ハヤト×リプレ「ふぅー……ただいまぁ!」 そう元気な声を出して玄関から入ってきたのは、野盗退治から帰ってきたハヤトたちだった。 帰宅を告げるハヤトたちの声を聞いて、リプレは慌てて夕飯の支度を中断しリビングへと向かった。 最近は付近で商人や旅人たちの身ぐるみを剥ぐ盗賊たちが現われているらしく、今日も騎士団のイリアスからの要請で今しがた手伝いを終えてきたところだった。 あちこちボロボロに擦り切れてたり汚れていたりする凄愴しい彼らの衣服が、それを物語っている。 なかでも酷いのがハヤトで、防具に身に着けている胸当てさえもボコボコにヘコんでしまっていた。 彼らのその姿を見るや否や、動揺を隠し切れない声でハヤトに訊ねた。 「こ、これ…!?だ、大丈夫だったの?ハヤト!?」 「ん、ああ、キールに召喚術で傷を癒してもらったし、傷はもう塞がってるよ。 …ああ、それからコレ。イリアスがお礼に、だって。 そんなつもりで引き受けたつもりはないけど、断るのも悪いしさ」 苦笑を浮かべて、肌の切り傷の跡をつっとなぞる。今だ完全には癒えきってはいないのか、うっすら赤く筋が浮かび上がっているが痛みは引いているということだろう。 袋に詰められたイリアスからの礼金をリプレへと手渡すと、ハヤトは夕食まで自室で休むためにその場を立ち去った。 (私が言っているのは、そんなことじゃないのに……) リプレは陰々とした様子で俯いて、その場に佇んでいた。 彼女の心の中は自分の心配をキチンと伝えられないもどかしさと、それを悟ってくれないハヤトへの鬱憤でいっぱいだった。 彼女が心配しているのは、召喚術を施せねばならないほどのケガをハヤトが負ったということだ。 もしかしたら、命を落とす危険の可能性だってあったというのに、彼はああやっていつも笑って誤魔化す。 無論、彼の強さを信じていないわけではない。 手馴れた剣士であるレイドでさえも最近は褒めており、実際にその力は認められるものなのだろう。 しかし、だからといって盗賊や荒くれ者たちと戦って、彼の命が保障されているわけではない。 今日だって、もしキールや他の仲間たちがいなければハヤトは死んでいたかもしれない。 もちろん、ハヤトもそのことを承知で戦っているのだろう。 けれど、リプレにはその戦う理由が分からなかった。 もし、家計のことで心配してこういう危険なことをしているのなら、それはお門違いだ。 リプレ自身は家事を手伝ってもらっているだけでかなり助かっているので、それだけで十分と考えている。 ならば、イリアスへの義理立てだろうか。だとするならば、イリアスには悪いがこういうことはやめて欲しいと彼女は思った。 ただでさえ、ハヤトが傷つくことを恐れているリプレにとってそれは甚だ心配事を増やす種に過ぎない。 (……はぁ、私って嫌な女…) そこまで思って、リプレは陰鬱としたため息をつく。 ハヤトのために他の仲間のことをないがしろに考えるとは自分でも思ってもみなかった。 だが同時に、そこでそんなに自分を心配させるハヤトも悪いと勝手に結論付けた。 (そうよね。ハヤトが無茶しなかったら、私だってこんな心配しなくてもいいのに) 最近は様々な経験を通して成長したのか少しは自重という言葉を覚え始めたようだが、それでもレイドやエドスといった大人たちに比べると未熟なところもあり、周りを冷や冷やさせることも多い。 性格はなかなか直らないとはいえ、こうも毎回毎回心配させられては心臓に悪いというものだ。 (けれど―――) 戦って傷ついて、それで何が得られるのだろうか。 ただ純粋に、リプレはそう思った。彼は本来戦いとは無縁の人間のはずだったはずだ。 