有名なデザイナーにデザインを委託した令の学校の女子の制服は、薄い青紫を基調とした独特のデザインと短いスカートが特徴だ。この制服を着たいという動機でのこの学校を受験する者が居るぐらい評判が良い服なのだが……よりにもよって自分が、である。
「あとは……下ね。令、ここに座りなさい。」
「ね、姉さんまさか本気で……それに座れって言われても……」
姉の言動、そして示すものに令は困惑する。静奈は自分の膝の上を手で示していた。
「だからこ・こ! いいから後ろ向きに、言われた通りに座りなさい。」
譲る気がまるで感じられない姉に、令はしかたなく静奈に背を向けるようにして彼女の膝の上に腰掛けた。背中に静奈の胸が当たり、一瞬令はどきりとする。
が、そんなものをまるで意識していないとばかりに静奈は令を自身の方に引き寄せたかと思うと、唐突に令のシャツとスパッツに手を入れた。そしてその手を撫でるように動かす。
「ひゃうううッ! ねね姉さん、ななな何をを!!…はうんッ!」
「暴れないで!……う〜ん、C…いや、Dかな? お尻も案外大きいわねぇ。」
どうやら静奈は令の胸や尻回りのサイズを測っているようだったが、令は当然落ち付いてそれを受ける事など出来なかった。撫でられ、揉まれ、令にとっては先ほどまでの責めと区別がつかないような状況だからだ。
「はあぅ……あっ! ね、姉さん……もういいでしょ! そんなにされると……はあっ!」
「だから暴れちゃだめだったら……む〜……まあ、こんなものかしらね。じゃ…お・ま・け!」
「ひゃあぁん!!」
手を抜き取る時に静奈は行きかけの駄賃とばかりに令のクリトリスを指で弾いた。
荒い息で脱力する令を再びベットに座らせると、静奈は今朝令があさったあのタンスに向う。
「令のサイズは……っと、問題ないわね。どっちもあるわ。」
「……そういえば姉さん、そのタンスってやっぱり…?」
「やっぱりって?……ああ、そうね。その通りよ。」
令の言葉に一瞬首を傾げる静奈だったが、すぐに令の意図に気が付き答える。
「ちょっと強引に抱いちゃう事もあるから、そういう事も稀にあるのよ。
あと折角魅力的な体を持ってるのに下着に無頓着な子もいるから、そういう子に自分の本当の魅力に気が付いてもらうため……っていうのもあるわね。」
幾つかの同一サイズの下着を比較しながら静奈は淡々と説明を続ける。
この歳、しかも女になって初めて知った姉の隠された姿は、令の静奈へのイメージを根本から破壊してしまうほどの威力があった。事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。。
「とりあえず令には……やっぱり清楚な白よね。じゃあ令、服を脱ぎなさい。」
「ね、姉さん。別に姉さんの前で着替えなくても……それに女ものの下着なんて!」
「私の前じゃないと……令は着たふりする気でしょう? ダメよ。」
令はあっさりと図星を指摘され絶句する。それを見て静奈は呆れた顔をした。
「ブラ着けないと胸の形が崩れるのよ? 大体一人で着替えてしまったら……」
「……しまったら?」
「私が見れないでしょう? 私は令が女の子の下着を着るところを見たいの。せっかく可愛い令の下着姿が見れるのに、それを逃すなんて愚の骨頂よ。」
あまりにストレートな欲望の発露に、令は絶句する。
令は昨日まで自分の中にいた姉は、自身の夢幻だったのではないかと勘ぐりたくなる気分だった。
しかし、などと思う間に静奈はいつのまにか令の後ろに回り込み、その服を脱がせにかかった。
「わあぁ!姉さん、だから脱ぐのは自分で……」
「何を今更恥かしがっているの? いいから私に任せなさい。」
拒む間も与えられず令はシャツを脱がされスパッツを取られて、裸にされてしまった。
事の後、さすがに女モノの下着を着けるのは躊躇ったのだが、どうやらそれは無駄な抵抗だったようだ。
「さあ令……足を通して……」
静奈が令の足に抱きつくように屈み、その足元にショーツを促す。
令がゆっくりと片足ずつ、両足を通すと静奈はゆっくりとそれを引き上げ始める。
ショーツが足を擦る微かなむず痒さに息を吐いて我慢すると、それがぴたりと令の股におさまった。
静奈の見立てが確かなのか、それはまるで令の為に作られたかのごとくフィットする。
それに男物とは肌触りが桁違いに違う。脱衣所で静奈に渡された朝の下着よりも上ではなかろうか。
「今日着ける一式、令にあげるわ……シルクの高級品なんだから、大事にしてね。」
静奈が令の肩を後ろから抱きとめ耳元で囁く。そしてそのまま左手で令の秘部をショーツの上から撫でた。
「はうんッ!……やああぁっ……」
まるで直接秘部を撫でられたかのような感覚。下着が肌の一部になったような一体感だった。
「次はこれ……令、手を通して。」
今度は後ろからブラが回される。ショーツ同じピンクがかった綺麗な色をしていた。
ショーツを着けられた上に先ほどからの姉の微妙な刺激……多分令の意識は多少麻痺していたのだろう。
今朝のような嫌悪感を示す事もなく、令は言われるがまま手を通した。
「そう……そうやって前を……令、いい子ね。」
「あ……ひゃん! やっ……そんな、胸を……」
「こういう風にね、少し持ち上げるように優しく包むのよ。後は………これで……おしまい。」
ぱちり、と背中でホックを止める音がする。令の双球はすっぽりとその中に収まった。
途端に少し肩が軽くなったような感覚。そしてまた、これ以上ないというぐらいの一体感があった。
「じゃあ令、この前に立ってみましょう。」
静奈はそのまま令を背中から押し、鏡の前に促した。好奇か心配か、令もそれに素直に従う。
そして令はようやく、自分自身の姿を見た……
「可愛いでしょう……? 今の令、本当に可愛いわ……。」
見惚れるような声で静奈が令の耳元で囁く。そこには、目が大きく短い髪をした下着姿の、誰がどう見ても”まぎれもない女の子”が不安げに立っていた。
「あぁ……ほ、本当に……」
令の心臓がどきりと鳴る。誰しも見惚れそうな、男ならば絶対目を奪われるような、そんな姿。
思わず見詰めると、その頬が微かに朱に染まった。それがまた可愛くて……。
しかしその鼓動と肌の同期が、令にとっては悪夢のような現実を思い出させた。
そう……その少女は紛れも無く自分。それは、今現在の三木原・令の姿なのだ。
一瞬の高揚感はどこへやら、今度は一気に精神が暗礁に乗り上げた。
「ね……姉さん、本当に着なきゃ……ダメ?」
げんなりとした顔で姉の方に向き直る令だったが、見ると静奈はすでに次の服、制服のインナーを手にしてニコニコと笑っていた。
そしてその笑顔がただの嬉しさの表現ではない事を令は昔から知っている。
「これはシャツみたいな物だから分かるわよね。さ、こっちを向いて。」
静奈は令の質問を何事も聞えなかったかのように黙殺し、自分の方に向かせた。
この状況の姉に逆らったりだだをこねたりすると、その後がさらにややこしくなる事を
令は子供の頃に嫌というほど体験してきたので、素直に従うしかなかった。
−とはいえ……分かってるって言うなら自分で着させてよ……−
静奈は嬉々として令の手を袖に通させ、服のボタンを止め始める。
要は静奈はただ令に服を着させるのではなく、”自分の手で”令に服を着せたいのだろう。
それは静奈自身のある種の拘りなのだが、さすがの令もそこまではわからない。
思っている間に静奈の手は胸元の最後のボタンまで来ており、それも止められる。
着てみると、男物のシャツとは腰のあたりがぐっと締まっているあたりで違った感じで、首から胸元が開いているのが少し違和感を覚える。
なるべく体の線が出るように意識されたデザインなのだろう。
とはいえ服としては違和感の少ないもの。が、その次は当然……
「次はこれだけど……もちろん令、これを着けるのは初めてよね?」
当たり前だと令は心の中で叫ぶか、あえて口には出さない。
女生徒用の制服だから当然と言えば当然なのだが……下がズボンのはずはない。
違う文化圏ならともかく、少なくとも今の日本で男が着けるものではないものが静奈の手の中にあった。そう、あの短いスカートが……。
だが今の状態の静奈に対し拒否などという選択肢が存在しえない諦めか、令はもうどうにでもなれという精神状態で素直にスカートに足を通した。
それを静奈が背中から腰の所で止める。令の悲壮感とは裏腹に、あまりにあっけないただの衣服の着付けの感覚だった。しかし……
「うぅ……なんか何も履いて無いような感じだよ。」
奇妙に足のあたりがスースーとするのに、令は漠然と不安を覚える。
男の感覚に従うなら、この後上にズボンを履くところだ。
腰回りは布地に保護されているはずなのに、トランクス一丁より心もとない気がする。
「すぐに慣れるわ。さ、後は上とリボンでお終いね。」
静奈は初めて令に自分の持っていた服……上着を令に渡して袖を通させた後に、上着を胸の前で閉じるための胸元に着けるリボンを取り付けた。
「これで終わり。さてと………ああぁ、もう令ったら!!」
リボンを着け終わった後、一歩下がって令を見た静奈の顔がみるみるとろける。
「思った通りじゃない。可愛い……このまま襲っちゃいたいぐらい。はぁ……」
さっき散々襲ったくせにという思考は声に出さず、令は抗議の目で姉を見た。
「姉さん……そうは言うけどこれじゃあオカマだよ。こんな恥かしい格好でどうやって学校に行けって言うんだよ。まさかただ僕にこれを着せたかっただけなんじゃないよね……」
何か虚しくなった令は脱力の溜息をついた。が、静奈は何故? という目で令を見る。
そのまま令の後ろに回りこんでから、肩を掴んで令を押す。
「令、とりあえず見てみなさい。文句はそれから受け付けるわ。」
「見てって……ね、姉さん! 鏡はもうやめてよ、こんな格好の自分なんて……」
令は鏡の前に立たされそうになって、先ほどの下着姿の自分を思い出す。
あの妙な気持ちと嫌悪感がまた吹出しそうな気がして思わず抵抗した。
しかし静奈は問答無用とばかりに今は静奈より非力になった令を強引に鏡の前に立たせた。
「見てみなさい令……私、今のあなたを見てオカマだブスだと言う人間が居たら、その人のセンスと常識を疑うわ。今の令が可愛くないなら今時の女の子の大半は失格ね。」
静奈に促されて令は恐る恐る鏡の中の自分を見る。
そこには……学園のアイドルにもなれそうな、紛れも無く”可愛い”と言い切れる容姿の制服姿の少女が自分を見つめていた。
「どう? 容姿については言う事無しだと思うけど。令にはまだ不満があって?」
「いや、その……容姿のレベルがどうとか言うんじゃないけど……」
その言葉を肯定と受け取ったのか、静奈はうんうんと頷く。そもそもそれ以前の”自分が女である”という状況が問題なのだが、静奈はそれをまったく問題に入れていないようだ。
「でも、この姿でどうやって学校へ行くの? 先生やみんなにはどう説明するのさ?
三木原・令は今日から女の子ですなんて、言える訳ないんだし……」
「その辺はまかせなさい。令の学校、まだあの八重野校長と巣鴨理事長が現役なんでしょう? 話は私がつけておいてあげるわ。」
静奈の上げた名前は令の通う学校の二大権力者である。確かに静奈なら現役時代の生徒会長だったという肩書きである程度話もできようが……そこまで教師や経営陣に通じているとは令も知らなかった。
ただ静奈が生徒会を牛耳っていた頃というのは、やけに生徒会の権力が学校に対し強かったという覚えが令にもある。まあ弱みの一つや二つ……などという話が出てきたところで、朝から散々これまで知らなかった姉の一面を見せつけられた令には今更驚くにも値しない問題だ。
当の静奈は慣れた手つきで携帯電話を操作していた。
「令、今日は車で送ってあげるから準備してきなさい。………あ、八重野校長? 私、34期生徒会長を務めていた三木原ですけど……あら、覚えていて頂けて光栄ですわね。実は少々……」
静奈に促されて令は自分の部屋に教科書の入った学校鞄を取りに戻る。
姉の電話をかけた先はどうやら校長だったようだが、微かに聞えた校長の声が、静奈が名乗った途端にえらく引きつったように思えたのは気のせいだろうか? 多分それは……考えるまでもない。
大きな不安と何故か奇妙な期待感の中で令は、机の横にある学校鞄を手に取った。