陥落の誓約者-後編-「本当に、大丈夫でしょうか?」 またか。 多少うんざりしながら心の中だけで嘆息する。 ベッドへ寝転がる俺の隣に腰掛けたまま、アメルは泣き出しそうな瞳を向けてきていた。 不安の原因は言わずもがなアヤたちのことだ。 どうやら、昨日二人をそのまま帰してしまったことがアメルには相当悩みの種となっているらしい。 昨夜から口を開けば不安を訴えてくる。 その都度様々な手段で説得しているにも関わらず、一向に口数は減らない。 一応俺の身を案じているのだが、ここまで来ると煩わしく感じてしまう。 まあ、確かにアメルの不安も分からなくはない。 確信があるとはいえ、全て思惑通りに進むという保障はどこにもないのだ。 信じていた物が瞬く間に崩れ去ってしまう光景は俺にも縁遠い存在ではないのだから。 「心配するな。と言っても、もう無理だろうな」 自嘲するような笑みを浮かべながら上半身を起こす。 「聞きたいことに答えてやるよ。何でも聞くといい」 「じゃ、じゃあ……その、何で二人をあのまま帰したんですか?」 俺の言葉にすぐさま反応したアメルは即座に質問をぶつけてきた。 最も、それ以外に聞きたいこともないだろうから予想通りとも言える。 「帰したわけじゃない。そうだな……休ませたってのが一番近いだろうな」 相応しい表現を探すのに一瞬手間取った。 「昨日あのまま続けても、おそらくは効果が無かっただろうな。いや、あったのかもしれないが、それは確実とは言い難い。 言い換えるなら、緩いって所か。それは俺の望む形じゃないってことだ」 「ですけど、もし誰かに言っていたりしたら……」 「それはない」 アメルの反論を俺は首を横に振って否定する。 「昨日の出来事をアヤたちが誰かに話していたら、もう何らかの反応があっていいはずだ。 それがないって事は、あの二人は昨夜の事をまだ話していないんだろ」 「それはそうですけど……」 「それともう一つ、誰かに言えるか?」 まだ納得出来ない様子に、もう一つ材料を与えてやることにする。 「もし誰かに話すなら、昨日の事を寸分漏らさずに口にしなけりゃいけない。それに、発端となったカシスのこともな」 「あっ……」 「そう考えれば自分から言うとは考えにくい。これで納得したか?」 もう一言付け加えると、ようやく納得したような表情を浮かべた。 カシスにしてもアヤにしてもあれを誰かに言うのは相当に苦痛だろう。ましてや昨日まで生娘だった二人ならなおさらだろう。 最も誰かに言ったりはしないだろうがこのまま泣き寝入りするとも思えないのだが、それは伏せておくことにする。 だがどの道これで押し問答は終わると思っていたが、またすぐに表情が沈んだ。 「ですけど……それが全部確実とは言い切れないと思ってしまうんです」 力無い声を出しながらアメルは俺の胸板へ顔を埋める。 「もしも言うんじゃないかって不安が、どうしても頭から離れなくて」 弱々しい態度からは、俺への気遣いがはっきりと感じられた。 そして言葉は俺の心も薄く刺激する。 はっきり言えば俺自身も恐れてないと言えば嘘になるだろう。 成功させるだけの自信があるとはいえ、失敗することだってある。 だが、だからといって恐れていても何も解決しない。だったら怯えるだけ無駄だ。 打てるだけの手は打ったのだから、これ以上は好転させる材料も無い。なら、後は待つだけだ 何よりアメルの前で一瞬だって恐れた姿を見せられるものか。 「さて、な。そこまで恐れていちゃ、何も出来ないぜ」 わざと余裕をたっぷりと持った言動を見せると、不意を突いてアメルの唇を奪う。 挨拶程度の軽い物だ。そしてそれ以上は何もしない。 事に及ぶのはもう少し後。もうすぐ結果は出るだろうが、何よりまずアメルを黙らせたかった。 「それとも、俺が信じられないか?」 お互いの吐息を感じられるほど近く、目を見たまま尋ねる。 何も言っては来なかったが、アメルの瞳は言葉以上に語っていた。 やれやれ。やっと大人しくなったか。 それに、俺の考えが正しければ全ての結果がもうじき分かる頃のはずだ。 しかし考えは唐突に中断させられた。無機質に響くノック音によって。 「マグナさん。あの、二人がまた……」 どこかもどかげな装いでカイナの声が聞こえた。二人というのは言うまでも無いだろう。 ベッドから完全に立ち上がると扉まで近づき、ドアを開ける。 そこには予想通りの顔ぶれが揃っていた。すなわち、アヤとカシスの二人の姿が。 「用件は部屋の中で聞くよ」 二人の様子を一瞥してから部屋の中へと招き入れる。 まずカシスが迷い無く後に続き、その次にアヤが戸惑うような足取りを見せた。 部屋の奥まで歩いてから、俺は改めてカシスたちの方へと向き直る。 すると空気が変わっていた。 温度が下がっているとでもいうのだろう。張り詰めた緊張感が周囲を支配している。 