なのに、この世界に喚ばれて、誓約者だとか魔王だとか訳の分からない その背中とは不釣合いな運命なんかのために戦って、得られたものはあっただろうか? たしかに、サイジェントの平和は守られたかもしれない。 けれど、ハヤト自身に何かを齎したというわけではない。逆に失うものが多かったはずだ。 キールを責めるわけではないが召喚されなければハヤトは元の世界で平穏に暮していただろうし、彼が剣を取らなければならない運命も背負わされることはなかった。 そして元の世界に戻れるかどうかも分からない不安を抱え込むことを強いられることもなかった。 彼は平気なのだろうか。本当の家族のもとへ、帰りたくはないのだろうか。 否、そうであればキールと共に元の世界に帰る方法を調べたりはしないはずだ。 なのに、彼はその寂しさや苦悩を他人に打ち明けようとはしない。 それはリプレたちに心配をかけまいとしてのことなのだろうが、それこそがリプレにとって苦痛だった。 (私じゃ、ハヤトの力になれないのかな……) そう思って、リプレは悄然と項垂れる。 セシルのように武術の心得があるわけでもないし、ましてやミモザみたいに召喚術の知識があるわけでもない。 リプレにとって、彼と共に戦うことができないのは何よりも歯がゆかった。 ただフラットでいつも彼らの帰りを待つだけ。 それがハヤトたちにとって一番大切なのだと以前彼は言ってくれたが、それでもリプレは自分の知らないところで、ハヤトが戦って傷つくことが我慢ができないのだ。 ハヤトに戦って欲しくないというのは我が侭なのかもしれない。彼の力は既に彼だけのものではなくなった。 その力を必要とするときは、行使しなければならないことも知っている。 だから、せめて自分の前では弱音を吐いて欲しいとリプレは思った。 戦う力がない自分にとって、できることはそれぐらいしかない。 ひと時でもいいから甘えて欲しい。誰だって心の中に弱い部分は抱え込んでいる。それを話して欲しい。 話を聞いてそれをどうこうできないだろうが、それでも彼女は彼の気持ちを共有したいと欲している。 「―――ハヤト…」 気付けば彼女の頭のなかはハヤトのことばかりで、子どもたちに声をかけられるまで夕飯の支度が途中だということを忘れていた。 「なあ、キール。最近のリプレ、元気がないように見えないか?」 「……今更、君がそれを言うのかい?」 夕食後、キールの部屋で談笑をしていたハヤトはふと夕食時のリプレの様子を見てそう口にした。 しかし、キールは何故かあっさりとどこか呆れたように言葉を返すだけだった。 実はキール、ガゼルと共に、最近リプレから色々とハヤトのことについて聞かれていた。 もちろん、本人はさり気なく尋ねたつもりだったのだろうが、ハヤトのことを心配する態度はありありと出ていた。 おそらくはリプレが彼に恋心に抱いているだろうことも察した。 さて、とここでキールは考え込む。 このままではリプレは気が気ではないだろうし、ハヤトももっとリラックスして話せる相手が必要だろう。 もちろん、自分に話を打ち明けてくれれば一番嬉しいのだが、キール自身、育った環境のせいか他人と接する経験はあまりなく、あまり人の心の機微というものを計れない。 それに比べリプレは普段から見て分かるとおり母性に溢れており、いつでも人のことを気遣うことができる少女だ。 ならば自分よりは彼女に任せた方がハヤトにとってもいいだろう。 それに―――― (ハヤトもリプレも僕の恩人だ―――リプレの恋を実らせるのも悪くないな) むしろ、そちらが僕の狙いかもしれないな。 ひとり心の中で苦笑すると、キールは真剣な面持ちでハヤトに提案する。 