Love Doll

「……楽しんで頂けておりますか?サニーサイド様」
「ええ、まぁ…」
ちらりとこちらを窺いながら問いかけられて曖昧に返す。
舞台の上は丁度新しい競りが始まったところだった。
「私の事はお気にせず、お気に召しましたらどうぞ『お買い上げ』頂いてよろしいのですよ」
舌なめずりしながら囁かれる台詞に心のうちで唾を吐く。
こんなものを楽しめる人間の神経が分からなかった。

ここは紐育の片隅にある競売場。
選ばれた金持ちだけが足を踏み入れることの出来る闇の市場。
…売られているのは絵画でも宝石でもない。
生きた人間。
年端も行かぬ少年少女。毛色や瞳の色、肌の色が違うほど珍重される生きた愛玩人形。
有体な言い方をすれば奴隷市場のようなものか。
……古来より、こうしたもの自体は珍しくない。
富めるものの行き着く先など大抵一緒だ。

本当はこんな所に来たくはなかったが、大人の付き合いというのは非常に厄介なもの。
舞台の上で競りにかけられている少女の顔を見る。
オークショニアに背中を押され、小さく震えながら涙を一杯にためた表情で出てくる少年少女。
さっきから出てくるのはそんなのばかり。
うんざりだ。
まぁ、タオル一枚羽織っただけの姿でこんな毒気の強いところに放り出されたら無理も無いのだろうが。

「…では、本日最後のオークションになります」
やれやれやっと仕舞いか、と足を組みなおしさほど興味も持たずに舞台を見上げる。
「最後の『商品』は神秘の国、日本より届いた黒髪のジャパニーズ・ビューティ!」
その言葉に興味を惹かれたわけじゃない。
まっすぐ顔を上げ、舞台の真ん中まで自分の足で歩くその堂々とした姿に目が釘付けになった。
闇夜のように黒い髪がさらりと揺れて、同じように黒い瞳が観客席を一瞥する。
「ほう…これは美しい」
隣の人間がため息をつくのがわかった。
彼だけではない、会場中の人間がほう…と息を呑むのがわかる。
今までの『商品』とは明らかに違う気品と気高さを備えたその姿。

冷ややかな瞳で会場を見つめるその瞳と目が合う。
気のせいだろうか、彼女はボクを見てかすかに微笑んだ気がした。
それが決め手だった。

……いくら出したかなどは覚えていない。
いくらつぎこんでも構わない。
彼女を欲しくなった。
あの黒い瞳に、もっと見つめられたい。


「いやいや…サニーサイド様もお目が高い。今日一番の掘り出し物をお買い上げなさるとは」
下卑た視線で見られるのは不愉快だったが、仕方ない。
競売が終わり、ボクの隣に佇む彼曰く『掘り出し物』らしい彼女を見つめながら呟く。
「お気に召して頂けた様で何よりですよ」
「……今度の選挙は及ばずながら応援させて頂きましょう。では、失礼」
それ以上、話す気にはなれなかったので彼の聞きたいであろう言葉を囁き、さっさと車に乗り込む。
「これはこれは…ありがとうございます」
バタン、と扉が閉まり、車が動き出す。
それを確認してから隣に座る彼女に話しかける。
「…すまないね、見苦しいところを見せて。ボクはサニーサイド、キミの名前は?」
努めて優しげな笑顔で言うと、彼女はこちらを見上げ、口を開く。
「………昴」
「昴…?」
「僕の名前は九条昴だよ。サニーサイド。それともご主人様とでも呼んだ方がいいかい?」
昴。それがプレアデス星団の和名であることくらいは知っていた。
輝く星座の名前。
彼女にはよく似合っている気がした。
「サニーサイドでいいよ、昴。いい名前だね、キミにぴったりだ」
そう言うと、彼女は小さな声で「ありがとう」と呟いた。