普通ならば逃げ出したくなるようなそれも、俺にとってそれは心地良い感覚ですらあった。 耳が痛くなるほどの静寂。 まだ陽は高く上りきっていないというのに、外部の喧騒など何一つ聞こえては来ない。 アメルは気配に気付いたらしく困惑の視線を俺たちへと向け、カイナもどうするべきか戸惑いを隠せないでいた。 ただ一人アヤだけが俯いた姿勢のまま何も言わず動かずに床を見ており、そして時々上目遣いに俺を見ている。 嵐の前の静けさとでもいうべきか。カシスからひしひしと伝わってくる激情を俺は正直に受け止める。 全身の意識が軽く覚醒し、より鮮明に世界の全てを感じ取っていく。爽快な気持ちだ。 「朝食は食べた?」 冷たい声だった。昨日とは比較にならないほど冷酷な印象。同時にカシスは一歩踏み出す。 それにしても、質問の意図が分からない。 額面通りの言葉なら何の気もなく返事も出来るが、明らかに異質な気配がそれを否定する。 とはいえ何時までも押し黙っているわけにもいくまい。 目の前の相手の為にも。 「美味しかった? 貴方にとっては最後の食事だったから」 痺れを切らしたのか、カシスの方から二の句を続けてきた。その言葉で俺はようやく理解した。 どうやら今までの言葉はカシスなりの慈悲を与えたつもりらしい。 ただ殺気とあまりにも似つかわしくない台詞との落差に結び付けらなかったのだ。 頭の中でようやく導き出された答えに納得すると同時に笑いが込み上がる。 気を利かせたつもりでいるようならば甘すぎる。 その気があるのなら無駄な慈悲や時間を与えずに殺すのが最良なのだ。それが出来なければ決意とはいえない。 俺が後ろを向いている時や悩んでいる時など機会は幾らでもあったはず。 つまりそれは覚悟が出来ていないということの証明に他ならなかった。 そしてもう一つ。 視線を動かし考えが間違いないことを確信する。ならば恐れるには値しない。 出方を窺うように沈黙を保っていると、やがてカシスの右手が動く。 「貴方が昨日教えてくれたことよ」 その手には見慣れた刃が握られていた。 発端となった道具で全てを終わらそうと言う事らしい。これもカシスなりの心情の表れなのだろう。 刃を真っ直ぐに構え、俺へと狙いを定めるように睨んでくる。 反射的に身構え俺を庇おうとするアメルたちを片手を上げて制する。慌てる必要はないのだ。 平然とした態度のままカシスを睨み返す。 「……さよなら」 囁くように低く、それでいて怒気の込められた台詞。俺の態度が更に癪に障ったようだ。 唇が僅かに吊り上がり一直線に俺へと突き進むべく脚が最初の一歩を踏み出す。 制止をかけておいたはずのアメルたちすら命令を振り切って動こうとする。 だが動くことはなかった。 予想外の出来事にカシスは驚愕し、全てを忘れてしまったように固まっている。 アメルもカイナも途中で時が止められたように静止していた。 そして俺は、この結末に満足したように薄く笑う。全てが予想通りに動いたこの結末に。 「アヤ……どうして……?」 身体へ抱きついてまで動きを止めた信頼すべきパートナーへと向けられた瞳は混乱に満ちていた。 最も信じていたはずの相手に裏切られた。おそらくはそんな気分だろう。 抱きついているアヤに突進の勢いを止めた時ほどの力はもう無かった。 にも拘らず振りほどこうという素振りすら見せない。カシスの受けた衝撃はどれほどやら。 「ごめんなさいカシスさん……でも私、もう無理なんです……」 幾許か罪悪感を感じているような表情のままアヤは口を開いた。 途切れ途切れの言葉ながら口調は意志を持っているようにはっきりと強い。 「マグナさんにもしものことがあったら……私……わたし……」 「どうして、どうしてなのっ!? ねぇっ、あたし言ったよね!? こうするって相談したよね!?」 感情が爆発したのか混乱したように叫ぶ。 カシスの悲痛な叫びでもアヤの決意を覆すことは出来なかったらしい。 すなわち、俺に抱かれたいという想いを。 徹底的な凌辱と絶え間なく受け続けた快楽に屈服し、アヤは自ら理性の箍を外して堕ちていた。 兆候は昨日の途中から見せ始めていたが、尋ねてきた時の様子から確信できた。 肉欲を求める女の表情は俺にとって見慣れた物の一つなのだから。 俺はカシスが混乱している間に悠々と近づくと瞬く間に右手首を捻り、刃物を奪い取る。 「しまっ……!?」 すぐさま奪い返すべく飛び掛ろうとするが、再びアヤに封じられたらしく動く事は無かった。 「残念だったな。それとも気付いてなかったのか?」 捻り上げた手をそのままにもう片方の手で短刀を近くにいたカイナへと渡す。受け取るとカイナはすぐ手の届く範囲から離れた。 「アヤのことを」 俺の言葉にカシスは息を詰まらせたような様子を見せ、アヤは整った顔を甘くとろけさせる。 今までに漏らした言葉から察するに、どうやら昨日解放されてから俺を殺そうと思い立ったようだ。 