかかってきたわ。
「採用させていただきます。4月から、よろしくお願いします」って。
声は、面接官の女性の方のものだった。
それから時間は過ぎ。
私は、中学を卒業した。
住み込みでの仕事先なので、今まで暮らした児童養護施設からはさよなら。
とも離れて暮らすことになるのは寂しいけど、これも全ての為。
も私の気持ちを理解してくれてるから、「お仕事頑張ってね」って、そう言って送り出してくれた。
時々は、会いに行くから、寂しがらなくてもいいんだよ、。
そして、私の使用人としての日々が始まる……。
仕事を始めてからの暫くは、研修期間という事で、本来働くところとは違うお屋敷で働く事になった。
そのお屋敷がものすごーーーーーーーーく大きいの。
なんでも、跡部財閥の会長さんご自慢の豪邸なんだって。
でもね、私が働くのはその、会長さんの息子さん。
つまり、跡部財閥の御曹司さんのお屋敷なんだと説明された。
御曹司さんが、ここから離れたところに、一人暮らしをする為のお屋敷を建てたんだって。
もう暫くしたら、お引越しするんだって、そう話を聞いた。
その、御曹司さんは25歳らしい。
その年で大きなお屋敷を建てたんだとか。
会社の社長も任されてるんだとか聞いた。
すごいよね、御曹司さん。
そんでもって、独身。
御曹司さんの名前は、跡部景吾さん。
これからは、景吾様って呼ばなきゃいけないの。
お屋敷に仕える以上はご主人様なのだから、名前に様をつけなければいけないんだって。
研修中、そんな事を色々と教わった。
私に色々と教えてくれたのは、面接官だった女性、名前は沢木清音さん。
面接官だった男性はその清音さんの旦那さんで、沢木基之さん。
景吾様が生まれる前からずーっと仕えてきて、養育係だったんだって。
大きなお屋敷を二人だけで守るのは大変だからって、新しい使用人を雇おうって事になったんだって。
そして採用されたのが私だったって訳。
面接の時、結構いっぱい人がいたのを覚えてる。
競争率激しかったんだなぁ…と、話を聞いてこそっと思ったのはナイショ。
兎にも角にも、私は頑張って働いて、妹を大学まで行かせるのだ!
そう心に決めて、私は一日一日を過ごしていた。
景吾様に会ったのは、引越し前日の夜。
それまで景吾様はドイツに出張だったらしくて……。
景吾様のご両親も、今はイギリスに出張中なんだって。
だから、家には使用人しかいなかったのかぁ……。
で、景吾様が帰ってきたのが引越し前日の夜だったって訳。
でも、景吾様のご両親は帰ってこなかった。
忙しいんだって。
そして、新しく使用人になった私を紹介するんだって、清音さんにリビングにつれて行かれたの。
リビングに入って、ソファーに座る男性の前に立つ。
そう、ソファーに座っているのが景吾様なの。
色素の薄いブラウンの髪とブルーの瞳。
整った顔立ち。
一番印象的なのは右目の下の泣きボクロ。
すっごくセクシーな男の人。
きっとモテモテなんだろうなぁ。
彼女さんは羨望の的だろうなぁ。
そんな事を心の中で考えていた。
「この子が、新しく景吾様のお世話をする子です」
清音さんが説明するように言う。
そして、「ちゃんから自己紹介して」って言った。
何故だか景吾様にじっと見詰められちゃってて、ちょっと緊張しちゃうよ。
「です。どうぞよろしくお願いいたします」
そう自己紹介して景吾様に笑みを向ける。
そしたらね、景吾様も笑い返してくれた。
その笑顔があまりにも素敵過ぎて、心臓が跳ね上がったのは……ナイショの話だよ!
*
ご主人様になる景吾様と対面した次の日。
今日は、景吾様が新居にお引越しする日。
決められた時間に間に合うように朝早く起きて、身支度を整える。
ここのお屋敷で働く人が着るユニフォームに身を包み、髪の毛はポニーテールで動きやすくするのよ。
あ、誰?
ユニフォームって聞いた時にメイド服をイメージしたのは?
違うからね。
モノトーンの色調で統一されたユニフォームなんだけど。
白い長袖シャツと黒いベスト、黒い長ズボンと黒い腰の周りだけのエプロンで構成されてるわ。
夏になると、長袖シャツが半そでになるんだって。
で、真冬は黒い長袖のジャケットを着る事になるんだそうで。
春と秋は、今着てる服装なんだって、清音さんが言ってた。
なんだか、何処かのホテルで働く人みたいな感じ。
間違っても、巷で萌えを振りまくようなものではないから、気をつけろ!
