わたしの黒騎士様

エピソード6

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 【1】

 治安維持を任務とする騎士団には公休日がない。
 休日は交代制だから、レオンと同じ日に休みを取ろうとすると、前もって希望日の届けを出しておくか、誰かと代わってもらうしかなかった。
 さすがに毎回同じ日に休むことは無理なので、今日のお休みは一人でお出かけ。
 シェリーと遊ぼうと思って屋敷を訪ねてみたけど、お仕事で留守だった。
 仕方ないから買い物がてらに街をぶらついて帰るつもり。

 王都は広い。
 地方領地の数倍の面積を有し、徒歩で端から端まで移動しようとすれば、丸一日はかかる。
 私がよく行くのは商店や飲食店が並ぶ、騎士団の敷地に近い、一番賑やかな通りだ。
 城の正門に面した通りでもあるので、ここに行けば大抵の物が揃う。
 そんなわけで、半年近く経った今でも、知らない場所がたくさんあった。

 気まぐれをおこして北へと足を向けた。
 こちらにもわずかだが商店があり、美術館などの公的施設も建てられていた。
 通りをまっすぐ北に進み、途中で路地に入り、街の裏側を探索する。
 古書店や雑貨屋なども見つかり、寄り道をしながら路地を移動していった。




 気がつけば、周囲の景色が変わっていた。
 異様に古びた建物が並んでいる。
 年季が入っているだけではなく、建築に使われた資材が粗悪なため、みすぼらしく見えるのだ。
 商店なども、木材の柱に布を張っただけのものまである。
 街に漂う雰囲気も暗い。
 建物の影や道の隅には、ボロボロの服を着た人がしゃがみこんでいたり、見るからに柄の悪そうな男の人達が固まっていたりする。
 何なんだろう、ここ。
 もしかして、危ない場所に迷い込んだ?
 北には貧困層の人々が住む、貧民街と呼ばれる地域があると聞いたことを思い出した。
 王都の暗部とも言える危険地帯。
 騎士団でさえも介入は容易ではなく、闇に属する人々が独自に自治を行っている場所でもある。

 足を止めて、元来た道を戻ろうと振り返ると、背後に見知らぬ男達が立っていて、わたしの進路を塞いだ。
 彼らは一般人とはとても言えない風貌をしていた。
 腰にはナイフなどの刃物。
 肌に無数の傷跡をつけている者もいる。
 柄の悪い一団は、わたしを取り囲んで下品な笑い声を立てた。

「見かけねぇ顔だな。身なりからして、貴族の坊ちゃんか?」
「護衛も付けずに、こんな所をふらふら歩いているなんて、襲ってくれと頼んでいるようなもんだぜ」

 言動から推測するまでもなく、強盗の類だろう。
 身構えて、切り抜ける算段を始める。
 正面の男に先制攻撃をして倒し、そこから包囲を抜けよう。
 うまく行くかどうかはわからないけど、幸い彼らはわたしを非力な貴族の少年だと思っている。
 隙をつくことさえできれば、足で逃げ切れるはずだ。
 毎日の走りこみで、足腰には自信がある。

「さあ、まずは有り金全部出してもらおうか?」

 正面にいた男が手を伸ばしてきた。
 わたしは勢いをつけて足を振り上げ、相手の顎を蹴り上げた。

「おごぉ!」

 蹴りつけた男が仰向けに倒れたので、その上を跳び越して走る。

「待て、この!」
「逃がすな!」

 背後で怒声が幾つも聞こえたが、止まることなく足を動かす。
 このまま一気に振り切ろう。

 ふいに路地の影から誰かが飛び出してきた。
 先回りされた!
 それも二人もいる。

 二人の男はナイフを抜いて近づいてきた。
 対するわたしは丸腰。
 背後から追いついてきた彼らの仲間に、再び包囲されてしまった。

「もう逃げられねぇぞ、手間かけさせやがって!」
「足の腱でも切って動けねぇようにしてやる!」

 物騒なことを叫びながら、男達が迫ってくる。
 別の逃げ道を探したが、彼らに隙はなく、打つ手は完全になくなってしまった。
 こうなったら、力の限り戦うしかない。
 腹を決めて拳を握り、構えを取った。




