由真が俺の本当の妹ではないと知ったのは
俺が中学2年の時で、由真は小学校6年だった。
臨海学校で由真のいない夜
神妙な顔をした親父にその話を聞かされた。
親父の妹の子。だから本当は従姉妹ということになる。
交通事故で叔母夫婦が亡くなったため
まだ赤ん坊だった由真を引き取ったのだという。
由真には、まだ知らせていない。
いつかは、由真にもちゃんと話さなければならないが
今はまだ、黙っているように。
今までと同じように、接してやるように。
そこまで聞いても、特にショックを受けたわけではなかった。
ああ、そうなんだ、と
自分には関係のない、他人の話を聞いているような気分だった。
そして、由真が帰ってきても、何事もなかったように日々は過ぎていった。
あの日までは。
「お兄ちゃん、明日なんだけど」
夜。俺の部屋に入ってきた由真が、ねだるような目つきで俺を見ながら、明日のことを言い出した。
「・・・なんだよ」
「入学式が終わったら、学校の中、案内してよ」
月日は流れる。
いつの間にか、由真も高校生だ。明日がその入学式。
見た目はそれなりに成長したが
中身は相変わらず、泣き虫でだだっ子で・・・
「そういうのはオリエンテーションってのがあるから」
「えー。いいじゃん、お兄ちゃんがやってくれても」
そして、相変わらず甘えん坊だった。
「しょうがねえな・・・」
そして、ブツブツ言いながらも由真の我が儘を聞いてしまう俺は
相変わらず妹に甘かった。
俺と同じ中学を卒業して、俺と同じ高校に入学して・・・
由真はずっと俺の後をついてくる。そういうものだと思っていた。
翌日。入学式。
由真に校内を案内してやる約束になっているので、ノタノタと学校に向かう。
まあ、歩いていける所だから楽なんだが。
そもそも、この学校を選んだのもそれが理由だったし。
クラブの勧誘のために待ちかまえている連中に混じって、1年の教室の前で待っていると
やがてざわめきとともに新入生たちが流れ出してくる。
喧噪の中、由真を探す。
・・・いた。小柄な体の上で、見慣れたツインテールが揺れている。
瓜実顔に切れ長の目。細い眉に細い鼻筋。
少し線が細いが、我が妹ながらなかなかの美人に育ったもんだ。
手を振り、声をかけるが気が付かない。
通り過ぎようとする由真を追いかけて、人の波をかき分ける。
ようやっと追いついて、肩に手をかける。
「由真、こっち」
振り返った由真がビックリした顔で答える。
「え・・・何?」
何、って・・・照れているのだろうか。
まあ、同じ高校に兄貴とかいるのは照れくさいかもしれない。
俺も、妹が入ってくるとダチに知られたとき、ちょっと恥ずかしかったし。
「忘れたのか。これからお前に校内を案内することに・・・」
言いかけて気づいた。
由真の様子がおかしい。
何が起きているのかわからない、といった感じでオドオドしている。
そういえば・・・由真のクラスは隣じゃなかったか?
「お、なんだ桜井、いきなり新入生をナンパか?」
顔見知りが冷やかしの声をかけてくる。
「バカ、こりゃ俺の妹だって」
俺の反論を聞いて、由真がまた驚く。
「え・・・あの・・・人違いじゃ・・・ないですか?」
何を言ってるんだコイツは?
「・・・はぁ?いいからさっさと・・・」
「私・・・大場ですけど・・・大場由良、です」
今度は俺が驚く番だった。
「へ?・・・あれ・・・?」
顔はもちろん、背格好から体つきから声からしゃべり方から・・・
何から何まで由真と同じ。
それなのに、彼女は由真ではないという。
大場由良・・・とか言ったか?名前はよく似ているが、ちょっと違う。
え・・・じゃ、他人のそら似、ってやつ?
