「Double Bind」 2

痛い。
視線が、痛い。
ありふれた男子高校生(俺)が
美少女(含む自称)三人を引き連れて、中庭を目指して校内を歩けば
好奇やら嫉妬やらの視線を向けられるのは当たり前だった。
「ん〜、いい天気」
そんな視線にはまるで気づかないのか、中庭につくと葉月が脳天気に伸びをする。
「でも、ちょっと風が強いね」「だよね−」
「ここは校舎を挟んでグラウンドの反対側だから、多少風が強くても砂埃とか来ないのよ」
「へぇー」「そうなんだー」
キャイキャイとにぎやかな女性陣を後ろに引き連れ、開いた場所を探してトボトボと歩いていく。
「・・・なに、達也?元気ないわね?」
話しかけるなよぅ。
やがて、中庭の芝生に適当に空いたところを見つけ
「ここらでいいか」
腰を下ろしかけたときだった。

「お兄ちゃん・・・」「達也さん・・・」
由真と由良ちゃんが、立ったまま俺を見ている。
・・・なぜか不安そうな顔で。
「ああ、ここは芝生入ってもいいことになってるから」
「ううん・・・」「そうじゃなくて・・・」
そう言うと、二人揃って辺りをキョロキョロと見回し始め
「こっちに・・・」「こっちにしましょう」
やはり揃って、俺に手を差し出す。
・・・なんでか知らないが、俺も差し出された手を取って立ち上がり
二人が指し示した方へ歩き始めた。

ドスン!
背後で、何か重たい物音がした。
振り返って、俺は青ざめる。
立った今まで俺が座っていた場所に
どこから飛んできたのか、でかい看板が突き刺さっていた。

「うっわ!あっぶなー!」
葉月がビビって叫ぶ。俺の心臓もドキドキだ。
確かに、あのままあそこに座っていたら、ただじゃすまなかっただろう。
「・・・た・・・助かった・・・ありがとな、由真、由良ちゃん」
「ううん」「どういたしまして」
驚きが収まると、今度は怒りが収まらない。
「しかし・・・危ないなぁ・・・人に当たってたら、大問題だぞコレ」
看板出してるところに電話で文句でも言ってやろうかと思ったが
怪しげなテレクラの看板だったのでやめておく。
「だけど・・・看板飛んでくるの、見えてたの?」
「あ・・・」「えっと・・・」
葉月の問いかけに、二人が顔を見合わせて
「なんとなく・・・」「そこは、イヤな感じがして・・・」
自信なさそうに答える。
「へー・・・ま、おかげで助かったんだからいいけど。さ、メシだメシ」
そして、その場はそれで終わった。

放課後。
帰り支度をする俺に葉月が近寄ってくる。
「ね、ちょっといい?」
「・・・まさか、一緒に帰ろうとか言い出すんじゃあるまいな」
「それはもちろんなんだけど・・・」
勿論ですか。協議の余地なしですか。
俺の体面はどうでもいいんですね?
「お昼の時のことなんだけど・・・由真ちゃんって、勘のいい方?」
問われて、今までの由真を思い出す。
そして即答。
「いや、全然。むしろニブイほうかな」
「・・・そうよね。ウチの由良もそうだし」
「だからなんだよ?」
「いや・・・それにしちゃ、昼間はずいぶん勘がよかったな、と思って」
「まあ、一生に一度ぐらいはああいうこともあるんじゃないか?」
風で看板が飛んでくるなんて、一生に一度で十分だしな。