「おい、邪魔だ」

 私の後ろから声が聞こえた。

「ぐはぁっ!」

 続いて潰れたような悲鳴。
 上げたのはわたしじゃない。

 びっくりしてそちらを向くと、わたしを囲んでいた男が一人倒れていて、その背中に足を乗せている人がいた。
 その人はゆっくりと足を戻すと、男達を鬱陶しそうに睨んだ。

「通れねぇんだよ。通行の邪魔だ、どけ」

 少しも恐れることなく大勢のならず者と対峙するその人は、白騎士団副団長のオスカー=ライアン様だった。

 彼は袖なしの裾の長い白い上着を、ボタン全開で素肌の上に着込み、ズボンのポケットに右手を突っ込んでいる、なんとも言えない柄の悪い立ち姿をしていた。
 さらに左肩には子供の玩具である木馬を担ぎ、ぬいぐるみやボールなどのこれまた子供の玩具をたくさん入れた網を、右肩に背負う形でぶら下げている。
 格好と持ち物のアンバランスさに、わたしだけではなく、男達もあっけにとられて彼を見つめた。

「ん? お前、絡まれてんのか?」

 オスカー様はわたしに気づいて、そう声をかけてきた。
 こくこく首を縦に振って、助けを求めた。
 すると、彼は顔をしかめて、大きなため息をついた。

「面倒くせぇが、放っていくと後でレオンの野郎がうるせぇだろうしな、仕方ねぇ。おい、てめぇら、そういうわけだ。死にたくなかったら失せろ」

 オスカー様は、男達に向かって言い放った。

「な、何だお前は! 偉そうにオレ達に指図する気か!」

 我に返った男がオスカー様にくってかかる。
 それをリーダーらしき男が、背後から肩を押さえ込んで止めた。

「バ、バカ! 逆らうんじゃねぇ! こいつは、あのオスカーだぞ!? 名前ぐらいならてめぇら若いヤツでも聞いたことがあるだろう、地下闘技場の殺戮王だ!」

 すると、男達の顔が恐怖にひきつった。

「げぇ! う、嘘だろ、こいつがあの……」
「やべぇ、逃げろ!」

 男達は一目散に逃げていった。
 どうしたんだろう?
 地下闘技場とか殺戮王って何のこと?
 とにかく、オスカー様のおかげで助かったことには変わりないよね。

「ありがとうございました、オスカー様」

 お礼を言うと、オスカー様は眉根を寄せてわたしを見た。

「おう、……確か、キャロリンだったか?」
「キャロルです」

 今の表情は名前を思い出そうとしてたんですね。
 しかも、間違ってるし。

「そうだったか。ちょうどオレが通りかかって良かったな、キャロ」

 覚え直すのも面倒になったのか、オスカー様はさらに名前を縮めた。
 もういいです、キャロでも。

「この辺りは貧民街だ。他の区域より治安が悪い。特にこんな路地裏は連中にとっちゃ格好の狩場だ。好奇心だけで踏み込むと、今みたいにえらい目に合うぜ。肝に銘じて、すぐ帰れ」

