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 心は少し焦っている。
 いま龍鬼は、心の『お願い』をきいて、歯磨きをするため洗面所にいっている。
 洗面所とはいっても、トイレとは壁で仕切られただけでドアも無く、距離もさほど離れていない。
 だが一応、壁が存在しているおかげで、お互いの様子は見えないようになっている。
 龍鬼はここに戻ってきたら、きっとまた『何か』してくるに違いない。
 だから、彼がこの場を離れているうちに、後始末を終わらせてしまわなくてはならない。
 後始末――龍鬼の唾液にまみれているはずの、『あそこ』を綺麗にするのだ。
 中途半端なところで途切れてしまった、龍鬼の『悪戯』のせいで、心の身体は今も火照ったままだ。
 燻りつづける甘い疼きが、心を切ない気持ちにさせる。
(……なんで? どうして、こんな風になるの?)
 女の子になってからというもの、悪戯されると、いつも、すぐ、こんな風におかしくなってしまう。
 龍鬼のことも、この身体のことも――心にとっては分からないことだらけだ。
 今の自分の『あそこ』は、一体どうなっているのだろうか?
 心は、ずっと気になっていた。妙な感じに疼くから、気になって気になって堪らなかった。
 龍鬼がいない今こそ、確認するためのいい機会に思える。
 それに後始末をする必要もあるから、どのみち確かめねばならない。
 ガウンの裾をまくりあげて、ふと、心の動きが止まる。このままだと裾が邪魔だ。
 手早く二回ほど折ってまとめ、口に咥えた。これなら落ちてこない。
(ちょっと、お行儀…わるいかなぁ?)
 肢を少しだけ開いて、股間を覗き込む。
 てかてかして――濡れている。龍鬼の唾液だ。
 ジンジンと痺れているような、それなのに敏感になっているような、変な感じが続いている。
 空気にふれて、微妙に涼しさを感じる。熱をもっているらしい。
 熱くなって、それに普段よりもふっくらして――腫れているみたいだ。
 いつもはぴったり閉じているはずの割れ目が、膨らんだ『花びら』や『蕾』に押し上げられて、内側からめくれるように少し開いてしまっている。
(ひどい、ひどいよぉ……こんな、こんな…)
 龍鬼が舐めたせいだ。悪戯されたせいだ――心はそう判断した。
 確認するために、指先で触れてみる。
「んっ……」
 ヌルンと、指が滑った。
 ぬめぬめしている。
 唾液だ。これは龍鬼の唾液だ。しかし、それにしてはヌルヌルし過ぎているような……?
 何となく疑問に思って、割れ目の内側、桃色の襞を撫でて確かめていく。
「んっんう?! んん……」
 指の腹のあたりで、ぬるぬるした割れ目を擦るたびに、お腹の底の方がじんじんする。
「んふっ……んん、ん、ん…んふ、んふ、ん!」
 どうしてなのか、手が止まらない。
(だめ…だめだよぉ……やめなきゃ、だめぇ、だめなのぉ)
 ガウンの裾を咥えているおかげで声こそ出ていないが、心の呼吸は明らかに荒くなっている。
 左手で割れ目をそっと広げ、右手の人差指と中指の腹の部分をつかって、ヒダヒダの部分を擦る。
 ヌルヌルして、指に吸いついてくるような、柔らかい感触。
 微かに、くちゅくちゅという湿った音がする。
(あ、いやだぁ…なに? これ……こんなの、だめだよぅ)
 この音が、壁の向こうの龍鬼に聞こえてしまったら、もしも今ここに彼が戻ってきて、こんなところを見られでもしたら、どうしよう――そう思って、心は止めようとする。
 しかし、肉襞を擦る感触が――同時に擦られる快感が、心を捉えて放さない。
「ん、ん、んん……んう、ん、ん、んふっ!」
(くちゅくちゅ、やめないと……でも、でも、気持ちいいよう…でも、だめ、だめだよ……でも、ぬるぬる、いい、いい気持ち、でも、だめぇ……だめ、でも、だけどぉ)
