森の中、夜の帳が下りる頃。

レギウスとショウゴは今夜の野営地を整えていた。

刺客という障害がなければ、小さな町を経由してもいいのだが。

レギウスは安全策をとり、最短ルートでエラノダに着くよう移動していた。

森の中を馬で駆ける分、慣れている者に分がある。

エラノダに着けば刺客は襲っては来ない。

何故なら、レギウスの騎士としての権限も使え、目と鼻の先には

王都ソワノ・デラがあるからだ。

刺客の雇い主達にとって、目的はあくまで嫌がらせなのだ。

亡き者に出来たら幸運だが、真剣に葬る覚悟がない。

レギウスはショウゴの方に目を向けると、すぐにショウゴが気がついた。


「エラノダには明日着く。
少し急いで戻ることになったんだ。すまない。」

「レギウスの都合だから仕方ないよ。
でも、そろそろレギウスの本当のことが知りたい。」


ショウゴはショウゴなりに考え、聞くタイミングを待っていたようだ。

興味をもたれることが嬉しいと思える日がくるとは…。

ショウゴだからなのだろう。

エラノダに着いたら話すことを約束した。

だが突然、それぞれの精霊が姿を現し危険を告げた。

急いで焚火の始末と、身支度を整えると馬にまたがる。

これまでより速度を上げ、森の中を駆けるがショウゴは毅然としていた。

馬も安定している。

これなら夜のうちに駆けてエラノダに着くことが出来るだろう。

レギウスは馬を操ることに集中した。




陽が昇る頃、エラノダの門が見えた。


「エラノダだ。」


レギウスはショウゴにもう大丈夫だと言おうとすると、その体が傾いた。

慌てて支えると、どうやら眠っているようで安心した。

レギウスにしてみれば一晩寝ないくらい平気だが、ショウゴは違う。

緊張しただろうし、馬上とはいえ体力は削られる。

抱えるショウゴの体のなんと細いことか。

レギウスは静かにエラノダの門をくぐった。




宿を決めショウゴをベッドに寝かせた後、レギウスは市長に挨拶に行った。

そうして雑用を済ませると、後は報告書類をまとめるだけとなる。

王都に着いた後、少しでもショウゴの傍に居られる様にレギウスは書類に

手を付けはじめた。

いくつかの書類を終わらせた頃、ショウゴが勢いよく扉から現れた。

そんなショウゴの姿に、レギウスの表情も自然と柔らかくなる。

レギウスは世話をやきつつ、ショウゴに事情を話し正体を明かした。


「騎士だったんだ!王直属って凄いんだよな?」


ショウゴの反応に、どうやら騎士に憧れを持っている事が窺えた。

王都に着いて、もしショウゴが騎士になりたいと言ったら

どうやって諦めさせようかとレギウスは考える。

危険を伴う仕事には就いてほしくないのだ。

ショウゴに湯浴みをすすめて、レギウスは再び書類にとりかかった。

ショウゴの身支度が出来たら例の探し物もしなければならない。

浴室からショウゴが出てきたのでレギウスが視線を向けると

ショウゴは布一枚を腰に巻いただけの姿であった。

レギウスは思わず見入っていた。

ショウゴが寝室に走り込むまで。




レギウスはショウゴを伴い町に出た。

まだ瞼の裏には先ほど見たショウゴ姿が焼きついていたが

なるべく気をそらすように努めていた。

エラノダの町の簡単な説明を交え、しばらく店を見てまわると

風の精霊がショウゴに一軒の店を示した。

洋服を扱う店だが、壁に装飾の見事な剣が飾ってあった。

レギウスは店の者に許しをえて、剣をざっと調べてショウゴに渡した。

細身の剣だが、装飾は細かく年代を感じさせる。

だが手入れが行き届いており、輝きのあるその姿は価値のあるものだと

判断できた。

鞘が外れないことを確認してから渡したのだが、ショウゴの手の中の剣は

鞘と剣が別々に握られていた。

ショウゴは、何か意味があってこの世界に来たのかもしれない。




次の日、日暮れ前に王都ソワノ・デラに着くとレギウスはショウゴを預ける為

自分の館に寄ることにした。

信頼する家人にショウゴを任せ、足早に自室に移動する。

王都の門番からすでに自分が戻った事が伝わっているはずだ。

素早く湯浴みを済ませ、騎士の正装に身を包む。

身支度が整うと、執事が手紙を差し出してきた。


「先ほど城より届けられたものでございます。」

「城から…。」


手紙は王から宛てられたものだった。

レギウスは素早く目を通すと、執事にショウゴが着れる服を用意させた。

王は自分が連れ帰ったショウゴに興味が引かれたのだろうと、レギウスは推測した。

ショウゴと城に向かうと、元宰相のグラール殿が出迎えてくれた。

何か違和感を覚えつつ、レギウスは足をすすめた。

王の執務室の隣にある部屋に案内されると、中には既に王が居た。


「よく戻ったな、レギウス。
早速その少年を紹介してくれ。」

「はい。異世界人のショウゴです。
彼はこう見えても17です。」

「もうすぐ成人か。
…で、お前のなんだ?」


どういうことだ?