「―――らしくないな。そんなに気になるなら本人に直接訊けばいいだろう? 余計なことを全く考えず、嘘偽りなく自分の気持ちでぶつかるのは君の得意分野じゃないか」 あまりに実直すぎる彼の性格を多少皮肉ったつもりなのだが、ハヤトはそうだなと真剣に頷いてしまう。 まあ、どちらにしろそういう風に仕向けるつもりだったので、嬉しい誤算といえばそうなのだけれど。 「まあ、リプレも夕食の片づけで忙しいだろうから、あとから自分の部屋に呼んだらどうだい? こういうことはふたりきりで話し合ったほうがいいだろうしね」 「あ、ああ、そうだな…ありがとう、キール!」 ハヤトは嬉しそうにキールの手を握り、大げさに上下に振る。 別に騙しているわけではないのだが、キールはあまりに真っすぐなハヤトの気持ちに思わず罪悪感を覚えてしまった。 「何なんだろう、急に話って…?」 子どもたちも寝付かせて他の家事も終わり、リプレはハヤトの部屋へと向かって廊下を歩いていた。 いきなり自分に悩みを話すというわけでもなさそうだったし、かといって他の用件が思い浮かぶわけでもない。 いくら考えても理由は思い浮かんではこなかったが、進んでいた足はいつの間にかハヤトの部屋の前に立っていた。 「まあ、聞けば分かるよね…入るよ、ハヤト?」 コンコンと軽く木製のドアをノックして、リプレは室内へと入る。 カンテラと窓から差し込む月の光だけが、室内を薄暗く照らしておりぼんやりとハヤトの姿を映し出す。 「ん、よかったぁ…俺のこと忘れてそのまま寝ちゃうのかと思ったよ」 「失礼ねぇ。そんなに薄情じゃありませんよ、私は」 軽口を叩きながら、リプレはベッドに腰をかけているハヤトの傍にゆっくりと腰を落とした。 しばらく沈黙が続いたあと、ゆっくりと穏やかな口調でリプレは訊ねた。 「それで…私に話って何かしら?」 掃除のため何度もハヤトの部屋へ入ったことがあるとはいえ、気になる異性の部屋で二人きりというのはどうしても胸が高鳴る。 はやる鼓動を必死に抑えようとし、この状況に慣れることなく出来るだけ自然に話を切り出そうとした。 「いや、あのさ…最近リプレが元気なさそうに見えたからどうしたのかなって。 何か悩み事があるなら、聞くぜ?あ、その、俺には話せないこともあるだろうけれどさ」 ハヤトは少し考えてから、言葉を返した。 そう、いつも通りの笑みを浮かべて―――それが、リプレの癇に障った。 どうしてこうも他人のことばかりしか、考えられないのだろうか。 いつも自分のことは二の次にして、他人のことを優先させている。 なぜ、どうして、この人は自分の弱音を他人に吐き出そうともせずに、他人の苦痛さえも背負い込もうとするのか。 「……ハヤト、私、怒るよ?」 怒りのあまり、彼女の口からはそんな言葉がついて出た。 いやに冷めたような声―――それが自分の声だと思えないような静かでありながら激情のこもった声が、辺りの雰囲気をピンと張り詰めたものへと作り変えていく。 その声色からハヤトも彼女が今先ほどの自分の言動になにか不満があるということを悟り、半ば呆然としながら謝罪した。 「ご、ゴメン…俺何か、悪いこと言ったかな…?」 「―――――」 対して彼女は何か言いたげに唇の形を変えるが、うまく言葉にすることはできない。 だが、今まで堰き溜まっていたハヤトに対する不安が感情を敏感にさせていたため、次にはその感情が濁流のように言葉となって彼へとぶつけられた。 「ねえっ!何で貴方はいつもいつも他人のことばかり気にするの!? 貴方だって、人一倍の痛みや迷いを抱え込んでいるはずなのにっ! たった一人でこの世界に迷い込んで貴方は寂しいはずなのに、背負わなくてもいい運命を背負って! このサイジェントのために…この世界のために戦って!