それも受けた恥辱を自らの手で濯ぐべく、アヤへと相談を持ちかけて。 しかしそれが悪かった。 アヤが堕ちていることに気付いていればどうにかなったのかもしれない。 だがカシスはそれに気付くことなく、結果として裏切られていた。 俺を求めているアヤがそんなことを許すはずがないのだから。 最も信頼する相棒の裏切りによって好機を失い、絶望的な状況のまま沈痛な面持ちだけをカシスは浮かべている。 アヤが押さえつけているとはいえ完全に動けないようにされているわけではない。 それでも動かないのは叩き落された絶望があまりにも深いからか。それとも自分自身への不甲斐なさか。 どちらにせよカシスにはこれ以上の手は残っていないだろうし、これ以上は俺も許しはしない。 「マグナさん……」 抱きついた体勢そのままにアヤは色欲に溺れた瞳で俺を見つめてきた。 声にも艶が出ており、誘っているようだ。 「昨日から、身体中が疼いて仕方ないんです。何度自分で慰めても駄目で……」 余裕無く紡ぎだされる懇願の言葉を傍らで聞いたせいか、カシスの方が顔を赤く染めていた。 アヤも顔を赤くしているとはいえ、それは羞恥よりむしろ欲情しているからだろう。 「お願いします。何でもしますから、もう一度、昨日みたいに……」 「一度だけでいいのか?」 言葉を遮るようにして聞き返す。 そもそもがたった一度だけで満足できるはずもないのだ。 一度と言ってしまったのは残っていた僅かな羞恥心と、カシスへ負い目からだろう。 アヤ本人でもおいそれとは気付けないほどの小さな感情。それを取り払えば終わりだな。 「そ、それじゃあ……!?」 「けれど、条件がある。まあ、言わなくても大体の予想はつくだろうが」 歓喜の声を再度遮り、笑みを形作りながら用意しておいた言葉を話す。 「カシスを堕とせ」 「なっ!?」 危機を感じたらしくカシスは叫び声を上げながら慌てて逃れようとするが、俺も押さえている今の状態ではまるで話にならない。 握った手に力を込めながら、アヤの感情を扇動すべく更に言葉を続ける。 「簡単だろう? 今のアヤと同じようにしてやればいいだけだ。強情な心を素直にしてやれ」 内容に魅力を感じさせるように優しげな口調で、俺はアヤの心を導く。 導くと言ったが大したことではない。既に決まった方向に向いているのだから、ほんの少し背中を押してやる程度だ。 それだけでアヤの願いは成就するとなれば否定などしないだろう。 それともう一つ。 二人が同じ立場になれば、アヤは感じている僅かな負い目を気にする必要もなくなる。 それに気付くかまでは分からないが、間違いなく決断するだろう。 更なる快楽に溺れ、抜け出す事の出来ない深みに自ら嵌まるために。 「私と同じに……はい、わかりました」 俺の言った台詞を噛み締めるように反芻すると、予想通り頷いた。 そしてそれを聞いたカシスの顔が恐怖に染まる。 「アヤ……冗談だよね? ねぇ……」 最後の賭けでも行っているかのように力無く呟く。 だがアヤは何も答えることなく背後から手を伸ばし胸元へ触れると、優しく指を這わせだした。 「やめ、て……よぉ……」 それだけでもカシスの膝は力を失い、甘い声と共にほんの少し姿勢が下がる。 もう俺が押さえつける必要は無かった。手を離しても逃げようとせず、快楽に屈し始めている。 アヤの技術はまだまだ稚拙なものだったが、それでも肉欲を秘め隠しているカシスには充分すぎたらしい。 ましてやそれが心を許している相棒ならばその身で味わう刺激も格別というものだろう。 指が動くたびに身体を反応させ、抗うように小さく声を漏らしていた。 「ほら、カシスさん。貴女ももう我慢できないんじゃないですか? 私もそうなんですよ」 苦しげに喘ぐ様子を見てアヤが耳元で囁く。 「今だってもう我慢しきれないくらいなんです。だからね、カシスさん……」 諭すように穏やかな口調だが手の動きは止まっていない。 ゆっくりとした指使いで乳房を弄り、カシスの官能を高めようとしていた。 その目論見は成功したらしく、身体を震えさせながら目を瞑る。 伏せられた瞳の端には大粒の涙が浮かんでいた。 「アヤぁ……正気に戻ってよぉ……ねぇ、お願いだからっ!!」 涙を零しながら悲痛に叫ぶが、アヤの手は一縷の躊躇も見せない。 それどころか、今まで胸元だけを責めていた手の片方をカシスの股間へと潜り込ませる。 「んっ……!」 「すごい……もう濡れてるんですね。ほら、やっぱり私と一緒じゃないですか」 苦笑しながら秘部の様子を口にすると手を一度引き抜きカシスの目の前に見せる。 そこにはアヤの指摘通り愛液が絡みついていた。それも濡れ始めたというような可愛らしいものではない。 指全体をべっとりと汚すようになっている量から判断するに、男を受け入れても大丈夫なほど。 「そ、それは……」 「もう隠す必要なんて無いでしょう? ね、カシスさん」 言葉の一つ一つがカシスの心を削り取っているようだった。 