 そう言われても、帰り道がわからない。
 完全に迷ってしまった。
 探索なんかするんじゃなかった。
 途方に暮れたわたしは、オスカー様を頼りに仰ぎ見た。

「帰れないんです」
「迷子か」
「はい……」

 情けなくて、声のトーンも下がる。
 オスカー様はわたしの頭に手を乗せると、ぽんと軽く叩いた。

「そこまで付き合え。用事が済めば、一緒に帰ってやる」

 彼はわたしに声をかけて、歩き始めた。
 置いていかれては困るので、急いで追いかけた。




 オスカー様の後ろを遅れないようについていく。
 歩幅が違うので、わたしは早足になっていた。

「オスカー様、どこまで行かれるんですか? それにその玩具も、ご兄弟がたくさんいらっしゃるんですか? それともお子さんの?」

 子供の可能性を口にしたけど、違うよね。
 オスカー様は寮に入っているから独身のはずだ。

「オレのガキじゃねぇよ、兄弟でもない。大きくなって出て行っても、あいつがすぐに拾ってくるから、いつの間にか増えてるんだよ」

 子供を拾ってくる?
 誰が?
 ますますわけがわからない。
 オスカー様はどこに行くつもりなんだろう。

「見えてきたぞ、あれだ」

 先ほどの目的地を問うた質問に、オスカー様は指で答えた。
 示された方向に十字架のついた青い屋根が見える。

「教会の礼拝堂?」
「昔、慈善家の牧師が孤児院を兼ねて建てたんだと。今はその娘が継いでる」

 孤児院。
 そうか、それでこの玩具を。
 オスカー様って見かけによらず優しいんだ。

「オスカー様は騎士団のお仕事でここに?」
「いや、プライベート。オレも昔、ここで世話になってた」

 足が止まった。
 何でもないことのようにさらっとオスカー様は言ったけど、聞いちゃいけないことだったのかな。

 わたしがついてこないことに気づいて、オスカー様も立ち止まった。

「変な気をまわすなよ。却って不愉快だ」

 振り返らないまま、彼はそう言った。

「はい」

 何も言えなくて、わたしもそれだけ答えた。




 教会の入り口には、貧民街には不似合いな二頭立ての豪奢な馬車が止まっていた。
 車体には所々に金で装飾がなされている、客車を形作る木材も、塗装に使われている材料に到るまで、全て高価なものだ。

「何これ? 礼拝に来た人のかな?」

 不審げに馬車を見ていたわたしは、オスカー様の表情が険しくなったことに気がついた。
 彼は礼拝堂を見据え、睨んでいる。

 わたしが礼拝堂に目を向けると、ちょうど扉が開いた。
 中からこの馬車の持ち主と思われる中年の太った男性と、若い女性が出てきた。
 女性はとても綺麗な人で、年は二十代後半ぐらい。
 とび色の長い髪は少し癖があり、毛先が緩く内側に巻いていた。着ている服は地味目の落ち着いたもので、ロングスカートに前掛けのエプロン、肩にはケープを身につけている。

 女性が男性に微笑みかけた。

「またいらしてくださいね、ダリク様」
「本当は毎日でも来たいんだがね、私も仕事があるんだよ。ああ、ナタリー、君をこの手にする日が待ち遠しい」

 男の人はあからさまに興奮した目で彼女を不躾に眺め回し、その腰に手を置いた。
 そのまま腰を擦っている。
 なんていやらしい手つきなの。
 女性の方も嫌がってはいないけど、何かに耐えるように俯いていた。
 でも、さっきの会話からして、この二人は恋人みたいだ。
 見た目や雰囲気は全然お似合いじゃないけど……。

「ナタリー」

 それまで黙っていたオスカー様が、彼らに向けて呼びかけた。
 口にした名前から、女性の方を呼んだのだとわかる。
 女性はこちらを見て、動揺を顔に浮かべた。
 彼女の隣にいた男性もこちらを向いたけど、二人の視界にはお互いしか入っていないみたいに、じっと見つめ合っていた。

 オスカー様はさらに礼拝堂に近寄り、二人の前に立った。
 男性は顔色を悪くして後ずさった。
 オスカー様の迫力に圧倒されているんだ。
 彼らにナタリーと呼ばれた女性は、うろたえた様子でオスカー様に声をかけた。

「オスカー、あの、この人は……」

 だけど、オスカー様は最後まで聞かずに踵を返した。
 わたしに視線を向け、親指で敷地の奥を示す。

「話は後で聞く、ガキ共に土産を渡すのが先だ。来い、キャロ」

 呼ばれたので、彼女に会釈をして後をついていく。
 オスカー様は礼拝堂の横を通って奥の建物に向かった。
 一階建ての家は、礼拝堂とお揃いの青い屋根で、掃除も行き届いており、こざっぱりした印象を受けた。
 あれが子供達がいる孤児院なんだ。




