5

「お姉様達の邪魔をしないでくださいねぇ」
 声は甘いが、どこか嫉妬と怒りの感情が感じられる。布夕は瞳の乳房を後からつかみ、乳首を指で撫でまわす。
「先輩の先っちょ、くりくりですよ? お姉様のえっちを見て興奮したんですか?」
 布夕は耳を舌でなぞったり、息を吹き掛けたり耳たぶを咥えたりする。
「だ、だめ……耳、弱いの……」
 拒否するように体を左右に軽く揺さぶりながら、瞳が崩れ落ちる。
「はぁい。今度は瞳先輩が子猫ちゃんですねー」
 うふふと笑いながら、瞳の上に覆い被さってゆく。
 もつれあう二人を、亜美は茫然として見つめた。
 何か、見てはいけないものを見てしまったような気がしているのに、視線が外せなかった。初めて見る光景でもないのに、新鮮で、淫靡で、胸の奥がかっと熱くなる。こんな感情は、遠い昔に忘れ去っていたかと思っていた。
 姉に自慰のしかたを小学校1年生の時に教わって以来、常に彼女は姉に年齢不相応な性の知識を植え付けられ、体でおぼえさせられた。
 亜美にとってセックスは単なる技術であり、いつか来る生殖の手段でしかなかった。
 興奮など、ほとんどしなかった。
 それなのに、今、彼女は舞い上がってしまいそうになるのを押さえきれないほど、ときめいている。
 これは本当に自分なんだろうか。
 ぼんやりとしていた亜美の唇を、繭美が奪った。
「だめよ。……今は、私だけを見て」
 そう言って顔を横に背け、恥ずかしそうに腰を下ろしたまま脚をMの字のように開いてゆく。
 大きく割り開かれた繭美の脚を、亜美は恍惚の微笑みで迎えた。
 大好きな先輩の……。
 とても胸がどきどきする。まるで初々しい処女のように、亜美の鼓動は高鳴っていた。
 相手が先輩だからなのかな、と亜美は思った。
 繭美が腰を左右に軽く振った。まるで催促をしているような仕草に、亜美は彼女の股間に顔を近づけた。
 せっけんの匂いしかしない。
 ヘアーは薄い。もしかしたら、剃っているのかもしれないが。
 花弁を左右の親指と人差し指で割り広げる。
 とても小ぶりな入口が粘膜の間から顔をのぞかせた。上部にある大粒の肉の真珠が目に留まって、亜美はそれに口付けた。
「ひぃうんっ!」
 腿で頭を左右から締め付けられるが、気にならない。
 そのまま舌で、粘膜と真珠をていねいにしゃぶり続ける。
「あああ……いいのぉ……亜美ちゃん、とっても上手! 気持ちいいわよ」
 徐々に舌は秘裂の奥へと進んでゆく。もう、呼吸も難しいくらいだ。舌先と指に感じる繭美の内部構造を楽しみつつ、溢れてくる甘露をすする。
 何回もしたこの行為は、今までやったことがなかった。
 慣れているのに、試行錯誤をして感じる所を記憶してゆく。
 どこかちぐはぐだった。
 繭美の押さえようとしても押さえきれない喘ぎ声を聞きながら、亜美は脚を押しのけて顔を上げた。
 やめてしまうの? と繭美の目が訴えかけている。
 もちろんやめるつもりなんかはない。
 婚約者がいる彼女の中に熱くたぎる欲望を突っ込み、思う存分蹂躪したかった。妊娠させてもいい。いや、むしろ彼女を孕ませたかった。
 亜美は繭美の腿の間に体を置き、腰と腰を近づけた。
 位置合わせをしようとして、下半身を見る。
 あるべき物が、そこに無かった。

 ……あるべき物って?