傷ついて! それに対しては私たちは何の力にもなれないかも知れない…けれど!! なんでその痛みを私に…ううん、私じゃなくてもいい!何で私たちに話してくれないの!?」 知らないうちにリプレはハヤトの肩を揺す振っていた。 自分でも何を言っているか分からないが、兎も角この不安を彼にぶつけなくては気がすまなかった。 知らず知らずのうちに頬に涙が伝う。 どうしてこんなにも悲しいのか、どうしてこれほどまでに不安に思うのか。 やはり、それはきっと――――彼のことが好きだからなのだろう。 しかし、口では彼のことが心配だと言ってもそれは所詮自分のエゴなのだろう。 なぜなら、彼が元の世界に戻ることを願いながらも、心のどこかではそれとは逆のことを思っていたから。 ずっと彼と一緒に―――その想いがいつの間にか口にする言葉よりも大きくなっていた。 本当に彼のためを思っていっているのならば、彼をこの世界に引き止めるような思いをするはずがない。 だから、これは単なる自分の我が侭。 そんな自分に彼の痛みを共有する資格などあるのだろうか。 そう思うと、あまりにも自分のことが醜く思え、悲しくなってしまった。 あふれ出る彼女の言葉を受け止めながらハヤトはただ驚いていたが、 身体にしがみついて泣いている彼女を見つめて愛しそうに彼女の柔らかな髪を撫でた。 「…ありがとう、リプレ。君の言うとおり、俺はたった一人この世界に喚ばれて寂しかった。戦うことだって本当は怖かった。人を傷つけること、人に傷つけられること、そんなことを覚悟しないままに巻き込まれたし。けど、それでも弱音をはかなかったのは、リプレ…君のお陰なんだよ」 あまりに穏やかで優しい声に、リプレはえっと彼の顔を見上げる。 その声と同様に彼の表情は柔らかで温かみに溢れていた。 「だってさ、本当の家族のようにリプレは俺のために叱ってくれたり、一緒に喜んでくれたりしただろ? 今だって、俺のことを心配して泣いてくれてる。だから、俺が寂しいと思ってもさ、意識してなくてもリプレが俺のことを慰めてくれてるんだよ」 「本当…?」 まさかという表情でハヤトの顔をじっと見つめる。返事の代わりに、彼は優しく微笑んで頷いて見せた。 「だからさ、リプレの言うとおり少し頑張りすぎてたかもしれない。早く元の世界に戻りたくて、焦ってたのかな。リプレに迷惑がかからないようにって… でも、それが逆に君へ迷惑をかけてただなんて―――その、ゴメン」 照れくさいのかそっぽを向きながら謝罪をするハヤト。 けれどそれが、何よりもリプレが求めていた答えで―――彼女の心は嬉しさでいっぱいになり、果てにはその双眸から再び涙をぽろぽろ流す。 それを見たハヤトはまた何か自分がヘンなことを言ってしまったのかと誤解してしまい、不安そうに彼女の表情を覗き込む。 しかしそこには憂いや悲しみといったものは感じられず、穏やかな笑みを浮かべていることから、これが嬉し涙だということに気付いた。 「―――…、ねえ、ハヤト」 しばらくして、リプレは何だか落ち着かない声色でハヤトに話しかけた。 どうしたのだろうか、まだ話したいことがあるのだろうか。 ハヤトははてと首を傾げながらも、きちんと彼女の話を聞こうとする。 だが、次の彼女の言葉を聞いた瞬間、彼の身体はピシリと音を立てて固まってしまう。 「わ、わた、わたしを、だ、抱いて―――…っ」 「へっ…?」 いつもは明朗な元気な彼女の声が、妙にアクセントがおかしい彼女の言葉を聞くと、それだけで彼女が緊張しているということは分かる。