46

 龍鬼の手が、心の纏っているガウンの裾に触れた。
「治す前に確かめないといけないから、ちょっとだけ見せて欲しいんだけど、いいかな?」
「いや! 見ちゃだめ……見ないでください」
「でも、見えないと――どういう状態なのかわからないと、上手に治せない」
「ダメです、見ないで、見ないでなおして」
「見ないで触ったら、痛くしちゃうかもしれないよ? 痛いのは嫌だよね?」
「平気だもん! 痛くても、がまんできるもん……だから、だから見ないで」
 ムキになって答えたものの、心はすぐにモジモジしはじめてしまう。
 龍鬼の言葉を、痛みを『嫌がる』=『怖がっている』と思われたと、心はそのように捉えた。
 なんといっても心は『男の子』だから、そういう『弱虫』だと思われたことが心外だった。
 それでムッとして、語気を強めたわけだ。
 しかし、そのことと身体を見られるのを『恥ずかしい』と感じることとは、まったく別の問題だ。
 恥ずかしいものは、どうしたって恥ずかしい。
 それにさっきから龍鬼は、心の身体の見ると――とくに心が恥ずかしいと思っている部分を見ると、様子がおかしくなって悪戯してくるように、心には思える。
 よってこれ以上、彼に身体を見せるのは『イヤ』であるし『よくない』と考えたのだ。
「いいの? 本当にいいの? 見ないで触ったら危ないよ? 傷になったら、大変だよ?」
 龍鬼は、しつこく念を押す。彼としては、心を傷つけることは絶対に避けねばならないし、傷つけて嫌われたりしたら、それこそ悔やんでも悔やみきれない。
「平気です。それに、たつきは痛くしない…よね?」
「もちろん、気をつけるよ。だけど――」
「たつきを信じます。もし痛くても、がまんします……だから見ないで。見ないでください」
 心の瞳は澄みきって、まっすぐに龍鬼を見つめている。
 確かに、龍鬼にはもう何度も『悪戯』されているが、だからといって心には、彼が悪い人間には思えない。
 龍鬼は信用できる人だと、良い人なのだと、心はすでになかば確信している状態だ。
 人を信じる――それが、何よりも大切なことだと教えられて、心は育った。
 いまの心はこころが幼く『戻って』いるため、その『教え』を素直に守ろうとしているのだ。
「うん、分かった」
 自分がこれまで以上に注意して、慎重に行動すれば済むことだ――龍鬼は、そう考えた。
「さ、はやく治してあげようね」
 心の肩に手をおいて引き寄せ、額と額をくっつける。
「お願いします……はやく、治してください」
 火照った身体――ちょうどお腹の奥のあたりで、熱いかたまりが燻ぶっている。
 龍鬼と話しているあいだも、心はずっと我慢していたのだ。
「ん……」
 唇がふさがれた。
 舌を絡めあいながら髪を撫でてやると、ただそれだけで、心の身体からは少しづつ力が抜けていく。
 片手で背中を撫でながら太ももへと手が伸びていき、こちらも撫でようとする。
「んっ…ん」
 ぴくんっ――と、心は身体を強張らせた。
{まだ、緊張しているみたいだ}
 心を安心させてあげたい。もっともっと安らかな気分で、楽に、気持ち良くさせてあげたい。
 そうなると、やはり此処では色々とやり難いかもしれない。
 龍鬼の決断は、行動は、素早い。
 手を止めて、心を抱え上げようとする。もちろん、唇は合わせたままで。
「んぁ……やぁっ! なにするのぉ?」
 唇を離して、心は抗議する。
「ベッドに戻ろうね? ここだと上手くできないから、ね?」
「いや、いやいや、いやです。汚いよぉ…汚いの…このままは、汚いからイヤぁ」
 手足をパタパタさせて、心はイヤイヤをする。
「汚くないよ。大丈夫」
{困ったな……すごく嫌がってる。ここで、このまましてあげるしかないのか?}
 龍鬼はふたたび、心の唇をふさいでしまう。