 女が女に、妊娠をさせることなどできるわけがない。
 さっきから何かが変だ。半分寝ていてもできるくらい何度もしたはずの愛撫がとてつもなく新鮮に思えて興奮したり、ペニスバンドに嫌悪感を感じたりと、歯車が噛み合っていないのだ。
 くぅん、と鼻を鳴らす繭美の声で、亜美は現実に戻ってくる。
「先輩、おねだりですか?」
「亜美ちゃんって意地悪なんだから」
 幼女のように拗ねた表情が可愛らしい。
 こんな風に、相手の表情をじっくりと見たのは久し振りのような気がする。
 亜美は再び股間に顔を近づける。
 舌では長さが足りない。
 指を入れる。人差し指と中指。
 爪は切っていたかなと思って一度指を抜く。
 ああ、だいじょうぶ。ちゃんと切りそろえてある。
 わずかだが、ぬめる液体に濡れた指を、亜美は上を向いて繭美に見せつけるようにしゃぶった。
 しょっぱい。これが、先輩の味?
 いや。自分の全身にも、うっすらと汗が浮いている。
 先輩と自分が入り交じった味だ。
 たっぷりと指をしゃぶってから、唾液が滴り落ちそうな指をもう一度繭美の濡れそぼった花園へ挿入し、愛液をまぶしてから繭美の顔へと持ってゆく。
「ん……」
 繭美は顔を突き出して指を舐める。舌の感触がくすぐったい。指を口の中に含み、熱心に指をしゃぶる彼女の舌技は亜美を興奮させる。
 これでフェラチオをされたら、どんなに気持ちがいいだろう。
 股間に手をやって、亜美はまた心の中で嘆息する。もちろん、ペニスなんかあるわけがない。
 物足りなさが彼女を自慰に駆り立てる。右手は繭美がしゃぶり、左手は股間で動かしている。
 股間から広がる熱い波動が全身の皮膚感覚を鋭敏にさせてゆく。
 指が濡れてゆく。指にあたる柔肉の感触が彼女を興奮させ、ひんやりとした指が温かい蜜に濡れて温もってくる。
 繭美の手が亜美のほおに触れた。
「ほんと、いけない娘(こ)」
 いつの間にか自慰に夢中になってしまっていたらしい。亜美はあどけない子供のように、にっこりと笑った。
 繭美が触れているほっぺたが熱い。
 まるでそこから何かが注ぎ込まれるような感じがする。
 かあっと顔が赤くなるのがわかった。
 この瞬間、悠司は亜美であり、亜美は悠司だった。
 心と心が溶け合い、ふたりはひとりとなった。
「先輩……せんぱぁぁいっ!」
 亜美は夢見心地で繭美に抱きついた。
 胸が熱い。柔らかな体がとても愛しかった。
 こんなにも、人は暖かく、やさしい。
 繭美は目を細め、どこか悲しそうな微笑を浮かべた。
 一瞬、繭美と亜美の間に不可思議な絆が生まれ、それが何かをつかむ前にふっと消えた。
「あなたの中がどんなのか、もう私にはわからないから……」
 彼女が取り出したのは、陰嚢まで模してあるペニスバンドだった。
「だからせめて、これであなたを可愛がってあげる」
 いやだ。
 言葉がのど元まで出かかって、そこで止まった。
 こんな物で貫かれるのは屈辱の極みだと悠司の心は訴え、亜美は反対に受け入れようとする。
 それでも、繭美がペニスバンドを装着する様子を見ていると、悠司の心も次第に溶けてゆく。なぜか照れ臭くなって、亜美は後を振り向いて部屋の様子を眺めることにした。
 信じられないほど淫靡な光景が広がっていった。
 周りは少女の面影を残したハイティーンの少女達が、体を重ねてもつれあっている。互いの股間に顔を埋めている子ばかりかというとそうではなく、二人かあるいは三人で一人の少女の全身を手で愛撫していたり、かと思えば一人で二人を相手にして愛撫をしている子もいる。手や舌ばかりではなく、胸や脚、お腹まで使って全身を駆使していた。
 男と女のセックスとは、全く違うものだった。
 亜美は両腕を交差させ、自分の体を抱きしめる。胸が圧迫される。心臓の鼓動が腕に伝わってくる。
 温かく、そして、やわらかい。
 これが女の体なのか。
