…僕が選んだのはベッドルームで待つ方だった。
紅茶をサイドボードに置き、ついでにとばかりに彼からプレゼントされたワンピースに着替える。
ベッドに腰掛け、彼を待つ間は実際の時間より長く感じた。
いつも自分が寝ている自分ひとりには広すぎるベッド。
この上で彼に抱かれる…と思うとかぁっと頭に血がのぼって、武者震いがした。
心臓がうるさい位にどくんどくん音を立てる。
遠くから聞こえていたシャワーの音が止み、彼がシャワールームのドアを開ける音がしても僕は動かなかった。
……というより動けなかった。
頭の中がぐるぐるする。
「昴さん?」
出てきた彼が僕がいないのを知って呼ぶ声がするが答える余裕もない。
石のように固まったまま。
「…出かけちゃったのかな?」
馬鹿。
そんなはずないだろう。
寝室のドアは開けてある。
とっとと気付け、この鈍感。
「……昴さん?そっちに居るんですか?」
「…。そうだよ」
やっと気づいてくれた事にほっとしつつ。
彼に問いかけられて答えると、口の中がカラカラなのに気付いた。
「あ、じゃあぼくはこっちで待ってますね」
違う。
どうして入ろうとしないんだ。
大河の…馬鹿。
「………入ってきてもいいよ………」
ごくりと唾を飲み込むと、震える声でそう呟く。
「え?」
「…こっちに、来ないか。新次郎……」
さりげなく呼び方を変えてみたのは決意の表れを示すつもりだったのだが。
彼の返事は無い。
…情けない事に、身体が震えてきた。
性別を晒す覚悟はとっくに決めたのに。
いつものようにからかい半分だったら全然平気なのに。
意識すると、恐怖が湧いてくる。
彼に拒絶されたらどうしようとか。
子供みたいな身体に嫌悪を抱かれたらどうしようとか。
そもそもちゃんと出来るのかとか。
知識だけなら、ちゃんとある。
どういう行為でどういうことをするのかはわかっているけれど。
僕には経験が無い。
だけどそんな事は言えなくて。
大したことない、と思おうとしていたのに。
「……」
ドア一枚隔てた世界で一瞬が永遠にも感じる。
彼はいつもの僕の冗談だと思っているだろうか。
返事もなければ入ってこようともしない。
思わず立ち上がって迎えに行こうとも思ったが、それじゃ意味が無い。
目を閉じ、両手で口元を覆う。
彼を呼ぶ方法はいくらでも考え付くのに、声にならない。

「昴さん……」
それは一瞬だったのか、それとも長い間だったのか。
彼の声が聞こえて、目を開くと反射的に声のほうを見る。
ウォルターに選んでもらった服は彼をいつもより大人びて見せていて。
…何で、ほんの少しの違いなのに僕はこんなにもドキドキしてしまうのだろう。
彼の中身が変わったわけじゃない。
服を変えれば雰囲気が変わるなんて当たり前だ。
なのに、ありえないくらいに胸が高鳴る。
「昴さん、その服…」
「新次郎……」
けれど、彼はドアの手前で立ち止まって、部屋の中には入っては来ない。
一歩を踏み入れるのは簡単なのに。
まるでそこに踏み込めない境界線があるみたいに立ち尽くしたまま彼はそこから僕を見つめる。
ある意味、境界線なのかもしれない。
このままの関係でいるか。
その先を越えるか。
「僕の隣に、来ないか?」
勇気を振り絞って、もう一度だけ彼を呼ぶ。
シーツを握りしめる自分の手が震えているのも彼には気付かれているだろう。
きっと傍目から見たらいつもの僕らしくないんだろうな、と心の隅で思う。
僕自身だって意外だ。
ちょっとくらいは緊張するだろうとは思っていたけれど。
こんなに動揺しているなんて。
彼が少し身動ぎしただけでも、自分の身体がびくりと反応する。
入ってきて欲しい。
でも、怖い。
期待と不安とがない交ぜになり、彼の顔を見ることが出来ず俯いたままじっと彼を待つ。
「…昴さん……」
新次郎が、一歩を踏み出した。
境界線の先へと。
「……!」
喜びで胸が痛いほど跳ね上がる。
でも同時に怖くもなって。
僕は顔を俯かせたまま顔を上げることも出来ない。
「昴さん……」
彼が僕の隣に腰を下ろす。
ベッドのスプリングが跳ねるのにあわせて僕の心臓も口から飛び出しそうだった。
そっと彼の手が伸びてきて、僕の肩を抱く。
なるべく自然体でいようと思ったのに。
僕は思い切り不自然に肩をびくっと震わせてしまい。
しまった!と思ったときには身体を引き寄せられて、温かい彼の胸が目の前にあった。
ぎゅっと目を閉じる。
平気だ……と自分に言い聞かせながら。
身構えてその先を待つ。