まじめな顔で葉月が声を潜める。
「双子ってさ・・・二人揃うと、何かあるんじゃないかしら」
何だそりゃ。
「今まで離ればなれで、出会うこともなかった双子が出会ったのよ?何かありそうじゃない?」
考えすぎだろ、と言おうとして、ふと思い出す。
「昨日の夜さ、由良ちゃん・・・いつもよりたくさん食べなかった?」
葉月がキョトンとした顔になる。
「へ?・・・ええ、ずいぶん・・・食べてたけど・・・」
「で、食べて風呂に入ったらすぐに眠くなって寝た?」
「そう、だけど・・・由真ちゃんも?」
やっぱり、か。見事なシンクロっぷりだ。
葉月の、何かあるんじゃないかという疑念も無理もないかもしれない。
その「何か」いったいなんなのかは、まるで見当も付かないが。
「・・・二人が待ってる。行こう」
「うん・・・」
ひっかかるものを感じながら、俺達は校門へと向かった。

校門では、もう二人が待っていた。
何か二人で話し込んでいたが、俺達に気づいて小さく手を振る。
「よ。お待たせ」
「何話してたの?」
「帰り道のこと」「どこか面白い寄り道とかないかな、って」
「おう、そういうのは得意科目だぞ」
「いや、それ授業じゃないから」
胸を張る俺に葉月がツッコミ、それを見て二人がクスクスと笑う。
「あ、こら、俺のこの辺りの土地勘を信用してねえな?無駄に3年間帰宅部やってないぞ?」
「信用してるよぅ」「頼りにしてます、達也さん」
「よっしゃ、任せとけ」
・・・とは言ったものの、俺の寄り道コースが果たして女の子に受けるのか。
ゲーセン。お好み焼き屋。本屋(H本が充実)・・・
「・・・と、思ったが、今日のところは葉月のお手並みでも見せてもらおうかなっ」
「え、アタシ?なんで?」
・・・後で色々調べるとして、今日のところは葉月に頼もう。

こうして、葉月に連れられて、いろいろなところを回る。
妹二人組にはすこぶる好評。
だが・・・
「・・・お兄ちゃん」「・・・つまらないですか?」
当然俺には大不評。
だって!ファンシーショップとかケーキ屋とか!そんなんばっかじゃん!
「いいのよ、これは放っておいて」
「これ、ってなんだこれって!」
くそぅ、こんなことならやっぱ俺が先導するべきだったぜ。
「だいたい、お前にはこんな少女趣味似合わねーよ!」
ビシ!葉月を指さし鋭く指摘。
「 な ん で す っ て ? 」
「ウソですゴメンナサイ葉月は少女趣味似合います」
よわっ!俺よわっ!
「まあまあ、お姉ちゃんその辺で」「今度は、お兄ちゃんの行きたいところ行こうか?」
うう、いい子だよこの子らは・・・

ブラブラしながら馴染みのゲーセンに足を運ぶ。
いつもだと、2、3人は見知った顔がたむろしてるんだが、今日は幸い誰もいない。
よかった・・・女連れで来たりしたら後で何言われるかわかったもんじゃねえ。
「へー・・・」「こんなトコ来るんだー」
妹二人は物珍しそうにキョロキョロしている。
「ま、たまにな。お前ら、ゲーセン初めて?」
「うん」「初めてですー」
「そっか・・・じゃあ、まず落ち物あたりからやるか」
落ち物なら、由真は家のゲーム機でも遊んでるからそんなに違和感ないだろう。
思いっきり下手くそだが。
落ち物の筐体が並ぶ一角に行き、対戦形式の台を選ぶ。
「よし、じゃそっち由真な」
「オッケー。今日は負けないよー」
いつもそう言って、由真は俺に勝った試しがない。
「お姉ちゃん、私たちもやろ」
「よーし、じゃ、勝ち抜き戦ね」

どうにも結果の見えた勝負だと思っていた。
そして、決着はあっさりついた。
「イエー!」
「ば・・・馬鹿なぁっ!?」
お・・・俺が由真にゲームで負けた!?どうなってんだ!?
隣を見れば
「あっ、イヤッ、ダメ、あ、あ、ああん、や、ダメ、あっあっあっあぁーっ!」
葉月が悶えている。
声だけ聞いている分にはちょっとH臭いが
コントローラーを握りしめて、画面を見つめながらなのでむしろ不気味だった。
「イエー!」
どうやら・・・こちらも妹のほうが勝ったらしい。
「・・・負けたのか」「・・・そっちも?」
肩を落とす年長組を尻目に、妹コンビは絶好調である。
「よーし、決勝戦!」「負けないよー!」
妹二人が並んで対戦を始めた。