「さて、ここが今日からキミの家だよ、昴」
「……」
セントラルパーク内にある自宅に到着し、彼女を案内する。
「必要なものがあったら何でも用意するから言ってくれればいい」
「ありがとう、サニーサイド」
白状すれば一時の勢いに任せて買ってしまったものの、冷静になると自分のした行いに少しだけ後悔していた。
犬や猫とは違う。
生身の人間を買ってしまったのだ。
しかも年端も行かぬ少女。更に異国である日本人。
こんなことが社会的にばれたらさぞ叩かれるのだろう。
彼女をどう扱うか、考えると非常に面倒だ。
だが、欲しくなってしまったものは仕方ない。
これからの事は明日にでも考える事にした。
とりあえずはせっかく手に入れた目の前の美しい少女を愛でることにしよう。

「……では、寝室に行こうか」
昴の手を引き、寝室に連れて行く。
彼女は何も言わずボクについて来る。
…利口そうな彼女の事だ、金で買われる意味は十分に理解しているのだろう。
物分りの良い人間は楽でいい。
また一つ、彼女を気に入った。

「そういえば、キミはいくつなんだい?昴」
彼女の着ていた薄紫色のワンピースのファスナーを下ろしながらそう言うと、昴は黒い瞳でボクを見つめるだけで答えない。
「……」
「…答えたくないのならいいけど」
見かけでは14歳前後くらいだろうか。何せ日本人は幼く見えるからわからない。
実は10歳とかだったら困るな、と思いつつも止める気は毛頭なかった。
「……っ、…ふ…」
口付けて、舌を絡めるとやや躊躇いがちながらも彼女の舌が応じる。
キスは慣れているようだ。
すとん、とワンピースが床に落ちる。
さきほど舞台の上でもちらりと見たが昴の胸はほとんど膨らみがなく、子供のようだ。
そういう意味でも年端も行かぬ少女にいかがわしい事をしている気分にさせられたが、濡れる瞳は少女のものとは思えない。
落ち着いた物腰といい、身体と精神のアンバランスさが多少気にかかったが、それすらも欲情をそそられた。
自分にロリータ・コンプレックスの趣味はないと思っていたが、昴だからだろうか。
「…んっ…」
胸を揉むと甘い声が上がる。
閉じられた瞼がかすかに震えるのが愛しかった。
愛らしい外見とは裏腹に、昴は相当『こういう行為』に慣らされているらしい。
身も蓋もなく言うなら調教されたとでも言うのか。
何処に触れてもキスをしても甘い声をあげて、ねだるように肢体がくねる。
どんな声をあげれば、どんな風に応じれば男が悦ぶのかを知っている身体。
さきほどまでの気品と気高さを備えた美しい少女の変貌ぶりにいささか驚いたが、一から仕込むより楽でいいだろう。
「昴……してくれるかい?」
彼女の前に自分のペニスを差し出すと彼女は肩で切り揃えられた艶やかな髪を耳にかけ、それに舌を這わせる。
こちらも上手い。
上手いというか、飲み込みが早いというのか。
時々上目遣いでボクを見ながら、表情で感じる箇所を探り当ててそこを的確に刺激してくる。
流石に身体相応に小さい口の中に含むのは辛そうだったが、躊躇なく口に含むと更に刺激された。
相当慣れていないとここまでは出来ないだろう。
…今まで何人の男にこんな事をしたのか聞いてみたくなったが、それも無粋というもの。
今を楽しんだ方が有意義だ。
「……っ。出すよ、昴」
「…いいよ…」
撫でていた黒髪を掴むようにして彼女の口の中に射精する。
「…っ…ごほっ…う…」
喉につかえたらしい。彼女は苦しそうに顔を歪めて口を押さえる。
昴の端正な顔の口の端から自分の精液が滴る姿はとても卑猥だった。
「…すまないね……大丈夫かい?」
ちっともそんなことは思ってはいないが、一応聞く。
「…平気だよ。ちょっと予想より量が多かっただけで」
ごくり、と口の中の精液を飲み込み口の端を指で拭うとそれも舐めとり彼女は呟く。
「君が満足してくれたなら、それでいい」