混乱する俺に、背後から別の女の子が声をかけてくる。
「ちょっと、桜井くん?ウチの妹に何か用?」
振り向けば、背の高いショートヘアの、気の強そうな女子・・・あれ?確か今年から俺と同じクラスの・・・
「えーと・・・大場さん、だっけ?」
「ええ、そうだけど・・・桜井くん、妹に何か用?」
向こうは俺のことを知っているらしい。少し警戒するような目で俺を見つめている。
「あ・・・え?大場さんの・・・妹?」
「そうよ?今年入ってきたの。今から校内を案内するんだけど・・・由良とは知り合い?」
「え?あれ?いや・・・俺の・・・あれ?俺のは?」
「・・・何よ、俺のは、って」
怪訝な顔で大場さん・・・姉のほうが俺をにらむ。
「いや、だから・・・あれ?俺の妹は?」
「だから、由良はアタシの妹だってば!何言ってんのよ!」
混乱する俺にさらに追い打ちがかかる。
「あ、お兄ちゃーん!こっちー!」
由真の声がする。後ろから。
「お待たせっ!・・・あれっ?」「・・・えっ!?」「・・・あ」「・・・うわ」
混乱の場に由真が加わり、そして、さらなる混乱が起きて、全員その場で固まる。
まったく同じ顔の、二人。由真と由良。
顔だけじゃない、背格好も体つきも声もしゃべり方も髪型も服装も(制服だから当たり前か)
まるっきり見分けの付かない二人が見つめ合い
互いを指さして、口をパクパクさせている。二人揃って。
そのそれぞれの兄と姉も、もはやどっちが自分の妹だかわからない。
やがて、いっせいに同じ台詞を叫ぶ。
「どうなってんの!?」
しばらく唖然としていたが、大場さん(姉)が俺の手をグイと引っ張った。
「ちょっと・・・こっち来て、桜井くん」
「え?・・・あ、ああ・・・」
「由良、ちょっとそこで待ってて」
「あー・・・由真もそこで・・・まあ、待ってろ」
ぽかんとする二人を残して、大場さんが俺を廊下の陰に引きずっていく。
「なんなんだよ・・・」
訳がわからないで少しイラつき始めた俺に
大場さんが真顔で尋ねてくる。
「ね、単刀直入に聞くけど・・・あの子、桜井くんの本当の妹?」
「え?・・・いや・・・まあ、実を言うと・・・正確には、従姉妹なんだ・・・けど」
「やっぱり・・・」
やっぱりってなんだ。そりゃ俺と由真はあんまり似てないから、そんな冗談もよく言われたが。
だが、続いて聞いた台詞は冗談ではすまなかった。
「赤ん坊の頃、両親が交通事故で亡くなったんで、桜井くんのところで引き取ったのよね?」
「え・・・おい・・・なんで知ってるんだ!?」
詰め寄る俺に、大場さんがため息を付いて、答える。
「聞いてないの?・・・赤ん坊は、双子だったのよ」
「え・・・ふたご?」
「そう。一人は、母方の親戚に引き取られ、もう一人が父方の・・・私の家に引き取られたの。それが由良」
ちょっと待て。そんな話は・・・俺も聞いていないぞ?
「まさか、同じ高校に入ることになるとはねぇ・・・父さん達、知らなかったのかしら」
「えーと・・・するってぇと・・・由真と・・・えっと・・・」
「由良」
「ああ、その由良ちゃんとウチの由真が・・・生き別れの実の双子だ、ってわけ?」
「たぶん、ね。アタシが聞いてる、母方の姓が桜井だから・・・間違いないんじゃないかな」
まあ・・・そんな話がそうそうあるわけもないだろうし・・・
「・・・くそ・・・親父も話すなら全部話してくれりゃいいのに」
大場さんが探るような目で俺を見て
「ね、ウチは・・・まだ由良には話してないんだけど・・・そっちは?」
「ああ・・・ウチもまだ、由真には話してない。いつかは話すんだろうけどさ」
「なんか・・・その日は近くなったかもしれないわね・・・」
「で・・・どうしよっか」
大きく息をついて、大場さんが俺を見る。
「どうする、って・・・校内を案内することになってるんだけど」
「そうじゃなくて!」
眉が吊り上がる。怒らせると怖そうだ。
「いや、わかってるって・・・今、俺たちが・・・その、話しちゃうわけにはいかないだろ?」
「・・・そうよねー」
「ま、他人のそら似ってことで押し通すしかねえよな」
「うん・・・」
今度は暗くなる。表情のコロコロ変わる子だな。