今度は、なかなか決着が付かない。まさに一進一退。
ゲームレベルはどんどん上がり、俺には未知の世界が始まる。
「そう言えば・・・勝者にはどんなご褒美があるのかしら?」
見飽きたのか、葉月が変なことを言い出した。
「ご褒美?・・・そうだな、じゃあ勝者には俺の熱い口づけを・・・」
そう言ったとたん
「あ、ヤバ!」「スキあり!」
一気に流れが由真のほうに傾く。
由良ちゃんも必死に抵抗するが、一度押され始めるともう元に戻すのは難しい。
「イエー!」「あうー・・・」
「あらあら・・・達也が変なこと言うから怖がって由良が負けちゃった」
・・・悪かったな。
「ヒドイですよ、達也さん・・・あんなこと言われたら・・・その・・・意識しちゃって・・・」
由良ちゃんは、そう言って顔を赤らめた。
ご褒美が俺のキスと聞いて、動揺した差か。
・・・あれ?俺がキスするのを意識しちゃうって・・・あれ?どういうことだ?

「あ、もうこんな時間。そろそろ帰る?」
悩む俺を無視して、腕時計を見た葉月が切り出す。
「ん・・・そだな。じゃ、今日はこの辺でお開き」
「はーい」「はーい」
ゲーセンを出ると、もう日は暮れかけていて
俺達はちょっと慌てて家路をたどった。
大場姉妹と分かれて、また由真と二人。
「そういえば・・・もらってない。ご褒美」
ピタ、と由真が立ち止まって、変なことを口走る。
「・・・はぁ?」
「ゲームの勝者には・・・ご褒美があるんじゃなかった?」
ああ、覚えてましたか・・・って、おい。
「いや、お前・・・ご褒美は俺の熱い口づけですよ?」
「・・・くれるの?・・・くれないの?」
由真が怒ったような顔で、俺を睨んでいた。
「いや、あの・・・欲しいんですか?」

「欲しいとか欲しくないじゃなくて!」
大声を出したかと思えば、今度は急にしおらしくなる。
「・・・もし、由良ちゃんが勝ってたら・・・由良ちゃんにキスした?」
・・・もし
あの場で由良ちゃんにキスしようとしたら
多分、葉月に殺される。
「するわけないだろ・・・冗談だよ、あれは」
「そう・・・じゃあ・・・私もいいや」
「そうか?いやぁ、助かる・・・」
冗談を返そうとして、口ごもる。
由真の眼は、真剣だった。
「でもね・・・女の子に、ああいう冗談は・・・やめてほしいな」
「・・・そうか。スマン」
謝るべきときは、相手が誰であれちゃんと謝る。俺のモットーだ。
由真も、またニコッと笑い、歩き出した。
「じゃ、帰ろ!一つ貸しだからね、お兄ちゃん!」

家に帰って、自分の部屋に戻ると
着替えもせずにベッドに倒れ込む。
脳裏に浮かぶのは、今日の出来事。
飛んできた看板を、二人の妹のおかげで避けられたこと。
ゲームセンターでの勝負のこと。
少なくとも由真は、勘の良さや反射神経とは縁遠いヤツだった。
葉月が言うように、由真と由良ちゃんに何かが起きているのだろうか?
離れて暮らしていた双子が出会ったことで
何か不思議な刺激が脳だかに加わって
今までにない能力を発揮し始めた?
・・・考え過ぎだろうか。
看板のことは、偶然かもしれないし
ゲームだって偶々調子のいいときだったのかもしれない。
まだ、判断するには早い。
とりあえず、もう少し様子を見た方がいいだろう。
・・・これからもこういうことが続けば別だけど。