黒い瞳がボクを見る。
その瞳に自分が映っているのかと思うとそれだけでイきそうだった。
「そうだね…大満足だよ」
彼女をベッドに寝かせ、大きく足を開かせるとほんのり上気した頬が見る見るわかるくらいに染まる。
思ったとおりというか、さほど恥毛も生えていない蕾を舌で吸い上げると身体が仰け反った。
「…ぁ……ん…っ」
ひくつくそこを舌と指で丹念に愛撫する。
指を入れた瞬間に、わずかな呻きが聞こえたところを見ると実はそんなに経験がないのかもしれない。
溢れ出る蜜を潤滑液にある程度慣らし、そろそろいいだろうと入り口にあてがう。
「…挿れるよ、昴」
「………どうぞ」
かすかな沈黙のあと、昴が息を吐き目を閉じる。
「…っ!…ぅ……」
予想以上に狭いな、などと考えていると昴の口から抑えた悲鳴が漏れた。
まさか。
「昴……もしかして、初めてかい?」
「……」
昴はその言葉に咎められたと思ったのか、申し訳なさそうに目を伏せてこくりと頷く。
驚いた。
さきほどまでの様子からまさかバージンだとは予想していなかった。
一瞬、止めるべきかと悩む。
鳴かすのはともかく痛いと泣かれるのはあまり好きじゃない。
だが、昴はボクのそんな考えを読んだのか、震える声でこう言った。
「たしかに…僕は初めてだけど…君が気にすることじゃない…だから、君の好きなようにしてくれ…」
「昴…」
「満足させられないのは申し訳ないと思っているし…汚れるのが嫌いならば…いずれにしても謝るしかないけれど」
瞳が揺れる。
庇護欲と嗜虐性を同時にそそられるようなその瞳。
理性を吹き飛ばすにはそれで十分だった。
「痛かったら声をあげてもいい。我慢する必要は無いよ、昴」
それだけ言ってあとは我を忘れたかのように昴を抱く。
優しくしようと思うのに、彼女が申し訳なさそうにするほど逆に虐めたくなる。
オークショニアも粋な計らいをしてくれるじゃないか、とあの昏い欲望の塊だけが支配する場所を少しだけ見直した。
これだけ男に慣らされた身体がバージンだなどと誰が思うだろう。
「……んんっ……あ、あ…」
白い喉から漏れる声が耳に心地良い。
彼女は最後まで『痛い』とは言わなかった。


翌日。
腕の中の昴が何度か身動ぎをして、目を覚ます。
「おはよう昴……身体は大丈夫かい?」
「おはようサニーサイド…僕は大丈夫だよ、心配しなくていい」
恋人にでも囁くように優しく言うと彼女も微笑む。
あまりにも平然と交わされる会話に思わず自分と彼女の関係を忘れそうになり、問いかける。
「ところで…キミはここに居てくれるのかい?」
「……?返品したいってこと?僕は君のお気に召さなかったかい?」
ボクの言葉に昴が怪訝な表情を浮かべ、首を傾げる。
「いやいや…違うよ。キミはこのままボクの傍に居てもいいのかな、と思って。むしろキミはボクを気に入ってくれたかい?」
その言葉に、なんだそんなことか…といった表情を浮かべ、昴は呟いた。
「いいも何も君は僕を買ったんだろう?君が良ければそれでいいじゃないか」
それに、と彼女は言う。
「僕も君を気に入ったよ、サニーサイド。君がよければ傍においてくれると嬉しいな」
黒い瞳がボクを見つめる。
初めて目線が合った時のような微笑に、やはり彼女はあの時ボクに微笑んだのかもしれないと思う。
…真実などどちらでもいい。
自分がこの瞳に魅了されたのは紛れも無い事実なのだから。