なんちゃって。
ちなみに、今私が寝泊りしているのは、跡部財閥会長さんのお屋敷の一角、離れにある使用人宿舎。
その、宿舎の中に食堂があって、そこで朝食が取れるの。
朝食は、使用人の皆でローテーションを組んで作るんだって。
あ、でも、新しいお屋敷には使用人宿舎のような建物はなくて、一つのお屋敷に皆で住むんだって。
朝食を食べ終わった私に、清音さんが声をかけてきた。
きっと、今日のお仕事のスケジュールかな?
今日はお引越しだし、忙しそうだね。
お引越しに関しては、殆ど使用人でやってしまうから、景吾様は体一つ動かすだけでいいみたいだよ。
凄いね…。
て、そんな事はおいといて。
私は、にこやかに返事をした。
「ちゃん、今日から貴方は景吾様付きになる事が決まったわ」
清音さんの言葉を聞いて、私は意味が解らず思わず小首を傾げる。
「だからね、景吾様がお屋敷にいらっしゃる間は、ずっと景吾様のお世話をする係になったのよ」
そう言い直されて、私はやっと言葉の意味を理解した。
「基本的には、どんなお仕事になるんですか?」
私は疑問を清音さんにぶつけてみる。
「それは、口頭で伝えるより実際に動いた方がいいから、その時その時で教えるわ」
清音さんからはそんな答えが返ってきた。
……景吾様のお世話って、どんな事をするんだろう……。
今まで、私がやってきた仕事は、裏方仕事ばかり。
お掃除だとか、お洗濯だとか、そういう仕事だったんだよね…。
今日は引越しだし、その関係のお仕事が回ってくると思ったんだけど…、違うのかな?
そんな事を考えていると、「でね、ちゃん」と、清音さんが更に言葉を私にかけてきた。
「もうすぐ、景吾様のご起床の時間なんですの。だから、私の指示通りに行動してくださる?それがすべて、これからの景吾様のお世話の一部になるのよ」
そして、更に詳しく清音さんは私に指示をくれる。
内容はというと…。
清音さんから、景吾様の着替えのスウェットの上下が入ったかごを受け取って、それを持って景吾様の寝室へ向かって、景吾様を起こす。
そして、景吾様のベッドの天蓋や、ベッドルームのカーテンを開ける。
ベッドルームのカーテンはレースカーテンだけ残してあけるようにと指示を貰った。
ベッドルームで、景吾様が服を着替えるからだそうだ。
そして、景吾様にスウェット一式に着替えてもらって、その後は、景吾様がロードワークに向かわれるのを見送るように…って、清音さんに指示された。
景吾様の着替えた物が入った籠は、景吾様がロードワークに行った後に清音さんが回収するとの事。
まだまだ、景吾様の朝のスケジュールはあるけど、それは、景吾様がロードワークに言ってる間に教えてくれるみたいなので、とりあえず、私は指示通り動く事に。
引越しの朝でも、日課は欠かさないんだ…。
まぁ、そんな事が出来るのも、沢山の使用人さんが居るからだろうけど…。
ますます、お金持ちの生活って凄いなと、思った。
私には、雲の上の生活だよ。
そして、その指示通り、清音さんからスウェット一式の入った籠を受け取って、景吾様の部屋へと向かう事に。
場所は、清音さんが教えてくれた。
清音さんは他に仕事があるからと、すぐに居なくなっちゃったけど。
私は景吾様の寝室のドアをノックする。
それから、そっとドアを開けて、寝室へと入った。
時期が時期なだけに、今は日の昇っていない時間帯。
だから余計に薄暗い寝室だった。
ベッドランプは点けてないみたいだね。
シンプルな内装の寝室だけど、天蓋の掛かったでっかいベッドが部屋の中央に鎮座してる。
これって、キングサイズのベッドってやつ?
