こっちの世界にも季節はあるようで、そろそろ肌寒くなっていた。

寒くなってくると心細くなるのか、俺のホームシックが深刻になっていた。

ほぼ自分の意志で異世界に来たわけだから自分に負けるみたいで腹が立つ。

でもハッキリいって一回でいいから思いっきり泣きたかった。




そんなワケで。

他の人間が寝静まった今、外に出てきた。

この世界は夜空が凄く綺麗なんだって改めて思った。

見える星の光と迫力が違ってる。

でさ、星座なんか全然違うことに気づいちゃったわけよ。

大声だして豪快に泣こうとしたけど、胸が苦しくて涙が流れるだけになった。

人間って本当につらい時は声なんか出ないんだな。

どれくらい時間が経ったのか分からないけど、もう涙が止まった。

だから戻ろうと振り返ったら、奴がいたんだ。


「…レギウス。」

「冷えてる。」


レギウスは持ってきていた毛布で俺を包んでくれた。

いつから居たんだか。泣いてるの見られたかも…。


「ありがとう。」


気まずくて俺は顔を上げることが出来なかった。

孤独だなって思ってたのに、レギウスの優しさが身にしみた。

ほとんど無表情の癖に、本当に優しい奴なんだ。器の大きい男ってやつだろう。

俺も見習わなければ。強くならなければ。

その夜、俺は久しぶりにグッスリ眠ることができた。






「久しぶり!ジョン。」


今日はなんとジョンが来てくれたのだ。


「言葉だいぶ覚えたな。これ、お土産。」


ジョンがくれたのはコートだった。


「俺のおさがりだけど、軽くて着やすいぞ。」


そう言ってジョンは俺に着せてくれた。

厚みが薄い俺には少し大きいけど、本当に軽くて暖かい。

メーカーのタグがついてたから、ジョンがこの世界に来た時に着てたものかもしれない。


「ありがとう。でも、もらってもいいのか?」


「俺はもう着れないんだ。ショーゴなら着れるだろう?
それに、春に結婚するんだ。」

ジョンは満面の笑みだった。

でも、俺にはわかる。

思い出のコートを手放すことでジョンはこの世界で生きていく決心をしたんだ。


「おめでとう!相手、誰?」


俺はテンションを上げてジョンに聞いた。


「食堂の娘だよ。エイナっていうんだ。」


ジョンは優しげにグリーンの目を細めてる。


「ジョン、幸せで嬉しいよ。…俺も結婚できるかな?」


なんだか想像できない。


「きっとショーゴも幸せになれるよ。
でもまだ14くらいだろ?」

「はぁ!?」


俺は思わず大声をだしていた。


「違うのか?」

「俺、17だ。」


今度はジョンが叫んだ。


「なんてこった!
俺と3才しか違わないのか…。」


そうかよ。ジョンは二十歳か。

そんな若さで結婚しようなんてジョンはすごいな。


「ジョンは何歳でここにきた?」

「俺は15だったよ。最初は泣いてばかりだった。
言葉がわからない俺にエイナがずっと傍に居てくれたんだ。」


なんだかエイナって、俺にとってのレギウスみたいだな。


「ショーゴはすごいな。ブシドースピリッツっていうやつか?」


違うだろ!もっと言葉が堪能ならツッコミをいれられるのにな…。


「俺、リアリストなんだ。」


強がり半分にそういった俺にジョンは一瞬ぽかんとした顔をしたが

その後は笑いながら頭がグシャグシャになるまで撫で回された。


「ジョン、ストップ!も、目が回る…。」


突然、視界に大きなものが覆い被さってきた。

おでこを覆うようにしたそれが手だってわかった時には抱き込まれていた。

噂をすればなんとやら。


「レギウス、どうした?」


俺の視界には驚いたのか、固まるジョンがいた。


「大丈夫か?」


ああ、大声出したりしてたから心配してきてくれたのか。

鉱山は休みだから、それぞれが山で木の実を取ったりして過しているはずだ。

俺とジョンは見晴らしのいい場所で大きな石に座っていた。

レギウスはいつもの様に着かず離れずで近くにいたのだろうと思う。


「うん。友達のジョン。」


俺は簡単にレギウスに紹介した。


「レギウスは俺に言葉教えてくれた。」

「ジョンです。よろしく。」

社交的なジョンは笑顔で挨拶をした。

レギウスは少し警戒を解いて頷いただけだった。

でも安心したのか俺を解放して、レギウスは歩き去って行った。


「迫力のある奴だな。ショーゴの恋人か?」

「は!?自分と一緒にするな!」


俺はなんだか慌ててしまった。

そんな俺をジョンはニヤニヤ見つめている。

いくらゲイに寛大な国出身だからってそういう目で見るなよ…。

これは手っ取り早く話をかえるに限る。


「結婚式にはお祝いに行くから。」

「ありがとう。エイナのおいしい手料理をご馳走するよ。」

「楽しみだ。」


楽しい時間はあっという間で、夕方前にジョンは帰っていった。

帰り際、結婚パーティにはレギウスも連れてきていいぞって…

最後まで俺をからかいやがって!!

その夜はなんだかレギウスの顔がまともに見れなかった。



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