カイン様萌え日記
「カイン様と秘密の箱」 ←ハリーポッター?
○月×日
今日も一日終わり。お疲れ、私。昨日まで忙しくて書けなかったけれど、先週とても信じられない事件が起きた。恐らく 今までの人生で三本の指に入るくらいの出来事だろう。あの愛しいお方がまさかとは思ったが・・・まったく本当に、カイン 様には敵わない。
カイン様の大事な毒の棚を管理するのは実は私の役目だ。毎朝、在庫チェックと乾いたシルクの布で拭く作業は怠ら ない。とはいえ、私もするべきことは山程あるから、手抜きというわけではないが、結構手短にさっさと終わらせる。先に 一通りチェックした後、適当に拭いていたその時。 ゴトッ なんとうっかり瓶を下に落としてしまった。幸い絨毯が敷かれており、瓶は頑丈で密閉されていたので損傷はなかった。 私としたことが、昨晩遅くまで起きていたからだろうか。重い体を屈ませて、ふと一番下の段に目をやった。すると――― 屈まなければ視界に入らない奥の方に何やら怪しげな黒っぽい箱が見えた。 「なんだ、あれは・・・」 私は不審に思ったが、もしかしたらカイン様の大事な物かもしれないと思い、伸ばしかけた手を躊躇して思いとどまった。 しかし、あるいは怪しい人物が仕掛けたものじゃないとも言い切れない。ひょっとしたら爆弾・・?!いや、しかしカイン様 の物だったら勝手に見ては・・・・少し葛藤した結果、拳を握りしめて決心した。 「一応、確認せねば。何故なら私は執事なのだから・・・!!」 ←? 執事としての責任感と好奇心とが、雑念を払拭し、私はその怪しげな箱に手をかけた。というか、好奇心の方が大きかっ たが。毒の棚に入っていただけに、一体何が出てくるのかと、少し体を強張らせて恐る恐る開けてみた。しかし・・・ 私は見てはいけないものを目にしてしまった。
そこで私が目にしたもの・・・それは、大きな蝋燭、歪な形をしたグッズ、猿轡、縄、・・・仮面(!)・・・どこからどう見ても、
一瞬頭がふらついた。普段のカイン様のイメージからは、このおもちゃとどうしても結びつかず、私は暫く動揺した。いつも どんなに精一杯の愛情を持って接しても、あの方は軽くあしらうだけなのに・・・(照れているだけだろうけど)。そして私は 思った――。
「・・・リフ様?カイン様がエントランスの方でお呼びですが。」 「あ・・・はい、すぐに参ります」 (見なかったことにしよう!私は何も見なかった・・・!!なぜなら私はっ・・・) たった今見たものがぐるぐると脳裏で駆け巡る中、棚の後片付けをしてからエントランスの方へ向かった。主人を見つけると、 一呼吸置いてから声をかけた。
「・・カイン様」 「遅いぞ、リフ。今から出かける。」 「は、はい。・・」 私はカイン様の顔をまともに見ることが出来なかった。どうやらまたご機嫌斜めのようだが、私は罪悪感と共に、何故かおか しさが込み上げてくるような、何とも言えない感覚に陥ってしまった。しかし、勘のいいカイン様の事だ、私の不審な態度に気 付いたようだった。 「・・・どうかしたか?」 そう言って私の顔を覗きこむ。やばい、なんか悟られそう、とさらに動揺してしまう。しかし、カイン様は別に気にもとめず、さっ さと馬車の方へ歩いていった。何とかその場をしのげてホッとしたが・・・・それだけでは終わらなかった。
馬車の中。ついあの箱の事を思い出してしまう。女性と寝る時にでも使っているのだろうか・・・端整な美しいお顔と飄々とし た態度からは、(SかMか)全く想像がつかない。それとも他の誰かが勝手に侵入して棚に置いたのか?しかし、わざわざあの 棚に置いて何の意味があるというのか。やはりカインのものか・・・・ そんな事を考えてるとカイン様に声をかけられた。 「リフ、具合でも悪いのか?」 「はっ、いえ、大丈夫です・・・」
が手に当たっている。 (何だ、これ。ポケットに何か入って・・・!)
