アゼ山で大規模な人員募集がかかった。

鉱山としては元々小規模な採掘をしていたが、宿舎が増築されて規模を増やしたのだ。

レギウスが鉱山に着くと、4人部屋へと通された。

他の部屋も同じだろうと、ざっと鉱山で働く者の人数をはじき出してみる。

さすが現在国内で2番目に大きい鉱山といえるだろう。

宿舎の部屋に入ると、すでに二人が荷物整理をしていた。

簡単なあいさつを交わして、レギウスは身体を休める事にした。

次の日、四人目が来た。

ひとめで異世界人だとわかる少年だった。

何故なら黒髪、黒目は珍しく、顔立ちはまったく違っていたからだ。

話しかけても曖昧な反応しか返さない事から、言葉が分からないのだろうと

レギウスは不憫に思った。

異世界から来る人間は大概が不安そうにしており、なかなか泣き止まない者もいる。

だがこの少年はよほど心根が強いのか、異世界に来て間もないようだが

笑顔をたやさずにいた。

同室の中年の男たちは故郷の息子を重ねて、よく世話をやいている。

レギウスは最初こそ深く関わらないようにしようと考えていたが

少年が屈託なく質問してくるので、答えるうちに教育係りになっていた。

ある時、仕事の合間の小休止に男達がショウゴの話をしていた。

レギウスは素知らぬふりで話を聞いていたが、それはショウゴに対して猥褻な行為を

しようという話だった。

確かに、この国では同性を伴侶にする事はできる。

娼館も男女両方扱うくらいだ。

だが性欲処理目的で、あの少年に何かされるのは腹立たしい。

レギウスの中で、ショウゴはいつの間にか護るべき存在になっていた。

なるべくショウゴを一人にしない様に仕事以外の行動は常に供にした。

周りにはレギウスの恋人と思わせる事でショウゴは守られていたのだ。




いつの間にかショウゴの語学力は、会話をするのに困らない程度に上達していた。

季節が変わる頃、相変わらず笑顔を絶やさないショウゴだが、たまにふと

暗い顔をするようになっていた。

レギウスは心配になったが見守ることにした。

下手な慰めよりショウゴの心の強さを尊重したのだ。

宿舎全体が眠りについた頃、ショウゴが起きあがり部屋をでた。

レギウスは気配を消してついて行く。

一度眠りについたショウゴが朝まで起きないのは知っている。

念のために毛布を持つことにした。

外に出て行くショウゴの背中がもの悲しい。

夜空を見上げるショウゴをレギウスはじっと見守っていた。

しばらくすると、その瞳から幾筋もの涙が流れ出した。

声もなく静かに泣くショウゴは儚げで、だがとても美しいとレギウスは感じた。

その夜からレギウスは考えていた。

ショウゴをずっと守りたいと。





季節が変わる頃、近くの村から金髪の青年がショウゴを訪ねてきた。

楽しげな2人の様子に、レギウスは遠巻きに見守っていた。

無邪気に笑うショウゴにレギウスは落ち着かない気分になっていた。

今まで腹違いの兄にだって、ここまで心乱した事はなかった。

その時、ショウゴの嫌がる声が聞こえてきた。

レギウスは素早く駆け寄ると、ショウゴを抱き寄せ金髪の青年を睨みつけた。

相手は驚いた顔を見せたが、怯むわけでもなかった。

ショウゴにただされ互いに自己紹介をして、名前から異世界人だとわかった。

どうやら悪い青年ではないと判断をくだして、レギウスはその場を離れた。

異世界人同士、つもる話もあるだろうという配慮といえば聞こえがいい。

だがレギウスは自分の感情が分からなくなっていた。

だから一人になって落ち着きたかったのだ。

ショウゴを守っていきたい。

だがショウゴは守られるだけの存在ではいてくれないだろう。

近い将来、この世界で一人でも立派に生き抜いてしまえるようになる。

結局レギウス自身がショウゴを必要としているのだ。

レギウスは自分の感情の正体を受け入れながらも、ショウゴには気づかれないよう

想いを閉じ込める事を選んだ。

今はただ、守らせて欲しい。

それで十分だから…。




季節が変わると、すぐに雪が降った。

ショウゴが寒さに弱いのは雪が降った当日に予想がついていた。

ショウゴの身体は相変わらず細い。

筋肉はついたのだが、身体が締まった分よけいに細く感じてしまう。

レギウスは仕事終わりの鐘が鳴ると、すぐにショウゴの元へ走った。

ショウゴが笑顔で迎えるので、レギウスも自然と口元が緩んでしまう。

レギウスはショウゴに手をとられても、されるがままにしていた。

むしろもっとしっかりと温めてやりたいとさえ思ってしまう。

だから夜にショウゴが震えているのを幸いと、自分のベッドに入れて

抱き込んだのだ。

だが安心しきった寝顔を見るうちに、レギウスの中の想いが欲望を訴えてくる。

だがレギウスはそれを理性で押さえつけ、冬の間毎晩ショウゴを温めとおした。

己の欲望からも守る、レギウスにとって苦であり幸福でもあった。




春も近づいた休日、早朝からショウゴと狩りに出た。

レギウスの任務も終わりが近い。

ショウゴには、出来れば一緒に王都へ来て欲しいと考えていた。

働き口ならいくらでも紹介できる。

この鉱山にいたら、いつショウゴに危険が迫るかわからない。

レギウスはタイミングをはかって、獲物が獲れた後ショウゴに話し始めた。


「俺は春にここを去る。」


一緒に来て欲しいと言ってしまって、本当にいいのだろうか?

そう考え躊躇しているうちに、ショウゴが走り出していた。

レギウスは軽い自己嫌悪に陥って出遅れたが、ショウゴの後を追った。

獣の匂いに、レギウスは武器を確かめた。

幸いレギウスは風下にいて獣には気づかれていない。

地の精霊がショウゴの様子を教えてくれたが、あの獣がショウゴを襲うのは

時間の問題だろう。

レギウスは素早く走りより、獣の背後から斬りつけた。

そして振り返った獣の首を、さらに斬りつける。

咆哮とともに獣が倒れ、その奥の窪みにショウゴの姿が見えた。

無事でよかった…。

ショウゴが返り血で汚れた自分に、躊躇いも無く抱きついてくる。

ああ、何を自分は躊躇していたのだろうか?

レギウスはショウゴに言う。


「ショウゴは俺と来るか?」

「いいの!?」

「ショウゴがいいなら。」

「レギウスと一緒にいたい!」


レギウスが頷くと、ショウゴの顔には満面の笑みがあふれていた。

こんな事ならもっと早くに言っておけば良かったと、レギウスは密かに反省した。




ファンタジーTOP / 中編


レギウスは真面目な男です。もう、マゾかよってくらい…^^;



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