昴をどうするかについては悩んだが、屋敷の一室に留め置くことにした。
執事を務める王氏にだけは事情を掻い摘んで話すと彼は「御意」とだけ呟いた。
「…ここがキミの部屋だよ、昴」
彼女を部屋に案内する。
「ボクは仕事があるから出かけなければならないけど、何かあるかい?」
昴は少し悩んで、遠慮がちに呟く。
「……この家に、書斎みたいなものはあるかい?サニーサイド」
「あるよ」
「じゃあそこで本を読んで過ごしてもいいかい?」
「もちろん。この家の中なら昴の好きにしてくれて構わないよ。場所は王先生に聞くといい」
「ありがとうサニーサイド。じゃあ、そうさせてもらう」
「じゃあいってくるよ、昴」
「いってらっしゃい、サニーサイド」
彼女の唇に軽くキスを落とす。
まるで新妻でも貰った男の気分だ、と思わず苦笑する。
まぁ、似たようなものかもしれない。


「…ただいま、昴」
「おかえり、サニーサイド」
仕事より戻ると昴は言ったとおりに書斎に居た。
「驚いた。ずっとここにいたのかい?」
「そうだよ。君は思ったより造詣が深いんだね、色々な本があって面白い」
背後から抱きしめるとそんな事を言う。
「お褒めに頂き光栄だよ、昴。最近は忙しくて読む時間がないけどね」
どう見ても自分とは15歳以上離れているであろう少女に『造詣が深い』と言われ、肩を竦める。
人によってはムっとするのかもしれないが、昴が嫌味で言ってるわけではないのは目を見れば明らかだった。
「気に入ってくれたかい?ここは」
「そうだね…とても気に入ったよ。明日もここにいても構わないかい?」
「勿論。ここはキミの家なんだからね」
本音を言えば、彼女は逃げ出すかもしれないという疑心が心のどこかになかったわけじゃない。
彼女を手に入れた経緯を考えればそれも当然考慮にいれるべき考えだ。
王氏には一応注意を払うようには言っておいたが、彼女が逃げ出したら追わなくていいとも言っていた。
…逃げ出したところで彼女にその後のアテがあるのかは知らないが、それならばそれでも構わない。
少々高い買い物だったが、黒い髪と黒い瞳の美しい日本人形と戯れたのも良い思い出だと思うだろう。
だが、彼女は逃げ出すどころか王氏によると本当に書斎に篭りきりだったらしい。
彼女は本当にこのままここで暮らすつもりなのか。
「……お腹が空かないかい?一緒に夕飯でもどうかな」
「僕も一緒でいいのかい?」
昴がボクを見上げる。
意外そうな声なところを見ると、そんなことは予想していなかったらしい。
物分りが良すぎるのも困りものだ。
「当たり前じゃないか。この家に住んでるのはボクとキミだけなんだし、別々にとるのもおかしいだろう」
そう言いながらも彼女の服の中へ手を滑り込ませる。
「…ん…サニーサイド…」
「その前に食べたいものがあるんだけど…いいかな?」
「……君の好きにすればいい」
食欲と性欲は非常に似ている。
どちらも人間の原始的欲求だ。
だが、自分はどちらも薄い方だと思っていた。
美味しいものなど食べ飽きたし、寄ってくる女に不自由しなかった所為で性欲もやり飽きたというか。
こんなにも昂った気分になるのは久しぶりだった。
「…あ…ぁ…っ……」
彼女を本棚に押し付けると弾みで無造作にしまわれていた本の一冊が床に落ちた。
バサリと音がして本が開く。
何気なく開いたページに目をやると、聖母マリアがボクに向かって微笑んでいた。


