5. ようやくこの日が
「あ、あっ…ありがとぉおっ」
屋上で真宮と昼食をとっていた俺のもとへやって来た桜井は、ペコペコと何度も頭を下げた。
どうやら杉田とは上手くいったらしい。
「俺っ、きの…杉田に…っ」
「だぁーっ。な〜に泣いてんだよ、お前は。泣くのは杉田の腕の中だけにしろ」
「うぅっ、分かってるもん。そんなのぉ…。真宮のバカーッ」
桜井は涙を零しながら真宮の頭を叩き、屋上から去っていった。
最後に再び、俺に向かってお礼を言って。
こんなに喜んでもらえると思っていなかった俺は、達成感に胸をいっぱいにさせていた。
「何かさ、最初こそ面倒だなーって思わなかったわけじゃないけど。協力して良かったな。真宮もそう思うだろ?」
「いいや。俺はあいつだけ幸せになるなんて、不公平だと思う」
「えぇ? 心狭いな、お前」
俺の批難に何も言わず、真宮は立ち上がって落下を防ぐためのフェンスに寄りかかった。
それから、フム、と小さく唸る。
「……ま。幼馴染として祝ってやらないこともねぇけどな」
「何だそりゃあ? 素直じゃないなー」
真宮の台詞に苦笑しつつ、俺は彼の隣に並んだ。
雲ひとつない快晴のせいか、太陽の光がもろに当たってくる。
その眩しさに目を眇めていると、真宮が俺の方を向いたのが分かった。
「何だよ?」
「あのさ。これを機会に坂上も、真剣に自分の幸せについて考えてみねぇか?」
「え…。どういうことだよ?」
「もう少し自分のことについても目を向けろってこと」
「だからどういう…」
チュッ、と。
短い音とともに、触れ合った唇が離れる。
「こういうこと」
真宮はからかうように笑むと、屋上から駆け出て行ってしまった。
俺はそっと、震える手で口元を覆った。
唇に残る、柔らかな感触。
頭の中が混乱して、何が何だかよく分からないけれど。
とりあえず今の段階で理解できていることは。
あいつの好きなやつが、俺だったということ。
「―――っ…!」
やられた、と思った。
まさかこんな形で気持ちを伝えられることになるなんて。
それも、ずっと友達だと思っていた存在から。
「……真宮、の馬鹿」
不意打ちにもほどがあるキスのことを思い返しながら。
俺はちょっとだけ、自分の幸せについて考えてみようかなって。
そんな風に思った。