シンゲン×フェア 2「だって恥ずかしいよ…。わたし、太ってはないと思うけど筋肉あるから…その…重いっていうか…」 うつむいているので表情は読めない。 だが白かったはずのフェアの首筋は紅く染まり、それが何とも艶っぽい。 熱があるからだろうか。 喋り方も、シンゲンの着物をきゅっと掴む仕草も、普段からは想像つかないほど女らしい。 シンゲンは不謹慎とは思いつつ、にやけてしまう。 「大丈夫。御主人は三味線よりも軽いですよ」 もちろん、三味線より軽い訳はないのだが、それを聞いたフェアは素直に体を預ける。 フェアの髪の香りがシンゲンの鼻をくすぐる。 服の上からでも分かる、彼女の引き締まった足と華奢な肩に触れるシンゲンの手。 シンゲンは、自分の股間が反応するのが分かる。 弱った。 シンゲンは普段からフェアに猛アタックしながらも、体には触れないように気を付けていた。 触れてしまえば、理性を抑えられる自信がなかったからだ。 ただでさえ歳が離れているのに加え、色恋沙汰になると途端に逃げ腰になるフェア。 自分は嫌われてはいないんだろうし、彼女の気持ちが、ちゃんとこちらに向くまで待とうと思っていた。 …が、なんだかんだでシンゲンも男。 暫く女に縁はないし、一人で処理するにも限界がある。 悶々としながらもシンゲンはフェアの部屋まで辿りつき、彼女をベッドにそっと降ろした。 一方、やっと落ち着ける場所に辿り着いたフェアは、だるそうにしながら結っていた銀髪に手を伸ばす。 髪を下ろしたいのだろう。しかし、熱のせいか上手くいかない。 見かねたシンゲンがフェアの髪に触れる。 フェアは少し戸惑ったが、素直にシンゲンの指に髪を預けた。 まったくもって不謹慎ながら、シンゲンはフェアの熱に感謝する。 さら、と銀の絹糸のような髪がフェアの肩に落ちる。 シンゲンが思ったよりフェアの髪は長い。 一緒に生活をしていながら、シンゲンがフェアの髪を下ろした姿を見るのは初めてだった。 もういい大人だというのに。シンゲンの心臓は跳ね上がり、我を忘れそうになってしまう。 しかし、シンゲンは限界ギリギリながら、何とか衝動を封じ込めた。 一度大きく深呼吸をしてから、シンゲンは汗で張り付いたフェアの髪を掻き分けて、額に手をあてる。 「…明日は店を休んだ方が良いですね」 それを聞いたフェアは無理に起き上がろうとする。 しかしシンゲンはピシャリとフェアを制す。 「御主人は良くても、そんな状態で料理を作ったらお客が迷惑です。 お客の事を思うなら、まず病気を直すべきでしょう」 客の事を言われたら、フェアは黙るしかない。 シンゲンは続ける。 「幸い明日予約は入ってませんしね。 丁度いい機会だったんですよ。御主人は少し休まなきゃ駄目です」 そう言ってシンゲンはタオルを水に浸し、フェアの額に乗せた。 だが冷やしたタオルは、すぐ温くなってしまう。 シンゲンは、フェアがアカネから買った薬の事を思い出した。 早速薬を取って来ようと立ち上がるシンゲン。だが、何かが彼の着物を引っ張る。 「…シンゲン…」 うるんだ目でシンゲンを見つめるフェアが、そこに居た。 ハッキリとは言わないものの、着物を掴む手が「行かないで」と訴えている。 普段は気丈なフェアだが、やはりまだ15歳。 今までは一人でやってきたが、慣れない高熱に不安なのだろう。 フェアは、とろんとした表情に荒い息遣い、汗ばんだ肌で、一生懸命引き留めてくる。 しかしシンゲンは、「すぐ戻りますから」と言ってフェアの手を、そっと着物から離した。 部屋から出た廊下で、シンゲンは大きな溜め息をつく。 危なかった。 今のフェアなら耐性持ちの敵でさえ魅了してしまうに違いない。 正直、シンゲンはフェアの熱がなければ、居合い斬りの命中率と同じ確率で襲っていただろう。 畜生。何故今彼女は高熱を出しているんだ。界の意思の仕業か畜生。 しかし彼女に熱があるからこそ、今の状況になった訳だ。 シンゲンは、たぎる熱さを何処にぶつけたら良いか分からぬまま、 移動力8くらいの勢いで薬・タオル・氷…といった看病に必要な物を抱えて部屋に戻る。 勢い良く扉を開けたシンゲン。彼の目は、愛しの女店主に釘付けとなった。 フェアが自分で汗を拭いている。 上半身に 何 も 纏 わ ず に 。 つづく 前へ | 目次 | 次へ |
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