陥落の誓約者-前編-真っ暗な闇の中、俺は何度目かの寝返りを打った。時間は、もう夜中をとっくに過ぎているだろう。 普段は心地良いはずのベッドのスプリングが、今はいつまでたっても不快に感じられる。 それでもここは、この街の数少ない宿泊施設なのだ。 さすがにあの狭い家に大人数は泊まれないからな。まあ、文句など言っていられない。 俺はカーテンすら閉めていない窓に目をやる。 月も雲に殆ど隠れてしまい、室内の光源は僅かに漏れてくる月明かりだけ。 月の位置から判断するに、もうじき真夜中といったところだろうか? 本来ならばアメルたちを抱いている時間なのだが、珍しいことに今日に限っては一人の夜だ。 頭の中に『眠ろう』『抱こう』という意思はあるにも関わらず、もっと奥底の部分――本能的なもの――がそれを押しとどめる。 もしこの予感が外れたら…… そんな不安に駆られ始めるが、すぐにそれは無用な心配だったと分かる。 ギシギシと、安宿の廊下の軋む音が聞こえてくる。明らかに足音を殺そうとしている歩き方だ。 誰かがトイレに起きて来た、という可能性は全くない。俺の部屋は一番奥にあり、トイレは一番手前にある。 もし誰かがトイレに行こうと思っているのなら、音は小さくなるはずだ。次第に大きくなる足音からそれが読み取れる。 だが何より違うのはその歩き方。訓練されていない人間が必死で足音を押し殺そうとしている。 そんな歩き方だった。 足音は俺の部屋の前で止まり、続いてノブがゆっくりと捻たことが音でわかる。 ちなみに、部屋に鍵をかけてはいない。鍵などかけたところで無意味だから。 敵なら叩き伏せる自信は十分にあるし、知り合いなら鍵をかける必要もない。 ドアの開いた音が聞こえ、空気が一瞬大きく震える。 それは、あっさりとドアが開いたことに対する狼狽の気配だった。狙いではなかったが意表はつけたようだ。 すぐに聞こえる靴が擦れるような音。どうやら相手はいつまでも驚いているほど間抜けではなかった。 そして素早く、俺の眠るベッドの傍まで気配が近寄ってきた。真っ暗な闇の中、わずかに漏れていた月明かりを受けて、反射する細長い光が目に入った。短刀だろう。光に鈍りはないから、毒はないようだ。 そのまま振り下ろされるのかと思いきや、威嚇のようにゆっくりと刃が俺に向かって来る。 刃が傍まで十分に近づいて来るのを待ってから、素早く手を伸ばしてその腕を掴み取る。 そのまま一気に腕を引き込み、ベッドの上にうつ伏せになるように押し倒した。 俺は勢いを利用して一気に起き上がると、同時に腕の関節を決めて抵抗の意思を奪う。 力の入らなくなった手から、細長い刃を持った短刀が取り落とされた。 すぐにそれを拾い上げ、片手で関節を決めながら、刃を相手の喉近くに押し当てる。 その頃には雲も流れ、完全に顔を出した月光によって、相手の姿は誰の目にも明らかになっていた。 「何か用かな、カシス?」 俺は旧知の知り合いにあったように親しみを込めた口ぶりで尋ねた。 サイジェントの街。 聖王国の西の果てにある城塞都市であり、旧王国との国境に接している。 織物工業が盛んな都市であり、都市内部には大規模な紡績工場が立ち並んでいる。 そのため排水や煙による環境破壊が深刻な問題となっていた。付近の森林からの緑の減少や、アルク河の水質汚濁。特に下流の水域は深刻で、農業用地としては使えなくなっているらしい。 織物製品や発掘される化石燃料を輸出して、食糧を輸入することでバランスを取っている。 また、税金の締め付けが厳しく、市民たちの生活はお世辞にも裕福とはいえない。 特産品となっているキルカの布地も、高額なために一般人には購入することが出来ない。 一見華やかそうに見えるが、その実は貧富の差の激しい都市。 少なくともゼラムやファナンの近くに住んでいれば、普通の人間は縁のない場所だ。 ここに訪れたのは二回目。 一度目は誓約者の力を借りに来て、図らずも魔王退治をしてしまった。大した相手では無かったが。 そして二度目の今回。 手負いの黒騎士ルヴァイドの迎えを兼ねた滞在――というのは名目に過ぎない。 その実は誓約者アヤを俺の物にするため。 今日は到着した初日ということもあり休息を取っていたのだが、そんな折にこのありさまと言うわけだ。 