 オスカー様に続いて家の中に入ると、幼い子供達が十人ぐらい、大きなテーブルを囲んで座っていた。
 一番年上の子で、十二、三才ぐらいだ。
 みんなお勉強をしていたようで、テーブルの上には本やノートが広げられている。
 わたし達に気がつくと、子供達が笑顔で集まってきた。

「オスカー、いらっしゃい。わあ、木馬だ!」
「クマさん、かわいいっ」

 男の子も女の子も玩具を受け取ってはしゃいでいる。
 オスカー様は彼らに囲まれても戸惑う様子はなく、玩具を取り合っている子供の仲裁をしたりして、扱いは手馴れたものだ。

「これは真面目にやってる褒美だからな。さぼってると持って帰るぞ」
「ええー、勉強もお手伝いもちゃんとやってるよ」

 子供達と話しているオスカー様は穏やかな目をしていた。
 子供達も臆することなく彼に話しかけている。
 慕われているんだな。
 今日はオスカー様の意外な顔を見てばっかりだ。

「金髪のお兄ちゃん、これ見てー」

 服の裾を引っ張って、金髪のお兄ちゃんとわたしを呼んだ女の子が、クレヨンで描いた絵を見せてくれた。
 誰かはわからないけど、女性と思しき人の姿が描かれている。

「これね、ナタリーお姉ちゃんを描いたの」

 ナタリーって、さっきの女の人のことだ。
 わたしは腰を屈めて、彼女と目線の高さを合わせた。

「うん、上手だね」

 女の子は褒められて笑顔になると、オスカー様の方を気にしながら、別の絵を差し出してきた。
 紙には白い服を着た男女が描かれている。
 彼女は小さな声でわたしに囁いた。

「それでね、これがお姉ちゃんとオスカーお兄ちゃんとの結婚式の絵なの」

 え?
 どういうこと?
 彼女には恋人らしき男性がいるのに、何でオスカー様と?

「お姉ちゃんが好きなのは、お兄ちゃんなの。でも、変なおじさんが来るようになって、お姉ちゃんと結婚するっていうの。あたしあのおじさんと家族になるの嫌、お兄ちゃんの方がいい」

 この絵はこの子の願いなのかな。
 頭を撫でて慰めた。
 こればかりは本人達の気持ち次第だから口は出せない。




 ドアが開いた。
 みんなの注意がそちらに向く。
 入ってきたのはナタリーさんだった。

「ごめんなさいね。今、お茶を入れるわ」

 彼女はそう言って、この部屋と続きになっている台所に入っていった。
 あの男の人は帰ったのかな?
 先ほどまで明るかった子供達の表情が暗くなった。
 女の子の言う通り、あの男の人の訪問は子供達には歓迎されていないようだ。
 何があったんだろう?
 いきなり重くなった空気に、少し居心地が悪くなった。

 子供達はテーブルに戻り、静かに勉強を再開した。
 わたし達は離れた場所に置いてあった小さなテーブルを囲んで座り、紅茶とお茶菓子のクッキーをいただいた。

「オスカー、そちらの方は?」

 ナタリーさんがわたしを見て、オスカー様に尋ねた。

「黒の従騎士のキャロだ。この近くで迷子になってやがったから、ついでに拾ってきた」

 紹介ぐらいまともにしてくださいよ。
 面倒くさがりな人だな。
 それに迷子は事実だけど、バラさなくてもいいじゃないですか。

「キャロルです。急にお邪魔してすみません」

 恥ずかしさで真っ赤になりながら、頭を下げて非礼を詫びる。
 ナタリーさんは微笑んで「気にしないでください」と言ってくれた。

「私はナタリーと申します。父が遺してくれたこの家で、子供達と暮らしています」

 ナタリーさんは聖職には携わっていないけど、礼拝堂の手入れや管理をしながら、孤児院で子供達の世話をしているそうだ。
 わたしとナタリーさんが話している横で、オスカー様は黙ってお茶を飲んでいた。
 少しは会話に加わってもいいのに、どうしたのかな?