「けど、あれだ・・・叔母さん夫婦が事故ってなきゃ・・・俺達、親戚付き合いしてたのかな」
「あー・・・そうかもね」
「ま、そうすると由真が俺んちに来ることもなかったわけだけどな」
「叔父さんには悪いけど・・・アタシは、由良が妹で、よかったって思ってるわ」
大場さんが、二人のいる方を見つめながら
小さな声で、だが、はっきりとそう言った。
「しかし、なんて言うんだ、こういうの・・・俺と大場さんて、又従姉妹とか言うんだっけ?」
「さあ・・・よく知らないけど、まあ、よろしく」
「ああ・・・うん、よろしく、大場さん」
「・・・葉月よ。大場葉月」
彼女・・・葉月が差し出した手を握り、俺も答える。
「達也。桜井達也だ。よろしくな、親戚さん」
手を握り返した葉月がニコッと笑う。
・・・笑うと可愛いじゃん。
「ね・・・達也って、何月生まれ?」
「は?何いきなり・・・6月だけど」
「ちぇ。じゃそっちがお兄さんか」
「はあ?」
「アタシ7月生まれだもん。あーあ、弟が欲しかったのに」
「何言ってんだか・・・同じ学年で弟も妹もないだろ」
なんか・・・やっぱちょっと変な奴かも。
「あ・・・二人ほったらかしだったっけ」
廊下の角から、残してきた二人の様子をコッソリうかがう。
なにやら、二人で仲良く話し込んでいるようだ。
もともと双子だから気が合うのかもしれない。
「・・・仲良くなったみたいだぞ」
「あらー・・・びっくり。人見知りする子なのに」
額に手を当てて天を仰ぐ。大げさな仕草が、なんとなくおかしかった。
「・・・この際だから、一緒に校内の案内でもしてやろうか」
「ま・・・そのほうが手間が省けるかな」
「じゃ、あんまり待たせてもなんだし、そろそろ行くか」
先に行きかけた俺を葉月が呼び止める。
「ね・・・卒業まで・・・うまくやってけるかな、アタシたち」
あと1年。秘密を隠し通すのか、どこかで打ち明けるのか
どうなるのかは、今はまだわからない。
「・・・なるようになるだろ。あんま悩ないでいこう」
少なくとも、親しげにしている二人を見ている限り
悪いようにはならない、そんな予感がしている俺だった。
廊下を歩きながら、桜井流オリエンテーションを始める。
「基本的な施設はオリエンテーションで教わるから、今日はそれ以外な」
「・・・それ以外?」
興味津々な顔が二つ並んで俺を見つめる。
「ああ。学校側じゃ教えてくれないようなこととか、な」
「そうねー。上手く立ち回るには、コツみたいなものがあるからね」
葉月がフォローしてくれたように、いろいろあるのだが・・・
由真を見てため息をつく。
「・・・お前はそういうの苦手だからなぁ」
「なによぅ」
葉月もため息をつく。
「あー、ウチの由良も同じ。おっとりしてるっていうかトロイっていうか・・・」
「なによぅ」
反応まで同じだった。
ふくれる二人を無視して話を続ける。
「まずは、学校生活の基本から行くか」
「ここが、学食だ」
「・・・アンタの学校生活の基本は、まず学食から始まるわけ?」
どこからかツッコミが聞こえるが無視。
「結構広いようだが、実は生徒数に対して、席が全然足りないのだ」
由良ちゃん・・・だと思う・・・が質問してくる。
「え・・・じゃ、座れない人はどうするの?」
「いい質問だね。まあ、弁当持ってきて教室とかで食う奴も結構いるんで、実はそうは困らない」
「お天気のいい日は中庭で食べたりね」
「ふーん・・・ピクニックみたいだね」
さっきと違うほうだから、由真だと思う・・・が目を輝かせている。
「ただし、逆に天気が悪いと、そういう中庭組もこっちにくるから大変だ」
「雨の日は気合い入れるか、お弁当にしとくか、どっちかね」
ニヤリと笑って由真を見る。
「・・・お前はトロイから、雨の日は弁当にしたほうがいいかもな」
「あの・・・私、由良です・・・」
「ぐは・・・ごめん、間違えた・・・」
「後、その奥が購買部の売店で、昼時にはパンとか売ってる。すぐ売り切れるけどな」
「コロッケパンとかカツサンドみたいな、おかずパンが人気ね」
売店でどんな物を売っているか、説明のために思い出していて、ふと一つのアイデアが沸いてくる。