しばらく待ったが、カシスから返事は返ってこなかった。 「もう一度聞くよ。一体何の目的でこんな真似を?」 迷子に事情を聞くような優しい口調で再度カシスに質問を投げかける。 同時に偽善者の俺を出して、相手の警戒心を薄れさせるようにしておく事も忘れない。 先ほどと同じような沈黙が続いたが、今度はやがて返事が聞こえてきた。 「……忠告よ、必要以上にアヤには近寄らないで。あなたからは危険な匂いがするの」 「そんな理由で!? 確信もないのに?」 驚いたような呆れたような口調で呟く。 もちろんこんなものは演技に過ぎず、内心では良い勘をしているものだと感心していた。 モナティ達から話を聞いて以来、是が非でも俺の物にしたいと思っていたのだ。 無論のことながら段取りは既に整えてあった。 相談と言う名目で、明日アヤたちと出会う予定となっていたのだが、それを危惧してのカシスの行動というわけだ。 だが用心のためにそんな考えはおくびにも出さずにいたというのに、よく感じ取れたもんだ。 さて、この状況はどうしたものか……害を持って利と成したいところだが…… 少し考えてから、俺は首筋に当てていたナイフを静かに引き離し、カシスを開放してやる。 そしてベッドに腰掛けると、カシスにも座るように促す。 「どういうこと……?」 座りながらも、カシスは訝しげに尋ねてきた。手の平を返したような俺の態度を計りかねているようだ。 「誤解があるみたいだったからさ」 一つ溜息をついてから、真面目な表情で俺は語る。 「考えすぎ。アヤを危険な目に合わせたくないっていう、その気持ちは分からなくないけど」 「だから忠告だって言ってるでしょ」 俺の態度や言葉に多少は考えを改めたのか、カシスの態度は幾らか軟化していた。 「……そりゃあ、アヤは美人だし、性格だって良いから心配するだろうね」 人当たりの良い笑顔のまま、今度はおどけたような態度を取る。 目的はカシスの警戒を解くことだ。 カシスにとってアヤは大事な仲間。ならばこう言われて悪い気はしないだろう。 「ま、まあね……」 カシスは照れたような嫉妬しているような複雑な態度で呟く。ほぼ俺の読み通りだ。 唯一つ、嫉妬しているような態度が気になる。 「でもそれだけの美人がいると、比べられて大変じゃないかな?」 「……そうかもね」 遅い返答。 ほとんど当てずっぽうだというのに、カシスは予想以上に面白い反応を見せてくれた。 これは使える。俺の勘がそう告げている。 「俺も似たようなものだったから……兄弟子のネスといつも比べられてたから……」 たっぷりと悲壮感を漂わせながら言葉を紡ぎ、同時に顔を伏せておく。 カシスは無言のまま、気の毒そうな表情を浮かべていた。 俺の演技にすっかりと騙されているようだ。頼んでもいないのに、自分に体験と重ねているのかもしれない。 「――なんで突然、そんな事をあたしに?」 「そ、それは……」 わざと言葉を詰まらせ、間を置いておく。 「……好きなんだ。カシス」 「えっ!?」 唐突な俺の告白に、カシスが明らかに動揺する。あまりの出来事に頭がついていっていないらしい。 「一目惚れってやつかな……最初に出会ったときから……好きになったんだ」 「ちょ!?」 俺は一気にカシスを抱きしめる。 「ちょっと待って!?」 事態はこのまま簡単に運ぶと思っていたが、さすがにそこまで都合よくは行かなかったらしい。 カシスは声を荒げながら俺の体を突き飛ばした。俺はその勢いに逆らわず、盛大に転がる。 「ご、ごめんなさい……」 「いや……俺が悪いんだし……」 体を起こしながら、本当にすまなさそうな表情になるように心がける。 突然襲い掛かった俺の方に非があるというのに、カシスは俺に目を合わせることが出来ない。 そんなカシスに、言葉でさらに追い討ちをかける。 「でも覚えておいてほしい。俺のこの気持ちは本当だから……」 お前が思っているほど純粋な想いじゃあないがな。心の中で嘲笑する。 だがカシスにとってみれば、純粋な想いを無下にしてしまったという罪悪感に囚われているだろう。 これで攻守が交代したわけだが……はてさて、どう出てくるかな? 帰るだろうか? それとも俺を受け入れるか? 