また顔を真っ赤にさせて緊張している様子がいつもの明るく家庭的な彼女と違う魅力を持ち、可愛いとも思ってしまう。 いや、それはともかくも、ハヤトは一瞬彼女が何を言っているのか分からず、脳内はフリーズしてしまった。 もちろんのこと彼女の言葉の意図するところは、彼とて理解はできる。 だが、問題なのは彼女がその言葉を紡いだということだ。 ここにいるのは彼女と自分だけであって、その行動対象は自分なのだろう。それは、わかる。 じゃあ何が分からないのかと言えば、何故それを自分に言っているかということだ。 あまりにも唐突。唐突すぎて、次の言葉を発するのに時間がかかった。 「な、なななな何を、突然っ!?いや、その、だだ抱くってっ!」 すでにハヤトの頭の中はパニック状態を引き起こしていてまともに思考することを拒んだ。 しかし目の前にいるリプレは顔を真っ赤にさせてながらも此方を真摯な眼差しで見つめてくるだけだ。 何か、何か言わなくては。けれど、その言葉が何かなかなか頭のなかに浮かんでこない。 もちろん、リプレが嫌いだというわけではない。 むしろ、好意さえ抱いている…とハヤトは思う。 今まで『家族』として付き合ってきたため、あまり異性云々として認識したことはない。 だが、彼女が女性として魅力を持っているところは彼にも思い当たることは幾つかあった。 こうやって突然の告白をされた今でさえ、頬を赤らめて緊張している彼女が愛しいと思っているほどだ。 しかしだ、この新堂勇人、今まで恋愛経験を積んだことはない恋愛オンチのお子ちゃまであるからにして、こういう時にどう行動すればいいのか分からないでいた。 そんなパニックを引き起こしているハヤトを知ってか知らずか、リプレは彼の身体へと身を傾ける。 相変わらず緊張しているものの、穏やかでゆっくりとした口調で彼女は言葉を紡ぐ。 「私…あなたがここにいるっていう温もりが欲しいの―――…。貴方が元の世界に戻ることを願ってるなんて嘘。私っ、あなたにずっと此処に…フラットに、わたしの傍にいて欲しいのっ!」 ハヤトの身体にしがみつき、懇願する。彼の表情は困惑と驚きの入り混じったものだった。 それを見たリプレははっと我に帰りおずおずと身体を離して、頭を横に振った。 「―――――っっ!ご、ごめんなさい。い、今の話、冗談、冗談!あはは…だ、だから忘れてね」 無理矢理に笑みを作り笑うと、彼女はハヤトの部屋から出て行こうとする。 しかし、それをハヤトが彼女の腕を取って止めた。 「リプレッ!…俺さ、確かにずっとはこの世界にはいられない。あっちにはオヤジもお袋もいるしさ…。けど、約束するっ!いつかまた君のもとに―――フラットに戻ってくるって!だからっ……」 それ以上は言葉に出来なかった。確実に果たせるかどうかも分からない約束をして、無責任も甚だしい。 奇麗事かもしれない。けれど同時に、約束を果たすために努力しようとハヤトは心のなかで自分に誓った。 なぜなら、ここには自分を受け止めてくれる“家族”が、そして自分を支えてくれた大切な人がいる。 ならばその人たちのためにも、そして自分のためにも、ここに帰ってこないというのは嘘だ。 だから、再びハヤトは照れ笑いしながら言葉を紡ぎなおした。 「だから…もし、俺が元の世界に戻っても俺を信じて待ってて欲しいんだ。 これはさ、我が侭かもしれないし、情けないことかもしれない。 …でも、俺、やっぱりリプレのことが好きだから」 「……ぅん、うんうんっ!私、わたし、絶対に待ってるから!貴方のことが大好きだからっ!」 それ以上の言葉は二人の間には必要なかった。 ゆっくりとリプレを抱きかかえてベッドに下ろす。 