次の日になっても、その次の日になっても昴は毎日書斎に篭っては本を読んで過ごし、決して逃げることは無かった。
ボクらは一緒に朝食をとり、夕食をとり、毎日のように彼女を抱いた。
本当にしていることだけなら夫婦のようだ。…もっとも、他人が見たら囲われる少女と囲う大人だろうが。
一ヶ月ほど経った頃だろうか。
「…何の本を読んでるんだい?」
ボクが帰ってきたのも気付かずに読書に熱中する昴を背後から抱きしめながら覗き込む。
「あ…すまない。おかえり、サニーサイド」
「能…に関する本?」
「ああ、そうだよ。アメリカ人から見た能に関する本でね、非常に興味深い」
僕も昔は舞台に立ったことがあるから、と昴は言う。
「へぇ…昴がかい?それは見たかったな」
昴が自分について語るとは珍しい。
「日本舞踊くらいでよければここでも見せられるよ。欲を言うなら、扇が欲しいところだけどね」
「じゃあ用意しよう。そうだな…着物もあったほうがいいか。どんなのがいいんだい?」
ボクの台詞に昴が驚いたかのように瞬きをする。
「用意するって…ここはアメリカだ。そう簡単に…」
「ボクを見くびってもらっちゃ困るな、昴。別にそれくらい何でもないよ」
「……しかし…」
「欲しいものがあるならば遠慮せずに言ってくれて構わない。キミの為だったらどんなものでも用意しよう」
昴の手を握りながらそんな言葉を囁く自分がおかしい。
何故、自分は金で買った少女にこんなに気を使っているのだろう。
そんな必要などないことは分かっている。
だが、普段は何もねだらない昴がぽつりと漏らしたささやかな望みを、戯れに叶えてやりたくなっただけかもしれない。
昴のため、というよりかは『彼女の望みを叶える自分』という優越感に浸りたいだけなのだという自覚はあった。
舞を踊る昴はきっと綺麗だろう。
「キミの舞が見たいな、昴。ボクの為だけに、踊ってくれないか」
「サニーサイドが…そう望むなら…」
言いながらも昴の瞳は嬉しそうに輝く。本当に舞うのが好きなのかもしれない。
昴が嬉しそうにするのを見るのは悪くない。
ほころぶ口元にキスをすると、彼女の舌がいつもより積極的に差し出された気がした。


一ヵ月後、日本より届いた着物を羽織り、扇を手に踊る昴は本当に美しかった。
典雅、幽玄…日本だとそんな感じに表現するのだろうか。
言葉に出来ない震えが全身に伝わる。その姿に引き込まれて、目が離せない。
ボクは予想以上の買い物をしたのかもしれない、純粋にそう思った。
「……僕の踊りはどうだった?君のお気に召したかい?サニーサイド」
舞が終わったのか、昴がボクの元へやってくる。
我を忘れて見入っていたせいで、拍手をすることすら忘れていた。
「あ、ああ…最高だよ、昴。とても美しかった。感動したよ」
慌てて彼女に向かって拍手をすると、昴はちょっと照れたような笑みを浮かべる。
昴がこんなに嬉しそうな表情をするのは初めて見たかもしれない。
「それは良かった。踊るのは久しぶりだから僕も楽しかったよ」
「ありがとう、昴」
「どういたしまして。じゃあ、僕は着替えてくるから…」
そう言って去ろうとする昴の手を掴み、自分の胸元に引き寄せる。
もう着替えてしまうのは惜しい。
「もう着替えてしまうのかい?もっと間近でよく見たいな」
襟元へ手を差し入れると昴の身体がぴくりと反応したが、すぐに力を抜きボクに身を任せた。
「どうぞ……まぁ、予想はしていたし」
言葉の通りに、脱がしはせずに着物姿の昴を堪能するかのように触れる。
見たことはあってもまともに触れたことは無かったが面白い構造だ。
「……?下着をつけていないのかい?」
裾の中に手を入れると、すべすべした足の先には下着がなかった。
「着物だからね…」
昴がそう答えるところを見るとそれが普通らしい。
「へぇ……着物っていやらしいんだな。着たままでも、セックス出来るのか」
「あぅっ…!そんな…こと…考えるのは…君くらい……だよ…サニーサイド…」
秘所に指を滑りこませ愛撫してやると、昴から溢れ出た愛液が太ももを伝って滴り落ちる。
それを感じてか昴の眉間に皺が寄った。
「サニーサイド…着物が…汚れる…っ」
「いいじゃないか。汚れたらまた新しいのを用意すればいい」
片足の膝の裏を掴んで高く掲げると一気に挿入する。
「…うっ……あああっ……ん…」
最初はセックスをする度に、口にこそ出さなかったが痛がっていた昴も大分慣れたらしい。
最近は痛みを我慢するようなくぐもった声ではなく、快楽に喘ぐようになっていた。
「サニー…お願いだ…脱がせてくれ…お願いだから……」
懇願するかのような声を無視して抽挿を繰り返す。
「だったらボクを早くイかせればいいだろう?昴。ほら…早くしないとどんどん汚れるよ」
「…はっ…あ……ん、くぅ…」
さっきまで扇を持ちしなやかな舞を披露していた指が、ぎゅっとボクの腕を掴む。
その指も、きつく閉じられた瞼も決して拒んでいるわけではないのは顔を見れば分かる。
神聖さすら感じた舞を見たその余韻冷めやらぬうちにこんなことをしている自分に笑う。
だが、清らかに感じるほどそれを穢している気分にさせられるのにたまらなく欲情した。
普段は気高い昴を喘がせながら抱くのは自分の中の征服欲をそそられる。
だが、どんな風に抱いても昴の心が屈服することはない。彼女のそこが一番気に入っていた。


