「Doule BInd」 6

それから、一月ほどがすぎた。
3人は俺を巡って熾烈なライバル関係に・・・
なるのかと思いきや、全然そんなことはなかった。
それまでと変わらない、普通の毎日が過ぎていく。
変わったところと言えば、俺が「由良」と呼び捨てるようになり
由真が葉月のことを「葉月お姉ちゃん」と呼ぶようになったぐらいか。
ひょっとして肉体的に熱烈的な求愛行動とかあるのかと
密かに期待・・・じゃない、警戒していたのだが
むしろ3人は互いに譲り合うような姿勢さえ見せる。
葉月は、俺を由良とくっつけたがり
由良は、俺が由真と結ばれるようにし向け
由真は、俺は葉月とが一番いい、みたいなことを言う。
だけど、別に俺を避けているわけじゃない。
二人っきりになったりすると、嬉しそうな顔をしている。
なんとも奇妙な関係だが
こうなった原因は・・・なんとなく、わかっていた。

由真はまだ、自分が俺の本当の妹じゃないことを知らない。
だから、俺が由真を好きになっても、自分と俺では幸せにはなれないと思ってる。
かといって、自分とそっくりの由良が俺と結ばれるのもつらい。
だから、俺と葉月がくっつくように、自分は身を引いている。
由良は、そんな由真の気持ちを当然知っていて、どうしても遠慮してしまうし
葉月は、由良の気持ちに気づいて・・・姉として、妹のために身を引こうか悩んでいる。
そして、肝心の俺は未だに気持ちが定まらない。
上辺だけは、うまくいっているように見えても
実際にはかなり微妙なバランスの上に成り立っている関係だった。
・・・卒業までには、きちんとケリをつけなきゃと思っていた、そんなある日。
「ねえ、聞いた?」
授業の合間に、葉月が寄ってきていきなり聞いてくる。
「何を」
「・・・体育館の、裏」
「?・・・いや、知らない。体育館って・・・まさか、また旧校舎のか?」
「そ。出る・・・って、噂なのよ」

おいおい・・・勘弁してくれよ。
「・・・行かないからな」
「な・・・誰も行こうなんて言ってないじゃない・・・まだ」
まだ、ってなんだ、まだって。
「とにかく、当分はその手の話はお断り。お前だってあんなに怖がってたじゃないか」
「いや、それがさ・・・噂に、ちょっと引っかかるところがあって」
「・・・引っかかる?」
「うん。ソフトボール部の女の子が、ボール探しに行って見ちゃったらしいんだけど・・・」
ああ、いつの間にか話しに加わっちゃってるな俺。
「なんかね、髪の長い・・・色白の女の子で・・・全体が白っぽい、らしいのよ」
・・・ん?・・・それって・・・
「ね、似てるでしょ?あの・・・音楽室の子に」
「髪が長くて色白の子なんていくらでもいるだろ」
「そりゃそうだけど・・・確かめてみたくない?・・・あの子かどうか」
うーん・・・やっと成仏(?)させたと思ってたわけで、気にはなるが・・・
「まあ・・・いちおう由真と由良にも相談しよう」

昼休み、由真と由良にこの話しをすると
「あれー?私の聞いたのは、正面玄関の女の子だよ?」「え、私は・・・保健室の窓って・・・」
なんか、場所がバラバラだな。
だが、噂になっている女の子の風貌は一致していて
俺達が音楽室で出会った子・・・澪を思わせた。
「まだ成仏してなかったのかしら・・・」
「でも、あの時は・・・」「もう、あそこからは解放されたって思ったけど・・・」
だよなぁ・・・って、待てよ?
「あの場所から解放されたから・・・いろんな場所に出るんじゃないか?」
「・・・あ」「・・・そっか」
やれやれ・・・俺がやらなきゃならないわけじゃないんだろうけど
事情がわかってて知らんぷりもできないな。
「あー・・・皆、放課後は予定ある?」
3人が顔を見合わせて、クスリと笑う。
「別にないよ。わかってるくせに」「一緒に、行きますよ」
「・・・ホント、お節介焼きよね、達也って」

そんなこんなでまたまた旧校舎へ、やってきましたお節介四人組。
「とりあえず・・・体育館の裏だっけ?そこから見てみるか」
古くさい旧校舎に似つかわしい、これまた古めかしい体育館は
かなり痛んでいて、かろうじて建っているという感じだった。
中に入ったら・・・危ないかもしれない。
由真と由良に、俺たち以外の他の心がいないか、探してもらうが
「ここには・・・」「いないみたいですね」
やれやれ。ここは入りたくなかったし、ちょっとほっとした。
「じゃあ、次は正面玄関ね」
まずは、外から様子をうかがってみる。
同じように妹たちがテレパシーを飛ばすが
「ここにもいないね・・・」「意外と、行動的なのかな」
念のため、建物の中に入って内側から見ても、やはりいないようだった。
葉月がため息を付いて、改めて聞いてくる。
「後、噂になってるのは保健室ね・・・行ってみる?」
「ここまできて、やめるわけにもいかないだろ・・・」

