First Love

仮面の剣士として紐育を騒がせるようになってどれくらい経っていただろう。
オレは師匠の仇を探して夜な夜な紐育を彷徨っていた。
手がかりなどない。
それはわかっていても。
ジェミニのように何事もなかったかのような生活など。

出来はしなかった。

「ホワット!?」
「くっ!」
今日もこうるさい警察どもがオレを追いかけてくる。
オレはそいつらをまく為に月の隠れた暗闇の中を走っていたのだが。
背後を窺いながら走っていたオレにぶつかったのは予想以上にガタイの良い男だった。
まともにぶつかったオレは無様にもその場に尻餅をついてしまう。
「こっちだ!」
「……ちっ」
「キミは……」
迫り来る警察の声。
とっさに立ち上がろうとすると、それよりも先に腕を掴まれ立たされる。
…だけじゃなかった。
乱暴とも言えるほど無遠慮に建物の中に放り込まれる。
「な……!」
反論する暇すら与えられず押し込められたオレを無視して男は鍵をかける。
暗い室内に一人取り残されたオレは慌てて扉に近づいて開けようとしたが。
鍵をかけられた扉はびくともしない。
「おや…これはこれは。いったいなんの騒ぎですか?」
オレを押し込めた男はばたばたと近づいてきた警察どもにあっけらかんとそう言い放つ。
とぼけたことを。
オレを追ってきていることくらい、わからないはずもないだろうに。
「これはこれは…ミスター・サニーサイド。この辺で仮面の剣士を見ませんでしたかな?」
見たも何もここに居る。
「ああ、あの今紐育を騒がせている仮面の剣士ですか。いえ、見てませんが。いや〜ボクも一度見てみたいなぁ」
白々しい。
だが、警察どもは男の言葉を信じたのか間もなく去っていった。

「…う、わっ」
「手荒にしてすまなかったね。キミをかばうためとはいえ女性を乱暴に扱うのは好きじゃないんだけど」
寄りかかるようにしていた扉を急にあけられよろめくと、頭上からそんな言葉が降ってきた。
「……オレをかばうなど…どういうつもりだ」
きっ、と睨みつけても男は動じない。
「かばったつもりはないさ。ただキミと話がしてみたかっただけだよ」
雲に隠れていた月が、雲の間から姿を現す。
月に照らされて、男の顔が浮かび上がった。
サングラス越しにオレを見下ろす、得体の知れない笑みを浮かべた瞳と目が合う。

「ジェミニン」

「……!!」
オレの名前を呼ぶ、その顔をオレは知っていた。
…正確にはオレじゃない、ジェミニのよく知る人物だった。
だが、その事以上に名前を呼ばれたことに驚いてオレは動けなかった。
ジェミニではない、オレの名前を…。


「何で、オレの名前を……」
「マスター・ミフネからキミの事は聞いていてね」
「師匠から!?」
その言葉にぐっと襟を掴んで詰め寄ると目の前の男は降参と言わんばかりに両手を広げてみせた。
だが、オレは納得などするはずもない。
「おいおい…興奮する気持ちはわかるけどスーツが皺になるから離してくれないか」
「何で師匠の事を、オレの事を知っている。お前は…一体、……!!」
男を揺さぶりながら尚も追及しようとしたオレの唇に何かが触れた。
これ以上ないほど目の前の顔と唇の感触でそれがキスだと気付いたときには。
既に男の唇は離れたあとだった。

「やれやれ…少しは大人しくなったか。胸倉を掴まれたままじゃ自己紹介も出来ないからね」
驚きで力の抜けた手から逃れると、男は曲がったネクタイや皺になったスーツを整えている。
オレにした事など微塵も感じさせないほどマイペースで優雅な仕草で。
「ボクはサニーサイド。この劇場、リトルリップシアターのオーナーで……って聞いてる?」
「……っ!!」
オレの目の前でぶらぶらと手を振る男、サニーサイドに繰り出したパンチは大振りすぎたのだろうか。
あっさりと拳を掴まれてしまった。
「よくも、オレの……オレの!」
「ん?まさかはじめてだった?」
「当たり前だ!!」
オレの…オレのファーストキスが!
こんな男にこんな所で!
「あ〜…それは悪い事をしたね。興奮した女性を黙らすには一番効果的な方法だからさ」
人のファーストキスを奪っておきながら、ちっとも悪びれずにそんな事を言う。
「でも」
サニーサイドが口の端を歪めてにやりと笑った。
「とんでもないじゃじゃ馬でも可愛いところもあるんだね。仮面の剣士と言えど、年頃の女の子というわけか」
「!!」
その言い方が癇に障った。
カッとなってサニーサイドを突き飛ばすと一目散に走り出す。
「ジェミニン!」
名前を呼ばれたが、振り返らなかった。
そんな余裕などないほど、動揺していたのだ。