レギウスは探るように王と視線を合わせた。

だが王は、さっさとショウゴに話かける。


「ショウゴといったな?
こちらの都合で悪いが、黒髪・黒目の異世界人なので
此処にしばらく居てもらうことになる。
王家の伝承では王族か、その近い親族が伴侶として迎える掟があるのだ。
よって相手が決まるまでの仮住まいだな。」


レギウスは愕然とした。

そんな伝承があるとは…。

レギウスは王の考えを悟った。

王はショウゴをたてに、自分に王弟として起てというのだろう。

レギウスという騎士ではなく、王弟レオノアとして。

レギウスは退出させられるショウゴに、心配するなと目で伝える。

不安そうなショウゴの姿に胸が痛む。

ショウゴが退出すると、部屋は静かなものとなった。


「レオノア、伝承は真実だ。
風のドラゴンが交代の時期になのは知っているだろう?
ショウゴは『魂に使命を刻む者』なのだ。」

「神話のような儀式が本当に存在していたのですね。
という事は、ショウゴは子孫を残せないという事ですね?」


王ユーシスは静かに頷いた。

『魂に使命を刻む者』は子孫を残せないというのは掟なのだ。

世界の鍵となる存在ゆえの、その血が悪用されない為の掟。

ならば、伴侶となる者は同性になる。


「私に、ショウゴの伴侶になる資格はありますか?」

「レギウスではなく、レオノアにはある。」

「わかりました。3日程で戻ります。
その間、くれぐれもショウゴを頼みます。

「わかった。
ああ、レオノアには兄と呼んで欲しいんだが?」

「帰りましたら。」


レギウスは自分の邸に戻り、簡単な旅支度をすると西の森に馬を走らせた。

ソワノ・デラから馬で半日の森には、不思議な力が使える者が住んでいるのだ。

早朝その家の門を叩くと、若い男が姿を現す。


「待っていたよ、レオノア。
まずは朝食の用意をしてくれるかい?」


この痩身の男が、実は何歳なのか知っている者はいない。

レギウスは黙って朝食の準備にとりかかった。

言われたとおりにしなければ、話が進まないのは長年の付き合いで

分かっていたからだ。


「レオノア、あの子はお前の伴侶となる為に来たのだよ。
だが『魂に使命を刻む者』だ。
しっかり支えてやりなさい。」

「ヴァフィト、すでにショウゴは守ると決めてます。」


レオノアの言葉にヴァフィトは微笑んだ。


「では、お前が本来の姿に戻るように色抜きをするとしよう。」

「お願いします。」


色を入れる時はあっという間だった。

だが色を抜くのには時間がかかるのだ。

レギウスは焦る心を押さえ、ショウゴの事を考えた。

自分が伴侶となる事を、ショウゴは受け止めてくれるだろうか?

ヴァフィトがいう事に外れた事はない。

だが正直、ショウゴに自分がどのように思われているのか

レギウスはよく分からなかった。

確かな事は、レギウス自身がショウゴを深く愛しているという事だけ。

この想いだけは誰にも負けないだろう。


「そういえば、レオノアは知っているかい?
『魂に使命を刻む者』の覚醒には、伴侶の体液を注ぐという事を。」

「!!…知りませんでした。」


ショウゴは、俺を受け入れてくれるだろうか?

そもそも、あんなに細い体が耐えられるのだろうか?


「よい薬を持たせてやろう。
筋肉を緩める香油と、痛み止めと沈静作用のある飲み薬。
だから安心するといい。」

「…はい…。」


ヴァフィトは間違った事は言わない。

だが、…いたたまれない。




色を抜いて本来の色彩に戻るのは何年ぶりのことか。

ソワノ・デラに戻り、王の執務室に向かう。


「本来のレオノアだな。
明日、婚約の儀を執り行う。
ショウゴにはお前の正体は伏せたままだが、人となりは話しておいた。

「そうですか…。
ショウゴは元気にしてますか?」

「ああ。あんなに細いのに、なかなか芯が強いのだな。
神話の事やら、色々自分で調べていたようだ。」


ショウゴはやはり強い。

だが、この3日間どんなに不安だったろうか?

明日の段取りを打ち合わせ、その日は城に泊まった。

翌日、レギウスは白を基調とした服に身を包んだ。

そして、紅い道を一歩一歩確かめるように歩む。

一歩進むごとにレギウスの視線の先、ショウゴの姿が鮮明になる。

驚愕の表情をうかべるショウゴを横目に、婚約の儀は進んだ。

ショウゴの手をひいて退出すると、ショウゴの体がくずれ座り込む。


「歩けないのなら、私がお運びしましょう。」


レギウスは少々強引にショウゴを抱き上げ、部屋に運ぶ。

人払いをして二人きりになると、レギウスはショウゴに謝罪した。

だがショウゴは呆気ないほど簡単に許してくれるどころか

伴侶が自分でよかったと言ってくれたのだった。

もうショウゴへの想いを隠さないでいいのだ。

レギウスは人生で一番の宝を得ることが出来たと感じた。

これからもずっと守っていく。

レギウスは心に刻み込んだ。



END

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ようやく終わりです。
ちょっとハンパな終わり方かもしれませんが;


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