望
『帝のお命が危ない』 そう言われ、宮殿に呼び出された。 数日前に拗らせた風邪は思いのほか酷く、命の危険へと変え、 今それが現実のものとなろうとしている。 叶うのだ。 帝さえいなくなれば、叶うのだ。 自分の、願いが。 なのに、この不自然な感情は何なのだろう…。 「父上」 私を呼んだのは、長男の師。 「帝付きの女官より、言伝が。一人で寝室に来るように…と」 「わかった。すぐにいく」 生まれた動揺を感づかれないように、私は昭を背に、部屋へと 向かった。 「遅かった…ではないか。仲達」 広い豪奢な寝室。 皇后や、皇太子、女官すら見当たらない。多分、人払いをさせ ているのだろう。 「申し訳ございません。道が思いのほか混んでおりましたので 」 私の言葉に、フ、と笑うと、近くへ来るように促した。 「仲達。以前…私はお前に…言ったな。『私の眼が届かなくな ったら好きにするがよい』と」 「そのようなこと、仰ったかもしれませぬが、まだまだ先の話 でございます。お若いのですから…」 「若くと…も、長く生きるとは…限…らない。それに、自分の 体だ。限界くらい…わかる」 ゴホゴホと咳き込んだ帝に、つい、びっくりして様子を確かめ る。 白い。 いつもより、肌が。 確かに、逝こうとしているのだ。 この人は。 「仲達」 「はい」 「そなたの望みを…叶えよう。我が死をもって」 望みを わが死をもって 「仰っている意味が…わかりかねます」 「それでは…何だ、仲達よ。私の顔に落ちる水滴は…」 顔を塗らすもの。 「好きに…するが…よい……この…国を…覇道の…先を…」 それは、涙。
晋シナリオで、曹丕の臨終シーン出ないかな、と思ってたら、ナレーションだけですまされてしまったので、勝手に妄想してみました。