女の子達が尻込みする。
確かに、古くて使われていない建物を探検するのに
単独行動はマズイかもしれないな。
「じゃあ二人一組にしようか?」
「そうね・・・じゃ、アタシと由良で・・・」
「俺は由真とだな」
当然のように兄妹、姉妹コンビに別れる。
なんだかんだ言っても、結局一緒に暮らしてきた気安さが由真にはある。
それがいざというときには役立つ・・・かもしんない。
まあそんな俺の思惑を知る由もない由真が
はしゃぎながら俺の手を取る。
「行こっ♪どっこにあっるのっか音楽室はっ♪」
さっきまで怖そうだったくせに、何がそんなに楽しいのか。
「はいはい・・・じゃ、俺たち校舎のこっち側探してみるわ」
「ん・・・じゃ、アタシと由良はこっちね」
こうして、俺たちは二手に分かれて行動を開始した。
ちょっと気になることがあったので聞いておくことにする。
「由真たちのテレパシーってさ、どれくらいの距離まで有効なんだ?」
「え?んー・・・計ったわけじゃないから、わかんないなぁ」
「今はどうなんだ?」
「・・・もう、届かないね」
距離にして・・・まだ20mもないはずだ。そう遠くまで有効じゃないらしい。
「周りの人間も、それぐらいってことか」
「かもね・・・あとね、その人に集中しないと、わかんないよ」
「・・・なるほど」
周囲の思考が全部頭の中に流れてきたら大変だ。
逆に言えば、読まれたくなかったら注意を逸らせばいいわけだ。
・・・逆に怪しまれるかもしれないが。
「・・・ところで・・・私もお兄ちゃんに聞きたいことがあるんだけどな」
また・・・由真の眼が好奇心でキラキラしている。
「・・・なんだよ」
「葉月さんと、由良ちゃんと・・・どっちが好きなの?」
何もない廊下で、思わずコケそうになる。
「な・・・突然何を言い出すかなお前はっ!」
「フッフッフ・・・隠しても無駄なのはわかってるよね?」
う・・・テレパシーか・・・っていうか・・・
自分でも気づいてないけど、俺、あの二人のどっちかが好き・・・なのか?
「・・・待て。テレパシーでわかってるんなら・・・なんで、どっちが、なんて聞くんだ?」
「それがねー・・・お兄ちゃんの気持ちは読みにくいんだよねー」
それは俺自身の気持ちが定まっていないということか・・?
「ま、お兄ちゃんに限らず、男の人はわかりにくいのよ」
そんなもんか。俺も女の子はよくわかんないしな。
「で、どうなの?」
相変わらず眼をキラキラさせた由真が迫る。
・・・ピンチだ、俺。
「う・・・どう、って言われても・・・俺自身、よくわかんねえよ」
「ハッキリしないなぁ。あーんなに好き好き光線出してるのに」
好き好き光線って・・・そんなもの出してるのか俺は・・・
「あー・・・その、なんだ・・・あっちは、俺のこと、どう思ってるのかな?」
「それは私の口からは言えないよー。自分で確かめなきゃ」
むう。それは確かにそうなんだが。
ちょっと考えてみる。
葉月は・・・いいヤツだ。結構気が合うし、一緒にいても楽しいし・・・
スタイルもよくて・・・正直、ムラムラっときたこともないわけじゃない。
ちょっと気が強くて乱暴だけど。
由良ちゃんもいい子だ。素直で大人しくて、なんて言うか・・・守ってあげたくなる。
プロポーションだって・・・悪くはない。と思う。由真と同じなんだろうから。
そう、由真と同じ・・・
そこでふと頭にある疑問が湧く。
4人でいるわけだから、その中には由真も含まれてるわけだよな?
そして、よく考えもせずにその疑問を口に出してしまう。
「その好きな人って、由真の可能性もあるんじゃないのか?」
「・・・え」
そして、二人は凍り付いた。
しまった。言ってはならんことを。
「バ・・・バッカじゃないの!?あ、あた、きょ、兄妹なんだよっ!?」
そうだ。俺達は兄妹として暮らしてきた。
だけど、俺は知っている。由真が、本当は妹じゃないことを。
従姉妹で。血は繋がっているけれど。妹じゃなくて。
「きょ、兄妹はけ、結婚とか!できないんだし・・・こ、恋人だって!ダメなんだよっ!?」
できるんだよ、由真。
恋人にだってなれるし、結婚だってできるんだよ。
「バカなこと言ってないで、早くどっちか決めちゃったらいいのよ!」
「・・・何怒ってるんだよ」
「怒ってないわよ!まったく、もう!」
3人・・・そう、3人の中の誰かを、俺は好き・・・らしい。
もしそれが由真で、その気持ちを正直に伝えたら
今みたいに、怒るだろうか。それとも・・・受け入れてくれるのだろうか。
・・・まあ、今はそれどころじゃないか。
葉月たちと合流したとき、どんな顔で会えばいいのか、途方に暮れる俺だった。
「とにかく、ようやっと彼女ができるチャンスなんだからね?しっかりしてよ?」
「うへ〜い」
「頼りないなぁ・・・」
頼りないと言うわりに、何か嬉しそうな由真と2階の廊下へ。
「ん〜・・・どこかな、音楽室」
そういえば音楽室を探しているんだった。
「普通、はじっこじゃねえの?」
たどり着いた廊下の端は・・・
「・・・化学室」
「はずれだね。どうしよ、2階の他の教室も見る?」
「いや・・・先に3階まで上がって端を調べよう。そのほうが確率高そうだ」
また階段を上がって3階へ。
廊下の端は・・・
「美術室かぁ・・・後は4階だけだね」
「でなきゃ葉月たちのほうってことだな」
そのとき、廊下の向こうから誰かがやってきた。
誰か、といっても他には葉月と由良ちゃんしかいない。
少し遠くから葉月が声をかけてくる。
「あ、いたいた。ね、見つかったー?」
「いやー?」
見つかったか聞いてくるということは、あっちも見つけられなかったわけか。
「これはどうも、4階が正解みたいだねー」
由真の言葉に、近づいた葉月が眉をひそめる。
「え、4階?こっちの階段は行き止まりだったわよ?」
「なんだ。じゃこっち側から上がるしかないのか」
「じゃ、ここで合流するしかないですねー」
由良ちゃんはどこか嬉しそうだ。
「そうなるかな。音楽室捜索は、引き分けってことだ」
葉月がおずおずとしながら
「えっと・・・4階、行くの?」
「一応、確かめるだけは確かめようぜ。でなきゃ無駄になっちゃうからな」
「・・・はう〜・・・」
(Seena◆Rion/soCysさん 作) /BODY>