3. 我ながら完璧な舞台設定


修学旅行、一日目の夜。
俺は真宮の部屋にあるベッドに寝転びながら、自動販売機で買ったコーヒー牛乳を飲んでいた。
ちなみに真宮以外の友人は遊びに行っているらしく、部屋には俺と彼の二人だけだった。

「真宮ー。あいつらうまくいってるかな〜」
「さぁな? でも好きなやつと密室で二人きりって状況なわけだし。これでそういう展開にならない方が可笑しいだろ」
「だよなっ。んじゃ、いい結果を期待しちゃってもいいか」
「ああ。……ところでよ、坂上。お前は恋人作らないわけ?」

思いがけない質問に、俺はコーヒー牛乳を喉につまらせそうになった。
液状のものをつまらせそうになるなんて、どういう奇跡だ。

「げほっ、ごほっ。何だよいきなりっ」
「いきなりってわけでもねぇだろ。このテの話をしてたわけだし。で、どうなんだよ?」
「……俺はあんまり、そういうの興味ない」
「へぇ? 俺は欲しいけどなー、恋人」
「何でだ? だって彼女とかいたって、面倒くさそうじゃないか。誕生日とか忘れると酷い目に遭いそうだ」
「あ〜、確かにな。でも俺が欲しいのは恋人であって彼女じゃあ、ない」
「は?」

空になった牛乳瓶を机に置きながら、俺は訝しげに真宮を見た。
恋人も彼女も同じ意味だろうに。
それとも真宮も他の男子生徒たちと同じく、男を恋人にしたがっているんだろうか。

「……お前、そっち系の趣味があったわけ?」
「すっげームカつく目で見やがるのな、お前。悪いかよ」
「いや、悪くはないけど。え、それは何? もとから? それともこの高校に入ってから、好きなやつでも出来たのか?」
「後者だ。俺は別に男色ってわけじゃねーからな。まぁつまりは、バイ?」
「そ、そうなんだ…。知らなかった。ってか好きなやついたんだなー」
「……気づけよ、ば〜か。何でこんな鈍いやつが人の恋愛取り持ってんだ」

吐き捨てるように言われた真宮の言葉に、ふと、俺についての噂を思い出す。
確か、俺に相談をすると恋が叶うとかいうやつだったよな。
何でそんなものが流れているんだろうか。

「なぁ、真宮。俺が恋のキューピッド的な噂話を知ってるか?」
「あー、そういやあったな。坂上さ、前にカップル成立させたの覚えてるか?」
「カップル…?」

全く記憶にない俺は、首を傾げることしか出来なかった。
真宮はそんな俺の反応を予想していたらしく、大して呆れる様子もなく話始めた。

「雨の日に、傘を忘れて困ってる生徒がいたんだよな。んで、そいつの傍には家が近いけども特に話したことがない生徒がたまたまいたわけだ。そこを通りかかったのが、坂上だ」
「…俺、そこで何かしたのか?」
「ああ。家が近いんだし、傘に入れて送っててやれ! 的なことを言ったんだよな。んで、そいつら二人は一緒に帰ることになったんだ。もともと一目惚れし合ったものの恥ずかしくて話せないって奴らだったからな。そのまま劇的に仲良くなって、ゴールイン、みたいな。その話が脚色されて、その…お前が恋のキューピッド? とかいう妙な噂になったんだろ」

脚色されすぎだと思うのは俺だけか。
キューピッドも何も、ただきっかけを作ったにすぎないじゃないか。

「その噂を信じてやってきたのが桜井、か…」
「馬鹿だよな、あいつも。坂上には劣るけど」
「んな!? どうして真宮はそういうことをだなぁ…っ」
「自分を含めた身近な人間の気持ちを理解出来なさ過ぎるからだよっ。つーか俺はもう寝る! お前も寝ろッ」

真宮は俺のことをベッドに押し倒すと、そのまま横に寝転んできた。
唐突な出来事に目を白黒させていると、眠る宣言をしたはずの真宮が口を開いた。

「今日は同じベッドで寝るんだよ。しょうがねぇだろ? この部屋にベッドは三つしかねーんだから」
「あ、そうか。三人部屋なんだもんな」

それなら仕方ないか…。
そう思って布団を肩まで引き上げると、真宮の腕が腰にまわされた。

「何すんだよ?」
「俺さぁ、普段抱き枕使って寝てるんだよなー」
「……お前、まさか俺を代わりにするつもりか」
「ああ」
「ああって…。そんなキッパリ言い切るなよ! 離れろッ」

両手で真宮の胸を押し返すものの、ビクともしない。
悔しさに唇を噛みつつ腕を引き離しにかかるものの、やっぱりこちらもビクともしないわけで。
男として負けている感じがして、滅茶苦茶腹立たしい…!!

「運動部、舐めるなよ?」
「俺だって運動部だっ」
「あー、そっか。サッカー部だっけ? ……にしては足腰細くねぇか?」
「……どーせ、万年四軍ですよ」
「二軍どころか四軍なのか、お前!!」
「サッカー部は人数が多いんだよっ」

俺より上手い人もね、と付け足すと、真宮は声を立てて笑いだした。
失礼にも程がある。
入学初日に部員からの勧誘を断れ切れなくて泣く泣く入部させられた俺だけど、そこそこ努力はしてるのに…っ。

「今に見てろ。三軍にあがってやるからな!」
「目標低いな〜」
「放っておけ! つーか離れろぉおっ」
「この細さと柔らかさが心地良くてだなぁ…」
「変態かお前は!」
「変態でもいいぜ、俺は。こうやって坂上を抱いて眠れるんならな」

ぎゅっと強く抱き寄せられて、変な気分になってくる。
気持ち悪い、とかじゃなくて。
何だか胸がドキドキする……わけがないじゃないかっ。
俺はあくまで女の人が好きなんだから!
ホモなんかじゃないんだ、決してッ。

「ボインがいいんだ。ボインが。さらに理想を言うなら上からボンッ、キュッ、ボンッ…!」
「何言ってんだ、お前?」
「自己の恋愛対象について再認識をしていたんだ。気にするな」
「……ふぅん? 恋愛対象、ねぇ」
「ああ。つーか、真宮が今俺にしていることは、真宮の好きなやつにやってやるべきだと思うぞ!」
「だからそうしてるだろ? ってか、うるさい。とっとと寝ろ!」

俺の顔面に枕を押し付けてくる真宮。
苦しいし、痛い。
窒息したらどうするつもりなんだコイツは…!

「いい加減にしろよ、真宮!」

俺は起き上がると隣のベッドにあった枕を手にとって、勢いよく彼に投げつけた。

「おぉっと。枕投げか、いいねぇ。懐かしい…ぜ!」
「当たるかよ! くらえぇ、真宮! 懇親の一撃ぃいっ」
「よっと」
「避けるなよ懇親の一撃を!」
「もっと相手の隙を見て投げなきゃー。ホラッ」
「わぶぶっ!?」


結局俺たちは眠る、だなんてことはせずに。
隣の部屋にいる友人と下の階にいた先生から注意を受けるまで、枕を延々と投げ続けあっていたのだった。




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