 もっともっと、たくさん弄りたい――ヌルヌルしたい。
 自分の手で味わう快感に、心のこころは囚われていく。
(気持ちいいよぅ……もっと…ぬるぬる、キモチイイ)
 充血したせいで普段よりもふっくらしている大陰唇を、左手の指をつかっていっぱいに開き、あらわになった桃色の肉を、右手でグニグニと強く擦る。
「んーっ! ん、んっんふ! んんー、んう、んー!」
 どんどん大きくなっていく、心の喘ぎ。
 うめき声にも似たそれは、もう恐らく、龍鬼の耳にも届いているだろう。
 ビクンッと、心の身体がふるえ、動きが止まる。
 いちばん敏感な『蕾』を、乱暴に擦ってしまったためだ。
 刺激を受け続けてさらに充血が進み、クリトリスは、いつの間にか少しだけ顔を覗かせていた。
 あまりに強い刺激が、一瞬、心の思考を呼び戻す。
(おかしいよ……こんなの、ヘンだよう。いやだ、ヘンになっちゃう…いや、いやぁ)
 それでも、手は止まらない。
 指先で、クリトリスをつんつん触り、痛みがないのを確かめてから、クニクニと弄りだす。
(いや、いや、いやぁ……おかしくなっちゃう)
 『蕾』を捏ねくり廻すように、ふにふにと刺激しながら、心は少しづつ思い出しはじめる。
 亜津子に悪戯したときのこと。そして、失くしてしまった『大切なもの』のこと。
(おちんちん……ない…よ?)
 そうだ。自分は『男の子』なのに、『おちんちん』が無い。
 男の子の『お股の間』には、『おちんちん』があるはずなのに、どこかに行ってしまった。
 あの時も、亜津子に悪戯した時も、『おちんちん』が無いのに気付いて、それで――。
 この突起を、小さな肉芽を、こうやって弄った。
 『蕾』を摘んで、指先をすり合わせるように、優しく揉みほぐす。
 適度な刺激を受けて、『蕾』はますますぷっくりと膨らみ、敏感さを増していく。
(ええと……それから……あ、大きく、あ、ああん! いやぁ、いやいやぁ……ヘンに…)
 かすかに帰ってきた思考も、あっという間に、快楽に押し流されていく。
「んうーっ! んっふ、ん、んんう……んん、ん、んう、ん……んー!」
 もはや声を我慢することさえ忘れている。
 ガウンの裾を噛み締めて――丁度、猿ぐつわを噛まされて、悲鳴を上げているような状態だ。
 右手でクリトリスを摘んで軽くねじり、こねくり回す。
 同時に、左手と右手の残った指すべてをつかって、割れ目の表面――柔らかな花びらを擦り、つま弾いて、かきまわす。
 しかし、どうしたわけか、胎内には一切ふれようとしない。
 もしかしたら、心は、まだ『そこ』には気付いていないのかもしれない。
(ヘン…ヘンなの……おかしいの、おかしくなっちゃう……ヘンに……たつき、たつきぃ!)
 きっと、龍鬼が悪いのだ。彼が『いけないこと』をしたりするから――あんな風に舐めたり、悪戯したりするから――だから自分は、『おかしく』なってしまった……。
 このままだと、自分はもっと『おかしく』なってしまう。
 『おかしく』なって――どんどん『ヘン』になって、きっと『病気』になってしまう。
 快楽に囚われた心は、愚にもつかないことを考えはじめる。
 悪いのは、龍鬼だ。
 だから『治して』もらわなくては――龍鬼のせいでこうなったのだから、彼に責任をとってもらわなくては……。
(たつき、たつき……たつきぃ…たつきたつき、たつき、たつきぃたつきぃ!)
 龍鬼に対して、怒っているのか――それとも、すがっているのか。
 心のこころの中は、龍鬼への『何か』でいっぱいになっていく。
 そして、その『内なる呼び声』に応えるように、「心……?」
 彼は、帰ってきた。

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