シーツはリプレの身体を受けて波を打つ。ハヤトもベッドを軋ませて腰を下ろす。 「……い、いくぞ、リプレ」 「う、うん…っ」 ふたりとも緊張からか、言葉数も少なく、その動きさえぎこちない。 だがそれでも、ハヤトはゆっくりと彼女の肩に手を置いて唇を寄せる。 ただ唇を重ね合わせるだけのキス。 たったそれだけのことと思うかもしれないが、ふたりはコレがファーストキス。 ましてやこれからそれ以上のことをしようとしているのだから、緊張するなという方が難しい。 「んっ…」 触れて初めて感じた異性の唇。 リプレのそれは、柔らかくぬくもりのある…そう一言で言えば優しいと表現すべきだろう。 重ねただけだというのに心地よくなってしまい、胸の鼓動が早くなってしまう。 それは彼女もそうなのか、気持ち抱き寄せられる腕の力が強くなっているような気がする。 はやる気持ちを理性で押さえつけて、一度ハヤトは唇を離す。 こうやって抱きしめているだけでも彼女の身体が繊細であるということが良く分かる。 いつもは気丈に振舞う彼女も、やはり女の子なのだ。 リプレはというと、先ほどのキスが予想以上に甘美なものだったのか、 頬を染めながら唇に指先を当ててぼうとしていた。 「キス…しちゃったね」 恥ずかしげに小さく呟く。 そのリプレの言葉にハヤトもますますかぁああと頬が火照ってしまった。 しかし、ここで固まっていても仕方がない。服の上からゆっくりと優しく片手をリプレの胸に這わせる。 「ひゃっ…は、ハヤト…」 彼女としては恥ずかしいのか、一瞬身を引こうとしたがそれを抱きかかえているハヤトの腕が邪魔をする。 「…あの、俺、リプレの裸…見たいな」 つっかえながらもそう言葉にするハヤト。 無論リプレとて、こういうことをするのならば服を脱ぐのも必然ということも知っている。 だが、知っているのとそれを実行するのとでは別だ。 いくらなんでも、ハヤトが好きだと言っても自分の裸体を曝け出すのはどうも気恥ずかしい。 それに、自分の裸体を見てハヤトはがっかりするかもしれないと思った。 「は、恥ずかしいよ…それに、私、ミモザさんやセシルさんみたいに綺麗な体つきじゃないし…」 「何言ってるんだよ?リプレはリプレだろ。なんで比べる必要があるんだよ? それに…充分に、リプレは可愛いと思うぜ」 月並みな言葉に少し照れながらも、その言葉に表れた気持ちは正直だった。 リプレの笑顔も、泣き顔も、そして先ほど抱きかかえた彼女の身体も全て彼女だけのものだ。 そして、ハヤトはそれら全てを愛しいと思った。彼女だけのものを彼は好きなのだ。 だから他人と比べる必要はないし、むしろ誇るべきだと思う。 「か、可愛いだなんて…」 「……脱がすよ?」 ハヤトの言葉に照れるリプレに笑みをこぼしながら、彼は彼女の服を脱がしにかかる。 だがこういうことは初めてであるハヤトはどのように脱がしたらいいのか、右往左往してしまう。 結局はリプレが恥ずかしがりながらも、自分で脱ぐことになった。 露わになったのはピンクであしらったブラとショーツ姿。下着は彼女の赤髪とよく似合っていて、映えていた。 一番最初にハヤトが目を引いたのは、ブラに包まれたリプレの乳房だった。 思いのほか、ハヤトが考えていたよりもその女性の特徴は豊かに盛り上がっていた。 そして、恐る恐るブラの隙間に手を忍び込ませて、やわやわとゆっくり揉んでみる。 すると、驚くほどに乳房は優しく指先を受け入れてその形を崩した。 「やぁっ…!ふぁっ…だ、だめぇ…」 今まで聞いたことがないリプレの甘ったるい声に、ハヤトは余計に彼女のことが可愛らしく思えてしまう。 