 キスをつづけながら、もう一度、心を落ち着けせようと頭や背中、肩やお腹などを優しくさする。
「ん、んぅ…ん、んん」
 さほど時間もかからず、心の抵抗は静まっていく。
 喉をなでられた子猫のように目を閉じて、大人しく身をまかせはじめる。
 心の身体から力が抜けてきたところを見計らい、龍鬼は太ももへと手を伸ばす。
 太ももに手がのった瞬間、ピクっと反応した――が、今度は大丈夫なようだ。
 手の平をすべらせるようにして、太ももを『なでなで』する。
 くすぐったいのか、心はかるく身をよじらせる。けれど、先ほどのような緊張は感じられない。
{良かった。安心してくれたんだ}
 だが、龍鬼の手が内ももに伸びると、心は肢を閉じあわせて挟みこんでしまう。
{やっぱりきちんと確認して、許可をもらわないと駄目かな?}
 唇を離す。
 軽く開いた二人の口、舌と舌のあいだに透明な糸が数本のびて――すぐに切れた。
「はぁ…ぁあ」
 深い溜息をつく心。
 内ももをそっと撫でるように、龍鬼の手が肢の付け根へ移動していく。
「ん、んふ……あ、あぁ…ん」
 くすぐったくて我慢できないのか、心は太ももを軽く擦りあわせる。
 龍鬼の手は太ももの間に挟まれるが、ごく弱い力なので動きを阻まれることもなく、かえって刺激が強くなるだけだ。
 股間に触れるか触れないかという微妙なところで、もぞもぞと手を蠢かせ、太ももを揉みしだく。
「そろそろ触るよ? 治してあげるからね? 怖がらなくて、いいんだよ?」
 心は声もなく、ただ素直にうなずいた。
「あ…ん、んっん……んふ、んん! ん、んぁ、あ、あ、あっ」
 やわらかな太ももの肉を押しのけて、龍鬼の手はようやく心の大事な場所にたどりつく。
 幼女のようにピッチリと閉じた割れ目を、指先で包み込むように触れている。
「あれ? ぬるぬるしてる」
 むちむちした大陰唇を指でよせて閉じあわせ、敏感な粘膜に触れないようにわざわざ注意しながら、弾力を確かめるように指を押しつけてふにふにと揉んでくる。
 少年がすることとは思い難い、回りくどく陰湿な感じを与える愛撫。
 龍鬼はひじょうに器用というか……よくもまあ、指が攣らないものだ。
「あっ……あ、あぁん、ん…やっ、やぁ」
 こんな中途半端な状態が、いつまで続くのか――。
 心は焦らされつつも、熱い塊が身体の奥で大きくなっていくのを、はっきりと感じている。
「あ…あ、ん」
「どうしたのかな? 一体どうしちゃったのかな、これ――ここ、何でぬるぬるしてるの?」
 たとえ柔肉を無理によせていても、その『隙間』を完全にふさぐなど不可能なこと。
 龍鬼が大陰唇を押すたびに、中央の切れ目からは、じくじくと陰蜜がしたたってくる。
 切れ目が開いてしまわぬように注意しながら、龍鬼は溢れた蜜をまわりに塗りつけていく。
「や、いやいやぁ……ん、たつきがぁ、あ、あん…たつきが、ん、なめたから…ぬるぬるするのぉ」
「そうか――そうだね、そうだったね。ごめん。もうあんなことはしないから、許してね」
 桃色をした花弁が、自分自身の柔肉に挟まれたまま、それごとグニグニと揉まれる。
 ほとんど無毛の、顔や手などと同じくすべすべした、普通の皮膚におおわれた周りの肉。
 敏感な薄桃色の粘膜でかたちづくられた、それなりに複雑な外観をもつ中心部分の肉。
 二つの異なった、けれど、どちらも同じ身体の一部。やわらかな肉同士が擦れあい、絡みあう。
「あ、あん…あ、あ、んぁ……だめ、だめぇ…ん」
 心は、包みこまれた陰肉が熱くなって溶け、ぐずぐずのジャムになっていくような――そして、その溶けた恥ずかしい肉が割れ目から流れ出してしまうような気がしてきた。
「たつき…たつきぃ、あついよぉ…あつい、あついですぅ」
 潤んだ瞳で、心は訴える。
「どこかな? どこが熱いのかな? 教えてごらん」