…?
だが、いくら待てども彼はそれ以上何もしてこない。
ワンピースのジッパーをおろすでもなく、服の中に手を入れてくるでもなく。
ただ、黙って僕を抱きしめたまま。
「新次郎……?」
おそるおそる顔を上げて彼を見る。
「何ですか、昴さん」
首を傾げながら僕を見る彼はいつもと同じ優しい表情で。
「何、って………何もしないのか?」
僕は拍子抜けしてしまった。
「して欲しいんですか?」
「ち、違う…!そういう意味じゃ…」
思わず呟いた言葉に、彼はじっと僕の瞳を覗き込みながらからかうような笑みを浮かべる。
「あはは…昴さんでも緊張するんですね。ガチガチの昴さんなんて、初めて見ました」
「ぼ、僕は別に緊張してなんか…!」
「じゃあ演技だったんですか?」
鼻先が触れるほど近づいて覗き込まれると。
心の中まで覗かれている気分だ。
「……君はどっちだと思うんだ」
精一杯、虚勢を張ってみたが彼は曖昧な微笑みでかわす。
「本当だったら嬉しいかなぁ、って」
「…じゃあそう思えばいい」
何だかどっと疲れた気がして彼の胸に頭を預ける。
ガチガチに緊張していた気分が、何処かへ行ってしまった。
…ついでに何だかそういう気分でもなくなってしまったけれど。
「本気にしていいんですか?ベッドルームに誘っておいて『からかっただけ』だったらぼくも怒りますよ」
「怒ったら…どうするんだい?」
胸のつかえがすっとおりて、いつもの余裕が戻ってくる。
挑発的な瞳で彼を見返すと、彼はにこりと笑った。

「そうしたら、こうします!」
のしかかるようにして、彼が僕を押し倒す。
「っ…し、新次郎!んっ……」
抗議をする前に、唇が塞がれた。
何度か、確かめ合うように軽く口付けを交し合い。
やがて深い口付けと共に、熱い舌が入り込んでくる。
ぴくり、と動いた指が僕の驚きを表していた。
彼とは何度かキスをしたが、舌を入れられたのは初めてだ。
唇を触れ合うだけじゃなくて、口内まで貪るように。
「…っ…ふ……」
舌先で歯茎を左右になぞられたと思ったら、素早くさし入れされる。
今までとは全く違う。
味わうような、熱いキス。
顔が火照るのが触れなくても分かる。
いつもならば適度に解放されるのに。
新次郎はキスを止めない。
息苦しさに身を捩ろうとしても、それすら許さずに更に息すら飲み込むように舌を吸い込まれた。
次第に頭がぼぅっとしてきて、無意識に新次郎の首や背中にからみつくように手を回し、抱きしめる。
蕩けるような感覚に、気がつけばなされるがままだった自分の舌を彼の舌に絡めていた。
「…ん……っ…ふぁ……っは……」
時折、唇の触れ合う角度を変える度に口の端から声にならない声が漏れる。
口の中はどちらのものともわからない唾液でぐちゃぐちゃで、口から溢れた一筋の滴りが顎に滑り落ちたのも気にならないほど。
僕は夢中になって没頭していた。
舌を重ね合わせたまま互いの口を行き来したり、息すら出来ぬほど隙間なく唇を重ねて激しく吸いあったり。
そんなことは知識にはなかったが、新次郎の舌に動きを合わせているうちに自然と身体が動いていた。
もっともっと彼を味わいたい。
そんな感情がわきあがってきて。
積極的に自分から舌を差し出し、唇を、吐息を求めて少しでも彼が顔を引くと追いかけるように唇を、舌を絡ませる。
そうすればするほど新次郎の舌は僕に応えるようにしてくれるのが、嬉しかった。
キスは唇を触れ合わせて安心したり、その先にある行為の確認、みたいなものかと思っていたけれど。
こんなにも心を震わせ、身体を熱くする。
あんなに緊張していたのが嘘のように自分から彼を求める気持ちがわいてきて、彼ともっとぴったり触れ合いたくて。
ベッドの上に投げ出されていた足を折り曲げて彼の足に摺り寄せるようにすると。
「……んぁ……はぁ………」
新次郎が僕の中から舌を引っ込めて、顔をあげた。
長い口付けの余韻か、それとも僕のもっと繋がっていたかったという心情でも表しているのか。
唾液が糸のように一本の線となって僕と新次郎を繋ぐのをぼんやり見上げながら。
ちょっと名残惜しいと思ってしまった。
もっとしていたかったのに、と。