どこで知ったのか耳たぶを甘く噛み、耳をなぞる様に舌を這わせている。とても昨日まで生娘だったとは思えないほどの淫猥さだ。 汚れた指を再び股間へと戻し、肉欲を引きずり出すべく動かしているのだろう。 カシスは素直に快楽の声を上げながらアヤの手に自らの手を添える。見方よっては遮ろうとも助長しようと取れる行為。 唯一惜しいのは服が邪魔をしていて完全には見えないというところか。 それでも服の上からの懸命な手の動きと、愛液のかき混ぜられる淫靡な音とが相まってカシスを篭絡していく様は充分に感じ取れた。 アヤの右手が布越しに蠢くたびに吐息を吐き出し顔を悩ましげな表情へ変化させる。 「意地を張っても辛いだけですよ?」 「ひぃっ!!」 それまでの発情させられているような状態から一変し、強烈な快楽に襲われたようだ。 あの反応の仕方と布の様子から察するに、陰核でも摘まれたか。 瞬く間にカシスの様相が変わり、膝の力がさらに抜ける。 「ほら、こんなに気持ち良さそう……カシスさんだって本当はマグナさんを求めてるんじゃないですか?」 「だめ……そこは……」 小動物が鳴くようにか細い声でうめく。呼吸も荒さが混ざりだしてきた。 それでも責め手は休まっていないのだろう。脚を伝わり愛液が垂れ落ちているのが目に飛び込んでくる。 汗の滴のようにも見えるそれは太腿を通ってゆっくりと下がり足首まで届く。 這った後が淫らに輝き、カシス自身もほどなくしてその後を追った。 膝は完全に力を失い、とうとう床に座り込んでしまう。それまで耐え切っていたのが不思議なくらいだ。 いや、耐え切っていたというよりもアヤが座り込むことを許さなかったのかもしれないが。 腰が抜けたように座り込み、床の絨毯が液体を吸い込んでゆっくりと染みを作り出していく。 「カシスさん……何をそんなに頑なになってるんですか?」 「そうだな。今さら守るものなんて無いだろう?」 今まで沈黙を守っていたが、アヤの言葉に便乗する形で座り込んだカシスに向けて言い放つ。 俺の言葉にカシスは打ち抜かれたように反応し、怯えたような瞳でこちらを見上げる。 だがそれ以上何も言いはしない。そもそも二人だけの時間に割り込んだのは俺の方だ。 押し黙ったまま見ているとカシスは諦めたのか俺ではなく、後ろを振り向いた。 「ねぇ……もしかして、あたしの事恨んでる?」 突然の言葉にアヤの手は動きを止めた。 「あたし、守れなかったばかりか迷惑までかけちゃって……」 昨日と似たような台詞を口にしている。だが今日は後悔というよりも救いを求めているように感じられる。 「だからあたし……アヤにだったら……」 「恨んだりなんかしてませんよ。それと、嘘ですよね。それ」 罪を告白する罪人のように語られた胸の内をアヤは笑みと共に一言で否定した。 心の全てを見透かしたような迷いの無い言葉だった。 「偽りの無い、本当の言葉を聞かせてください。こんなに濡らしてるんじゃ、それ以外説得力がありませんよね?」 秘部に当てられた手が再び動きだし、いやらしい水音を立てる。 「我慢することで自分を戒めているつもりになっても、私の為には全然なってませんよ」 やや強めの口調となり、責め手も辛辣な物へと変わった。心を容赦なく削り取る鋭い言葉だ。 「……それに、カシスさんと一緒なら、私……」 「アヤと……一緒に……?」 だが一転してほんのりと頬を赤めながら紡がれた言葉にカシスは敏感に反応した。 おそらくは今まで最も甘美な誘惑だったのだろう。ましてや辛辣な言葉の後に優しい言葉をかけたのだから効果は大きい。 身体中が蕩けたように恍惚とした表情を浮かべながらアヤへと身体を預ける。 「一緒ならあたしも……それなら……」 自らへ言い聞かせるように呟き、その瞳には別の感情がありありと輝いていた。 「カシスさん……?」 「アヤぁ……んっ」 不安げに顔を覗き込んだ愛しい相手の名を口にしながらカシスは唇を重ね合わせる。 突然の出来事にアヤは反応が遅れ、一方的且つ強引に奪われる結果となった。 勢いとは裏腹に柔らかく唇を吸い付かせ、鼻に掛かる甘い吐息を漏らす。 躊躇いつつも小さく舌を出して唇をなぞるように舐めると、アヤもようやく反応を返してきた。 こちらも照れたように舌を出し、カシスの舌へと絡め合わせる。 お互いが紙一重しか離れていない距離で行われる口唇愛撫はさながら女同士の妖しい営みのように見えた。 ――終わったな。 俺は心の中でそう呟く。 なまじ絆の強い分それが仇ともなるのだ。 もはやその身に受ける快楽を拒む事は無く、甘受する為にはいかなる犠牲も厭いはすまい。 そして、しばらく続くかと思われた淫靡な絡み合いはアヤから唇を離ことで唐突に終わりを告げた。 「アヤ……?」 「駄目ですよカシスさん。