わたしの黒騎士様

エピソード5・レオン編

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 【1】

 キャロルに宛てて、三通の手紙が故郷から送られてきた。
 差出人はオレの母親、そしてキャロルの母親と妹だ。
 それらの手紙からわかったのは、キャロルの父親で、故郷の領主でもあるフランクリン伯爵が病に倒れて臥せっているということだ。
 手紙を読んだキャロルは、オレに相談しに来た。

「お父様の具合悪いのかな? 様子を見に帰りたいんだけど、騎士団に入ったばかりなのに、長期の休暇なんて無理だよね」

 従騎士は下積み期間でもある。
 よほどの理由がない限り、長期に渡って騎士団を離れることは許されない。
 だが、そのよほどの理由の中には、身内の危篤も含まれている。
 この手紙を見せれば、許可は出るだろう。

 父親の身を案じているキャロルを抱き寄せ、落ち着くようにと頭を撫でた。

「この手紙だけでは容態がわからない。往復だけでも十日はかかる。かなりの長期休暇を取ることになるが、この手紙を見せれば許可は出るだろう。オレも一緒に行く」

 オレも共に帰郷すると言うと、キャロルは目を丸くした。
 意味がわかっていないんだ。
 照れくさくなって笑い、説明する。

「危篤ではないと思うが、良い機会だ。将来のことを考えるなら、そろそろ家族への挨拶が必要だろう? それに、オレも実家に顔を出さないといけないようだしな」

 手順は逆になったが、けじめはつけなければ。
 それに、一人前と両親に認めさせるには十分な実績もある。
 一級騎士に昇格した時点で帰郷しても良かったのだが、忙しさにかまけて後回しにしていたのだ。
 これはオレにとっても良い機会だ。

 将来と口にすると、キャロルは頬を赤くして瞳を潤ませた。
 それほど大層なことを口にしたつもりはなかったのだが、オレの言葉に感激しているようだ。

「あ、あの……、本当に挨拶するの? お付き合いしてますって言うの?」

 現実として認識できていないのか、キャロルはそんな問いをしてくる。
 信用がないのだろうか?
 愛を囁き、体まで繋げておいて、遊びで済ますほど不真面目な面を見せた覚えないんだがな……。
 それとも、家族に反対されることを恐れているのか?

「当然それも言うが、この場合はお嬢様をくださいか? 故郷に帰れば、オレは一領民だが、心配はいらない。身分については、陛下からお前の家柄に吊り合うほどの爵位をいただいているからな」

 やはり家族の反応が気になっていたのか、キャロルはようやく安堵して、表情を緩めた。

「うん、とにかくお父様の容態を見てからにしよう。大事な話だし、ゆっくり聞いてもらいたいからね」
「そうだな。焦る必要はない、反対されても根気よく説得しよう」

 その時、オレの脳裏を過ぎったのは、過去に一度だけ会ったシェリーのことだった。
 キャロルは知らないが、オレとシェリーは僅かながら言葉を交わしたことがある。
 シェリーは敵意を持ってオレを睨み、自分とキャロルを引き離す者は全て消すと言い放った。
 キャロルがオレを追って騎士団に入った以上、まず間違いなく彼女はオレに良い感情を持っていない。
 説得の相手は親でなく妹になるかもしれない。
 そんな予感を抱きながら、オレは帰郷の準備を始めた。




 休暇届はすぐに受理されて、翌日の早朝に故郷に向かう馬車に乗った。
 旅路は五日。
 日が暮れると馬車は街に入り、乗客は停車場の近くに宿を取る。
 幸い道中で入った宿は、どこも客室に十分な空きがあり、大部屋や相部屋で眠る必要もなく、二人で一室取ることができた。

「空いてて良かったね。相部屋じゃないから、他の人に気兼ねせずに眠れる」

 キャロルが王都に来た時は、女性客が集まった大部屋で眠ったそうだ。
 一人旅ではどうしてもそうなる。
 同室の人間を完全に信用するわけにもいかないから、熟睡するわけにもいかず、色々大変なのだ。

 夕食は外で済ませ、部屋に戻ると寝支度を始める。
 キャロルは普段着ている男物の簡素なパジャマに着換えた。
 サイズは少し大きめで、手先の半分まで袖に隠れている。
 服のせいで、小柄な体が一回りほど小さく見えた。

 かわいい。
 素直にそう思う。

 キャロルは昔からかわいかった。
 シェリーのような人目を引く美しさはなくとも、笑顔が導き出す愛らしさでは負けてはいなかった。
 丸くて青い瞳は、曇りなく清らかな心を映す鏡のように、濁りなく透き通っていた。
 オレの言うことは、何でも頷いて聞く。
 疑うことを知らない、真っ直ぐな子供だった。

 あの当時のオレは、今とは別の意味でキャロルに夢中だった。
 自分では良い生徒を得た教師のような気持ち、または年の離れた妹を見守る兄のごとく面倒を見ていたつもりだったが、周囲の人間、特に友人達はそうは思わなかったようで、よくからかわれた。