「そうだ・・・ちょっとそこで待ってて」
「?何か買ってくれるのー?」
問いかけには答えず売店に入る。目的の物は・・・あった。
「ほい、二人とも、これ」
「え、なに・・・名札?」
「ん。見分け付かないと、いろいろ困るから」
「んー・・・もうちょっと可愛いもので見分けられるようにしてよぅ」
「とりあえずだ、とりあえず。ほら、名前書いて・・・」
二人とも若干不満そうだったが、名前を書いた名札を付けた。
「由真」と「由良」。名前を付けたのは、生みの親なんだろう。
双子らしい、揃えた名前が、一度は離ればなれになって、また巡り会う。
これも運命ってやつか。
並んでいる二人を見て、ふとそんなことを考えていた。
「ま、これで一通り説明が終わったかな」
「ん・・・ま、こんなもんでしょ」
小一時間かけて校内を巡り、そろそろ帰ろうかということになった。
「じゃ、これで解散な」
「はい。あの・・・」
由良ちゃんのほうが、何かもじもじしながら俺を見ている。
「・・・なに?」
「今日はありがとうございました」
そう言って、ぺこ、と頭を下げる。
由真もつられたように、葉月に頭を下げ
「ありがとうございました」
「あー、いや・・・その、たいしたことじゃないから」
「そうそう。たいしたことじゃないわよ」
何か照れくさい。見れば葉月も苦笑いを浮かべていた。
「さて、帰るか」
「そうね。じゃ、また明日ね」
大場姉妹と途中まで一緒に帰る。家は結構近いようだ。
分かれて少ししてから、ちょこちょこと俺の後をついてきていた由真が
突然、はーっと大きく息をついた。
「あー・・・驚いたぁ・・・」
「何が」
「何がって!あんなそっくりなんだよ!?お兄ちゃん驚かなかったの!?」
「ああ、由良ちゃんな。まあ最初は俺も驚いたけど・・・今頃驚いてなくたっていいだろ」
「だって、あの場で驚いてたら何か由良ちゃんに悪いじゃない」
そんなもんか。
「不思議だよねー。全然知らない人で、あんなそっくりな人がいるなんて・・・」
・・・今まで全然知らなかっただけで、他人じゃないっていうか、実は双子だし。
まあその辺は今晩にでも親父に確かめておくことにしよう。
「ところで・・・」
由真が探るような上目遣いで俺の顔をのぞき込む。
「何だよ。まだなんかあるのか?」
「・・・葉月さんって、お兄ちゃんの彼女?」
「はあぁ!?な・・・何言ってんだお前」
「だって、なんか仲良さそうだったし」
「いや、今年から同じクラスになっただけだって」
「ホントォ〜?その割には、二人とも名前で呼び合ってたり・・・」
「う・・・」
お互い、全くの他人じゃないとわかったのもあったが
なんとなく手を握り合ったときから
ずっと前からの知り合いだったような、そんな接し方になってはいた。
「いや、まあ・・・なんて言うか、誰にでもああいう態度なんだよ、あの子は」
たぶん・・・そうなんだろう。よく知らないが。
「ふ〜ん?・・・お兄ちゃんにも、やっと春が来たかと思ったのになー。残念」
残念、と言ってるわりにはやけに嬉しそうだし。
「でも、なんでお兄ちゃん彼女出来ないんだろうねー?けっこうイケテルと思うんだけど」
「ああ、そうですかアリガトウよ、心配してくれて」
別に彼女とか、欲しくなかったわけじゃない。
ただ、それほど切実に欲しいと思ってもいなかった。
「まあ、お兄ちゃんに彼女ができるまでは、私がいるから安心していいよっ」
「・・・お前がいると、なんで安心なんだよ」
「だって・・・こうすれば、彼女みたいでしょ?」
そう言うが早いか、ぴょん、と俺の腕にしがみつく。
「ばか、離れろって」
いつも甘えてばかりだけど、こうまで積極的ではなかったと思ったが・・・
「照れない照れない」
「照れるか、バカたれ」
だが、意識しないようにしても
由真の柔らかな胸の感触が腕に伝わってきて
正直、かなりどぎまぎしている。
いつのまにこんなに育ったんだコイツ・・・
振りほどこうかとも思ったが、結局そのままで家まで帰った。
面倒だし、また駄々をこねられでもしたら厄介だからであって
別に、気持ちよかったからとかそういうことではない。決して。
・・・ホントウですよ?