「……」
ジェミニのアパートまで戻ると、鍵をかけてふぅと息を吐く。
おそるおそる唇に触れてみる。
さきほどの感触を思い出して、いまいましげに腕で唇を拭う。
けれどどんなに拭っても唇に残る感触は消せない。
つい逃げ出してしまい、師匠の事を聞きそびれてしまったが。
あの男は何か知っているのかもしれない…ならば、もう一度会って話を聞きださねばならぬのだろうか。
…出来れば、会いたくない。
どんな悪人と対峙する時も怖いなどと思った事はない。
だが。
あの男の瞳は得体の知れない『何か』を感じて顔を思い出すだけでぞくり、と背筋が震えた。
『ジェミニン』
師匠が死んでから…自分の名前を呼ばれるのは初めてだった。
オレの存在を知る人間など、ジェミニくらいのものだ。
そしてそのジェミニすらも…オレは自分とは別の人間だと思っている。
本当のオレを誰も知らない。
『マスター・ミフネからキミの事は聞いていてね』
師匠は何故、あんなヤツにオレの事を話したのだろう。
どうせ誰が聞いてもオレの事など一笑に付すだけだろうに。
だがオレの存在を知っているとなると…厄介だ。
オレが本当は『ジェミニと同一人物』だと知っているとするならば…。

まだ、捕まるわけにはいかない。
師匠の仇を、討つまでは。

いつの間にかオレは、オレのファーストキスを奪った男にいかにしてもう一度会うか、それだけを考えていた。

しかし予想より早く邂逅はやってきた。
今度はリトルリップシアターではなくセントラルパークに逃げ込んだ悪党を追っていたとき。
「ん?あれ、やぁジェミニン。キミの追っていた悪党ならもう捕まえて警察に渡したよ」
へんちくりんな造りの屋敷の庭に踏み込むと、笑いながらそう言うサニーサイドが居た。
「……」
「丁度いい。この間はゆっくり話も出来なかったからね、ボクの家に寄っていかないか?」
「ここは…貴様の家なのか?」
ある意味似合っているというかなんというか…。
「そうだよ。驚いたかい?」
「…悪趣味な家だ」
屋敷を彩るオブジェの数々にちらりと視線を向けながらそう言うと。
「それはお褒めの言葉として受け取っておくよ。じゃあ、中へどうぞ。ジェミニン」
まるで貴婦人でもエスコートするかのように軽やかに手を広げてサニーサイドはオレを中へと招いた。
「………」
引き返そうと思えば出来たはずなのに。
オレの足は誘われるままに屋敷の中へと踏み出していた。

「で、何か聞きたい事は?話せる事なら聞くよ」
オレと二人分の紅茶をテーブルに置くと、ソファに腰掛けてサニーサイドはそう聞いてきた。
「何故、師匠の事を…オレのことを知っている」
「何でも何もマスター・ミフネ本人から聞いたからに決まってるじゃないか」
「バカな!師匠がオレの事を他人に話すはずがない。まさか…お前は師匠の仇の仲間なのか!?」
「おいおい…ジェミニン。どうしてそういう話になるんだよ。本当だよ、本人から聞いた話だ」
唇を噛む。
胸倉を掴んで吐かせたい所だがこの間のようにうっかりキスでもされたらたまらない。
「マスター・ミフネはある程度覚悟をしていたんだろうね。自分に何かあったときにキミ達の事を頼むと言われてね」
「ウソだ!師匠は…ジェミニの事は頼んでも…オレの事を……頼むはずが、ない」
「ジェミニン」
「お前だって、どうせ心の中でオレの事を笑っているんだろう!」
生まれたときから、ジェミニの陰に隠れて誰にも気付かれなかったオレ。
師匠だけが。
師匠だけがオレの存在に気付いてくれた。
だが、その師匠は殺されてしまった。
だから、オレは仇を討つ。
オレの存在を認めてくれた人の恩に報いるために。