気持ちは分かりますけど、私じゃなくて、相手はマグナさんなんですから」 やや興奮気味に言いながらアヤは立ち上がり、服の裾を摘んでたくし上げた。 白い下着がゆっくりと晒され、羞恥と興奮からか顔を赤くしながら何ともいえない表情を見せる。 「マグナさんお願いです……約束は果たしましたから、どうか」 「あっ、あたしも……お願いだからぁ……」 カシスは座り込んだまま脚を開き、股を俺へと曝け出す。 それだけでも中々壮観な眺めだったが、一つだけアヤに驚かされた。 まさか下着の上から弄っていたとは。 秘裂に布が限界近くまで喰いこみ、愛液で濡れたおかげで秘唇の形を明確に浮き出させていた。 布だというのに美味そうに貪っており、陰核の膨らみもはっきりと分かる。その身体全てが男を誘っている。 対照的な二人の美女による淫らな誘いに一瞬頭を悩ませそうだったが、カシスの姿には負けた。 都合の良い体勢で腰を下ろしているカシスを横抱きに持ち上げるとベッドへと運ぶ。 「マグナさん……わ、私も……」 放って置かれると不安になったのかアヤが傍へとすり寄って来た。 上から見るその姿は大切なものを必死で繋ぎとめようとする光景に良く似ている。 「心配するな」 短くそう告げると期待に胸を膨らませたカシスへと向き直り、濡れた下着へと手をつける。 乗せた程度でも布からは愛液が染み出し指を汚す。 やはり大したものだ。薄絹一枚隔ててこれだけのことができるのは、やはり同姓ゆえだからだろうか。 縁へと指を掛けて引き下ろすと途端に雌の匂いが飛び出してきた。 鼻腔を擽るその香りを楽しみながらショーツを完全に脱がせる。 「カシスさん……凄い……」 見学していたアヤが感嘆の吐息を漏らす。 完全に引き下ろされた下着は水にでもつけたように湿り、吸い切れなかった淫蜜を涎のように吐き出している。 下着でそれなのだから秘所の様子は凄まじかった。 まるで失禁したかのように内腿までが愛蜜に濡れそぼり、いやらしく照り輝く。 控えめに存在する陰毛も淫液に塗れて汚れて力無く垂れていた。 それを目にしているとある考えが閃く。 閃いたというよりも思いつきに近いのかもしれないが、この女にはお似合いだろう。 「カイナ、それを貸してくれ」 「これですか……?」 「ああ」 首を捻りつつも差し出した物は、俺の望み通りカシスの使っていた短刀だった。 頷きつつそれを手にすると切れ味を確かめるように光を照り返させる。 研ぎなおしでもしたのか一昨日見たときよりも鋭さが増しているようだ。 「あの、一体何を……」 「動くなよ」 一切の疑問の声を無視して刃を股間へと当てる。肌に触れた瞬間、カシスは驚くように身を竦ませた。 「下手に動くと傷がつくぞ」 強い調子で恫喝すると覚悟を決めたのか身体の動きを止める。 俺としても無駄な怪我などさせたくはない。 手首を動かす度に刃の角度を微妙に調整して陰毛を根元から巧みに剃り落としていく。 刃が動く度にカシスは声を押し殺して全身に力を込め、傷つけられないためか真剣に見守っている。 「んっ……」 突然カシスが小さく喘ぐ。 あまりに意識しすぎたのか秘唇からは一旦止まっていたはずの愛液が再び流れ出し始めいていた。 神経を撫でるような刃の刺激とそれに傷つけられる事への恐怖感が注目している視線と相まっているのだろう。 刃が肌に当てられる感触だけで、カシスは達したかのように濃い蜜を分泌させる。 「あっ、やだぁっ!どう……して……ぇ!?」 カシスは自分の置かれている状況すら忘れたかのようにじわじわと身体を震わせ始めた。 こうなっては時間をかけるわけにもいかない。今までのゆっくりとした動きを止めて、手早く剃り上げる。 「終わりだ」 嘲笑するように言いながら刃を置き、肌に付着している毛を指で削ぎ落とす。 生えていたカシスの陰毛は全て剃り落とされ、子供のようにつるりとした秘部を晒す。 隠すものの全て無くなった秘唇は照れたように赤くなっていた。 今までと違う肌の感覚に戸惑っているようだが、すぐにそんなものを気にしている余裕もなくなるだろう。 「これでアヤとお揃いだな」 「えっ……?」 「あっ……」 俺の言葉に二人の女は惚けたように呟く。アヤは羞恥心から、カシスは歓喜からが声の源だろう。 アヤに対するカシスの強烈な依存心がそんな声を上げさせるのだ。本人もようやく気付き始めた感情が。 だがもう身体へ教え込んでやる必要も無い。一度意識した以上後は勝手に動き出すだろうから。 それに今は俺の物になった女を改めて味わう方が先決だ。 「昨日見たときよりも随分とそそられるな」 綺麗になった秘部へとさっそく指を滑り込ませると片手で割れ目を大きく広げ、顔を覗かせた挿入口にもう片手の指を潜らせる。 触れているだけでじっとりと愛液に汚れ、内部へと入った二本の指もふやけそうだ。 「んっ! うぁっ!」 柔らかな膣襞を指で鋤き起こしてやるたびにカシスの身体は撓るように動き、腰を浮かせる。 