俺は無言で言葉を待つ。 やがて、カシスの口から紡がれた言葉は―― 「信じていいの……?」 俺を受け入れる言葉だった。 そしてそれを聞いた途端、抑えがたい笑みが湧き上がってくる。 何しろ、無防備にも自ら罠に飛び込んできたのだ。これが笑わずにいられるだろうか。 「信じてほしい。俺を」 だが実際に笑うわけにはいかない。俺は内心の想いなど全て押し隠して真剣な表情を作る。 しかし、俺もよくこんな歯の浮くような言葉を臆面もなく言えたもんだ。 感心しながらカシスの顎にそっと手を添えると、まるで模範的な恋人同士のように口付けを迫った。 カシスはそれに応じるように瞳を伏せ、じっと俺を待った。こちらも教科書通りといったところか。 俺はカシスにそっとキスをする。 このまま押し倒し、無理矢理犯してしまいたいという感情を心の隅へと押し込みながら。 唇を触れ合わせながら、こちらも優しい手つきでカシスの胸に触れる。 「んっ」 カシスは体を強張らせて拒絶の意思を見せるが、俺は許さなかった。 衣服の上から微細な刺激を与えて、カシスの官能をゆっくりと引きずり出していく。 いつもながらこの感触にはまるで飽きが来ない。触れる女ごとに違う手触りが感じられるのだ。 衣服の上から柔らかな刺激を与えつつ、その感触を楽しむ。 まだ解れていないようだが、それはそれで楽しめる。この硬さを取るというのもまた一興というものだ。 やがて、優しい愛撫にすっかりと酔ってしまったのか、カシスの抵抗は次第に無くなった。 俺に抱きつき、首に手を回して身を任せている。 頃合と見た俺は、顎を抑えていた手を離してカシスの股の間に差し込む。 カシスの内腿に指が触れた途端、驚いたかのように一瞬身体が大きく震え、唇も離した。 俺は恋人の顔を崩さないようにして、カシスの言葉を待つ。 決して自分から強制したり、仄めかしたりはしない。これ以上は自分自身が決めたのだという意識を植え付けさせるために。 「大丈夫だから……続けて……」 カシスの口から漏れた言葉に、俺は再度笑い出したくなる。 蜘蛛の巣にかかった獲物は、自らもがく事で自身の存在を蜘蛛に教えるというが、今のカシスはまさにそれだ。 自らの意思で深みに嵌まっていく。逃れられない深みに。 「ああ」 俺はカシスの言葉に――心の内などは全く表には出さず――頷いた。 そしてカシスを引き寄せると、再度股の部分に指を這わせる。 「んんっ……」 恥ずかしがりながら控えめに声を出すという、特有の反応が返ってきた。 それが何よりもカシスのことを雄弁に語る。経験が皆無に近いということを。 俺は潜り込ませた指には出来るだけ力を加えず、秘裂の部分を下着の上から優しく摩擦させる。 「ひゃっ!」 不意の刺激に、カシスは小さな悲鳴を上げながら俺に強く抱きついてきた。丁度膝立ちになった状態だ。 ならば、と俺はカシスのショーツを片手でずり下ろす。 「あっ……」 何か抗議をさせる暇すら与えず、今度は秘部に直接指を擦りつける。 小さな円を描くようにして刺激を与えていくと、やがて指先に慣れた感覚がやってきた。 粘り気を帯びた愛液が俺の指に絡みだす。 「濡れてきたよ、カシス」 「ん、くぅ……言わないでよぉ……」 耳元で小さく囁いてやるだけで、カシスは顔を真っ赤にしながらも必死で堪えている。 どうやら完全に『恋人同士の甘い一夜』というやつに酔いしれているようだ。 だが実際には完全に弄ばれているだけだと知ったら、どんな顔をするだろうな。 まあ、それを見るのは明日のお楽しみに取っておこう。 続けて俺は、指先を少しだけカシスの内側へと進入させた。 「ゆ、指がぁ……」 甘ったるい声が上がる。そして指に感じる強い力。 おそらくカシス自身は意識していないのだろうが、堪えているせいで下半身は猛烈な力で指を咥え込んでいた。 これは本番が楽しみだな。我慢しきれずに口の端に笑みを作ってしまう。 だが幸いな事にカシスは俺の指を精一杯感じたいのだろう、瞳を閉じていた。 これは都合が良い。 押さえ切れない笑みを口元全てに浮かび上がらせながら、指を鉤型に曲げる。 そして弱い力で、カシスを発情させるようにゆっくりとゆっくりと責めたてていく。 「はぁっ、やぅ、もう、んんっ!」 