切望










「こちらにおいででしたか。子龍殿」
日も落ちた頃。中庭の牡丹を眺めていた趙雲に、諸葛亮が控えめに声をかけた。



五虎将軍の一人である馬超孟起が病にて鬼籍に入り壱月弱…。普段は普通に振舞っている趙雲だったが、一人になると寂しそうな顔をしている。…少なくとも、諸葛亮にはそう見えた。



「孔明殿…」
「日中は暖かいですが…日が落ちるとまだまだ肌寒い。お体に触りますよ」
心配げに顔を見る諸葛亮に、趙雲は『貴方は何もかもお見通しなのですか』といいたげにやんわりと微笑んだ。
「…人間の真の死とは、死んだ後に…誰にも…思い出されなくなる事だと…私はあの方に言いました。今でも…そうだとは…思っていますが…それでも…なかなか…」
心の中では生きていても、生身の彼にはもう会えない。
…なかなか気持ちの整理が出来ないのだろう。
「誰でも…心の切り替えは難しい事です…」
痛いほど、彼の気持ちが分かるから。諸葛亮もなかなか言葉が出てこない。




…貴方は何処で私達を見ている?



彼の涙を止められるのは貴方しかいないのに…

















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『春よ・来い』の続編という形で書いた話です。
執筆前に友人をとある事故で亡くし、沈んでた時に書いた話です。
かなり自分の感情にまかせて書いた記憶が…。

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