オレの存在を、消させないために。
オレが、オレであるために。

「……少しは落ち着いたかい」
優雅に足を組みながら紅茶を口に運ぶサニーサイドを睨みつける。
久しぶりにオレの存在に知っている人間に会ったとはいえ…少し余計な事を話しすぎた。
オレはこんな事を言うためにきたわけじゃない。
「お前がオレの事を知っていようがいまいがどうでもいい。ただ、邪魔をするなら…斬る!!」
レッド・サンを鞘から抜くと、サニーサイドの眼前に突きつける。
「これはまた…物騒だね」
だが、刀を前にしてもサニーサイドは微動だにしなかった。
ただ、ちらりとだけ刀に目を向けると
「いい刀だ。マスター・ミフネの形見かい」
と呟いた。
「ボクは別にキミの邪魔をしようとは思ってないよ。だったらこの間だって助けずに警察にキミを突き出していたさ」
違うかい?とサニーサイドは首を傾げる。
「……」
確かに、その通りだ。
だが、話してみたいだけでオレを庇ったとも思えない。
「…貴様の目的は何だ」
「別に。キミに興味があっただけだよ。そこまで仇討ちに固執する理由が知りたくてね」
「オレは……師匠の仇を弟子が討つのは当たり前だ!それ以外に、理由などない」
いちいち癇に障る男だ。
「まぁ、なんとなくわかったからその事はもういいよ。ところで…何ならキミに協力しようか?ジェミニン」
名前を呼ばれるたびに、それが師匠ではないとわかっていても懐かしさに胸が震える。
ジェミニン、ジェミニン、ジェミニン。
オレの名前。
師匠だけが呼んでくれた、オレの名前。
けれど、その事に気を取られて肝心の台詞を聞き逃すところだった。
「協力…だと?」
「そうだよ。キミが望むなら、手を貸そうと言ってるんだ」
オレは未だに眼前に刀につきつけたままだ。
もしかして、オレを油断させるための言い訳かもしれない。
「でたらめを言うな。そんな事を言って…オレを騙そうとしてもオレは騙されない」
「ウソだと思うなら自由だけど。闇雲に悪を斬っても効率が悪くない?ボクなら、キミの欲しい情報をあげれるよ」
「……」
刀を突きつけられているというのに。
この自信は一体何なのだ。
「赤目の妖魔」
身体が、びくんと跳ねる。
「キミが追っている敵は、それだろう?」
「何で…知って」
「ボクを見くびらないで欲しいなぁ。それくらいはとっくに調査済みさ。ま、好都合な事にボクの紐育華撃団の敵でもあるしね」
紐育華撃団。
名前は勿論知っている。
ジェミニが、憧れている事も。
「華撃団内で調査、分析した赤目の妖魔のデータを見せてあげてもいいよ。出現地点の予測なんかもあるから、キミには有意義じゃないかなぁ」
「……」
ヤツの情報。
喉から手が出るほど欲しかったが。
話がうますぎる。
「何故、オレに手を貸す。貴様の狙いはなんだ」
「……思ったより冷静なんだね。以前みたいにボクの胸倉を捕まえて見せろと掴みかかってくるかと思ったよ」
…何だかちょっとがっかりしているように見えるのはオレの気のせいだろうか。
「うかつに近づいて…こ、この間のような事があったら困るからな」
「ああ……アレか。そうだね、アレはボクが悪かったかな。じゃあ、そのお詫びを兼ねて一つ情報を教えよう」
サニーサイドは足を組みかえるとにこやかに微笑んだ。
「赤目の妖魔の次の出現予測は工事現場となっている。行ってみたらどうだい?」
「工事現場……」
「それでボクの事を信用してくれたらまた来ればいい。人間、信頼第一だからね」
およそ信頼などという言葉の似合わない胡散臭い顔をした人間が言っても説得力がないが。
オレは刀を突きつけたまま立ち上がり、じりじりと後ずさる。
部屋のドアまで来ると、俺は後ろ手にドアを開けて部屋を飛び出した。
…向かう先は、工事現場。