「これじゃ、昴さんへの逆襲にならないですね」
潤む僕の瞳を見て微笑みながら、新次郎がそう囁く。
「…逆襲のつもりだったのか」
ちょっとムッとする。
自分だけが一生懸命になっていたなんて悔しい。
これじゃいつもと正反対。
新次郎の手の平で遊ばれた気分だ。
「……違いますよ。本当にいいのかなぁって、ちょっと昴さんの気持ちを確かめたくて」
「なっ……!」
新次郎の言葉に呆然とする。
僕が『その気』かどうか試されていたというのか。
「……!」
ぷい、と顔を背ける。
「昴さん」
「……」
「昴さん」
呼ばれても、無視したまま答えない。
自分でもちょっと大人気ないとは思うが、癪だった。
「…怒っちゃいました?」
「当たり前だ!」
きっ、と彼を睨みつける。
僕は一大決心をして決めたというのに。
「……ごめんなさい、昴さん。でも、何だか信じられなくて……」
彼の身体が重なって、息苦しくない程度の重みを感じる。
頬を、新次郎の髪がくすぐって僕はかすかに身を捩った。
「ぼくだって、人並みにはそういう気持ちもありますけど……」
頬を摺り寄せられる。
「昴さんがぼくに性別をばらしてもいいと決心してくれるまで待とうと思って…思っててもこんな風にされたら、我慢だって限界ですよ」
「新次郎……」
「今日の昴さんは……いつもの昴さんももちろん素敵なんですけど、服も違うせいかいつもとなんか違って……凄く、ドキッとするんですから」
ああ、なんだ…と思う。
新次郎も自分と同じだったのか。
普段と違う相手の姿にドキドキして。
目が離せない。
「新次郎…」
「だから、昴さんが本当にその気じゃなかったらぼくは帰ります。…これ以上は、本当に止まらなくなりそうですから」
「止まらなくてもいいよ」
「え……」
「僕だって、いつもと違う君にドキドキしていたんだ。だから、誰も見たことのない僕をもっと見たくないかい?」
そして、と呟く。
「僕だけに見せる君をもっと見せて欲しいな。…君にだったら、僕の、昴の全てを見せてもいいから、僕にも君の全てを見せてくれ」
「昴さん……」
驚いたように僕を見る彼に向かって微笑みかける。
「返事は?イエスだったら、言葉よりキスが欲しいな」
「そんなの、決まってるでしょう」
すぐさま、唇が重なる。
僕は新次郎の背に腕を絡めて、彼をぎゅっと抱きしめた。