 股間が疼く。
 喉が渇いて仕方がない。
 脊髄から神経と血管をじわじわと這うように何かが全身に巡ってゆくのが、自分でもわかる。濡れる感覚が、いっそう彼女を淫らにしてゆく。
「お待たせ」
 繭美の声で彼女の方を振り返ると、クリーム色がかった疑似ペニスが繭美の股間から生えていた。下には袋状のものまでちゃんと作られているが、これは形だけで、実際には固い物のように見える。
 立ち上がった繭美が、亜美の目の前に腰を突き出す。
 亜美は顔を上げて先輩を見た。
「舐めて」
 声が少し、震えている。
 彼女も興奮しているのだ。
 亜美は心の中にわきあがるわずかな嫌悪感を押さえつけ、目の前のものに手を伸ばす。見た目ほど冷たくはない。むしろ、ほんのり温かいようにも感じる。軽く力を入れるとへこむ。実際のペニスよりは固いが、かなり弾力性のある素材のようだ。
 唇から小さく舌を突き出して軽くつついてみる。
 なぜか、甘いように感じた。
 小さく息を吸い込んで、キスをするようにして先端に唇を当てる。つん、と2、3度つついてから、意を決して口を開き人工物を口の中に招きいれた。
 実際のペニスよりは少し細身だが、口の中に異物を迎えて、一瞬亜美は胃液を逆流させそうになった。
 喉の奥を突いたからではなく、まだ悠司の心が拒絶をしているのだ。
 大丈夫よ、と亜美が悠司をなだめる。当然、彼としては釈然としないものがあるのだが、不思議と納得してしまうのだった。
 気がつくと、床に押し倒されていた。
 繭美が何かを企んでいるような笑みを浮かべている。
「ぼーっとしてちゃダメよ」
 そのまま足の間に体を入れて、両足を抱え持つ。
「じゃあ、いくわね」
 ぶらぶらと上下に揺れるそれを、腰をうまく動かして亜美の入口に狙いを定める。亜美が軽く息を吐いた瞬間を狙ったように、繭美は腰を突きいれてきた。
「あああああうぅっ!」
 蕩ける……いや、落ちる!
 本能が恐怖し、無意識に手が宙を泳いで繭美の体をつかむ。それだけでパニックはおさまった。
 上から両足を掲げて押さえ込まれるようにディルドーをねじ込まれる。
「亜美ちゃん、気持ちいい?」
「ふぁ、ふぁい……気持ち、いいですぅっ!」
 黒い無機物が引き抜かれると、それを惜しむように、離さないとでもするかのように亜美のひだがまとわりついて引きずり出される。
「亜美ちゃんのお○○こ、欲張りね。すごい吸い付きじゃない。そんなにこれが欲しかったの?」
「はい……私、お○ん○ん大好きなんですぅ! 中でいっぱい出されるのが好きなんです!」
 体をえぐる無機物が、内側から彼女を責めたてる。痒い所をおもいきり心行くまでかきむしるような、刹那的な悦びと快感があった。
 もっと苛められたい。
 自虐的な感情が亜美を埋め尽くす。
 今、お前は雌豚だと言われれば、その通りよ! と答えるだろう。快楽を与えてくれるならば、誰とでも、何とでも交わるだろう。
 いつの間にか体位が変って、バックから獣のように突かれていた。
「先輩。も、もっと激しく突いてっ!」
 前後の運動だけではなく、入れたまま上や左右に腰を動かされたり、回転運動に、小刻みな震動を与えたりと、繭美のテクニックはなかなか堂に入っていた。
 しかし、一気に昇りつめたいのに、どうしても最後の一押しに届かない。
 あと一歩、いや、あと数歩……。
 入れられたまま、身体を反転させられて脚を投げ出した繭美の上に乗っかる形……変形の対面坐位にされた。どちらかというと騎乗位に近い。
「どう、亜美ちゃん?」
「もっと……もっと太いのが欲しいんです」
 小さな声で囁く亜美の声には、欲情と切なさが固形物として触れそうなほど濃密にこもっていた。
「もっと大きいの?」
 下から腰を突き上げられると、子宮から脊髄を通って頂点へと快感が走り抜けてゆく。
「あふぅ! はい、欲しいんです……それでないとイケないんですぅっ!」