「おはよー!」「おはようございまーす」
翌朝。通学路に響く元気のいい声。少し遅れて、ややおとなしめの声。
葉月と由良ちゃんだった。
まあ、確かに昨日打ち合わせた通りだが・・・
「おはよーございまーす」「・・・うぃーす」
正直、妹と一緒というだけでもかなり恥ずかしいのだが
これに葉月と由良ちゃんまで加わると
恥ずかしいのを通り越して、もうどうにでもして、みたいな感じだった。
これが1年間、毎日続くのか・・・
朝から暗澹とする俺だった。
「今日はお昼どうしよっかー?」
葉月が朝っぱらから昼飯の話を切り出す。
まあ、今打ち合わせておかないと、後はそうそう時間がないから仕方がない。
「弁当ないんだから、学食か購買のどっちかしか選択肢はないけどな」
「購買部で買うんだって、どこで食べるかは選べるじゃない」
そうだな・・・どこがいいかな?

「今日もお天気がいいから・・・」「また外で食べようよー」
二人が顔を見合わせ、うんうんと頷く。
「じゃ、また中庭か」
「そうねー・・・今日は屋上にしよっか?」
「あー、いいな屋上。上がるのめんどくさいけど」
A棟B棟に分かれた3階建ての校舎の、1階と2階が通常の教室で
3階が美術室などの特殊教室、当然その上は屋上なんだが
俺達のいるA棟の屋上には、施錠されていて上がることが出来ない。
B棟しか屋上には上がれないので、隣の棟まで移動しなければならないわけだ。
というようなことを二人に説明すると
葉月が思わぬことを口に出す。
「あ、こっちの屋上も入れるわよ」
「え、そうだっけ?」
「ま、ちょっと反則だけど、入り口の脇に小さい窓開いてるじゃん?あそこから入るのよ」
「お前があんな狭いとこ通れるの・・・イテッ!」
・・・口は災いの元だった。

というわけで昼休み。
まず購買部で思い思いにパンやらおにぎりを買い
普段上がらない3階から上への階段を上がっていく。
階段の突き当たりの扉は鎖と南京錠で閉ざされていたが
すぐ横の地面スレスレにある小窓は・・・開いていた。
「じゃ、俺からな」
手でパッパッとほこりを払うと、這いつくばって潜り抜ける。
少々キツイが、それほど苦労もなく屋上へ出た。
続いて由真が潜り、由良ちゃんが通り抜け、葉月が・・・つかえた。
「あ、あれっ?」
「・・・あれ、じゃねえよ。やっぱり通れないじゃねえか」
「いや、去年は・・・んっ、しょ、っとっ!通れた、のっ、よっ!」
由良ちゃんがポンと手を叩いて
「お姉ちゃん、また胸が大きくなったって言って・・・」
「由良っ!余計なこと言わないでいいのっ!」
・・・まあ・・・確かに・・・デカイもんな、こいつ。

「まったく・・・無駄に育ちやがって」
「無駄とはなによ無駄とはっ!」
葉月が凄むが、窓枠に引っかかってもがいている状態では怖くない。
「無駄だろう。育ったところで誰も使いもしないし、今みたいに邪魔になるんじゃな」
「う〜ぬ〜れ〜!」
ぎゅ・・ぎゅう・・ぎゅぎゅ・・・
・・・お?
心なしか、少しずつ葉月が抜け出しそうに・・・
「お姉ちゃん、、頑張って」「もうちょっとですよ!」
妹二人が応援する。応援するなら手伝えばいいのにと思うが、黙っておく。
やがて、つかえていた胸が通り抜け、ズルズルと葉月が窓枠から出てくる。
ゆっくりと立ち上がる。薄笑いを浮かべながら。
「ふ・・ふふふ・・・ふふふふふふ・・・」
こええ。由良ちゃんが耳打ちしてくる。
(達也さん、お姉ちゃんは胸のこと冷やかすとすごく怒るんです)
・・・遅ぇよ。