果たしてそこにはヤツがいた。
憎い…師匠の仇が。
「貴様……ようやく見つけたぞ。仇を討たせてもらう……」
ギィン、と火花を散らしながらヤツの鎌とオレの刀が競り合う。
けれどオレの正体を知るとヤツは逃げてしまった。
オレの持つ、五輪の書の片割れを必ず手に入れると言い残して。



「やぁ…おかえり。どうだった?」
屋敷に戻ると、待っていたのかサニーサイドがオレを出迎えた。
「ヤツは、居た……だが、逃げられた」
「そう。それは残念だったね」
拳を握りしめる。
やっと見つけたのに…!!
目の前で逃げられるなど。
悔しい。
「残念なんかじゃ、ない!オレは、今度こそ…ヤツを……師匠の仇を、討つ!」
怒りと悔しさに打ち震えていた顔を上げると、サニーサイドの顔が見えた。
その顔に、師匠の顔が重なる。
「だから、教えろ…ヤツは何処にいる。何処に現れる。オレは何としてでも…ヤツを討たねばならない」
ヤツと会った事でオレの決意はより一層強固になっていた。
「……いい目だね。でも、キミに本当にその覚悟があるのかい?どんなことをしても、ミフネの仇を討つという」
「当たり前だ!」
「ふぅん……」
サニーサイドの値踏みするような視線が全身に絡まる。
その後に出てきた言葉に、耳を疑った。
「じゃあボクの前で裸になってみせろと言ったら、どうする?」
「な…んだ……と…」
「ビジネスの世界はギブアンドテイクじゃないと。かといって、キミがボクに出来ることなんて、たかが知れてるしねぇ」
嘲るような視線が、突き刺さった。
ボクはどっちでもいいんだよ?と言いたげに。
「どうせなら楽しませてもらおうか。それくらいなら、キミにでも出来るだろう?」
「じょ…冗談じゃない!!何でオレがそんな事を……っ!」
「じゃあ今すぐ出て行ってくれないか。そしてこれまでのように無闇やたらと正義の味方として斬ればいいさ」
「……!!」
握りしめた拳が、身体が震える。
「結局、キミにはその程度の覚悟しかないんだろう。だったら仇討ちなんてやめてとっととテキサスに帰ればいい」
なんなら…とサニーサイドは言葉を続ける。
「ジェミニ君もだいぶ帰りたがっているようだし、シアターをクビにしてあげようか。そうすればキミも帰らざるを得ないし」
「貴様…ジェミニに!ジェミニを……」
ジェミニの名前を出されてとうとう耐え切れなくなったオレはサニーサイドの胸倉を掴んで睨む。
ジェミニが紐育に慣れずに情緒不安定なのは知っている。
だからこそオレが表に出れるようになったのだ。
しかし本当に仕事を、夢をなくしたジェミニがテキサスに帰ってしまったら。
…仇を目前にしながらオレは討つことが出来なくなる。


嫌だ。

師匠と、あの赤目の妖魔の姿が脳裏にちらつく。

「ジェミニン」

嫌だ……!!