カシスの声が一段と高くなった。 俺に回された手には力が入り、爪を立てているのが肌で分かる。そして漂う汗の匂い。限界が近い証拠だ。 ――もういいだろう。 そう確認すると俺はカシスへの責め手を止める。 「ふえぇ?ど、うして……?」 不満そうなカシスに対し、目を合わせないようにして俺は照れたようにして呟く。 「やっぱり、こういうのって自然じゃないっていうか……一度しかない出来事なんだし、もっとちゃんとした形にしたいから」 「マグナ……?」 「だから、今度きちんと出会ったときに続きをしてもらえるかな?」 「う、うん……」 まだ納得していないようだが、一応了承はしたようだ。 カシスは乱れた衣服を整えるとそっとベッドの上から降りる。 「本当にゴメン」 駄目押しとばかりに、俺はもう一度謝罪の言葉を述べる。 「じゃあ……また明日」 「おやすみ」 ぎこちなく言葉を交わすと、カシスは部屋を出て行った。 足音が完全に聞こえなくなるまで待ってから、俺は邪悪な笑みを浮かべる。 馬鹿な女だ。そう思い、笑わずにはいられなかった。 あそこで止める男なんているわけがない。どんな男であろうとも、そこまで雰囲気を重視したりはしない。 目の前に獲物がいればそれをたっぷりと味わう。それが男の本能だ。 それすらも分からず、俺の手の上で遊ばれているだけだとも知らずにいるのだから。 おそらくカシスの心の中では今、不完全燃焼に対する不満感でいっぱいになっているだろう。 『イかせて欲しい』 この言葉が心の中を覆い尽くしているはずだ。そしてそれを口に出来ない苛立ちも募っているはず。 あの女は、この後何回くらい自慰をするのだろうか。そして俺に犯された時には、どんな表情を浮かべるのだろうか。 カシスは俺に信頼と愛情、そして情けを抱いたはず。それを明日、目の前で無残に叩き壊してやれるのだ。 考えただけで笑いが止まらなくなる。 俺はそっと瞳を閉じた。どうやら明日は、想像以上に楽しめそうだ。 ぬるま湯に浸かっているような、曖昧だが心地よい感覚が俺の全身を支配している。 だが、いつまでも続くと思われたその曖昧な感覚は突如失せた。 ハッキリとした確かな感覚は俺の心を僅かながら安心させる。地に足がつくような安堵感を促す感覚。 その感覚を体中に広げながら、俺はゆっくりと意識を覚醒させていく。 「おはようございます」 目を開けるとそこにアメルがいた。俺の首へ両手を回し、添い寝するようにして俺の上に寝そべっている。 すぐ近くにあるアメルの顔は、たった一日ぶりだというのにまるで何ヶ月も間が空いたように魅力的に見えた。 思わず寝起きながらキスをしてやる。 「んっ……はぁ。うれしいです……」 流石に朝から濃厚な口付けはしない。幾許か触れる程度の軽い口付けだ。 だがそれだけでもアメルにとっては大きな喜びとなった。 「夕べは悪かったな。寂しい夜を過ごさせて」 アメルの髪を軽く梳きながら、謝罪の言葉を投げかけてやる。 「いえ、そんな……」 真剣に頬を赤らめるアメル。 「でも……突然どうなさったんですか?」 俺の僅かな態度をアメルは確実に見抜いたようだ。不思議な表情を俺に見せる。 「なに、大したことじゃない。夕べ面白いことがあっただけだ」 そうしてアメルに昨晩に起きた出来事を教えてやった。 カシスをからかい、心の中に俺への想いを植え付けてやったということを。 ただ、ベッドの中にアメルを引き入れて実際にアメルを弄びながら行ったのだが。 「まあ、そう言うことがあったわけだ」 俺は指先に絡みついたアメルの愛液を舌で舐め取りながら説明を終える。 すぐ横にはアメルが荒い呼吸を繰り返している。 繰り返すが、実際にアメルに行ってやったのだ。カシスのように寸止めも忠実に再現してやった。 夕べのことも考えればかなり辛いだろう。 「ところで、カイナは?」 俺はベッドから起き上がると、身支度を整え始める。その間、着替えをしながらアメルに尋ねた。 「もう、起きています……普段通りに……元気ですよ」 瞳に情欲の炎を灯しながら途切れ途切れにアメルが答える。 やはり最後まで終わらなかったことが相当不満らしいな。 抱いてやってもいいのだが、あまり時間をかけるわけにもいかない。 最低でも用意が整うまでは。 