 ロリコンと。

 オレは十五で、キャロルは八つ。
 恋愛感情があれば、ロリコン認定は免れない。

 当時のオレの名誉のために主張しておくが、故郷にいた頃、キャロルに性的な欲望を覚えたことは一度もない。
 純粋に子供としてかわいかったのだ。
 こう、頭を撫でてかわいがり、抱きしめて膝に乗せたくなるような……。

 だめだ。
 どう足掻いても、ロリコン男が幼女に手を出している危ない構図にしかならない。
 だが、オレには不埒な感情は一切なかった。
 それは断言できる。

 ……オレは誰に言い訳してるんだ?
 まさか、後ろめたいからなのか?
 そんな、バカな。

「レオン、具合悪いの? 馬車に酔った?」

 いつの間にか唸っていたらしい。
 キャロルが心配そうに覗き込んできていた。
 上着の襟元からちらりと覗く白い喉。
 その下に隠された肢体に、オレの意識は吸い寄せられていく。

 腕を伸ばして、腰を抱く。
 ベッドに腰掛けているオレの膝の上に、キャロルが正面から跨る形になって乗ってきた。

 目線が近くなり、見つめあう。
 キャロルは雰囲気を感じ取ったのか、照れた顔で俯き、オレの首に腕をまわしてしがみついた。

「キャロル。お前は昔から、オレのこと好きだったって言ったよな?」
「うん、子供だから相手にされてないかなとは思ってたけど、私の初恋はレオンだよ。それから恋はしたことない」

 キャロルは頬をすり寄せて甘えながら、嬉しいことを言ってくれる。
 キスも純潔も、キャロルは初めてを全てオレに捧げてくれた。

 愛しい。

 この気持ちだけは昔も今も変わらない。
 オレの後をついてくる幼い子供に抱いた優しい親愛の情は、歳月を経て形を変え、見守るだけでなく、強く求める愛に変わってしまった。

 唇を寄せて、キャロルのそれに重ねる。

「ん……、ぅん……」

 キスの合間に、キャロルの吐息がこぼれる。
 徐々に甘さを含んでいく声は、オレの欲望を高めていく。

 キャロルを抱えて、体をベッドの方へと倒し、寝具の上に寝かせた。
 体を起こして、上に覆いかぶさる。
 欲望を呼び起こす鍵となった首筋に唇で触れ、舌を這わせた。

「ああっ……、んっ」

 びくりと身じろぎしたキャロルを押さえつけ、上着の前を開けた。
 ささやかながら膨らんだ胸。
 キャロルはいつも胸が小さいことを気にしているが、始めに交わった時より、少しだけ大きくなったような気がする。
 オレが触っている効果が出ているのだといいな。
 柔らかい感触を楽しみつつ、口付ける。
 空気に触れたからか、それとも快感からか、硬くなったピンクの突起を口に含み、舌でも味わう。
 そうやって胸を攻め、左手でズボンを下ろし、股の間に指を差し入れた。
 下着の隙間から割れ目をなぞると、しっとり濡れている。

「あぁん、……うん……」

 オレの指が動くたびに溢れ出て、絡み付いてくる愛液。
 キャロルは自分からオレに体を押し付けてきた。

「脱ぐから……、して……」

 大胆な誘いも、体が高まっている証拠だ。
 キャロルが腰を浮かした瞬間、下半身を覆う衣服を全て足から抜き取った。
 オレも起き上がり、服を脱ぐ。
 体は昂り、いつでも中に入れるほど熱くたぎっている。

 ベッドに戻り、キャロルの足の間に体を入れた。
 キャロルは胸元でぎゅっと両手を握り、羞恥を堪えるように目を閉じて、じっと動かない。
 その仕草一つ一つが愛らしくて、煽るに十分な色気を感じた。

「入れるぞ、いいか?」
「う、うん……、ひゃっ……」

 入り口を指で触り、蜜が十分満たされたそこに、オレ自身を入れていく。
 何度も行為を繰り返すうちに慣れて解れてきたのか、今ではキャロルも苦痛の声をもらすことはなく、血が出る気配もない。

「……ぁあっ……ぅっ……」

 泣き声に似たか細い声で喘ぎながら、キャロルはオレの首にすがりつき、抱きついてきた。
 本能だけの繋がりではないと知らせるために、彼女の肌にキスをして、空いている手で触れ、耳に名前を囁く。
 
「キャロル……、好きだ。この先、何があっても一緒にいよう」

 昔から口下手な方だったから、気の利いた睦言など浮かんでこず、月並みな言葉しか出てこない。
 だが、その分言葉に想いを込める。

「うん……、わたしも、好き……、ああっ、はぁ……、ぅん……っ!」

 一つに繋がる快感に酔いながら、彼女の中を往復し、夢中になって貪った。
 キャロルが大きく喘いで、オレを締め付ける。
 世界にいるのは自分達だけのような錯覚までしてくる。
 彼女がいれば、他には何もいらない。
 そうまで思うほど、オレはキャロルに溺れていた。