「昴。ボクの経営するシアターでダンサーとして舞台に立ってみないかい?」
そうして更に1ヶ月が経過した頃、昴の舞を初めて見たときから考えていたことを切り出した。
「僕が…?」
「そう。まともに話したことはなかったけどボクはミュージカルを提供するシアターを経営していてね。
そこでキミに踊って欲しいんだよ。どうかな?引き受けてくれるかい?」
ボクも昴については名前以外知らないほど聞かなかったが、彼女もボクについてほとんど何も聞かなかった。
一応、仕事はシアターのオーナーだとは伝えてあったが、どんなシアターかも知らなかったはずだ。
お互い、そこらへんは関心が薄いというか知らなくても不自由しないというか。
それで困らなければ知る必要もない、そういう意味ではボクと昴は似ているのかもしれない。
…厳密に言えば、ボクはちょっと違う。
知れば『知らなかった』では済まされなくなるからだ。
彼女は素性も生い立ちも何一つ語らない。だが、その立ち居振る舞いからきちんとした教育を受けたのはわかる。
流暢な英語も話すし、頭も良い。知識を吸収するのも熱心で、書斎の本もほとんど読んでしまったようだ。
……それ故に、彼女があのような所で売られることになったのには深い事情を感じずにはいられない。
ぱっと思いつくのは誘拐だったが、昴は決して逃げ出そうとはしない。だとしたら違うのだろうか。
どんな理由にせよ、まともではないだろう。もしかしたら彼女の家族が返せとやってくる可能性だってあるのだ。
その時に、彼女の素性を知っていたか知らなかったでは立場は大きく違う。
また、昴に邸内を自由にさせているのもそれが関係していた。逃げようと思えば逃げられるのに逃げなかったと言える。
それらを突きつければ、あくまで『彼女を保護していただけ』とシラを切る事も出来るのだ。
セックスをしている以上はやや苦しい言い訳だが、それとて同意の上でと言えばいい。彼女は拒まないのだから。
昴の事を愛しいと思う一方でこんな事まで考えている自分に反吐が出る。
だが、それもともすれば彼女に溺れてしまいそうな自分自身に言い聞かせるためかもしれない。
「僕が、表に出るのを君は賛成するのかい…?」
昴は当然の質問をぶつけてくる。
今まで3ヶ月ほど、ロクに外にも出さず邸内に囲っておいたのだ。ボクが外に出したくないと思うのも無理はない。
「ああ。キミの踊りの腕を見せてもらって、ボクが独り占めするのは惜しいと思ってね」
それは素直な感想だ。こと、舞踊という観点で言うなら彼女は間違いなく天才だ。
その才を誰にも見せず埋もれさせるには惜しいと思うのは、まがりなりにも自分がシアターのオーナーだからだろうか。
もちろん、それだけではなく経営的なものも考えていた。彼女はきっとシアターのスターになる。
日本の能や舞踊とシアターのミュージカルは全く別物だが、昴ならきっとこなせると確信していた。
趣味と実益…それを兼ねられるならこれ以上の喜びはない。
憂慮する点はたくさんある。彼女を表に出せば自分との関係も詮索されるだろうし、素性がばれるかもしれない。
…競売場の人間がばらすことだけはないとわかっていた。彼らとて薄暗い腹をつつかれたくはないだろう。
ある程度のリスクは覚悟の上。最悪は、恋人として公表すればいい。
彼女が羽ばたく姿を見てみたい。自分にはその環境を用意するだけの金も地位もある。
戯れに手に入れた少女にここまで入れ込む自分は想像していなかった。
それほど昴に惚れているのだろうか、正確には、彼女の才能に。
「……サニーサイドが同意してくれるのならば、僕も舞台に立ちたい。だけど…一つだけ条件をつけてもいいかい?」
昴はかなり長い間思考した上で、そう呟く。
「なんだい?」
「問題が無ければ、僕の性別を隠して欲しい。着替えとかも他人と共にするのは嫌だ」
黒い瞳に強い意思を湛えて昴はボクを真っ直ぐに見つめる。
「……なるほど、神秘のジャパニーズ・ビューティーか。それも悪くないかもしれないな」
「勝手を言って申し訳ないと思っている…が、君はともかく他の人間に身体を見られたりするのは耐えられない…」
男心をくすぐることを言う。
第一、性別不詳のダンサーというのも面白いかもしれない、と逆にそれを利用した戦略を既に頭に描いていた。
「キミの性別を誰にも明かさず、なおかつ性別がばれないように考慮すればいいのかい?他には?」
ボクの言葉に昴はほっと息を吐き、固い表情を崩すと微笑む。
「ありがとう…サニーサイド。他には特にないよ。ミュージカルは経験がないけど、精一杯頑張らせてもらう」
「昴」
華奢な身体を引き寄せ、抱きすくめる。
「キミはきっとスターになる。紐育中の人間がキミに恋をするだろう。けれど、キミはボクのものだよ、昴」
「おかしなサニーサイドだな……何を今更。言われなくても、そのつもりだよ」
たしかに自分でもおかしいと思う。
自分でも不安になることなどあるのか、と。
考えてもロクな思考が思い浮かばなそうだったので、そこで思考を打ち切って昴の白いうなじに口付ける。
切ない吐息が、昴の口から漏れた。