「そうか。ならいい」 だが俺はそんな事など歯牙にもかけず、言葉を聞いて頷く。今日はカイナにも存分に働いてもらうのだから。 「さて、じゃあ朝食でも喰うか。今日は大変な一日になるからな」 部屋を出る俺の後を、緩慢な動作でアメルがついて来た。 「おはようございます。マグナさん」 「すみません。呼びつけたりしてしまって……」 丁寧に頭を垂れてきたアヤに対して、俺も丁寧な態度で応対する。 ちょうど昼間を過ぎたほどの時間。昼と呼ぶにはやや遅く、小休止を挟むにはかなり早い、そんな時間帯。 予定通りアヤは俺の元へと訪れた。 人が良く、俺に対してある程度の信頼を抱いているアヤは、おそらく何の疑いも抱かずにここに来たのだろう。 予定通りという言葉が俺の脳裏を掠める。けれども油断してはならない。慢心は失敗を生むのだから。 ここからが本番だと自分に言い聞かせながら、再度気を引き締める。 アヤの背後にはカシスの姿もあった。 カシスは笑顔のまま、俺に対して腰辺りで小さく手を振ってきた。 夕べの出来事は気にしていない。だから今日は最後までお願い。そう言っているように俺には見えた。 秘密の恋人同士とでも考えているのだろうか。馬鹿馬鹿しい。 どうやら二人の態度から考えるに、カシスは昨日のことは誰にも伝えてはいないらしい。 まあ、伝えるとなればおのずと夕べの出来事も白日の下に晒されることになる。 あまり人に話したくはないというのも、女心というヤツなのかもしれないな。 「ところで、ご自分の魔力について悩んでいるとお聞きしたんですが……?」 「ああ。じつはそうなんだ」 アヤの問いかけに、俺は予め用意しておいた答えを語る。 無論こんなものは嘘。実際はアヤを呼び出すための口実に過ぎない。 だが、魔力の話題を選んだのはきちんとした理由がある。 自らが未知の力を突如入手したという不安や驚きといった感情は、アヤには良く分かるはずだ。 だからこそ、警戒なく親身になって接してくるだろうと踏んでいた。 予想通りアヤは心配そうな表情を浮かべて俺に話し掛けてきた。 俺は悩める青年の態度を崩さずに、自らの描き出した偽りの不安を語る。 相手が海千山千の役者や詐欺師などならともかく、まだまだ小娘のようなものだ。 俺の腹芸によって、夕べ騙したカシスはもとよりアヤもすっかり引き込まれていた。 「やはり、何か特別な要因があるのでしょうか……?」 俺の語りが終わると、カイナが呟いた。エルゴの守護者だから、という名目で彼女もここに同席させている。 それに、女性が多いほうが警戒も緩むだろう。 「そうですね。もし原因がマグナさん自身にあるのなら、私はお役に立てないかもしれません」 アヤが申し訳なさそうに目を伏せた。もう少し時間稼ぎが必要かと思っていると、 「あの……お茶です」 アメルがおずおずとティーカップをトレイに乗せて持ってきた。 そして四つのカップをテーブルの上に置いてゆく。中身は紅茶だ。 立ち上る湯気に乗って漂う芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。 「すみません。無理難題を言ってしまって」 俺は謝罪の言葉とともに茶を一口啜る。 沸騰したての湯を避けてあるらしく、飲みやすい温度となっていた。 他にも細かに手間暇かけて作ってあるところに、アメルの心遣いが感じられる。 俺に続いてカイナも一口。 「そんな。私の方こそ」 アヤも出された紅茶を口に含む。そしてカシスが最後に口に含んだ。 「あら……美味しいですね、これ」 意外な味のおかげで、アヤに笑顔が浮かぶ。カシスも軽く感嘆の息を吐いている。 「ごめんなさい。話の腰を……」 折ってしまって――アヤの口はそう最後まで言葉を発することが出来なかった。 今まで持っていたカップを取り落とし、自分の体に起こった変化が信じられないように目を見開いている。 カシスも同じような状態に陥っていた。必死で足掻こうとするが、自分ではどうすることも出来ない。 「これ……は……?」 アヤは最後まで明確な言葉として紡ぐことはできなかった。 そしてそのまま両方の瞳がゆっくりと閉じられる。 カシスの方はアヤよりも早く眠りに陥っていた。意外に寝顔は可愛らしい。 「ごくろうさん。