気候がだいぶ暖かくなった頃、レギウスは同室の年長者たちに

鉱山を辞めることを告げた。


「お前さんが辞めるとなると、ショーゴもか?」


レギウスが頷くと、二人は顔を見合わせてからニヤリと笑った。


「幸せにしてやれよ!
ありゃあ、お前さんみたいな奴がついてないと危なっかしくてな。」


今はまだそうだろう。

ショウゴにはいろいろな物を見せ、経験させてやりたいと思う。

そうしてショウゴ本人が決めて欲しい。

レギウスはそれまで自分の想いを隠す覚悟はできていた。




春の訪れが山にも表れはじめた。

そこかしこに色とりどりの花々が咲き出している。

レギウスとショウゴはアゼ山をあとにした。

まずはショウゴの友人の村を目指した。


「ジョンの結婚式、楽しみだな。
レギウスは恋人、いるのか?」

無邪気なショウゴに、レギウスは首を横に振った。

レギウスの人生において恋人を作るという余裕は、今まで無かった。

独りで精一杯の愛情をかけ育ててくれた母に楽をさせたい。

腹違いの自分を可愛がってくれる兄の手助けをしたい。

レギウスの人生は今までそうやって費やされてきたのだった。





宿をとり、荷物を整理しながらレギウスは買い物リストを作成した。

しばらくするとジョンが訪ねてきた。

ショウゴとは相変わらず仲がいい。

二人のそんな姿に、レギウスはチリチリとした痛みを感じていた。

だがあえて気にしないように務めた。

ジョンはショウゴにとって友人だ。

レギウスは黙々と作業に没頭した。

ジョンは俺とショウゴが恋人同士になると予想しているようだ。

そのことでショウゴをからかっているのは知っている。

だがあまり言い過ぎると、ショウゴが離れていってしまいそうでやめてほしい。


「レギウス。俺にも手伝える事ない?」

「俺の傍を離れないようにする事。」


ショウゴの問いにそう答えたのは、俺の願いだと思う。

剣を習いたいだろうショウゴに、剣を教えないのは怪我をさせない為だ。

大事すぎて、本当はどこかに閉じ込めてしまいたいとも考えてしまう。

だがそれはエゴだと分かっているから心の中に封じておこう。




次の日、ショウゴとレギウスは買い物にでていた。

レギウスはショウゴにマントをプレゼントした。

フード付きのそれは、ショウゴにとてもよく似合っていたのだ。

一度宿に帰り、レギウスは独りで外に出た。

ショウゴは少々不満そうにしていたが仕方がない。

村の外れの森の入り口まで歩くと、足元には地の精霊が姿を現していた。


「まだここは大丈夫。だがリゲータに待ち伏せしてる。」

「そうか。感謝する。」


レギウスは精霊を見送り、村に戻りながら考える。

やはりショウゴを丸腰にしておくのはまずい。

村の武器屋の品揃えを見ながら、軽くて使いやすそうな短剣と

ベルト付きホルダーを買った。

殺傷能力は低いが、隙を作る事はできるだろう。

レギウスは足早に宿に戻ると、早速ショウゴに装着した。

願わくば、これを使うことが無いように。




ジョンとエイナの結婚式当日。

陽気で温かな雰囲気に、レギウスはいつの間にか飲みすぎていた。

女性からの杯を断っては失礼だと、飲んでしまったのがよくなかった。

そのうち男衆までもが、酔いつぶそうと飲ませに来たのだ。

そこからは精神力で耐えた。

だがショウゴと宿に入った後からの記憶が無い。

翌日、目覚めたレギウスが見たものは。

半分のっかかる自分の下敷きになって眠るショウゴ。

少し苦しそうな表情に鼓動が早くなる。

レギウスは剣を掴むと、足早に宿の裏手にある小川にむかった。

まだ酒が残った体は、少々鈍い。

レギウスは剣を振り続けた。

迷いを持っていてはこの先、危険だ。

自分は誓ったのだ。

ショウゴを守ると。





どれくらい剣を振っていたのだろうか。

気づけばショウゴがいた。


「おはよう。昨日はすまなかった。」


謝罪すると、ショウゴは明るく大丈夫だと答えてくれた。

ショウゴと話すと不思議と心が軽くなり、温かいものが満ちてくる。

レギウスは久しぶりに声を出して笑うことが出来た。

幼い日以来だと言ったら、ショウゴはどう思うだろう?

忘れていたものを、ショウゴは自然に思い出させてくれるのだ。

レギウスはますますショウゴに想いを深めていた。




村人に見送られ、村を出る。

しばらく歩くと、ショウゴの歩が遅くなっていった。

もとから長く歩く生活をしていないのだろう。

ショウゴを見守りつつ、速度を落として歩き続けた。

休憩を取り、薬草を探して戻るとショウゴが風の精霊と戯れていた。

風の精霊は滅多に姿を現さない。

だがショウゴならありえる話だ。

足の手当てをしてから再び歩きはじめる。

精霊はショウゴと行動をともにするようだ。

これでショウゴは風の精霊に守られる。

レギウスは心強い味方が出来たと安慮した。

リゲータに着くと、ショウゴを宿に残して刺客退治に専念した。

レギウスの存在を知った腹違いの兄弟からの嫌がらせだ。

彼らは本当に命のやり取りがなされていることが分かっていない。

だからこそ、こんなくだらない事が出来るのだ。

人の命は失われたら終わりだとという事が何故わからないのか?

いや、だからこそ現王は兄弟を王都から遠ざけ権力を奪ったのだ。

宿に戻ると、ショウゴが眠っていた。

その寝顔に、レギウスは心が静まるのを感じた。

しばらく見つめてから、レギウスも眠る事にした。




翌日、レギウスはリゲータの町長と面会し用件を済ませた後

目くらましに人を雇うことにした。

囮になるよう、自分に良く似た背格好の男を選んだ。

もちろん命の危険を感じたら、命を優先するよういい含めて。

宿に帰ると、ショウゴが待ちくたびれていた。

町の店を見て回るショウゴの表情は、とても楽しそうだった。

だがある露店で、鱗のベルトを目にしたショウゴは何かが違っていた。

物じたいは良いものだ。

だが何か、引っかかる。

そろいの剣があるというが、その剣が見つかったら調べてみよう。

購入したショウゴは嬉しそうに肌触りを楽しんでいた。




次の日、軍馬のシーラを紹介するとショウゴはとても驚いていた。

ショウゴのいた世界では馬に牙は生えないのだという。

シーラに懐かれたショウゴが、腰が引けているのが笑いをそそる。

ショウゴが慣れた頃、馬上に上げて出発した。

軍馬は乗り手の心に敏感なのだ。

怯えた者が乗れば、馬も落ち着きが無くなる。

馬の旅も慣れない者にはつらいが、ショウゴの負担も少しは減るだろう。

レギウスは振動が少なくなるように、気をつけながら馬を進めた。




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お待たせしました。
レギウスの謎の行動が少し分かってもらえましたでしょうか?*^^*

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