女の子達が尻込みする。
確かに、古くて使われていない建物を探検するのに
単独行動はマズイかもしれないな。
「じゃあ二人一組にしようか?」
「そうね・・・じゃ、アタシと由良で・・・」
葉月が言いかけたところで、思いついた事を口走ってみる。
「あー・・・たまには違う組にしねえ?」
「・・・違う組?」
こういうとき、いつも由真とコンビだが
たまには相手を変えたほうが新鮮だ。何が新鮮なのかは自分でもよくわからんが。
しかし、別の組合わせっていうと・・・
俺の相手は葉月か由良ちゃんなわけだが
正直、葉月とはこのところ行動をともにすることが多いので
組んでもあまり新鮮味がなさそうだ。
と、なると・・・
「由良ちゃん、一緒に行こうか?」
一瞬キョトン、とした後、由良ちゃんがバネが弾けたように姿勢を正した。
「え?あ・・・は、はい!」
「いや、そんなかしこまらなくても」
葉月がじとーっと俺を見る。
「わかってると思うけど・・・由良に変なことしたら・・・」
「するかっ!」
由真は薄ら笑いを浮かべている。
・・・なんか、変な笑い方だな?
「じゃ、暗くなる前に探そうぜ」
この校舎はアルファベットの「L」の形になっているらしい。
今いるところが、ちょうど曲がり角の当たりだ。
さっき通り過ぎた校舎の端に階段があった。反対側の端も同じだろう。
「さて・・・俺たちはこっち行くかな」
俺が指さした反対側を葉月が見つめる。
「じゃあ、アタシたちはこっち、ね・・・行こうか、由真ちゃん」
こうして、俺たちは二手に分かれて行動することになった。
薄暗い1階の廊下を、ゆっくりと進んでいく。
古い板張りの廊下は、踏み出す度にギシ、ギシとかすかな音を立てる。
由良ちゃんは・・・最初俺の後をついてきていたが
今はすぐ隣を歩いている。
ちら、とその横顔を見る。
由真と同じ顔・・・のはずなのだが
その不安そうな表情に、何故かドキリとさせられる。
「そういえば・・・達也さん、私と由真ちゃんを間違えなくなりましたね」
「え、そう?」
「ええ・・・昨日から、一度も」
そう言って、微笑む。またドキリ。
「ま、慣れてきたのかな。似てるっていっても、所詮別人なんだから見分けられるよ」
そう口にはしたが、多分違う。
写真とかを見せられたのなら、今でもまるで見分けが付かないだろう。
違いがわかるのは、俺への接し方が違うからだ。
妹としての由真と・・・一人の、女の子としての由良ちゃんの違いだ。
由真にとっては、俺は兄貴だ。
肉親ならではの気安さがある。
だけど、由良ちゃんにとっては俺は赤の他人で・・・男の人なわけだ。
そして、その逆もまたしかりで
俺にとっては、由良ちゃんは・・・一人の、可愛らしい年下の女の子だった。
ああ、イカン、考えが変な方向に。
「・・・達也さん?」
「はいぃっ!?」
「わ、あ、あの・・・階段が・・・ありますけど」
言われてみれば、廊下の突き当たりの少し手前に確かに階段が。
「・・・上がってみよう」
「突き当たりは、調べなくてもいいんですか?」
「音楽室なんてのは、たいてい2階か3階ってのが相場じゃない?」
「あ・・・そういえばそうですね」
「じゃ、上に上がろう・・・由良ちゃん平気?怖くない?」
そう言って階段を上がり始める・・・が、由良ちゃんがついてこない。
「・・・由良ちゃん?」
「・・・どうして、私だけ、ちゃんづけなんですか?」
「・・・は?」
階段の下で・・・由良ちゃんは少し、むくれている。
「どうして、って・・・どういうこと?」
「由真ちゃんやお姉ちゃんは呼び捨てなのに、なんで私だけちゃんづけなんですか?」
ああ。そういうことか。
年下の女の子で、親しみを込めていたつもりだったけど
彼女からすれば、子供扱いされているような気分だったんだろう。
・・・難しいな、年頃の女の子って。
だが、配慮が足りなかったのも事実だし、ここは素直に謝っておく。
「ゴメン。深い意味はないんだ。別に、子供扱いしてたわけじゃない」
「・・・それは・・・わかってますけど・・・」
「それじゃ・・・何て呼んで欲しい?」
「・・・由良・・・って、呼んでください」
「わかった・・・じゃあ・・・おいで、由良」
ぱぁっ、と由良ちゃん・・・もとい、由良の表情が輝く。
少し顔を赤らめ、それでも嬉しそうに、満面の笑みをこぼす。
「はいっ♪」
たたっ、と階段を駆け上がってきて、俺の横に、並ぶ。
そして、ほんのちょっと躊躇してから
俺の腕に、腕をからめてきた。
あまりに突然だったので、ビックリして一瞬腕を引きかけてしまった。
その動きがわかったのか、由良が俺を見上げ、つぶやく。
「ダメ・・・ですか・・・?」
すぐには答えず、こちらのほうから、少し力を入れて由良を引き寄せた。
「ダメじゃないよ・・・ちょっと驚いただけ」
「・・・はい」
また、嬉しそうな顔。
「でも、葉月たちと合流するときには離れてな」
「・・・はぁい」
・・・ちょっと、残念そうな顔になった。結構、わかりやすいな、この子。
結局、2階でも音楽室は見つからなかった。
3階へ上がると、廊下の向こう側で人の気配がする。
由真と葉月だろう。
パッ、と由良が腕を解いて離れる。
・・・素早いな。
合流する前に耳打ちしておく。
(合流したら・・・またちゃんづけで呼んでもいいかな?)
いきなり呼び捨てにしてたら、葉月に勘ぐられるのは間違いない。
(・・・はい。でも、そのうち・・・ちゃんとしてくださいね?)
何をちゃんとするのかよくわからないが、了承を得たところで葉月たちに声をかける。
「お〜い・・・そっちはどうだった〜?」
「あ、お兄ちゃん、やっほー」「こっちはなかったわよー」
やってきた二人の話では、校舎の向こう側は3階で終わっていたらしい。
階段を見上げて、上の様子をうかがう。
「4階があるのは、校舎のこっち側だけか・・・」
「じゃ、ここからは4人一緒で捜索ね」
(5に続く) (Seena◆Rion/soCysさん 作)