こんなベッドに寝てるんだ…。
私は、部屋の隅に手にしていたスウェットの入った籠を置いて、それから、部屋の灯りを点ける。
もちろん、これは清音さんがやるようにって言ってた事よ。
そして、部屋の中央のベッドへと近づいてゆく。
天蓋を少しだけ開いてベッドを覗き込むと、そこには、綺麗な男の人の姿。
景吾様だ。
わー、バスローブで寝てる……。
カッコいい男の人のイメージどおりの人だな、この人…。
低血圧じゃないかな…、大丈夫かな…。
そんな事を思いながら、私は景吾様に声をかける。
「お…おはようございます、景吾様…朝ですよ……」
緊張と不安で、言葉がうまく紡げないよぉ…。
聞えてたかな、声。
でも、そんな私の不安なんて必要なかったみたい。
景吾様は私のその一言でパッチリと眼を開けたの。
それにね、ゆっくりと起き上がって私のほうに視線を向けるて「おはよう、」って言いながらにっこりと笑いかけてくれた。
しょっぱなから、名前を呼び捨てなのにはびっくりだったけど、清音さんも呼び捨てだったし、特別なことじゃなさそう。
それより何より、優しい笑顔を見せてくれたおかげで、今までの不安とかぶっ飛んじゃって、ほっとして、私は頬をほころんだ。
「おはようございます」と私は景吾様にもう一度朝の挨拶をした。
景吾様は朝から機嫌がよさそうで、安心だよ。
あ、そうだ、忘れてた。
「あの…天蓋とカーテンを全部あけてしまってもいいですか?」
私は清音さんの指示を実行しようと考えた。
けれど、一応は景吾様にも確認をとった方がいいだろうと、そう問いをかけたの。
「ああ、そうしてくれ」と景吾様に許可をもらえたから、私ははいと頷いて、先ずは天蓋から開き始めた。
天蓋を開き終えて、今度はカーテンを開くことに。
まだ、外は薄暗いな…。
まぁ、今の時間は仕方ないけど。
そういえば、景吾様がベッドから降りるような気配が無いな。
具合でも悪いのかしら?
あれだけパチーッと眼を覚ましたのに?
私は気になって、カーテンを開き終えると、景吾様の居るベッドへと戻る。
「あの…景吾様…、どこか、具合が悪いのですか?」
私が問うと景吾様ははっと気がついたような顔をした。
そして、「いや、大丈夫だ」と返事をして、ベッドから下りる。
「あの…、今朝はロードワークに行かれるんですよね?」
ベッドから降りて立ち上がった景吾様に私は再び問いをかけた。
……『あの…』って言葉、付けすぎだね、私……。
そんな事はおいといて。
景吾様は私の問いに「ああ」と言葉短く頷く。
私はその言葉を聞いて、部屋の隅においておいた籠を「これ…着替えです」と景吾様に渡した。
そう、着替えのスウェットが入った籠だ。
籠を受け取った景吾様は、何も言わずにそれをベッドに置いて着替えを始めた。
あれ?
着替え始めるって事は、着てるバスローブを脱ぐってことだよね?
って、言ってるそばから脱ぎ始めちゃったよぉぉ?!
景吾様はバスローブの腰紐を解いて、バスローブを肩からすべり落とした。
「きゃっ」と、私は思わず悲鳴を上げて景吾様から体ごと視線を逸らす。
丁度、景吾様は私に背を向けていたから、正面からそれを見ることはなかったのだけれど、裸の背中は見てしまいました……。
あう…、どうしよう、めっちゃくちゃ恥ずかしいっ!
耳まで熱いよ。
きっと、顔を見られたら真っ赤だよ。
どうしよう、顔あげらんない……。
落ち着け、落ち着け私!
これから、ロードワークへ向かう景吾様のお見送りもしないといけないんだから!
そして、景吾様は着替えを終えてロードワークへと向かう。
お屋敷の門の前まで行くまでに、赤面は何とか治まったけど、それでもまだ恥ずかしさが抜けないよっ!
ロードワークへ向かう景吾様に「いってらっしゃいませ、頑張ってください」と声をかけて笑顔を向けたけど、でもやっぱり恥ずかしい気持ちから解放されてなくって、それがそのまま表情にも出てたと思う。
けど、景吾様はそれに関してはなにも言わないで、「1時間で戻る」と、そう私に言ってロードワークへと行ってしまった。
景吾様が居なくなって、私はほっと一つため息。
これから、こんな日々が毎日続くのかなぁ……。
ま、これもお仕事だから慣れなきゃいけないか。
……もしかして、景吾様の裸を見るのもなれなきゃいけないの?!
それは…イヤだなぁ……。
私はそんな事を考えつつも、お屋敷へと戻るのだった。
そして、お屋敷に戻った私は、清音さんと合流して、ロードワークから帰ってきた景吾様のお世話についてを聞いた。
ロードワークから帰ってきた景吾様を迎えたりするのが、私の仕事みたい。
これから先、ずっとそんな仕事が中心になると、清音さんが言った。
なんだか、奥さんがすることっぽくない?
こういうの。
お仕事だから、何も文句は言えないけどね。
これから先、どんな生活が待っているのかな。
景吾様は優しい人みたいだから、その分、不安は少なくなったな。
景吾様とも、仲良くなれたらいいなぁ……。
↑ →
<あとがき>
ヒロインちゃん、跡部に惚れられたことに全く気付いていません。
っていうか、羊の皮を被った狼である事に気付いていませんね。
鈍いです。
ええ、鈍いですよ。
そして、ここの跡部もヒロインに裸体を披露!
………なして、ウチの跡部は露出好きかね…;
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