よくやったな、アメル」 効果が完全に発揮したことを確認してから、俺は満足の表情とともにアメルにねぎらいの言葉をかけてやった。 それだけでアメルの顔は、絵の具でも溶かし込んだかのように真っ赤に染まる。 アヤたちがやってくるすこし前に、アメルに薬を渡し、飲み物に混ぜろと指示を出しておいた。 アメルはその仕事を完全に果たしたというわけだ。 「あの……それでこれから何を……?」 不安そうな表情を浮かべるカイナだが、聡明なカイナのことだ。既に理解しているだろう。 俺は丁寧に編まれた縄を投げ渡してやる。 受け取ったカイナは一瞬不思議そうな顔をするが、すぐに俺の意図を理解したらしく行動に移った。 俺も縄を手に持ち、それをアヤに絡めていく。 着衣を乱れさせる程度に脱がせ、身動きを取れないように強く縛り上げる。 ただグルグル巻きにするだけという、拘束のみが目的の、単純だが面白みに欠ける縛り方。 どうせならばもっと淫靡な縛り方をしたいものだが、途中で目覚められたりするのは厄介なので今回は我慢しておく。 そして最後の仕上げとばかりに、目隠しを施す。 カシスの方も同様に縛り上げられたことを確認すると、続いて持ち物を確認する。 調べてみると、サモナイト石が2つほどあった。他にはハンカチなどの小物だけだ。 それらを取り上げ、二人をそれぞれのベッドの上に転がすことでようやく一段落つく。 「さて、これであとは目覚めるのを待つだけだ」 これで目覚めても抵抗らしい抵抗はほとんど出来ない。 そしてこれから行うことは、眼前の二人の目覚めを待って宴を開けば良いハズだが―― 「だが、目覚めるまである程度時間があるからな……」 その言葉に俺はたっぷりと含みを持たせた。予想通り、二人は即座に反応をした。 俺は薄笑いを浮かべながら悠然と椅子に腰掛ける。 「夕べの分も含めて、たっぷりと可愛がってやるよ」 その言葉に、二人とも嬉々として俺に抱きついてきた。 カイナは俺の腿の上に跨ると、首筋に舌を這わせつつ時折キスを交わしてくる。 服越しだというのに強く秘部を擦りつけてくるその様子は、落ち着いたカイナにしては珍しく余裕がない。 俺への奉仕と自分の気持ちとの狭間で心が揺れ動いているようで、夕べの心境が窺い知れる。 そしてアメルはというと、俺の足下に跪いてズボンの中から肉棒を引っ張り出した。 一瞬恋焦がれた少女のような表情を見せた後、まだ十分な硬度すら持っていないそれをいとおしそうに口に含む。 唾液をふんだんに使いながら舌でゆっくりと味わうようにするその動きは、淫靡という言葉そのままだ。 俺は片腕でカイナを強く抱きしめながら唇に激しく吸い付き、もう片方の手をアメルの頭に添えてやる。 このままもう暫く楽しむとするか。 「ん……んんっ……」 そう思っていると、不意に声が上がった。声の出所は……確認するまでもない。 意外に早かったな。 そんな場違いな感想を抱きながら俺は椅子から立ち上がる。乱れた衣服を正しながら。 「あっ……」 「んんっ……」 二人とも途中で放り出された形になり残念そうな声を出すが、俺を引き止めるような真似は一切しない。 俺はゆっくりと声の出所であるアヤたちのところへ近づいた。 だが目覚めていたのはアヤだけであり、未だカシスは夢の世界にいたままだ。 そのアヤでさえ、まだ夢と現の区別がはっきりとついていないような印象を受ける。 口を薄く開いた状態で、確認するように首を少し動かしていた。 俺はアヤの覚醒を手伝ってやるために、喉元を猫を愛でるような指使いで撫でてやった。 「きゃ!」 突然の刺激に、当然ながらアヤは小さく悲鳴を上げる。だがこれで目が覚めたはずだ。 そして予想の結果を知らせたのは、アヤの口から漏れてきた言葉だった。 「え……夜?」 「夜じゃないさ。視界を閉ざされているだけだ」 軽く吐息を吹きかけながら、アヤの耳元で囁く。 息をかけた瞬間、おぞましい物に触れたかのようにアヤは身を竦ませた。 「……私をどうするつもりですか?」 だが態度とは裏腹に、意外と気丈そうにアヤは言い放つ。 「断わっておくが、お前だけじゃないぞ。お前“ら”だ」 「……っ」 撫でるような力加減でアヤの太腿に触れる。それだけでアヤからは声にならない声が上がる。 