4




夕刻の兵舎はいつになく賑わっていた。

シンラに太刀傷を負わせた外の者の事で話は持ち切りだった。

外の者を尋問した兵の話によると、名はクギョクという。

戦で敵に追われ迷い込んだのだという話だった。

この国には結界が張ってあり、外の者はめったに入れないが、偶然にも

入れてしまう者がごく稀にいるのだ。

クギョクは初めて見る幻想的な景色に戸惑い、妖魔の国と勘違いしたのだという。

シンラの容姿が人を超えた美しい容姿に見えたのも原因だった。

確かに、整った容姿をした者が多い中、シンラのように男であって

女性的に美しい容姿はこの国においても珍しい。

シンラの父・ユイはこう考えている。

外の者の血が影響してシンラは先祖がえりをおこしたのだろうと。

遠い王族の血から銀色の髪に、そして金に近いような薄茶の瞳で生まれてしまったのだろうと。

容姿は外の世界から来てユイと結ばれた母親に良く似ているのだった。





賑やかな兵舎の一角、この部屋の周りだけは静かだった。

兵舎に戻ったシンラが熱をだして寝込んでいたからだ。

シンラは容姿のせいか、王族のよう見えてしまい他の兵には少し近寄りがたい

存在だった。

だが、日々鍛錬を怠らない姿と、仲間に対して思いやりのある態度に

シンラに対する周りの態度は変わっていった。

シンラにゆっくり養生させたいが為に静かにしているのだ。

騒ぎたい者は食堂にいる。




「そろそろシンラに何か食べさせてくる。」

シンラの同室のリヨンは食堂の厨房を借りると粥を作り部屋に戻っていった。

真っ暗な部屋に少しずつ明かりが灯る。

シンラはリヨンの声に目を覚ました。

「結構、熱高いな。粥を持ってきたから向こうで食べてくれ。」

リヨンは足元のおぼつかないシンラを支えながら椅子に座らせた。

「迷惑かけてすまない。」

「同室の仲だろう?

 俺だっていつ怪我するかわからないし。お互い様だな。」

リヨンは茶色の瞳を器用に片方閉じた。

シンラは有り難く食事をとることにした。

リヨンはシンラの寝台の布団を手早くかえて整えていく。

しばらくすると、遠くの方にかすかに聞こえた仲間達の声が聞こえなくなり

兵舎が静寂に包まれた。

「何か静か過ぎるな?

お、きれいに食べれたな。

 じゃあ身体拭くから脱いで。」

甲斐甲斐しいリヨンにシンラは従った。

湯を絞った布で拭いてくれる心使いにシンラは感謝した。

トントン

遠慮がちな音とともに声がした。

「カイだ。失礼するぞ。」

そうして入ってきたのは二人。

カイの後に入ってきた人物を見て、シンラは驚きを隠せないでいた。

カイの後に続いて部屋に入ったセイレンも、半裸のシンラに驚いていたが

すぐさまカイに後ろを向かせた。

「間の悪い時に来てすまない。」

セイレンはシンラから視線をはずし、云った。

「いいえ、お見苦しいものを見せてしまい申し訳ございません。」

シンラはこちらを見ないセイレンに詫びた。

いつもなら真っ直ぐに自分を見てくれるセイレンの目が、こちらを見ない。

それがこんなに不安になるなんて、熱のせいなのだろうか?

リヨンは素早くシンラの身体を拭き終わり、着替えさせる。

「私はこれで失礼します。」

リヨンはセイレンに声をかけると、部屋を後にした。

カイもリヨンに続いて部屋を出ると目配せをし、近くの部屋の者達に声をかけ

食堂にいざなった。



       ファンタジー小説TOP / back / next

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル