その日の彼女は、珍しく肌のほとんどを覆うような服を着ていた。

 普段は二つに結った長い髪を下ろし、白いヘッドドレスで飾っている。紺色の、肩の辺りが膨らんだ長袖の上着はやはり白いレースで縁取られ、スカートは踝が隠れる長さ。彼女の話によれば、通常の三倍の布地を使用した豪華仕様のものらしい。

 森にいた頃の格好に近いが、あの時着ていた黒い服と違って肩を完全に隠している。前より力を使いこなせるようになったからか、ネクロやウンディーネが急に出てくる事が少なくなったので、服が破れる心配がなくなったのだそうだ。

「だから、貯めてたお小遣い思い切って使っちゃいました」

 ディズィーがはにかんで説明するのを聞きながら、テスタメントは年甲斐もなく甘酸っぱい想いに包まれていた。

 普段はジェリーフィッシュ快賊団の一員として空にいるディズィーと、悪魔の森を離れて旅を続けるテスタメントが会う機会は少ない。その数少ない機会に、こうして彼女なりに自分を喜ばせようとしてくる姿が可愛らしい。

 一言期待して見上げてくるのが、余計に可愛いと思った。

「そうか、よく似合っている」

 勢いよく抱きついてくるのを受け止め、いつものように頭を撫でようとすると逃げられる。

「頭のがずれちゃうからダメです!」

「…………」

 気を取り直し、手をつないで歩き出す。

 二人が会ってする事は大抵決まっている。街を回って買い物をしたり、食事しながら近況報告をしたり――

「あのね、テスタメント」

 くいくい腕を引っ張って、頬を染めたディズィーが囁いた。

「今回のお休みは二日なんです……だからちょっと遅くなっても……じゃなくて帰らなくても大丈夫なので、それで、その」

 テスタメントは困ったような笑みを浮かべて、彼女の肩に手を回した。

 見た目に反して実年齢は幼い彼女を、会う度に抱くのは正直気が引けるのだが、求められれば嬉しいし応えたくもなる。

 そうして割り切れないまま、今の関係を続けている。

 いつも通りに二人で街を回った後、テスタメントが泊まっている宿へと戻る。無愛想な主人は客が男なり女なりを連れ込んだ所でとやかく言う性格でもなかったらしく、ディズィーを一瞥した後黙って読んでいた新聞に目を戻した。

「泊まる場所をもう少し選ぶべきだったな」

 殺風景な部屋の中で、ディズィーの姿は浮いて見えた。人間としては数十年前に死んでいるテスタメントの身では、真っ当に営業している宿に泊まる事は不可能である。だからここのように訳ありの人間ばかり泊める安宿を渡り歩いているのだが、せっかく着飾ってきた彼女には申し訳ないと思った。

「???」

 怪訝そうに見つめるディズィーを抱き寄せ、唇を重ねる。舌が差し込まれるのを待って自然に口を開けてしまう様子に内心苦笑し、ベッドに横たえた。

 あまり服飾についての知識はないが、こうした衣装の下着はやはり少女趣味の可愛らしい類のものなのだろうか。

 ――腿までの靴下なのかストッキングなのか分からないものを上からベルトで吊るような感じの、名前が出てこないが、とにかくそういう種類の。

 期待に胸を躍らせながら、服の上から全身を撫で回す。スカートの中に手を入れると、さらさらした感触。

「あ……」

 もう何度も体を重ねてきているのに、未だに恥ずかしいらしい。もっと恥ずかしい事なら沢山したような気もするのだが、脚を閉じて横を向いてしまう。

 無防備になった耳に舌を這わせる。慎重にボタンを外していくと、真っ白な布地が視界に飛び込んだ。

 豪奢な服の割には質素な下着。袖を抜かせると腕の先まで覆われている。

「――――――」

 何だか妙な予感がして、テスタメントは手早く上着とスカートを脱がせた。

 服の袖よりはやや短いそれ、彼女のボディラインにフィットし強調するさらさらした白い布地。

 つまり。



 ――全身タイツ。



 ――父さん。

 あなたなら、こんな時どうしますか?



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