この手の中の殺意と夢


    

夏だった。
放課後の教室は夕日の色に染まっていた。教室にいるのは俺とトミーとアラン。俺は 席に座っていて、アランとトミーは俺の机を挟んで立っている。
トミーとアランは何か熱心に話しをしていた。 時々、二人は腹をかかえて笑い、俺にも笑いかけてくる。俺も話しにまじるようによ うにかるく笑いかえしておく。 でも本当は、二人の話しは全然俺の耳にとどいてこない。何も聞こえない。まるでブ ラウンカン管ごしにスロー映像を見ているような、現実味のない世界に俺はいる。
でもなぜだろう?いつもと変わらない放課後なのに、こんなにも非現実なのは。
何か が違うんだ。何かがたりない。
またトミーとアランが何か話して笑っている。口を人形のようにぱくぱく動かして、 何 か俺に言っている。

なんて言ってるんだろう?
わからない
聞こえない

俺だけがどこかどこか遠い存在にされてしまったようで…
俺は何をなくしたんだろう?
何を求めているんだろう?

「ダレン」
突然アランの声が聞こえた。それをきっかけに俺は、急に音のある世界に帰ってき た。
アランの見つめるほうに俺も振り向く。教室の入り口にダレンが立っていた。
「何はなしてたの?」
言ってダレンは、こっちに歩み寄ってきた。
「どこ行ってたんだよ?」
トミーが聞く。
「先生に呼び出されちゃってさ」
「なに悪いことしたんだよ?」
アランがダレンを小突いた。ダレンはただ少し困ったように笑っている。
夕陽に赤く染まるダレンの顔を、俺はじっとみつめた。ダレンは、俺と目が合うと少 しはにかむように笑った。
俺は胸がズキンと痛むのを感じた。ダレンを見つめたまま、俺は無意識的に立ちあが る。ガタンと音をたてて椅子が倒れると、アランもトミーも、そしてダレンもはっと して 俺をみつめた。
「どうしたの?スティー…」
ダレンが言い終わる前に、俺はその肩を抱きよせた。
「なっ…何?一体どうしたの、スティーブ?」
ダレンはすっかり狼狽していたけど、俺は幸せだった。
ダレンの肩に顔をうずめて、首にしがみついてやった。
ダレンのやわらかな匂いがする。あたたかな血の流れを肌で感じる。それが切ないく らいにいとしくて、懐かしくて涙が出た。
「ごめんダレン。俺、おまえのこと…」
なにか言いたくて、でも言えなくて。俺はただ強くダレンを抱きしめた。
夢。そうだ、俺は長くて悪い夢をみていた。
ダレンがバンパイアになって俺を裏切る、そんな夢を。なんて夢をみてしまったんだ ろう。
こんなにもダレンは、あたたかいのに。バンパイアなわけないじゃないか。それなの に俺は、ダレンのことを・・・。 思い巡らすと胸がちりちりと熱くなる。安心感や喜びが涙に変わって流れた。
「ごめんなダレン。これからもずっとおまえは…」
俺の一番大切な友達だ。そう言おうとしたけど、そこまで言葉がつづかなかった。つ づけられなかった。
俺は、目を見開いた。俺の手のひらに刻まれた、十字の傷が目に映ったから。
俺は、ダレンを突きとばした。はなれたダレンの顔を見て、俺はぞっと血の気がひく のを感じた。口が血まみれだ。
辺りはいつの間にか、教室から真っ暗な闇にかわっていた。
トミーもアランも、他の何も存在しない。俺とダレンだけの深い暗闇。その中でダレ ンは、白く際立っている。俺もそれに負けないくらい顔を青くして、そっと首筋に触 れてみた。小さな噛み傷とおびただしい量の血が感じとれる。ダレンは、袖で口の血 を拭って笑った。
「スティーブ、どうしたのさ?もっと吸わせてよ」
狂気に満ちた笑みでダレンが言う。
「こんなんじゃ足りない。もっとほしい。もっとおまえが」
「ダレンっ…」
「スティーブがほしい。おまえのすべてがほしい。その血も肉も骨も…命も。全部ほ しい」
ダレンの目は、欲望に鋭く光っていた。心の底から欲しているんだ…この俺を。
「い…やだ」
俺は、かすれた声をもらした。
ダレンは悲しそうに眉をよせ、俺のほほにそっと触れた。
「どうして?ぼくたち親友だろ?」
そしてその唇を、俺の首筋によせる。
「!」
ダレンは、がっと目を見開いた。
ダレンの吐いた血が、俺の首にべちゃっと飛び散った。
「ス…ティーブ?」
俺の手がダレンの心臓をつらぬいていた。
ダレンは、顔を上げて俺の目をじっと見つめた。瞬きもせずに。俺もダレンを見つめ 返す。
ああダレン、俺もそうだ。俺もお前を欲している。お前の命を、その息の根を止める ことを。
でもなぜだろう?こんなにも苦しいのは。



目が覚めると自分の部屋だった。
全身に寝汗をかき、火照るように暑い。時刻は真夜中。
俺は、包帯を巻いた手をぎゅっと握った。爪が傷口に食い込み、ずきりと疼く。この 痛みはたしかな現実。
俺は起きあがり、窓の外を見上げた。開け放たれた窓から、夏の匂いがする生ぬるい 風が流れこみ、俺の髪をゆらす。
俺の見上げた空は、雲一つない晴れた夜空。満点の星が美しくも不気味に光ってい る。
半年以上前、ダレンと別れたあの日。俺が血の誓いをたてたあの夜もこんな空だっ た。
ダレンも今どこかで、この空を見上げているんだろうか。
「ダレン…」
きっとそうだ。ダレンのことは、なんでも分かる。 俺とダレンは、心臓を鎖で繋がれたように互いを感じ合う。たとえどんなに時が流れ ても、世界の果てまで離れていても・・・。
「もう二度と…お前の夢なんかみるもんか。絶対に…」
俺は夜空に手を伸ばした。
ダレンはこの星空のように遠いけど、でもいつかかならず、この手にその命を。
俺の伸ばした手の先で流れ星が走った。まるで夜空を切りつけるように。


これは、02,4,10の日付けでノートに書いてあったものです。
ちょこっと誤字を直し、パソコンに打ちこんでみました。このサイトの日付けが古い SSはそういったものがほとんどです。あと前やってたサイトからもってきたやつと か…。
読み返して思。文章がわけぇ…。あと4月10日は誕生日だ!
(他にやることねえのかよっ。闇ッ子め!)(闇ボーです)
何げに後編もございます。気が向いた方そちらへどうぞ…。


                             03,2,12

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