「たつきが…たつきが、さわって…る、ところ」
「ここ?」
 くにゅくにゅ――と指先を押しつける力を少し強めて、それでもクレヴァスの内側には触れずに、龍鬼は確認してきた。
「ん……」
 心はうつむいて黙ってしまう。
 先ほどから、龍鬼のやり様があまりに陰湿なので戸惑っているのだ。
(やさしいのに……いじわる)
 つい先ほどまで、龍鬼はあんなに優しくしてくれたのに――いや、今も変わらず優しいのに、そうでありながらとても『いじわる』なことをされていると、心は思うのだ。
「うーん、それじゃあ……ここかなぁ?」
「ひあっ!!」
 龍鬼は割れ目に指先を押しつけると、レールの上をかるく滑らせるようにそっと動かした。
「はうぅ…はい……そこ、そこです」
 悲鳴をあげてしまったことを恥じているのか、心の声は消え入りそうなほど小さい。
「そうなんだ。ここが熱くて、大変なんだね?」
「…はい」
「よーし、冷ましてあげる。ふうふうしてあげようね」
 その意味するところを判断する間さえ与えずに、龍鬼は心の太ももを割って股間に顔を近づけていく。
「あ、あ…いや、いやぁ! 見ないで、見ないでぇ」
 龍鬼の頭を内ももに挟みこんで止めながら、同時に両手で押しのけようとする。
「うん。分かってる。見ない。見たりしないよ」
 言葉どおり、龍鬼はしっかりと目を閉じている。
「……見ない? 見ないで、ふうふうするの?」
「うん」
「見ないで、わかるの?」
「もちろん。こうすれば――」
 グリグリと内ももに顔を擦りつけながら、龍鬼は心の大切な『女の子の部分』を目指す。
「こうすれば目を瞑っても大丈夫。それに心のここはとっても良い匂いがするから、匂いのするところ――匂いの強いところをふうふうすればいいんだよ」
 言いながら、龍鬼は鼻を鳴らして息を吸い込んでみせる。
「しないもん…匂いなんてしないもん」
「するよ、いい匂い。とってもとっても良い匂い。甘くて美味しそうな香りが、ここから」
 見えていないはずなのに、龍鬼は指先で正確に秘裂をさぐり当てて左右にかるく拡げると、鼻先が触れそうになるほど顔を近づけた。口を軽くすぼめて、ふうーっと息を吹きつける。
「にゃっ?! いやぁ、いや、いやぁん」
 ふぅーふぅーと何度もしつこく、龍鬼は『お花』に息を吹きかける。
 あまりのこそばゆさに、心は情けない悲鳴をあげて腰をくねくねさせてしまう。
 すっかり充血して敏感になった粘膜に、龍鬼の吐く空気は強すぎず弱すぎず丁度良い加減でぶつかり、ちりちりと沁みてくる。
 ふつうなら人の吐く息だから多少なま温かいはずなのだが、心の『恥ずかしいところ』が火照っているせいで涼しく感じるらしい。
 龍鬼の言うとおり、熱くなったところを冷ますには効果がありそうだ。
 しかし実際は冷めるどころか反対に、心の陰裂はますます熱く火照り、むず痒さを増していく。
 熱くなればなるほど、どんどん吐息が沁みるようになってくる。
「ふぁあ…ん、ダメぇ、ダメ…ふうふう、ダメぇ」
 ぴちゃ――と湿った音がして、心の股間に龍鬼の顔面が押しつけられた。
 べつに龍鬼がそうしたわけではなく、心が彼の頭を抱えこんでしまったためだ。
 鼻と口をふさがれてはさすがに龍鬼も苦しいのか、モゴモゴと呻きながら顔を離そうとするのだが、心はよほどしっかりとしがみついているらしく容易には離れてくれない。
 龍鬼からは見えないが、心は単純にしがみついているわけではなく、両腕の関節を然るべき位置で絡め、簡単には外れぬようにロックをかけている。
 かつて男であった頃の、格闘技者として技量がこのようなまったく何の関係もないところで顔を出し、状況を思わぬ方向へ運ぼうとしていた。
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