償い

第10話おまけ −渡の独り言−

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 雛ちゃんと両思いになっただけではなく、親父さん達とも和解した鷹雄は、この世の春を謳歌している。
 オレも肩の荷が下りて、拍子抜けした日々を送っていた。
 平穏が一番とはいえ、刺激が足りない。




 今日は鷹雄と雛ちゃんに付き合って、遊園地にやってきた。
 カップルにあてつけられるのは嫌だったが、鳩音ちゃんも一緒と聞いて行く気になった。
 せっかく遊びに行くのに、彼女がお邪魔虫になっちゃかわいそうだしな。

 ここは国内で一番人気と思われる、黒いネズミのキャラクターが主役を張るテーマパークだ。
 日曜日ということもあり、どのアトラクションも長蛇の列ができている。
 来てから気がついたのだが、今日のお誘いはオレと鳩音ちゃんの仲を取り持つためだったらしい。しかし、鷹雄と雛ちゃんは仲介などそっちのけで、行列に並んでせっせとアトラクションをまわっている。
 お前らが遊びたかっただけだろう。
 人の熱気に当たって疲れたオレは、ベンチで休憩中。
 たまの休みぐらいゆっくりさせてくれ。
 ……なんて、面倒くさがってるから、彼女ができても長続きしないんだろうな。

「鳶坂さん、適当に買ってきちゃったんですけど、どっちがいいですか?」

 鳩音ちゃんが気を利かせて、冷たい飲み物を買ってきてくれた。
 コーラとオレンジを差し出されて、オレンジを取った。

「ごめん、幾ら?」
「いいですよ、気にしないでください」

 サイフを出しかけた手を止められる。
 にっこり微笑む鳩音ちゃん。
 初対面のはしゃぎっぷりから、よくいる図々しいタイプの子かと思っていたけど、彼女は面倒見のいい子だった。
 女は男に奢られるのが当たり前、などといった感覚は持ち合わせていない。
 雛ちゃんの親友だけあって、性格はいい。
 オレは彼女に好感を抱き始めていた。

「ありがとう。それなら、次はオレが奢るよ」

 鳩音ちゃんはオレの隣に腰掛け、並んでジュースを飲む。
 話題は自然に、友人をほったらかして遊んでいるカップルのことになった。

「仲がよすぎて妬けてきますね。ちょっと居心地悪いかも」
「オレは毎日当てられてるよ。今まですれ違ってた分、取り返そうとしてるんだろうけどさ。鷹雄は以前から、雛が雛がとうるさいヤツだったけど、両思いになって浮かれ出してからは、ますますひどくなった」
「それでかぁ。雛が話すことって、鷹雄さんのことばっかりなんですよ」

 オレが愚痴ると、鳩音ちゃんも同意した。
 最近の雛ちゃんは、口を開けば惚気ているらしい。
 始めのうちは興味を持って聞いていた鳩音ちゃんも、うんざりしてきたそうだ。
 だが、これだけ幸せな様子を見せつけてもらえれば、見捨てずに付き合ってきた甲斐もあるというものだ。

「昔から二人のことを見てきて、今の状態は長いドラマを見終えた気分に似てる。ハッピーエンドに満足して、疲れきった感じ。それでいて、終わってしまうと寂しいんだ」

 登場人物に同調して、イライラしたり、ヤキモキしたり、喜んだり、笑ったり。
 それをリアルで体験したようなものかな。
 二人には思い入れがかなりある。

「その辺のことも詳しく知りたいけど、雛は言いたくないみたいだし、聞かないことにします」

 鳩音ちゃんにこれまでの経緯を教えて、この気持ちを共有したくなったが、あのことは他言しない方がいいよな。
 特にこの数年間のことは……。

 コーラを飲み終えた鳩音ちゃんは、空になった紙コップを捨てに行った。
 戻ってきた彼女はオレの前に立ち、手を差し出してきた。

「終わって寂しいなら、新しいドラマに付き合いませんか?」

 そう言って、明るく笑う。
 オレも笑い返した。

「そうだな、自分が登場人物になってみるのも悪くない」

 彼女の手を取り、立ち上がる。
 見ているだけではなく、オレも動こう。
 今度はオレ自身の幸せな結末を探して。

END


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