交互にちらつくのその姿が、やがて一つになって瞼の裏で赤く弾けた。


「……師匠」
ぽつりと呟いても、帰ってくる声は、もうない。
何かが、オレの中で音を立てて崩れた。
全身が鉛のように重く感じたが、それを無視してふらふらと腕を上げベルトのバックルに手をかける。
「へぇ…その気になったんだ?」
サニーサイドの声を、どこか遠くから聞きながら次々に服を地面に落としていく。
下着まで全部脱ぎ、恥ずかしさを耐えながら顔を上げると。
オレを見つめるサニーサイドの目は何処か嬉しそうに細められていた。
「これで…いいのか?」
「ああ。じゃあ、おいで」
「え、……なっ!?」
腕を引かれ、抱きすくめられてオレはパニックに陥った。
は……裸で男と抱き合うなどと!
「馬鹿…!離せっ!何をする、変態!!」
じたばたと手足を振り回しながらもがいたが、サニーサイドはそんなオレをあっさりと押さえつける。
「うーん。ジャジャ馬というかこれじゃ暴れ馬だな。まぁ、その方が馴らし甲斐もあるけどね」
「……っ!」
馬鹿にされた気がしてサニーサイドを睨みつけると、ヤツは笑みを浮かべたままウィンクをしてみせた。
「オレに…こんな事をして、ただで済むと…!」
「欲しくないの?情報。キミはどんな事をしても仇を討ちたかったんじゃないのかい?」
「……」
唇を噛み締めながら、殴りたい衝動を必死に抑える。
「心配しなくても、約束は守るよ。キミがボクの言う事を聞いてくれたらちゃんと情報は提供するさ」
「当たり前だ!もし、約束を破ったら…貴様を刀を錆にしてやるからな……!」
「いいねぇ、その気の強さ。そういう人間ほど、跪かせるのが楽しくてしょうがないよ」
サニーサイドは嬉しそうに言うと、オレのうなじに口付けて耳元でくくっと笑った。
「…貴様を、一生軽蔑してやる」
「それはボクへの賛辞かい?人の記憶から忘れ去られるより、忘れられないほうがよっぽど難しいからねぇ」


「……っ…」
サニーサイドの言葉の意味は、オレにはよくわからなかった。
ただ、持ち上げるように胸に触れた手がくすぐったさにも似た感覚をもたらして。
ため息が、漏れる。
いや、これはため息なのだろうか。
「…んっ…」
サニーサイドの手は、優しく揉みしだくようにしてオレの胸を弄んでいる。
師匠から…心を落ち着かせるためにと胸を揉む事は教えられていたが。
他人にそんなことをされるなど、初めてだった。
何故こんな事をするのか…よくわからないけれど。
決してオレの心を落ち着かせるためじゃないのは、わかる。
自分で揉むのとはぜんぜん違うぞわりとした感触が、胸から全身に伝わっていく。
恥ずかしさにぎゅっと閉じていた瞼を開くと、胸の先端が存在を示すようにそそり立っていた。
サニーサイドもそれに気付いたのだろう
立ち上がった突起をきゅっと抓まれ、くりくりと弄られた。
「…ぁ、あっ!」
びくん、と身体が震え喉の奥から声が漏れる。
「…!!」
自分の喘ぐような声に、途端に口を噤む。
こんな…こんな声をあげるなんて!
「ふぅん……そんなに良い?これ」
「やっ……、っ!」
下卑た笑いを耳元に感じながら、必死に首を振る。
違う、こんな…こんな。
これじゃ平常心を取り戻すどころか。
「……し」
「ん?」
「師匠は、心が乱れた時は胸を揉めば落ち着くと言った。なのに…お前は、オレにこんな事をして…オレを混乱させようとというのか!」
「……マスター・ミフネがそう言ったのかい」
う。
何だかキラキラした目で見返されてしまった。物凄く何かを企んでそうな目だ。
こ、こんなヤツに師匠が教えてくれた方法を話すなんて失敗したかもしれない。
嫌な予感がしたら案の定、サニーサイドはにやりと笑いながらこう言った。
「それは面白いな。じゃあ、やってみてくれないか?ジェミニン」
「!!」
「心が乱れているんだろう?だったら平常心を取り戻す方法を試せばいいじゃないか」
ボクには構わずにね、と言われたところではいそうですかと出来るはずもない。
だが、サニーサイドはそんなオレの気持ちなどお構いなしにオレの手を取ると胸に当てた。
「ほら、揉んでみて?」
「……っ」
それがオレの羞恥を煽るためだということくらいはなんとなくわかる。
この男は、オレが慌てふためく姿を見て楽しんでいる事も。
「そんなこと…出来るかっ!!」
ぷいと視線を逸らし、サニーサイドの視線から逃れる。
「あっ!…な、なにを……する!」
「何って?キミを落ち着かせようとしているだけだど?」
けれど、サニーサイドはオレの手ごと胸を揉んできた。
…不思議な感じがする。
自分で揉んでいるのか他人に揉まれているのか、よくわからない。
しかし落ち着くどころか頭は更に混乱する。
い、今まで…胸を揉むのは平常心を保つためで。
それ以外の意味なんてなかったけれど。
何だか…くすぐったいというか、頭がぼおっとしてくる。
顔が、身体が火照って。
あつい。

 


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