数日後、シアターでの普段着として彼女に仕立てた元は男物な紫色のスーツを着ると昴は本当に少年にしか見えなかった。
元々中性的な顔立ちだとは思っていたが、あまりにも似合っていて驚いた。
身体を見られるのが嫌いなくせに、おしげもなく生足を披露するのはどうかと思ったが。
そうしてデビューした昴はたちまち大人気になった。
新聞も雑誌もこぞって彼女の事を書きたてる。
『紐育に舞い降りた神秘のジャパニーズ・ビューティー!』
素性も、性別も一切明かさないのが逆に人気に火をつけた。
人は、正体がわからないほど惹かれるものだ。
もちろん、ボクとの関係もさんざん聞かれたが昴もボクも答えない。
答える必要など無い、勝手に想像するならすればいい。それも、利用してやればいいのだ。
本当は、セントラルパークの屋敷ではなく、ホテルなりアパートなりを与えた方がいいのだろうがそれはしなかった。
昴にそう聞いたら彼女は首を横に振った。
「…君が迷惑でなかったら僕はここに居たい」
迷惑であろうはずがない。
彼女が舞台に立ち始めれば、どうしても二人で過ごす時間は減る。
限られた時間を惜しむかのように屋敷に居る時は二人で過ごした。
今までは、屋敷に居てもずっと一緒に過ごしていたわけではない。
…溺れるまいと思いながら彼女に引きずり込まれていく自分を自覚していたが、それでもいいとすら思うようになっていた。


けれど、彼女を表に出したリスクは思ったより早くやってきた。
人生は偶然で出来ている。そして偶然の積み重ねを運命と言うのかも知れない。
だとしたら、彼女と出会ったことも、惹かれたことも、そして彼女を表に出したことも、ボクの運命だったのだろうか。






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