前に来たときに、保健室の場所はわかっている。
噂では、1階の保健室の、外に面した窓から
女の子が外の様子をじっと見ているのだという。
どういうわけか、女子が見かけたときはすぐに消えてしまうのだが
男子が見かけると、かなり近寄るまで消えないらしい。
「・・・案外、達也のこと待ってたりして」
葉月が皮肉っぽく笑う。
「よせやい」
「わかんないよー。お兄ちゃん」「モテモテですからねー」
「・・・相手が幽霊じゃ嬉しくねえよ」
「どうだか。けっこう・・・綺麗な子だったじゃない?」
まあ・・・確かに・・・美人ではあったな。
「あ、赤くなった」「・・・ああいう人がタイプ?」
「バカ言えっ!それに、これ以上増えても・・・その・・・困るだろ」
「あー・・・」「それは・・・」「確かに・・・」
なんとなく気まずくなって、それから保健室までは皆黙っていた。

保健室の前で、もう一度由真と由良に聞いてみる。
「どう?・・・中に・・・いる?」
二人はしばらくドアを見つめていたが
「・・・いる」「多分・・・あの人」
むう。ここにいたか。
まさかとは思っていたが、いざ実際にいるとなると、どうしたもんか悩むな。
ドン、と葉月が背中を叩く。
「何今さら考えてんのよ。入るんでしょ?」
「・・・お前、この間はあんなに怖がったくせに平気なのか?」
「うるさいな。怖いわよ、今だって・・・」
だろうな。膝がガクガク笑ってる。
なんでこんな怖がってるのについてくるんだか。
「とりあえず、俺が先に入る・・・いいな?」
コクコクと3人がうなずくのを確認して
俺は保健室のドアを・・・ノックした。
「・・・失礼しま〜す」

耳元で声を潜めて葉月が怒鳴る。
(バカァ〜ッ!ノックしてどうするのよっ!)
あ、そうか。保健室なもんだから、つい。
しかし、葉月の声以外は静かなまま。
(・・・返事がないぞ)
(あったら怖いわよっ!)
だが、ほんの少しの間をおいて
もの静かな、少しハスキーな声が返ってくる。保健室の中から。
「・・・どうぞ」
「うっきゃぁ〜っ!?」
たまらず叫び出した葉月は無視することにする。
「・・・どうぞって言われたぞ」
「入ったほうが・・・」「いいのかな・・・」
それじゃ・・・
「お邪魔しま〜す・・・」
なんか・・・間抜けだ・・・

かすかにまだ残る薬品の臭いが、埃とカビの臭いに混じる保健室。
彼女は窓際に立って、こちらを・・・いや、俺を見つめていた。
「お待ちしておりました」
「え?ああ、はい・・・どうも」
「まだ、きちんと名乗らせていただいておりませんでした。私、藤宮澪と申します」
上品な物言い、優雅な立ち居振る舞い。
向こう側が透けて見えなければ、どこかのお嬢様としか見えない。
「桜井、です・・・桜井達也。こっちは妹の由真。クラスメートの葉月と、その妹の由良」
簡単に紹介すると、澪は微笑んで
「今日はわざわざご足労をおかけいたしました。どうぞ、おかけになってくださいまし」
「はあ・・・」
座る、ってったって椅子がない。
幸い、残ってるベッドはわりときれいなんで、その端にでも座ろうかと思ったが
葉月が俺の背中にしがみついてブルブル震えていて座るどころじゃない。
とりあえず、さっさと話を聞いちまおう。
「いや、このままでいいよ・・・それで・・・その、まだ何か・・・心残りでも?」 そう言って、澪はぺこりと頭を下げる。
「ああ、いえ・・・とんでもない」
「また、ご親切にも私をあの場よりを解き放ってくださいました。お礼の申しようもございません」
・・・なんか、調子狂うなぁ。
「実を申しますと、皆様に何かご恩返しをさせていただきたいと、それが心残りでございました」
幽霊の恩返し。
部屋にこもって「決して見てはなりません」とか言って布を織るんだろうか。
・・・いらない。そんな織物とか激しくいらない。
「いや、恩返しとか・・・気にしないでいいですよ?」
「そうは参りません。受けたご恩は、必ずお返しするのが我が家の家訓です」
変に頑固というか、頭堅いというか。
「参ったな・・・その・・・特にしてほしいこととかないんだけど」
「左様でございますか?・・・実は、あのとき・・・私の心も皆様と一つになっておりました」
あのとき・・・ってのは、屋根の上で俺が3人に抱きすくめられてたときか?
「ですから、皆様の悩みも、おおよそわかっておりますのよ?」