立ち上がった葉月は烈火のごとく怒りだすのかと思いきや
「さ、食べましょ」
何事もなかったかのように、フェンスの台に腰掛けると
自分の分のパンを袋から出して食べ始めた。
ちょっと拍子抜け。
だが、相変わらず由良ちゃんはオタオタしていて・・・何故か、由真が怒っていた。
由真が寄ってきて、耳打ちする。
(お兄ちゃん。ちゃんと葉月さんに謝って)
(・・・へ?・・・別に怒ってないみたいだぞ?)
(怒ってないっていうか・・・すごく悲しんでるよ)
悲しんでるようにも見えないが。
「どしたの?早く食べないと、昼休み終わっちゃうわよ」
「ああ、うん・・・えーと・・・」
まあ、謝ったほうがいいのはわかるが・・・由真や由良ちゃんの前じゃ照れくさい。
「あ、私たちアッチの方で食べよう」「うん、そだね」
・・・察したのか、二人が離れていき、俺と葉月が残された。

葉月が座ったところに少し離れて、俺も腰を下ろす。
「あー・・・その、なんだ・・・」
「・・・いいわよ、もう」
ぷい、と葉月が顔を背ける。
とたんに、すごい罪悪感に襲われる。
「悪かった。すまない。その・・・そんなに気にしてるとは知らなかった。ゴメン」
「・・・気にしてたわけじゃないわ。実際、邪魔なだけで使い道ないもんね」
「・・・頼む。こっち向いてくれ」
少しだけ、葉月がこちらに顔を向ける。
「でも・・・ちょっとは、自信あったのよ」
「いや、すごく自信持っていいと思うぞ・・・その・・・男にすれば、魅力的だし」
ちょっとだけ、葉月が笑う。
「そう?でも使い道ないんじゃなかったの?」
「いや、使っていいなら俺はぜひ使いたいぞ」
「・・・バァカ」
また、葉月が笑った。バカ、と言いながら、嬉しそうに。俺も釣られて、笑った。

ちょっと離れていた由真と由良ちゃんが
いつの間にか近づいてきていた。
二人とも、安心したように微笑んでいる。
・・・仲直りできたのがわかったのだろうか。
「あ、二人とも、達也にはあんまり近寄らない方がいいわよ」
「・・・は?」
「言うに事欠いて、アタシの胸を変なことに使いたいなんて言いだすんだから」
「うわ、お兄ちゃん・・・H」「・・・(ぽっ)」
「待て!俺はそんなこと・・・!」
「・・・言ったわよね?」
むう。そういえば言ったかもしれん。ていうか、言ったな。
「ええい、だったら使わせろやゴルァ!」
「そんな簡単に使わせるわけないでしょ!」
「じゃ、難しく使わせろ!」
「どんな使い方よ!」
クスクス笑う妹二人の前で、俺達は昼飯を食うのも忘れて漫才をしていた。

放課後。
帰り道、また由真と二人になってから
「今日は・・・ありがとな」
「ん?」
「昼休みさ。葉月のこと」
「ああ、うん・・・仲直りできて、よかったね」
「うん、まあ、そうだな・・・しかし、このところ由真に謝ったり感謝してばっかだな」
「別にいいよ・・・兄妹なんだもん」
そう言ってくれると少しは気が楽だ。
「けど、よく葉月の気持ちがわかったな。俺には全然わかんなかったけど」
あのときの葉月は、何の感情も表に出していなかった・・・ように見えた。
「うーん・・・・わかるんだよ。なんとなくだけどね」
「やっぱり女同士だからってことなのかな」
「そうじゃなくて・・・なんて言ったらいいのかなー」
しばらく、言葉を探して悩んだ後、由真がとんでもないことを言い出した。
「たぶん、私、テレパシーがあるんだよ」