口元から漏れ出る悦楽の声は快楽のみに彩られた甘い響きだった。 特別な技巧など凝らす必要も無い。色欲に狂ったカシスは指をただ動かすだけでもこれだけの快楽を味わっている。 「気持ちいいっ! でもだめ……足りないよぉ!!」 身体を弓なりに反らし腰を激しく揺らしながら絶叫を迸らせた。 きつく握り締められたせいでシーツに大きな皺が刻まれる。 「お願い、抱いてよぉっ!!」 堪え切れずに爆発した一切の偽りない感情を耳にしながら指を引き抜き、代わりに肉棒を当てる。 淫裂から俺の体温でも感じたのか、肌同士が触れ合った途端にカシスの顔が歓喜に打ち震えた。 もはや娼婦といっても差し支えないその様子に笑いを浮かべながら、俺は肉棒を一息に押し込んだ。 「んあああぁっ!!」 膣道をいっぱいに満たす肉の感触に興奮したらしく、手を肩へ回し身体を密着させて腰を強く押し付けてくる。 今までの疼きを一気に解消しようというのか柔肉は震えながら肉棒を包み込み、奥へと引き込むべく蠕動している。 すでに根元近くまで埋まっているにも拘らず、淫らな膣だ。だが俺も嫌いじゃあない。 腰を使い、大量の愛液を溜めている膣内を存分に攪拌してやる。 「すご……いっ! あっ、あぁん!」 突き入れるたびにカシスは悶えるように声を上げて喘いでいた。 それでも受け身のままでは物足りないのか自ら腰を振ってカシス自身も快楽を心の底から貪っている。 細かな技巧など無い本能的で乱暴な動きだが、限界の近いカシスにはぴったりだ。 嬌声と同時に唇からは熱い吐息が漏れ、俺の顔へと吹きかけられる。こそばゆい感覚がむしろ心地良い。 とてもさっきまで俺の事を殺そうとしていた女と同一人物とは思えない。 眼前のカシスは切羽詰ったよがり声を上げながら、限界を示すように腰を痙攣させた。 「はあぁぁんっ!」 指先に力が込められ、俺の身体を押し潰さんばかりの勢いでしがみ付いてきた。 膣壁は震えながら収縮を行い、中の肉棒を揉み搾って射精を促してくる。 俺自身もその動きに逆らわずカシスの身体を思い切り引きつけ、一気に奥深くまで突き入れ、欲望を解放させる。 心地良い射精感を味わいながら大量の精液で蠢く膣内を蹂躙していく。 おびただしい淫蜜を吐き出しながらカシスは膣内射精の快感に酔いしれたのか表情を蕩けさせていた。 絶頂の余韻を味わっているのかようやく腕の力が抜けてきた事を確認しながら肉棒を引き抜き身体を離す。 それでも過敏に反応してか下半身を引き締めてくる。 まるで俺の精液を一適たりとも逃すまいと必死で食い下がっているようにも見えた。 「カシスさん……本当に羨ましいです……」 羨望の眼差しを浴びせながら、傍らにいたアヤが呟く。 俺たちの絡み合いを見ながら慰めでもしていたのか胸元をはだけるような皺を服に作っている。 「本当に……羨ましい……」 アヤはカシスの秘部へと口をつけ奥に存在する俺の精液を吸い出そうと息を吸い込んだ。 液体を啜るような下品な音が響く。 「ひゃっ!! な、なに!?」 突如として襲い掛かった下半身からの刺激で強引に意識を覚醒させられたらしく、カシスがまどろみから目を覚ます。 そしてすぐに原因に気付くとアヤの頭部を掴み、どうにかして引き剥がそうとする。 「ア、アヤぁ……だめだってば」 だがまだ身体に力が入りきらないのだろう。弱々しい抵抗の声は逆に吸引されることを望んでいるようにも思えた。 アヤは乳飲み子のように吸い立て、カシスの中から容赦なく精液を奪っていく。 当然その全てが吸い切れるわけではないのだろうが、執念とでも言うべき様子を見せてくれる。 やがて、たっぷりと吸い取ったことで満足したのかようやく口を離す。 小さく息が吐かれ、口の端からは薄白い液体が僅かに見え隠れしていた。 一方のカシスは吸引に再び突き上げられたのか、果てたように身体を投げ出している。 中々どうして壮絶な光景だ。 口元についた液体を舌で舐め取るとアヤは俺の肉棒に優しく指を掛ける。 「マグナさん……」 そう一言だけ漏らしながら添えられた細くしなやかな指は前後に動き、俺に刺激を与えてくれる。 柔らかな手の感触はかなり興奮させられるものであり、脈打つほどだ。 心の込められた手淫に俺の物は一層大きさを増し、アヤの口からは物欲しげな吐息が漏れた。 「……好きにしていいぞ」 照れていたのか妙なところで律儀なのか、俺の言葉を待っていたようだ。 「ありがとうございます」 ようやく許しを得る事の出来たアヤは、うっとりとした表情を浮かべながら肉棒へと愛しげに頬擦りをする。 頬の柔らかな感触を感じて再び脈動してしまう。 俺の反応に喜んだのか顔に押し付けられたまま肉棒へと舌が這わされた。 唾液がたっぷりとまぶされており、竿の部分がゆっくりと舐め上げられていく。 舌先を動かしている間にも手は休まずに上下して俺の快感を高めている。 