4. 照れ屋もここまでくると病気
「で、結果は?」
「えへへ。何も出来なかった〜」
ニコニコと微笑みながら桜井に言われたことに、俺と真宮はほぼ同時にため息をついた。
あんなに告白できる時間はあったのに、何故しないんだこいつは。
真宮は桜井につめよると、彼の襟首を引っ掴んだ。
「お前、脳内パッションピンクのくせにどうして襲わないんだ!」
「襲うだなんて野蛮な言い方やめてよー。誘うって言って?」
「どっちも似たようなもんだろ。ヤることは一緒だ、一緒!」
「全然違うよ〜? ……それと、僕の脳内を勝手に着色しないでくれないかなぁ」
「うぐっ。関節技だけはご勘弁を…」
真宮は引きつった笑みを浮かべて、桜井から距離をとった。
いつも真宮に馬鹿にされてばかりな俺からすると、彼のこういうヘタレ部分を見るのは新鮮というか、ぶっちゃけ気分がいい。
いつかは俺も、桜井みたいに真宮よりも上手になりたいものだ。
「想像と実際に行動するのとじゃ、全然違うものだよね〜。僕、今回のことで改めて思い知ったんだ」
「やっぱり想像してたんじゃねーか」
「いざ一緒の部屋になると、緊張しちゃってね? いつもみたいに全然会話出来ないし、妙にドキドキしてきちゃって…」
真宮の台詞を華麗なまでに無視をした桜井は、ふぅっと悩ましげにため息をついた。
やっぱり彼も、好きな人が相手では強く出られないらしいな。
「本当に好きなんだな。杉田のこと」
「……うん。いつも一緒にいたからね。その気持ちも強いよ。杉田を想う気持ちは、誰にも負けない」
はにかむ桜井は、本当に幸せそうで。
真宮とのやり取りを見ていて腹黒い印象が強くなってしまったけれど、桜井は凄く純真なのかもしれない。
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「しっかし、どうすんだ。これから」
「う〜ん…」
俺と真宮は桜井と別れた後、今後のことについて頭を悩ませていた。
いくら告白の機会を作ったって、本人に勇気がなかったら意味がない。
桜井はまだ杉田に気持ちを言い出せそうにないし…。
「……桜井がダメなら、杉田から攻めてみようか」
「杉田? あー、あいつから桜井に告らせるってことか。坂上にしてはいい案じゃねぇか」
「俺にしては、は余計だ! ほら行くぞっ」
「ああ。分かってるから引っ張るなって。制服伸びたらどーすんだよっ」
真宮の文句を無視して、俺は彼の制服を引っ張ったまま杉田に会いに行った。
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「桜井のこと好きなのか?」
「そっ、そそ…!? な、何でそんなこと訊いてくるんだよ!?」
質問の仕方があまりにも単純すぎただろうか。
杉田は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
そんな彼に真宮は近づくと、俯いている顔を覗き込んだ。
「お〜い、杉田? 答えろって。…ま、答えなんて聞かなくても分かってるようなもんだけどさぁ。ほら、実際のトコどうなんだよ?」
「……す、好きって言ったらどうするんだよ…?」
「別にどーもしねぇって。ただ、告白する気はねぇのかなって。な、坂上?」
「ああ。杉田が桜井に告白してくれると、すっごく助かるんだ」
杉田は困ったように視線を俺から逸らした。
目元が信じられないくらいに、赤い。
もしかして杉田って、かなりの照れ屋だったりするんだろうか。
彼に告白させるのは、ちょっと桜井以上に難しいかもしれないぞ…。
「……どうして俺が桜井を好きなことを知ってるのか、分からないけど」
「おいおい、こんなこと言ってるぞ坂上」
「真宮は黙ってて! ……えっと、続きをどうぞ」
「あ、ああ。その…やっぱり告白したほうがいいと思うか?」
真摯な眼差しでの問いかけに、俺と真宮は深く頷く。
杉田は下唇をぎゅっと噛むと、瞳に力強い光を燈らせた。
「分かった。俺、気持ちを伝えてみる」
「本当か!?」
「ああ。前々からそうしようとは思ってたんだ。……決断させてくれて、ありがとう。俺、桜井に会いに行ってくるな」
杉田は迷いが吹っ切れたような、爽やかな笑顔を見せた。
もとが良いだけあって、思わず息を呑んでしまう。
これで本当に美男美男カップルが成立か…などと考えながら杉田を見つめていると、真宮が小さく舌を打つ音が聞こえた。
「真宮…?」
「ほらほら、杉田! 早く告白しに行けっての!!」
「あ、ああ。それじゃあ」
杉田は真宮に背中を押され、そのまま桜井を捜して駆けていった。