「・・・はあ?テレパシーって・・・電波?」
いきなり俺の妹がアブナイ人に。
「違う〜!・・・ほら、超能力?みたいな?」
みたいな?じゃねえよ・・・
「だったら、今俺が何を考えているか当ててみろ」
「今はできないよ」
「なんでよ」
「由良ちゃんがそばにいないと、わからないみたい」
・・・ちょっとまじめに聞いた方がいいかもしれない。
「由良ちゃんのほうは・・・やっぱりテレパシーがあるのか」
「うん。だから・・・お互い何を考えてるか、わりとハッキリわかっちゃうの」
まずいな。そんな関係までできちゃったら
自分たちが双子なんじゃないかって考えるかも。
「気のせいじゃないのか?」
「そんなことないよー。でも、全然他人なのに、こういうのって不思議だよね」
・・・肝心なところではニブイままだった。そのほうが都合いいけど。

・・・待てよ。二人揃ってるときに二人の間にテレパシーが働くのはいいとして
なんで近くにいる葉月の考えてることまでわかるんだ。
ていうか、二人揃ってるときには俺と葉月もだいたいそばにいるわけで・・・
それがわかっちゃったらヤバイじゃん。いろいろ。
「なあ、そのテレパシーって、なんで周りの人間にも効くんだ?」
「さあ?ただね、由良ちゃん以外の人の考えてることは、そんなにハッキリわかんないの」
「そうなのか?」
「うん・・・感情が読みとれるって程度かな」
「そうか・・・」
ちょっと安心・・・か?
「あ、でも今お兄ちゃんが考えてることはわかるよ」
「・・・二人揃ってないとダメなんじゃなかったのか?」
「お兄ちゃんは、特別♪えっとね、お兄ちゃんは今・・・」
ギク。いや、わかっちゃ困るようなことは考えてないが。
「お腹が空いて、何か食べたいと思ってるね?」
「・・・それはお前の頭の中だ」

途中で鯛焼きを買い、二人で頬張りながらまた帰り道へ。
「ふぉうふぁ、ふぁっひっふぉふぉふぁふぇふぉ」
「・・・頬張ったまま喋るのはよせ」
ちょっとの間んぐんぐした後、由真がふう、と息をつく。
「お茶も買えばよかったねー」
「・・・そんなことが言いたかったのか」
「あ、そうじゃなくて・・・さっきのことなんだけど」
「さっきのこと?・・・テレパシーがどうたらってやつか?」
「うん。葉月さんには・・・言わないほうがいいと思う」
「・・・なんでだ?」
葉月とは由真と由良ちゃんが双子であることを隠しておくために
協力し合う関係だ。
その葉月に、また別の隠し事を持つのは厄介な気がする。
「んー・・・葉月さんって、こういうの怖がりそうだから・・・嫌われたくないし」
ああ、なんとなくわかる。強がるくせにお化け怖いとかだろうな。
「わかった。お前も、あんまり気づかれるようなことは言うなよ」

ベッドに寝ころんで、眠る前に考えてみる。
葉月の言ったように、どうも由真と由良ちゃんの間には特別な何かがあるようだ。
能力の向上。テレパシー。
ひょっとすると、このところよく食べるのも、その何かが影響しているのかもしれない。
さて、どうしたもんか。
今まで通り、俺と葉月がそばについていることで
ごまかし続けることができるのか。
二人がその関係に疑問を持ったとき、それにどう答えてやればいいのか。
世の中には、自分とそっくりの人間が3人いるとかいう話があった・・・
いや、なんかコレ嘘くせぇな。
ドッペルゲンガー・・・
いや、これは怪物だった。
隔世遺伝・・・
いや・・・血の繋がりを連想させるのはマズイ。
他に何か・・・
うまい手は・・・・ないもんかな・・・

(3に続く)

(Seena◆Rion/soCysさん 作)

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