「おかわりっ」
「あらあら・・・今日は由真はたくさん食べるのねぇ」
ニコニコしながらお袋が由真の茶碗に飯をよそる。
「・・・お前、もう3杯目だぞ」
夕食。いつもあまり食べない由真が、珍しく旺盛な食欲を見せていた。
「んー・・・なんか今日はお腹空いて」
「太るぞ」
「イー、だ。まだ育ち盛りだから太らないもん」
「どうだか」
ふと、急に今より背が伸びてゴツクなった由真が脳裏に浮かぶ。
「・・・ぷっ」
「・・・今何か失礼な想像をしたね?」
「いや、別に。さあ、遠慮なく食べたまえ」
「うー・・・何か引っかかる」
しかし、箸が止まることはなかった。
・・・ホントにゴツクなったりしねえだろうな。
夕食がすみ、風呂にはいると
すぐに「もう眠い」と言って由真は部屋に引っ込んでしまった。
好都合だ。親父とお袋に、由真と由良ちゃんのことを確かめておこう。
「親父・・・ちょっといい?」
俺は、学校で出会った姉妹のことを話した。
話し終えたとき、親父もお袋も少し青ざめていた。
「そうか・・・由真に打ち明けるまでは、出会わないようにしてたんだが・・・」
「大場さんってF県にいると思ってたわ・・・こっちに引っ越してたのね」
「ウチも引っ越してるしなぁ・・・」
ここに俺達が引っ越してきたのは、俺が中3に上がってすぐだった。
大場さんのところがいつここに越してきたのかまではわからない。
「たまたま、同じところに引っ越してきちゃったのか・・・」
「隠しておきたいんなら、連絡ぐらいとりあえよ」
「直接は連絡しないようにしてたんだよ。弁護士を通してたんだが・・・」
頭を抱える親父。やれやれだな。
「まあ、もう出会っちゃったんだし、今更言ってもしょうがないけど・・・どうすんだ?」
「うーん・・・俺としては、由真が高校を卒業するときにでも話そうかと思ってたんだが」
ぼやくように親父がつぶやく。
「それまで、隠しておけるかな・・・絶対、由良ちゃんと自分には何か関係が?って思うぜ?」
「・・・そんなに似てるか」
「クリソツ。俺、見分けられなかったし」
「とりあえず、大場さんとこれからどうするか話し合わないとならんな・・・」
まあ、そうだろうな。こっちの都合だけで決められないだろうし。
「それで・・・話がつくまでだが・・・達也」
「ん?」
「お前と・・・なんてったっけ、その大場さんとこのお姉ちゃん」
「葉月?」
「ああ、そう・・・葉月ちゃんと二人でフォローしてだな、このこと隠しておいてくれんか」
「そりゃいいけど・・・どこまでできるか、わかんないぜ」
一緒にいられるのも後1年。その1年だって、四六時中一緒にいられるわけじゃない。
「もちろん、できる範囲内でいい・・・由真のためだ、頼む」
・・・由真のため、なんて言われたら断れるわけがなかった。
引き受けはしたものの
男の俺一人ではどうにもならないことだってあるだろう。
同じ女の子の、葉月の助けは、どうしたって必要だ。
「・・・と、いうようなことになってさ。協力してもらいたいわけ」
翌日、学校に着くと朝イチで葉月を捕まえ、事情を話して協力を要請する。
「・・・ウチと同じような展開になってたのねー」
「同じ展開?」
「そ。私も父さんに、達也と協力して由良にバレないようにしてくれって頼まれたわ」
「・・・なんだかなー」
「・・・なんだかねー」
二人で朝っぱらからため息をついてしまう。
だが、愚痴をこぼしていても仕方がない。今後の基本方針でも話し合おう。
「で、基本的に・・・あまり二人が会わないようにしたほうがいいと思うんだが」
これなら、そう難しくない・・・と思う。
だが、葉月は顔を曇らせて首を横に振った。
「それ、もう遅いわ」
「遅いって・・・なんで?」
「もうあの二人、かなり仲良くなってるもの。夜とかメール交換とかしてたわよ」
げ。いつの間に。
「むしろ、なるべく私たちの目の届くところにいさせたほうがいいんじゃないかしら」
言いたいことはわからなくもない。
そばにいて、変な噂が耳に入ったり、話題が妙な方向に行かないように気を配る。
それはいいんだが・・・
「・・・大変だぞ。学年違うんだから」
「だから・・・なるべく、よ。で、お昼だけど、どうするの?」
「は?昼?どうするって?」
「お昼ご飯。私たち、中庭でとるけど。一緒の方がいいでしょ?」
想像してみる。
中庭の芝生の上で、由真と由良ちゃんと葉月に囲まれて飯を食う俺・・・
「んな恥ずかしいことできるか!」
「恥ずかしいって・・・我慢しなさい。だいたい、美少女三人に囲まれて、夢のようなお昼じゃない」
「・・・勘弁してくれ」
(Seena◆Rion/soCysさん 作)