(メイドに呼ばれて慌てて隠した時に入れたのか・・・?・・・でもそんなはずは・・・!) 冷や汗を滲ませてそんな事を考えてると、またしてもカイン様は私の不審な様子に気付いたようだ。 「どうした?」 「な、何でもありません。」 そう言いながら、さり気なく再びそれをポケットに入れるのを、カイン様は見逃さなかった。 「何を隠している、見せろ。」 「あっ・・・・・」 ひょいと身を乗り出して強引に私のポケットに手を突っ込み、あっけなく奪ってしまうと、カイン様の表情が急に固まった。
「あっ、これは、えっと・・・!」
私はすっかり動揺して、何を言っていいやら困惑した。そのロウソクは、妙な模様と妖しげな金属の飾りが付いていて、珍し いデザインをしているため、「キッチンにあったんですよ。」とか言い訳するにも、あまりにも説得力がない。かと言って、カイン 様のですか、と聞く勇気もなかった。すると、カイン様の口から思わぬ言葉が発せられた。
「アレ、といいますと・・・・・」 「とぼけるな。毒の棚にある黒い箱だ。」 「は・・・・・・・み、見ました。」
「・・・も・・・申し訳ありませんでした!カイン様、あのようないかがわしいご趣味があろうとは知らずっ・・・!」 はっとして慌てて口をつぐみ、カイン様の表情を伺った。するとどうだろうか、あの飄々としたカイン様が、顔を赤らめてらっしゃ るではないか! 「・・・・好きなんだ・・・・・・・あれが。」 「あ、あぁ、・・・・あれが、ですか・・・・・」
愛の告白?!と一瞬勘違いしてしまった・・・・じゃなくて。 「・・・はぁ?!!」 「確かに俺は、お父様の鞭は嫌いだ。だが、逃げられないんだ・・・・この快感はどうしょうもなくて。きっとトラウマだな・・・」 すると急に私の方を振り返り、目を潤ませて訴えた。 「この事は・・・誰にも言うな。」 「は、はい」
普段見せない表情でこちらを見るカイン様に、執事としたことが思わずドキッとしてしまった。・・・それにしても、聞いても いない性癖を赤裸々におっしゃったりして、一体この私にどうしろというのか。もしかして、カイン様、私に・・・・・・?(妄想中) いや、カイン様にいつも言われるが、ただの思い込みか。
私は今までカイン様に仕えてきて、可愛い、と思う事はしばしばあったが、それは弟に対するような愛情と似たような感じ だと思っていた、否、むしろ自らそう思うよう仕向け、心の奥底に潜む獣を押し殺していたのかもしれない。思えば私は、 無意識に?いつもカイン様の体にタッチするという、セクハラまがいのような事をしていた気がする。それはやはり、そんな 欲望が存在するからだろうか・・・。執事として恥たる事だが、その時の自分は、どうかしていて、この美しい少年の普段 見せない表情に、如何しようもなく色気を感じてしまい、思わぬ事を口走ってしまった。
「・・・カイン様。おこがましい様ですが、絶対秘密という代わりに、ちょっと私からご要望があるのですが――。」 「なんだ?口止め料ならいくらでも払うぞ。」 「そうではありません。あの、一度だけでいいんです、ほんの僅かな時間でも…主従関係を逆転してみるなんていかがです?」 「!!な、なんだと・・・?」
我ながらアホだった。自分が主人に対していかに失礼極まりない注文をつけているかは分かっている。しかし、主人の弱み を握った事、そしてカイン様の艶っぽい表情で、自分の中に潜む獣を抑えきれなくなってしまった事が私をそうさせていた。 それに、長年の勘でそんな戯れ事を言っても許されるという雰囲気は感じ取っていた。 「あははっ!お前は面白いことを言うな。いいだろう、でも、他の使用人たちに見られる可能性がある所はだめだ。公にされると 何かと面倒だからな。そうだな・・・とりあえず今夜、俺の部屋に来い。」 「承知しました・・・」
逆に面白がられたようだ。今夜、カイン様の部屋で・・・、マリー様も誰もない、密室。後で考えたら自分の口走った事に恥ずかし くなってしまった、でももう後の祭りだ。 その日は一日中、私は妙な気分に駆られて気が気ではなかった。 |