 情事の後は、裸で身を寄せ合って横になった。
 キャロルはオレの腕に頭を乗せて、こっちを向いている。

「レオン。何があっても、わたしのこと好きでいてくれる?」

 故郷に近づくにつれ、キャロルの心は不安定になり、何度もオレに確認してくる。
 シェリーのことが気になっているんだ。

「剣にも誓ったはずだ。オレは生涯お前を愛する。信じても大丈夫だ」

 その度に、オレは確かな言葉を返す。
 キャロルは安堵した顔で微笑んだ。

「うん、信じる。大好きだよ、レオン」

 キャロルが安心できるなら、何度でも言う。
 言葉に行動を添えて、必ずお前を幸せにする。




 五日の旅路を終え、オレ達は故郷に帰ってきた。
 約七年と半年ぶりの故郷は、変わらぬ風景で迎えてくれた。

 街に着いたと同時に、稽古仲間や顔見知りに囲まれて、ちょっとした騒ぎになった。
 広場に行くと、噂を聞いてさらに人が集まり、中には見知らぬ旅人まで見物に訪れていた。
 もみくちゃにされながら、懐かしい顔ぶれと一通り再会を果たし、次に実家へと移動する。

 オレの家は、職人通りに店と住居を構える小さな靴屋だ。
 昔、この街に来た騎士に出会って憧れを抱かなければ、オレは父の跡を継いで靴屋になっていただろう。
 靴職人になるのが嫌だったわけではない。
 騎士への憧れと剣術への興味に加え、自分がどこまで強くなれるのか確かめたいという衝動が、騎士団入りした動機だった。
 母は猛反対したが、父は黙って送り出してくれた。
 お前の人生だから悔いのないように生きろと、少し寂しそうに笑って言った父の姿を今でも鮮明に覚えている。
 二人とも元気なのは、王都にいる親戚から伝え聞いて知っていた。
 我ながら、親不孝な息子だと思う。
 帰ったら、また母は小言をまくしたてるだろう。
 うるさく思っても懐かしい。
 自立したつもりでいても、オレはまだ心のどこかで両親に甘えているんだろうな。




 家の前には母が出ていた。
 髪には白髪が増え、顔も僅かながら老けていた。
 何を言うべきだろう。
 やはり、ただいまか?

 母はオレ達の姿を見るなり、駆け寄って抱きついてきた。
 キャロルに。

「お嬢様、よくご無事でお帰りになられました。元気なあなたの姿を見て安心しましたよ」

 オレのことは無視か。
 構えていただけに拍子抜けした。
 母はキャロルを抱きしめ、再会を喜んでいる。

「ありがとう。わたしが騎士団に入れたのもおばさんのおかげです。レオンにもよくしてもらってるし、感謝の言葉を幾ら言っても足りません」
「もったいない、そんなこと言わないで。それにしてもどうしましょうかねぇ。お嬢様が本当にうちの息子を好いてくださっているなんて、まだ信じられませんよ」

 初めて母がオレの方を向いた。
 目が合い、互いに何も言わずに沈黙が続く。
 母は暗く俯くと、ぽつりとこぼした。

「夢でもいいんですよ。年老いた親に手紙一つ送ってこない薄情な息子です。お嬢様の気の迷いなら、早めにすぱっと縁を切ってやってください」

 こら、そこで別れを勧めてどうする。
 気の迷いって、自分の息子を何だと思ってるんだ。

「何を決めつけているんだ。勝手なことを言うな」

 たまらず口を挟むと、母はオレを睨みつけ、キャロルを再び抱き寄せた。

「お前がいなくなってから、寂しがるわたしをお嬢様がどれだけ慰めてくださったと思っているんだい! 中途半端な気持ちで、大事なお嬢様に手を出したんなら許さないからね!」

 剣幕に気圧され、反論することもできず、たじろいだ。
 周りは面白がって笑っているし、オレの味方は誰もいないのか?

 そこに父が店から顔を出した。

「まあまあ、お前。そんなに怒鳴ってやるな。レオンも長旅で疲れておることだ、説教や恨み言は後にして、お嬢様を中で休ませてあげなさい。今、お茶の用意をしたところだ」

 父はオレを見て、温和な顔に笑みを浮かべた。
 母と同じく老け込んで見えたが、変わらない父の姿に安心した。
 両親の姿を見たことで、生まれ育った家に帰って来たことが実感できた。

「わかりましたよ。さあ、どうぞ。お腹も空いたでしょう、軽いものでも作りますよ」

 母はまだ言い足りない様子を見せたが、父が奥に姿を消すと、渋々話を切り上げ、キャロルに家の中へ入るようにと促した。
 一息つき、オレも後に続く。
 きっと今夜は母に質問攻めにされ、小言を延々と聞かされるだろう。
 オレは実家でゆっくりできるのか?
 不安になってきたな。

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