顔を密着させながらの舌奉仕のためにアヤ自身の顔も少しずつ汚れ、それが擦れて新たな刺激を作り出す。 舌の這う部分は次第に上昇し、やがて亀頭の部分へとたどり着いた。 肉棒の先端を腹の部分に乗せて舌の上で転がすようにして味わう。 長めの黒髪が顔にかかるが、それすら気にせず奉仕行動に熱中している。やや興奮気味に舌を動かしている様がたまらなく淫らだ。 何度か舐めていくうちに自制が出来なくなったらしく、唇を肉棒に被せた。 柔らかな粘膜がすぐさま絡みつき、微かな吐息が先端をそよぐ。 咽喉近くまで口に含み、舌で唾液を塗しながら顔を上下させる。唇も柔らかく、竿に擦れる感覚が心地良い。 唇で擦りながら小刻みな吸引を繰り返して尿道に残っていた精液を啜っている。 おそらく思いつく限りの技巧を駆使しているのだろう。下半身の昂ぶりはかなりのものだ。 懸命に頬張って舌と唾液を使って奉仕をしているが、それでも俺を果てさせるには足りなかった。 快楽は確かに大きいのだが、男を射精させるほどの口技ではないのだ。 本人もそれを理解していたらしく口を離す。 「これなら大丈夫ですよね?」 うっとりとした笑顔でそう呟くと身体を起こし、膝立ちになってショーツを脱ぐ。 こちらもカシスと同じように重みを増しているように見える。その布を置くと、俺の上まで寄って来た。 屹立する肉棒の上まで来ると自らの手で誘導して陰唇へと先端へと到達させる。 肉同士が触れ合い膣口を擦る感触に身体を震わせ、期待を表す嘆息を小さく漏らした。 「やっと、私の中に入れてもらえるんですね……」 感慨深げに呟くと、アヤはゆっくりと腰を下ろしていった。 愛液で充分に蕩けた膣口は柔らかく押し広がって肉棒を飲み込んでいく。 待ちわびた物をようやく望む形で手にすることが出来たからか、アヤの頬が羞恥に染まる。 膣は以前よりも心地良く、形状を忘れまいとするようにつぶさに絡み付いてきた。 「あっ!」 半分ほど飲み込んだ所で快楽に負けたのか腕の力が抜け、一気に根元までが埋まる。 ゆっくりとした刺激に慣れていた膣は不意打ちを受けたことに驚き、瞬間的に強く締め付けてきた。 予期せぬ事態のせいで俺を跨いで向かい合うように座り込み、そのまま動けなくなっているようだ。 突如として荒くなった呼吸を必死で整えると、俺の胸板目掛けてもたれ掛かって来た。 「全部入った……すごく、気持ち良いです……昨日よりも、ずっとずっと……」 対面座位で繋がったままどうにか余裕が出来たらしく、浅く弱く腰を使い始めた。 絡め取るように粘膜が吸い付き、俺から精液を搾り取ろうと熱く包み込む。 愛液に濡れた結合部からは微かな音が響き、新たな蜜が滴のように身体を伝わって落ちていく。 温かな液体の感触を肌に感じながらアヤの腰を掴み、相手をより深く感じるべく腰を突き上げる。 「んくぅっ!! あっ、すごい……あんっ、ふぁっ!」 強く擦り上げるたびに蜜液はしとどに漏れ出てはシーツへと吸い込まれていく。 激しく粘膜を擦られる快感に狂わされたのか嬌声を上げながら俺へと抱きつき、呼応するように腰の動きを激しくした。 蜜壷を強く収縮させ、官能が加速していくのが分かる。 アヤは抱きついたまま俺へと唇を重ねると待ちかねたように強引に吸い立てて来た。 俺の口内へと舌を差し込むと手当たり次第に舐めてくる。 がむしゃらに快楽を得ようとするアヤを受け止め、刺激を返すように舌で迎える。 舌を絡ませ、相手の口を嬲るように動かして昂ぶらせていく。 俺の妙技に打ち負かされたのか、アヤの舌は随分と大人しくなっていた。 荒々しさはまだ残っているものの手当たり次第ということではなく、俺の舌のみを相手にしている。 濃厚な口づけを交わし続けているために互いの鼻息が頬へと当たる。 アヤの荒い息を肌で感じながら腰を打ちつけ、互いの身体へ強烈な刺激を作り出す。 果てるべく快楽を求め続けていたアヤの身体が耐えられた時間は短かった。 「んんっ! んんんっっっぅ!!」 強く吸いつきながら秘裂は強烈に締め上がり、言葉にならない悲鳴と共に絶頂に達する。 一夜分の疼きが溜められていたこともあってか、迎えた絶頂は凄まじかった。 巻きつくような襞のうねりを見せて精液を搾り取ろうとしている。 壊れたように腰を揺らし、内股にありったけの力を込めて身悶えている。 俺はまだ満足していないのだが力強く抱きつかれたせいでろくに動く事もままならず、仕方なく果てたばかりの襞をゆっくりと浅く擦る。 「ふぁっ、あっ、ひゃっ……んんっ……」 先ほど果てたばかりだというのにアヤの膣は敏感に刺激を感じ取り、粘膜を絡ませて俺を奉仕する。 大量の愛液が肉棒を蕩けさせ、すぐに締め付けが心地良いものへと変わっていく。 呼吸を整えていた筈の口からはもう甘い吐息が漏れ始めていた。快感に意識を翻弄されているらしく既に力は入っていない。 自由に動こうと思えば出来るのだが、あえて行わずに浅い刺激を与え続ける。 