 欲しかった。
 一刻も早くこの快楽のスパイラルから逃れたかった。
 一度イケば、そうすれば楽になれる。
 まるで、むりやり射精を堪えさせられているような感じだった。ペニスは震え、射精したくても精子は発射されない。根元を何かで結わえられているような、狂おしいほどの欲望……。
 亜美も、そして悠司でさえも絶頂を待ち焦がれていた。
 だから亜美は、自分からディルドゥが抜かれたことにさえ気付いていなかった。そして、繭美が持ってきた物に周囲が小さな悲鳴をあげたことにも。
「どう、亜美ちゃん。これなら満足してもらえるかしら?」
 それはまさしく、『凶器』だった。
 亜美は脅えた。いや、悠司だろうか? もはや、どちらなのか区別することはできなくなっていた。望んでいたはずの亜美でさえ、恐れを抱かずにはいられない凶悪な代物だった。
 二人の様子をうかがっている周りの少女達からも、おびえのような負の感情が漂ってくるのがわかる。
 赤ん坊の腕ほどもありそうな物だった。それで殴られたら痛いどころではすみそうもない。長さは軽く40センチはありそうだ。
 大きいだけではない。
 えぐいほどに張り出した傘のような先端は、まるで銛のようだった。突き入れたら二度と外には出てきそうにもないと思わせるほどだ。それに、緩やかに反っている胴体の部分にも、いぼが無数にはりついている。これを踏めばそのまま健康器具になりそうだ。
「亜美ちゃん、先に私に、挿(い)れてくれる?」
 繭美が差し出したそれを、亜美は受け取った。
 手に痺れが走った、というのは幻覚なのだろうか。木なのか、それとも他の何かの素材なのかもわからない赤茶けた凶悪なディルドゥは、亜美の手の中で跳ね、震えた。
 少なくとも亜美はそう感じた。
 膝立ちになって両脚を大きく広げている繭美の股間に、それを近づける。
「うく……」
 繭美が苦しげに眉をひそめる。大きく息を吸い、吐いた時を見計らって突きいれてゆく。見掛けは小さな腟口なのに、驚くほど広がり、徐々にではあるが飲み込んでゆく。
 周囲の部員達も二人の淫儀を、固唾を呑んで見守っていた。
 やがて、半ばまで巨大なディルドゥは納ってしまった。
「ほら、亜美ちゃん。私にこんな大きなおち○ち○が生えちゃったよ?」
 目尻と股間に涙とよだれを垂れ流しながら、それでも気高く繭美は言った。腰は小刻みにぶるぶると震え、背後の部員には彼女のお尻が何かを堪えているように動いているのが見えた。
「これを……亜美ちゃんに入れちゃうんだから。嫌だと言ってもダメよ。もう遅いんだから……」
 赤ん坊よりもゆっくりと、不器用に繭美が亜美ににじりより、押し倒した。そのままのしかかるようにして、挿入された。
 裂ける、と思った。
 しかし裂けはしない。それどころか、潤みきった膣口はゆっくりと広がって巨大な張り型を受け入れてゆく。
「あぅひっ! あひゃぃぃぃっ!」
 表面の突起が入口をえぐいくらいに繭美の最も感じる場所をこすり立てる。
 体を弓のように反らして耐えた。
 気持ちいいとか思う余裕も無かった。頭の中に直接電撃を食らったようで、自分が何を口走っているかもわからない。
 ゆっくりと抜き差しされるたびに、血液がどろどろと体の外へ出てしまうような愉悦が彼女を苦しめる。過ぎた快感は、むしろ痛みに近かった。
 時々、繭美の方が抜け、その時は亜美が突く方に回る。
 もはや獣でさえなかった。原始生物のように、二人はどちらがどちらなのかわからなくなるほど、互いを求め続ける。
 これが、罰なのか。
 これが報いなのだろうか。
 だとすれば、なんと甘美な悪夢なのだろう。
 甲高い悲鳴を上げながら、亜美は蕩けるような悦楽の泥沼の中へと沈んでいった……。

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