たくさんの言葉よりもキスで。
僕の身も心も溶かして。


服を全て脱ぎ去り、生まれたままの姿になっても僕たちは口付けを交し合っていた。
彼の手が僕の薄い胸に触れる間も。
やや遠慮がちにその下におりてきて、誰も触れたことのない部分に触れたときも。
僕は恥ずかしい気持ちを堪えて彼の背中を抱きしめながら、口付けをせがむ。
怖さが全部なくなったわけじゃない。
「昴さん……」
しばらく、濡れた秘部や肉芽を撫でるように触れていた新次郎の指がゆっくりと侵入してくる。
「…んっ……!」
我知らず身体が強張る僕をあやすように。
彼は優しく僕にキスをする。
それだけで、力がすーっと抜けた。
「昴さん、女の子だったんですね。…もちろんどっちでも構わなかったんですけど、やっぱり嬉しいです。何よりぼくに教えてくれた事が」
「…んんっ……言っただろう…君にだったら、昴の全てを見せてもいい、と…」
内部をゆっくり押し広げるようにして新次郎の指が沈んでいく。
かすかに感じる違和感と痛みのような感覚に、僕は顔をしかめていたらしい。
「痛いですか?」
彼は僕を気遣ってか、眉間に寄った皺を見て指を抜くと眉間へキスを落とす。
僕は首を横に振った。
「平気……僕は平気だから、君の好きにしていい」
「…痛かったら我慢せずに言ってくださいね」
「うん……」
指を入れられるたびに感じる違和感は消えないけど、痛みは次第に熱さをともなった心地よさに変わっていく。
その間にもずっとキスは続いて。
僕は身も心も溶かされていく。
新次郎、彼によって。
指がもう一本増えても、もう痛みは無かった。
「ねぇ、昴さん。こっちにもキスしていいですか?」
「え…?」
よく意味がわからず潤んだ瞳で彼を見上げると、彼が僕にキスをしてそのまま舌がゆっくりと首筋を、胸の間を、腹を通ってその下の陰唇へと辿り着く。
まさか、と思ったときには遅かった。
「…ひぁ…っ……!」
軽く足を掴まれて開かされ陰核をぺろりと舐められて、僕の身体は弾かれたように震える。
「し、新次郎……そんなとこ、やだ……ぁあん!」
やだ、という言葉と裏腹に僕のそこは愛液で溢れかえっていて。
新次郎の舌はそれを舐め取っては芽にこすり付けたり、膣の中にまで侵入してくる。
「…っ…くぅ……あ、あ……しんじ、ろ……いや、いや……恥ずかしい…」
羞恥に頬を染め、顔を両手で覆いながら首を振っても新次郎は行為を止めてくれない。
まるで本当にキスをするかのように唇が触れて。
さっきみたいに、中をぐるりと舐めまわされたり素早く出し入れされると、僕の声はほとんど泣き声だった。
彼に許してと言ってしまいそうなほど頭が混乱して、ただ「いや」か「やだ」しか言えない。
見られるだけでも恥ずかしいのに、そんなところに新次郎の舌が入ってくるなどとは思ってもいなかった。
扇状に広げられた足を閉じようとしても、やんわりと押さえつけられてしまう。
次第に全身の神経が新次郎の触れる部分にのみ集中して、感覚が研ぎ澄まされていく。
自分の感覚も、感情も全部そこが支配して。
僕の理性の奥の本能を剥き出しにされ、何も考えられなくなる。
「んんっ……だめ…いや……しんじろ…う…やだ……も………ぅっ……はぁぁんん!!」
びくん、と身体が大きく震えたかと思ったらその一瞬後には閉じた瞼の裏の世界が真っ白になって、僕はもう一度だけ身体を震わせた。

