甘美酔
「仲達、どうした?酌が止まっている」 いつものように地下室へ足を運ぶ司馬懿。 曹丕のお気に入りの葡萄酒の酌をしていた司馬懿の手が止まったのを気付いた曹丕が問う。 「…あ、すみません。考え事を…」 「最近、執務が忙しいように見受けられる」 確かに、色々と忙しくて毎日運んでいたのが数日に一度になったり… 時には1週間あまり行けなかったり。 毎日訪れる、と決まっていたわけではない。 だが、司馬懿はつい足を運んでしまうのだ。 執務で行けなかった日は、何とも言えぬ気持ちになった。 …地下になど留め置かず、生きていた、と公表し、どこか近い宮に抑留すればよい話なのかもしれない。 しかし、そうしたくなかった。 彼を…誰の目にも触れさせたくない。 「…失礼しました」 話を逸らそうと、酌をしようとした時、曹丕は、司馬懿の持った葡萄酒を取り上げる。 「何…を?」 取り上げた葡萄酒を事もあろうか、自らに羽織った衣裳にばしゃっ、とふりかける。 「仲達、服が汚れた。…脱がせろ」 「はい…」 何がしたいのだろう。この人は。 言われたとおりにする為に、椅子から立ち、代わりの衣裳を取ろうとする。 「かわりは、いい。とにかく来い」 …本当に一体何がしたいのだ。この人は。 曹丕の元へ近づき、服に手をかける。 数日味わっていない、愛しい体。どくり、と心の臓の鼓動が早くなる。 上を脱がし終わり、裸体が露になる。目のやりばに困る。 そう思った時、また葡萄酒を手に取り、今度は自らの体にふりかける。 「…お前は疲れているようだ。私が酌をしてやろう。…味わうがいい」 …この人は。 これだから。 素直でない…のはお互い様か。 「ありがとうございます。喜んで…お受けいたします」 葡萄酒が香る地下の部屋の中。 酔うのは酒ではなく… 貴方に。 終
話の流れ的には、『虜』を受け継いでいます。
病院での待ち時間に『曹丕が、司馬懿が色々と疲れている。と気づいたとき、どんな処方箋を出すか』と考えながら携帯で打った話です(待ち時間に何をしてるんだか…)
実はそのテのシーンが続きますが、今回はここまで。いずれ書き直してアップします。