いつの間にかベッドに腰掛けていた由真と由良が、顔を赤くして抗議する。
「それは・・・貴方には・・・」「関係ないじゃないですか・・・」
だが、澪は動じない。
「そうでしょうか?・・・お二人は、もう私がどうするつもりか、おわかりでしょう?」
「だ、だから・・・」「そんなの・・・無理ですよ・・・」
二人はテレパシーで心を読んでいるからいいけど、俺にはどうも話が見えない。
「えーと・・・俺にもわかるように説明してもらいたいんだけども」
「え・・・ダ、ダメだよぅ」「た、達也さんには・・・ちょっと」
二人の顔がますます赤くなる。
まあ・・・悩みってのは、3人揃って俺に好意を持っちゃったことなんだろうが
俺もそれはわかってるわけだし、今更そんなに恥ずかしがってもしょうがないだろうに。
「えっと・・・アタシもわかんないんだけども」
もう一人蚊帳の外だった葉月が、おずおずと俺の背中越しに口を出す。
「そうですね・・・じゃあ・・・」
澪がニッコリ笑って俺を見る。
「ちょっとの間、達也様には外に出ていただきましょうか?」

廊下は静かだ。他には誰もいない。
なんで一人で廊下にいるのかというと、保健室を追い出されたから。
・・・なんでやねん。そんなに俺に聞かれちゃマズイ話なんか。
ときどき中から「ひゃー」とか「うわー」とか悲鳴とも歓声ともつかない声が聞こえてくる。
くそぅ、なんか楽しそうじゃないか!?
イライラしながら保健室の前で行ったり来たりしていると
カラカラと保健室のドアが開き・・・
中から顔を出したのは、澪だった。
「お話は終わりました。どうぞ、お入りください」
「・・・あれ?・・・あいつらは?」
「中へどうぞ。ご説明いたします」
導かれるままに中へはいるとベッドの上で3人が・・・寝てる?
ついさっきまで起きてたのに、3人揃って?いや・・・そんなはず、ない。
「おい!・・・何したんだよ!」
思わずカッとなって澪に詰め寄る。
彼女はただ・・・妖しく、微笑むだけだった。

「おい!寝てる場合じゃないだろ、起きろ!」
ベッドに走りより、ぐったりした肩を掴んで揺り起こすが・・・まるで起きようとしない。
「無駄ですよ。今そちらの3人の体は抜け殻になっています」
「抜け殻って・・・何やったんだお前!」
「今、そちらの3人の魂は・・・私の中に取り込まれています」
「な・・・か、返せよ!何のつもりだ!?元に戻せ!」
澪の胸ぐらを掴んで・・・あれ?幽霊って・・・触れるもんなのか?
「お気づきですか?3人の魂を取り込んだことで、実体化しているんです」
「ははあ・・・なるほど・・・ってそうじゃねえ、魂返せコラ!」
「よろしいんですか?今なら・・・私ごと、3人同時に愛せるのですよ」
「・・・へ?」
「取り込んだといっても、意識はそれぞれちゃんとお持ちです。感覚もね」
澪を掴む手が緩む。その手に、そっと手を添えて澪が囁く。
「この・・・手の温もりも、中の3人は同時に感じていらっしゃいます」
ゆっくりと澪が離れてもう一つのベッドに腰掛け・・・俺に向かって、手を差し伸べる。
「・・・さあ・・・いらして・・・」

俺だって子供じゃないから、その手招きの意味ぐらいはわかる。
わかるが・・・
「どうなさいました?・・・これで、念願が叶うのでは?」
「・・・念願?」
「ええ。誰か一人を選ぶことができない貴方の、普通ならかなうはずのない望み」
確かに・・・澪の中に3人がいるのなら・・・
澪を通して、3人を同時に・・・愛することができる。
だけど・・・本当にそれが俺の望みなのか?
一人を選ぶことに躊躇していたわけじゃなくて
本当は3人を・・・皆求めていたのか?
ただ、それができないから悩んでいたのか?
・・・違う。
よくわかんねえけど、多分そうじゃない。
違わないにしたって・・・こんなのはイヤだ。
俺はまた3人が横たわるベッドに走り寄る。
「起きろよ!戻ってこい!こんなんで・・・お前、こんなんでいいのかよ!」

(7に続く) (Seena◆Rion/soCysさん 作)

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