第11章〜そのころ青星は〜
青星は東の方へ歩いていた。
「ねぇティアラ。クレバスってどんなサブだと思う?」
「キュル?」
ティアラの鳴き声は澄み切った綺麗な声だった。さすが水で出来ているだけある。
「やっぱり体は氷なのかな?意外に雪だったりして。」
「キュゥル。」
「それにしても、白夜ってなんか頼れる人よねー。頭良すぎてこっちが怖くなっちゃう。なんか裏がありそうなんだけどなー・・・。赤影は・・・どうだろう?」
人前ではクールな青星だが、一人になるとよく喋る女だ。
「それにしてもだいぶ薄くなったわね、色が。」
青星のいうとおりだ。以前に比べて徐々に色の濃度が薄くなりつつある。とは言っても、まだまだ一般人は気づかない程度だが。シキには色を判別すると特殊な能力があるのだろうか。
「しっかし、どーこいったんだろうね。クレバスは。」
「キュキュル!」
ティアラが南の方を向き、耳を立てた。何か発見したのだろうか。ただ、赤影のフレアと違ったところは、青星の方を見て、待機している事だった。よくしつけてあるものだ。
「何か見つけたのね。・・・じゃあ行きましょうか。クレバスだったら大手がらよ。」
「キュル。」
二人は駆けだした。無理しない程度の心地よいスピードで。周りの木をかき分けながら走った。生い茂る木々の中、その先に光が見えた。どうやら前が開けているようだ。
「この先は・・・?」
どことなく青星も不安を感じた気はした。しかし気にもとめなかった。
その時、それまでずっと青星の横を走っていたティアラが急に青星の前に走り込んだ。青星はとても他人に見せられないようなひどいこけ方をして、地面に突っ伏した。
「いったぁー・・・。ティアラ?!どうしたの?」
そう言って青星が顔を上げると、その先にあったのは断崖絶壁の崖だった。青星の足下の石が転がり落ちて、カラカラと深い崖の闇に吸い込まれていった。
「キュルゥ・・・。」
青星は久々に恐怖を感じた。後一歩踏み込んだいたら・・・。ティアラが止めてくれるタイミングが、後1秒遅れていたら・・・。
「ティアラ・・・。ありがとう。」
「キュル!」
青星とティアラが感傷に浸っているとき、二人の後ろには、多数の影が静かに忍びつつあった。