「それに、どうされるかの予想くらいはついているだろ?」 腿に触れていた手を次第に動かし、アヤの股に向けてじっくりと動かしていく。 「い、いやっ!!」 この状況に耐えかねたのか、アヤは必死で身体を動かして逃げ出そうとする。 だが上半身はしっかりと拘束されている上に視界まで閉ざされているのだ。 駄々を捏ねる子供のようなアヤを、俺は仰向けになるよう押さえつける。 「分かった分かった。お前の気持ちはよく分かったから、そんなにねだるなよ」 「ねだってなんかいません! ふざけないでください!」 嘲笑を交えるようにして言った俺の言葉に、アヤは本気で言い返してきた。 「ふざけてたら、こんな事は出来ないな」 俺はスカートの中に手を突っ込むと、下着を一気に引き下ろす。 そして閉じようとする脚を手で遮りながらアヤの秘部をしっかりと観察する。 「へえ……随分と綺麗だな」 「……いやぁぁ……見ないでください」 アヤの悲痛な叫びが、逆に俺の被虐心を増大させる。 肌と同じ白の膨らみに、深くしっかりと刻まれたスリット。当然はみ出しなど一切ない。 だが、何よりも俺の興味をそそらせることがあった。 「それに全く毛がない。見てくださいと言わんばかりだな」 語感に嘲りを込めてやる。 すると俺のこの言葉に、今まで沈黙を守っていたアメルたちが反応した。 「見せていただいてもいいですか?」 「ああ、いいぞ」 俺が許可を出すと、二人とも見やすいだろう位置に動き始めた。 俺もアヤの背後へと回り、強引に大きく脚を開かせる。こうすれば誰にとっても見やすい格好だ。 「うわぁ……本当に……」 「丸見えなんですね、アヤさんのって」 「ま、まさか二人とも……」 聞こえてきた声に、アヤは絶望的な気配を発した。 「そうか、紹介が遅れたな。二人とも、アヤに挨拶でもしておけ」 目隠しを取ってやる。 ようやく開かれた視界に飛び込んできたのは、一体どんな映像だったのだろうか。 ――少なくとも、アヤにとって希望を抱けるようなものではないだろう。 自分がどれだけ淫らな格好をしているのかの再確認と、アメルたちの淫蕩な表情なのだから。 「アメルさん……カイナ……」 「あんまり抵抗しない方がいいですよ、アヤさん」 「そうですよ。素直にしていれば、御主人様はとっても気持ちよくしてくださいますから」 「まあ、そう言うことだ。諦めるんだな」 うなだれるアヤを尻目に再度目隠しをすると、秘裂を撫で上げる。 そのせいで脚は開放されたが、すぐにアメルたちが押さえつけるので心配はない。 「やっ! 止めてください!」 「そう嫌がるなよ、自慰の経験くらいあるだろ」 言いながら指を少しずつ動かしていく。既に指先は、朝露程度には湿り気を帯びていた。 「あ……ありません、そんなこと!」 「ふぅん。じゃあ、完全に処女ってわけだ」 俺は指先をアヤの中に埋没させる。 「うっ……」 うめき声を上げるアヤを意に介さず、俺は指でじっくりとアヤの内部を弄んだ。 入り口付近を軽く撫で回しながら、指で抽送するように出し入れする。 「やだ……中に入って……いやぁ……」 「流れ出した蜜が指に絡み付いてきてるぞ、それもたっぷりとな」 アヤの耳元で、俺は親切にも実況してやる。 するとアヤの内側からは、途端に堰が切れたように蜜を流し始めた。 目隠しをされているために、アヤの感覚は普段よりも異質で鋭敏になっているのだ。 未知への恐怖と好奇心が、更なる快楽をアヤの身体に与える。 言葉責めですらも、普段の何倍も効果が高くなる。 「こいつは凄いな……内側から次々に溢れ出てきてるぞ」 俺の言葉を受けて、アヤの内壁が俺の指をきつく締め付けてきた。 指先から脳へと伝わる感覚に俺は狂喜する。この女の具合に。 「気持ち良いか?」 耳元で囁く。アヤは何も言わずに、深く呼吸をするだけだ。 だがそれは俺にとってなにより如実な返事。 「じゃあ、もっと気持ち良くしてやるよ」 「い、いりませ……ああぁっ!」 アヤの言葉は最後まで紡がれることなく嬌声に掻き消された。 その声は偽りではない。心の底から流れ出る真実の声。 「どうした?」 俺はアヤに意地悪く問い詰める。 アヤは何も答えずに、ただ先ほどよりもさらに深い呼吸を繰り返すだけだ。 