いつもは気丈な彼女が自分の愛撫で悦んでくれているのかと思うと、一種の征服感がますます彼を興奮へと駆り立てていく。 そして、愛撫の邪魔となるブラをずり上げて、完全に乳房を外気に触れさせた。 形のよい張りのある胸。 それだけでも魅惑的なのに、その頂は淡いピンク色を帯びて、可愛らしく自己主張をしていた。 ハヤトは早速そこに指先を移し、軽くつまみ唇で吸ってみた。 赤ん坊のように乳首を吸うなど恥ずかしくて普段の彼ならばその手を止めていただろうが、艶やかなリプレの姿を見てしまった今では、そんななりふり構うことできずに彼女の身体を貪っていた。 「リプレって感じやすいんだな…んっ…」 「だめ、だめだよぉ…そんな、あかちゃんみたいに…っっ」 リプレもまんざらではないようで、彼女の唇からは切なそうな甘い喘ぎ声が漏れていた。 もちろん羞恥はある。しかし、それ以上に胸を吸われている快感と、胸を吸っているハヤトが何故だか愛しくなって、逆に嬉しそうに愛撫を受けた。 「あはぁ…ら、め…っ!恥ずかしいよぉ…ハヤト…」 「いいじゃん…リプレだって気持ち良さそうにしてるんだしさ…ふっ…ん…」 吸われて、舐められて、啄まれて―――何度もそれを繰り返しているうちに、彼女の胸の頂点はハヤトの唾液に塗れてべとべとになってしまっていた。 それだけ、ハヤトは彼女の肉体に興奮しているという証になってしまい、彼自身は恥ずかしそうに視線を彼女から背けた。 しかし、リプレもまた彼の愛撫を受けて彼と同様に興奮を覚えると同時に、どこか安らぎを感じていた。 やはりそれはハヤトが一緒だからこそ感じられるものなのだろうと、直感的にリプレは理解していた。 でなければ、このような恥ずかしい姿を見せるわけがない。 彼が好きだからこそ、こうやって快楽を共にすることができる――― …ただ、それは当たり前のことなのに、なぜかリプレには嬉しく思えた。 真っすぐ突き進む性格が故にときどき危なっかしいこともするが、そのひたむきな彼の姿に彼女は惚れた。 理不尽な運命と力を持たされたばかりに、本来ならば関わりのない世界のために戦いに巻き込まれることになった。 けれど、彼はその理不尽な運命と戦いを受け入れ、時には挫折することはあったけれども、諦めず最後まで自分の意志を貫いて見せた。 そんな姿がまぶしくて、いつの間にかリプレの心の中で支えとなっていた。 だから、そんな姿が傷つくのを恐れて、彼女は何度もハヤトを戦いから遠ざけようとしていた。 それが彼と共に戦うことができない自分にできる最大限のハヤトへしてあげられることの一つであった。 どこか遠くへ行ってしまうのではないかと感じることもあった。 だからこうして、彼の体温を確かめることができるのはとても嬉しかった。 そこに確かにハヤトがいるのだと認識できるから――― 「…ゃっ、ああ!んふぁっ…!いい…よっ…ハヤトぉ…」 「リプレ…可愛い…」 気付けば、ハヤトの手先は既に内股へと這わされてしまっていた。 胸と内股を両方を責められて蕩けるような快楽と嬉しさのために嬌声を抑えようとはしていなかった。 そんなはしたなく声をあげるリプレに、ハヤトもうっとりとした表情で彼女にキスをせまる。 彼女もそれを受け入れて、今度は最初にしたような軽いキスではなく、お互いの口内を貪るような荒々しくも情熱的なキス。 舌と舌が触れ合うたびに、その熱でふたつのものが一つに溶けあう様な感覚にさえ陥る。 それがとても心地よく、ふたりを魅了させてさらに心を高ぶらさせた。 つづく 目次 | 次へ |
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