足音がする。
顔をあげたらレギウスがいるんだろうと思ってじっとしていた。
だけど聞こえたのは獣の声だった。
ハッと顔をあげた俺は動けなくなった。
動いたら殺される。
俺と獣の間に緊張が走った。
獣は鋭い牙がのぞいていて、血走った目で俺の様子を窺っている。
熊と猪の間のような感じだった。
俺はそいつから目をそらさず睨みつけてやった。
本当は怖かったけど、悟られたら来る。確信できた。
しばらく睨みあっていたが、突然獣が咆哮と共に暴れ出した。
そして後ろに向き直ると、血飛沫を撒き散らせながら倒れた。
何が起こったのかわからない俺の目に、赤い血で染まったレギウスが映っていた。
「大丈夫か?」
レギウスは相変わらずの無表情だけど、心配してくれていたのは雰囲気でわかった。
「…ごめん。俺…。」
涙がぼろぼろ出てきた。
レギウスは俺が無事なのを確認すると、汚れてない左手で背中を撫でてくれた。
俺は思わずレギウスに抱きついていた。
レギウスはしっかりと抱きとめてくれる。
「ショウゴは俺と来るか?」
それってさっきの話の続きだよな!?
「いいの!?」
俺はレギウスを見上げた。
レギウスの顔には優しい笑みが浮かんでいた。
こんな顔も出来るじゃん。
あれ?…なんか心臓が痛い。
血流がいきなり良くなった感じがする。
「ショウゴがいいなら。」
「レギウスと一緒にいたい!」
レギウスは頷いてくれた。
俺、今幸せかも。
その後、近くの川で体を拭いたり血を洗った。
さっきの獣も食べられるらしくて、鉱山に戻ったレギウスは皆に喜ばれ
肩を叩かれていた。
レギウスってかっこいいよな…。
やっと、長い冬が終わった。
俺とレギウスはジョンのいる村経由でソワノ・デラというとこに行くらしい。
結婚式にはあの獣の毛皮を送る事にした。
けっこう珍しいものだから最高のプレゼントになるみたいだ。
「よいよ明日お別れだな。」
おっちゃんの一人が話しかけてきた。
レギウスは鉱山の責任者のとこに行っている。
「いろいろ、ありがとう。
乾しブドウとか美味しかったよ。」
「またどこかで会えるといいな。
王都から北の森の村に俺の家があるんだ。」
「落ち着いたら遊びに行くよ。」
このおっちゃんはよく、おやつをくれたんだ。
「ぼうず。あの兄ちゃんに壊されないようにな。」
「何のことだよ。もう!」
こっちのおっちゃんは靴とか壊れるといつのまにか直してくれた。
でも最後まで俺がレギウスとデキてると思ってるみたいだ。
違うから。
その夜は四人で簡単なお別れ会をやった。
出会いあれば別れあり。
いちいち泣いてたらダメだってわかってるけど、ちょっとだけ泣いちゃったよ。
だってさ、すごくいい人たちだったから。
翌朝、ジョンのいるふもとの村まで降りた。
ジョンとエイナの結婚式は三日後。
俺たちは宿屋に泊まった。
「準備に忙しくて、こんな時間にすまんな。」
ジョンが宿屋に来たのは夜もふけた頃だった。
「食堂、忙しそうだね。」
「ああ。鉱山が近くに出来たからな。
夜は酒場になったんだ。」
ジョンは剣の手入れをするレギウスを見た。
「レギウスは剣が使えるんだな。
旅支度って事は、鉱山やめるのか?」
「うん。でさ、俺も…ついてく事にしたんだ。」
なんか照れるから下をむいてしまった。
「やっぱデキちゃった!?」
ペチッ!
ジョンのおでこを叩いてやった。
レギウスは一瞬こっちを見たようだけど、再び手元に集中したみたいだ。
「痛いな。ははは。
まぁ、あいつがいれば安心だな。」
「うん。」
少し話した後、ジョンはすぐに帰っていった。
レギウスは買い物リストを作っていたみたいだ。
任せっキリもよくないけど、俺まだあんまり字が読めないしなぁ…。
「レギウス。俺にも手伝えることない?」
「俺の傍を離れないようにする事。」
真顔で言われちゃったよ。
迷子になるなって事だよな?
「気をつけるよ。
俺も剣とか使えたほうがいい?」
実は習いたいという下心があったりして。
レギウスが考えてる。
「今はいい。少しづつ覚えればいい。」
「わかった。でも俺に出来る事はやらせて?」
レギウスは表情を和らげて俺の頭を撫でてくれた。
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