昭和57年に、従来、電気機関車に牽引された冗長な編成の客車が走っていた普通列車を、 利用客数に見合った短編成の電車列車に置き換えるよう、2両編成で登場した新しい車両です。従来、交流区間を走る電車は、交直両用車両が増備されてきていました。
しかし、交流電化されている区間が長くなり、走行距離が短くて済むローカル列車だと 本州へ乗り入れる必要性は薄くなりました。そのため九州向けの電車としては 初めての交流専用電車として登場しています。前面デザインなど、車体関係は従来の国鉄の車両とあまり変わりはありませんが、 足回りは、モーター付きの車両を減らして、機器点検など保守の簡略化を めざし、1M2T 編成で、2M2Tの415系電車並みの加速力を持たせるように設計されています。 また、私鉄などで採用されていて、国鉄では遅れをとっていた 省エネ、メンテナンスの手間の軽減などを考え、 初めてサイリスタ連続位相制御と、電車用の交流回生ブレーキを採用しました。
この制御方式は、サイリスタ(=登場当時は トリギスタと呼称)という半導体を使用し、スイッチのオン・オフで断続的に 流れる電流を、平均的な値に流しなおしてモーターに送るシステムです。 従来だと、不要な電力は抵抗器で熱として排出されていましたので、必要な電力だけを 取り込むこの制御方式は効率が良い他、抵抗制御だと、抵抗器のセットの数だけしか 電圧を変えられなかったのが、連続的に電圧を変えられるようになったために、 滑らかな加速ができるようになり、乗り心地が向上しました。
外観上の技術的な変化と言えば、初めて耐久性の高い黒色のHゴムを採用(従来はグレー)し、 わずかながら印象が変わっています。
4編成8両が製作され、長崎本線のローカル列車を担当するようになりました。 登場当初から、クリーム色に緑色の帯を巻いています。その後、JR九州標準の 青帯に変更されましたが、平成8年夏の宮崎空港線の開業に伴い鹿児島に転属。 宮崎空港と宮崎を結ぶシャトル列車”サンシャイン”となり、内装・外装ともに 大幅に変更されています。シャトル列車とはいえ、運用区間は宮崎県内では 特に限定されておらず、延岡まで足を伸ばします。また、鹿児島車両所で 点検を受ける関係で、回送列車が設定されています。 制御方式が他の車両と違う関係で、運用自体は独立。ただし、数が少なく故障時には 救援車種を選べないので、90年代後半に475系や717系とも併結可能とする改造を受けています。
この車両の足回りの設計は、その後783系に受け継がれました。 また南九州の普通電車では初めて、電動方向幕を備えました。
形式 |
クモハ713-900 Mc |
クハ712-900 Tc |
寸法 |
L:20000 mm W:2,946 mm H:3,652 mm | |
自重 |
44.5 t |
32.5 t |
最高速度 |
100km/h | |
主電動機形式 出力 |
MT61 150KW×4 | - |
歯数比 |
14:85=1:6.07 |
- |
動力伝達方式 |
中空軸平行カルダン |
- |
制御方式 |
サイリスタ連続位相界磁制御 (他励制御) | - |
ブレーキ方式 |
回生ブレーキ併用電磁直通・回生・ 自動空気・直通予備ブレーキ |
|
ブレーキ |
踏面片押し式 |
|
保安装置 |
ATS-SK |
|
台車形式 |
DT21D |
TR62(ディスクブレーキ) |
車輪径 |
860mm | |
運転台 |
片運転台・貫通 | |
出入口 |
両開引戸1300mm×2 | |
便所設備 |
なし |
あり |
冷房装置 |
AU710×1 | |
製造年度 |
1983(昭58)年:改造1996(平8)年 |