そして丁寧な突き入れの快楽に酔い始めたときを見計らい、それまでとは比べものにならないほど強く突き上げる。 「ひあぁぁっ!!」 ゆっくりとした動きに慣れていた身体にこの衝撃は新鮮だろう。 軽く果てたように膣粘膜を痙攣させ、肉棒が強く締めつけられた。肉壷からは愛液がしぶき、強烈さを物語る。 これで意識も覚醒しただろう。俺は突き上げる間隔を次第に狭めていく。 「すごい……です。こんなの……また、きちゃう……っ!」 整った顔が弛み、秘肉が収縮を始めた。搾り尽くすような蠢動から、再び絶頂が近いのだろう。 俺も動きの緩急を止めて膣壁を激しく擦り上げる。 待ち望んでいたようにアヤの腰が震え、肉棒を動かす度に蜜液が溢れ出していく。 「あああぁぁっ! ん、んんっっ!!」 突き上げられる快楽によってアヤは再度頂点に達した。 全身を戦慄かながらも俺に抱きつき唇を重ね合わせ、骨の髄まで快楽を味わうことを忘れない。 アヤの媚態に当てられたわけではないが、限界だった。俺も腰を密着させると奥底へと精液を叩きつける。 秘肉も射精を歓迎するように熱く抱擁を行い、内部の精液を飲み込んでいるようだった。 「マグナさんのがいっぱい……奥に、ドクドクって……はぁ……」 肢体を弛緩させ夢見心地で絶頂の余韻に浸っている。 まだ可愛がってやりたいところだが、俺は衣服を整えながら立ち上がる。 多少の疲れはあるものの、この程度なら問題は無いだろう。 「さて、ちょっと出かけてくる」 「え、あの……?」 「今夜はどうするんだ?」 不安を隠し切れずにいるカシスたちに向け、一言だけ問いただす。 しばらくの間呆然としていたが、やがて察したらしくその表情が淫蕩に緩んだ。一晩中相手をする事への期待だろう。 理解したのなら余計な行動はしないだろうと思っていたが、違った。 アヤだけが部屋から出ようとしていた俺の傍へと近寄ってくる。 「あの……マグナさん」 乱れた衣服もそのままにアヤが恐る恐る手を差し出す。 覗き込んでみれば、手の平に乗っていたのは見覚えのある緑色をしたサモナイト石だった。 「これを……」 酔いしれたように赤い顔をして、上目遣いに俺を見ている。何を哀願しているのかは明白だ。 俺はサモナイト石を掴み取ると魔力を込め、召喚術を発動させた。 「帰れない?」 「ああ。でも正確には帰らないかな?」 リプレの言葉に俺は苦笑しつつも頷いて肯定する。 「話が盛り上がってて。昨日、俺の相談に乗ってもらったからその反動なのかもしれないけど」 多少くたびれたように演技をしながら、理由の説明を淡々と続ける。 「それに同じくらいの年頃も多いし。積もる話もあるんじゃないかな?」 「そうね、わかったわ。ありがとう」 納得した様子のリプレを見ながら顔には出さず嘲笑する。 もしもあの二人が連絡もなしに帰らなければ少々面倒な事になるだろう。 そう思い、俺は今フラットのアジトまで脚を運んでいた。 昨夜からの様子にリプレたちは多少の不安を抱いていたようだったが、俺の話に騙され信用しきっている。 これで後顧の憂いは完全に断ち切れた。 「それじゃ、伝言役は帰るから……そうだ、今度はリプレもどうだい? といっても、俺は関係ないけど」 食堂の椅子から立ち上がりながら、冗談めかして尋ねる。 もし誘いに乗ってこのまま着いて来れば手間が省けるという打算もあった。 「うーん、気持ちは嬉しいけど用事もあるしね。また今度、時間が出来たら誘って頂戴」 「それもそうか。それじゃ」 そう言うとさっさと家から出て行く。 もとより打算だ。この程度でどうにかなるとは思っていない。あくまで事のついでなのだ。 リプレはまた別の機会に頂くとしよう。 それにしても―― サイジェントの寂れた通りを歩きながら、改めて思う。よくエルゴが介入してこなかったものだ、と。 エルゴを敵に回せば俺でも勝ち目など無い。 だが、そのエルゴに選ばれた王にあれほどのことをしても罰を受けるどころか何も起きずにいる。 遥かな昔自在にエルゴを操ろうとして失敗したという話もあったというのに。 死ぬ事すら覚悟していたが、あの様子なら恐れる事はあるまい。 そして今後も恐れることはないだろう。 俺は部屋に戻り、音を立てることなく扉を開けた。流れ出て来る発情した雌の匂いを嗅ぎ、確信する。 召喚獣の蔓に嬲られながら嬌声を上げ、カシスと共に快楽を貪りあっているような状態では。 アメルたちも我慢しきれなかったのだろう。森のめぐみはその蔓を持てる限り操り、女たちを犯していた。 さて、この宴を楽しむとするか。 俺は開けた時とは対照的に全員に存在を誇示するべくわざと大きな音を立てて扉を閉める。 一瞬だけ音が響き、そしてすぐにかき消されていった。 終 前へ | 目次 |
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