「……昴さん?」
「……」
彼に問いかけられても答えない、というか答えられない。
息も絶え絶えな僕には答える余裕などない。
「泣いてます…?」
顔を覆っていた手を取り除かれると、僕は涙目のまま新次郎を睨みつける。
彼はいつもと変わらない、むしろ涼しげな顔をしていてそれも気に食わなかった。
僕がこんなにおかしくなりそうになってるのに、彼の余裕のある態度が自分との差を感じて悔しい。
彼に今まで経験があるとかを問うつもりもないし、気にするつもりも無いけど。
興奮しているのが自分だけみたいで。
「……君は随分余裕なんだね」
嫌味が口をついて出た。
「へ、ぼくがですか?」
「だって…僕ばかり恥ずかしい姿を見せて…君は平然としているから」
筋違いな恨み言とは思っていても。
いつもと違う姿を見せているのが自分だけなのにむかむかしてくる。
「昴さん……」
「どうせ、僕は初めてだから……君みたいに余裕なんてないけど」
彼を睨みつけていた視線を逸らし、横を向く。
なんだかさっきも同じような事があった気もするけど。
「ぼくにだって…余裕なんてないですよ」
そんな僕を見て、彼は困ったように笑うと僕を包み込むようして抱きしめる。
「本当はすぐにでも昴さんの中に挿れたくて…でも昴さんが大切で、やっとぼくに全てを許してくれたのが嬉しくて、だからゆっくり時間をかけようと思ってたんですけど…」
「新次郎……」
「でも、昴さんはそれじゃ満足しないんでしょう?」
悪戯っぽい瞳が僕を覗き込む。
もう手加減しませんよ、とその目が言っていた。
「ち、ちが…そういう意味じゃなくて…!」
「ぼくの全てを知りたいんですよね……ぼくが本当はどんな思いで我慢していたか、昴さんにはたっぷり思い知ってもらわないと」
「し、新次郎…!」
「昴さんが泣いても痛がってもやめろって言っても、止まりませんからね」
「……っ!…あっ」
ゆっくりと僕の唇を押し開いて入ってきたのは、彼の舌か、それとも熱い昂りなのか。
あるいは両方か。
「……んぁっ!……ん……んん……」
さきほどよりも大きく足を広げられて、彼の重みがのしかかってくる。
自分でも狭いと思う部分が左右に押し広げられる痛みに喉から漏れた悲鳴は、新次郎に吸い込まれた。
もう十分なほど濡れていても、やはり苦しい。
けれど、同時に指よりも舌よりも熱くて大きいそれは不思議な一体感をもたらす。
ああ、彼と一つになっているんだ…と思うと。
痛みよりも幸せで一杯だった。
「…っ!……ん……っふ……」
膜が裂かれたのだろうか、脳髄を激痛が襲ったがなんとか耐える。
シーツを握りしめていた手に彼の手が重ねられ、指を絡めると彼も絡め返してきた。
「……昴さん、大丈夫ですか?」
痛みに耐えていたら、彼がそれ以上進むのを止めて顔を上げる。
「…やっぱり痛い、けど…僕が痛がっても泣いてもいやがってもやめないんだろう?」
そう軽口を叩ける程度には余裕があるらしい。
下半身は熱を持っているかのように痛みを訴えていたが、痛みを堪えて微笑む。
「……ごめんなさい、昴さん」
「…何で謝るんだ」
彼は僕に頬を摺り寄せるようにして耳元で囁く。
「本当は、余裕なんて全然ないんです。昴さんはぼくより大人だから、あたふたした所を見せたら呆れられるかなって思って…必死に強がっていただけで」
「……新次郎」
「昴さん、大好きです。ずっと、こうして昴さんと一つになりたかった…ぼくは、凄く幸せです。……ごめんなさい、昴さんは痛いのを我慢しているのに」
「……馬鹿だな、僕だって同じ気分なのに。痛みなんていくらでも我慢できる。僕はそれよりもこうしていられるのが嬉しいし、幸せだよ…新次郎」
彼のほうに顔を向けると彼も僕を見ていた。
啄ばむようにして、キスをする。
互いの思いを確認するかのように。
喜びを交換し合うかのように。
それから僕たちはキスをしたまま、新次郎は気遣うようにゆっくりと挿入を繰り返して。
身体は軋んだけど心は満たされた気分で、僕たちの初体験は幕を閉じた。

「昴さん…身体は平気ですか?まだ痛みます?」
行為の後に、新次郎の腕に頭を預けたまままどろんでいた僕に彼が心配そうに声をかけてくる。
確かに、まだ何かはさまっているような違和感と時折ちくりとした痛みはあるけど。
それすらも彼と繋がった証なのだと思えばなんてことなどない。
「平気だよ…そんなに心配しなくても。君が気遣ってくれたから、思ったほどじゃない」
それは事実だった。
「昴さん」
唇が重なる。
同じキスでも、する度に違う気持ちになるのが不思議だった。
今は、とても安心する。
「新次郎……これからは、もっとしたいな」
「え……初めてでもそんなに良かったです?自信持ってもいいんですか?」
…何だか誤解されてる気がする。
「新次郎、誤解してないか。キスの話だよ」
「あ、そっちですか」
心なしか肩を落としてため息をつく新次郎の額をぺちんと叩く。
「そっちとは何だ。君は僕とキスをするのが嫌いなのか」
「ち、違いますよ!えへへ、昴さんがそう言ってくれて嬉しいです」
何度も何度も繰り返されるキスの嵐。
どうやら今日は朝まで止む事はないようだ。
でも。
そうやって溺れるのも悪くないかもしれない。
僕は新次郎の体温を感じながら、今日何度目かのキスをした。


END





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