俺はもう一度、さっきと同じ事をしてやる。 「ふわああぁぁっ!!」 「おっと」 折れるのではないかと思わせるほどアヤが身体を仰け反らせた。俺が支えてやらねばならないほどに。 俺は空いた手でアヤの背中を抑えてやる。だがもう片方の手を休ませはしない。 アヤの膣内に存在する少し窪んだ部分を先ほどのように指で引っ掻く。 「だめぇ、ダメです……指、もう許してください……ああっ!!」 アヤが身体を激しく揺さぶった。腰をガクガクと震わせ、髪を舞わせ首を振り乱す。 もう自分では体勢を維持できないかのように、アヤは俺に身体を預けてきた。 俺は胸板で受け止めると同時に、アヤの内部に本気で指を這わせる。 指の腹に感じるザラザラとした感触の部分。 その中に存在する、最もアヤに快楽を与える部分を扱くようになぞってやる。 今までのように軽く刺激を加えるやり方ではない。重点的に責めてやり、その間に指の動きを休めることもしない。 いや、むしろ愛液の後押しを受けて加速しているとさえ言えるのだ。 「お願いです……もう、指……やめて!」 激しい俺の責めにアヤは必死で懇願する。 全身からはじっとりと汗を流し、口の端からはゆっくりと涎が垂れ出していた。 「一つ良い事を教えてやろうか?」 アヤに身体を密着させたまま、耳元で再度囁く。 「俺はまだ片手しか使ってないんだ。これが何を意味するのか、分かるよな?」 言いながらアヤの腰を抑えている手で、自由だということをアピールするために脇腹の辺りを軽く叩いてやる。 「いやぁっ! やだやだぁっ!!」 「安心しろ、そこまではしないからよ……まだな」 さながらアヤは泣き喚く子供のようだった。快楽に流されまいと必死で耐えているかのように。 果たして『まだ』の意味まで理解できたのだろうか。 まあ、理解できなくても構わない。 俺は手首を使いながら指の出し入れをもう少し速め、首筋を舌で責める。 「もう……もう許してください! もうダメぇ!!」 アヤが叫ぶほんの少し前から内部には変化が訪れていた。それが俺に限界の兆しを知らせる。 「壊れるなよ、アヤ」 冷淡にそう述べると、しっかりと充血していた陰核を親指で押し込む。 「あああっ!!」 アヤの腰が跳ね上がった。そのまま腕の中から逃れるように身体を暴れさせる。 俺はがっちりとアヤを押さえつけるが、それを上回るかのような力を込めてきた。 「お願いだから、もう許してください! 離して!! っくううぅぅっ!!」 叫びながら前の穴から粘性の強い体液を飛ばしだした。 濁った液体は放物線を描き、食い入るように見つめていたアメルたちに飛び掛かる。 「ああっ……わたし、漏らしちゃったの……?」 呟きながら愕然とした脱力感を漂わせた。 暴れた勢いがあまりに強かったからか目隠しがズレて視界が開けている。 まどろんだような瞳で宙を見据え、瞼が重そうだ。 それにしても――可愛らしい勘違いだ。まあ、知らなければ仕方がないだろう。 「それは潮吹きっていうんだ。漏らしたのとは違う」 「潮吹き……?」 心ここにあらずといった様子で、アヤは今まで未知であった単語の復唱をする。 「それに気持ちよかっただろ?」 答えは返ってこなかったが、別に構わない。どこまで耐えられるかも見物だからな。 「アヤ……?」 薄笑いを浮かべながらもう一度アヤに手を伸ばそうとしたとき、カシスの声が届く。 それは僅かな時間存在した沈黙の際に発せられた声であり、不必要に大きく響いた声だった。 目をやれば、アヤと同じく拘束され視界も塞がれている状態だったが、身体は確かに起き上がっている。 俺はカシスの目隠しをそっと外してやると、笑顔を向けた。 「よう、カシス」 「なに……コレ……?」 果たしてカシスの目には、どう映ったのだろうか。 アヤは惚けた表情のまま愕然としており、アメルたちは何もせずにただ見ているのみ。 室内には独特の雰囲気と匂いが、所狭しと立ち込めている。 そして俺は悠然とした態度で隣にいる。 「ウソ……でしょ……?」 ようやく絞り出されただろうカシスの声は震えていた。 続 目次 | 次へ |
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