「ナタリーさんは、オスカー様とはどんなご関係なんですか?」

 ちょっと踏み込み過ぎかとは思ったけど、気になって尋ねた。
 ナタリーさんは、ちらっとオスカー様の方を見て、ためらいがちに答えてくれた。

「家族です。とても大切な……」

 そう言った彼女の表情はどこか悲しそうで、わたしは居たたまれない気持ちになった。
 オスカー様、どうして何も言わないんだろう。
 彼女が言いたいのって、別なことじゃないのかな。

「それでさっきの野郎はなんだ?」

 自己紹介が済んだのを見計らってか、オスカー様が話題を変えた。

「私の婚約者よ」

 ナタリーさんは俯き、小さな声で答えた。
 だけど、次に顔を上げた彼女ははっきりした声音で話し始めた。

「あの人の名前はダリク=バクターと言って、王都を拠点に交易を営まれている資産家なの。結婚しても教会と孤児院は今まで通りに運営できるよう取り計らってくださるそうよ。だからね、もういいのよ、オスカー。私達のことは放っておいても大丈夫だから、あなたは自分のことだけを考えて。あなたにも大切にしたい人だっているでしょうし……」

 彼女の言葉の途中で、オスカー様は立ち上がった。
 全身から苛立ちの感情が溢れていた。
 怒ってる?

「それをあんたが決めたんなら文句は言わねぇ。オレも肩の荷が下りた、二度とここには来ない。もう会うこともないだろうな」
「オスカー、二度と来ないなんて、どうして……」

 一緒に立ち上がったナタリーさんは狼狽していた。
 その彼女に、オスカー様は冷ややかな目を向けた。

「そういうことだろ? オレはもう用無しだってあんたが言ったんだよ。安心しろよ、昔のことは綺麗さっぱり水に流して忘れちまうからよ。あんたの旦那になる野郎にも話したりしねぇよ」
「ち、違う。用無しなんて、私はそんなつもりじゃ……」
「まだオレと家族ごっこを続けたいってか? 残念だが、オレはあんたのガキじゃねぇし、弟でもない。それは十分わかってたはずだ。結婚を考えるほど惚れた男ができたんなら、これ以上あんたと関わる理由はないな」

 辛辣な口調で言葉を投げつけられて、ナタリーさんは真っ青になって立ち尽くした。
 うう、でも、わたしが口を挟むには、事情がわからな過ぎるよ。

「じゃあな」

 ああ、オスカー様が行ってしまう。
 わたしも立ち上がり、ナタリーさんにお礼を言って、慌てて後を追った。




 外に出ると、わたし達の後ろから、小さな足音が幾つも追いかけて来た。

「オスカー、待ってよ!」
「お兄ちゃん、行っちゃだめー!」

 子供達の呼び声に、オスカー様は立ち止まった。
 駆けてきた子供達は、ぐるりと前に回り込み、オスカー様を取り囲んだ。

「ナタリーはあんなスケベなおっさんのことなんか全然好きじゃないんだ! オレ達を養わなきゃいけないから仕方なく結婚するんだよ!」
「お兄ちゃんが悪いんだよ! 早くお花持って迎えに来てくれないから、お姉ちゃんが変な男に捕まっちゃったんだぁー!」

 あの絵を見せてくれた女の子が、泣きながらオスカー様を叩いていた。
 オスカー様は怒ることなく、彼らを見回し、息を吐いた。

「お前らも聞いただろうが。結婚を決めたのはナタリーだ。あいつが金に困ってるわけねぇだろうが、今までオレが十分な援助をしてきたんだからな。それを断って、別の男と一緒になるって言ってんだ。これ以上、オレにどうしろって言うんだよ。無理やり花嫁を掻っ攫えってか? 頼まれもしねぇのに誰がやるか」

 最後は吐き捨てるように呟いた。
 彼が拳を握り締めて、苛立ちを押さえていることに気づく。

「オレは二度とここには来ない。だが、もし、困ったことになったら騎士団にオレを訪ねて来い。お前らの面倒ぐらいなら見てやる」

 突き放すようだけど、言葉に少しだけの穏やかさを滲ませて、オスカー様は子供達を帰した。
 女の子が鼻をすすって泣きじゃくる声が、門の中に消えていく。
 気になって、わたしは何度も振り返りながらその場を離れた。

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