償い

鷹雄サイド・7

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 昨今では男でも家事ができないと嫁が来ないと言って、母さんはオレに料理やら裁縫等、生活に必要なレベルでの家事を仕込んだ。
 おかげで独立することになっても、家政婦を雇う必要はなかった。
 雛と同居を始めた時に大半の家事を任せたが、朝食だけはオレの担当にした。
 理由はゆっくり寝かせてやりたいからだ。
 昨夜も激しく抱いたからか、雛はまだ寝ている。
 オレは先に起きてキッチンに立ち、鮭を焼きつつ、卵を巻いて、できた順に皿に乗せて食卓に乗せていった。

 雛が起きてきたので、向かい合って座り、食事を始める。
 黙って箸を進めているので、居心地が悪い。
 重くなる空気をごまかしてくれているテレビの音が救いだ。

 昔は良かったな。
 雛が「お兄ちゃん、あのね」って話し始めて、オレが相槌を打つと、花が咲いたように笑うんだ。
 あの関係を壊したのは、オレ自身だ。
 後悔はしていないが、やはり寂しい。

 オレは食後にコーヒーを淹れて飲むのが毎朝の習慣になっている。
 雛が流しに食器を運んでいる間に、カップを二つ出して淹れておいた。
 相変わらず黙ったままのオレ達だったが、天気予報が流れ出した途端、雛が口を開いた。

「今日は晴れなんだ。傘はいらないな」

 オレに向けられたものではない独り言だ。
 手に持ったマグカップをテーブルに置いて雛を見る。
 少し呆れてもいた。

「車での送迎なら、雨の心配なんぞいらんだろうが。送り迎えしてやるって言ってるのに、どうして電車に拘るんだよ」
「だって、運転手つきの高級車で大学に来る人なんていないよ。どこのお嬢様だって誤解されたら困るじゃない。わたしの家は普通の家庭なんだよ」

 雛はオレとの本当の関係を周囲に隠している。
 元義理の兄妹という繋がりだけで、オレは雛に援助をしていることになっているのだ。
 世間の目があるから、過剰な援助は受けられないと雛は拒む。

「大学でわたし達の関係がバレたら困るでしょう? お兄ちゃんの評判が悪くなるよ」

 確かに困る。
 評判はともかく、隼人さんにバレるとヤバイ。
 渡にも指摘されたが、あの人がこの事を知ったら、オレは確実に雛と引き離されてしまい、永遠に失うことになるだろう。
 それだけは避けたい。
 オレは渋々引き下がった。

「当分は渡が一緒に通学するらしいな。変な考えは起こすなよ、お前はオレのことだけ見ていればいい」

 雛の心がオレに向いていない以上、不安要素は山のようにある。
 渡のことは信用しているが、雛があいつに惚れないという保証はない。
 どうにもできないオレには、こうやって雛を脅すことしかできない。

「信用して。わたしはお兄ちゃんのものだよ」

 雛が傍に来てオレに抱きつき、唇を重ねてきた。
 積極的に舌まで絡めてオレを求めてくる。
 嬉しくなって、こちらも応える。

「ん……、ふぅ…うん……」

 雛がコーヒーの香りが混ざった甘い息を吐く。
 柔らかい体を抱きながら、徐々にその気になってきたが、出かける時間が迫ってきていた。
 くそ、せっかく雛から誘ってきてるのに。
 しかし、理性が働いて体を離した。
 欲望に負けて仕事を放棄するわけにはいかない。

「続きは今夜と言いたいところだが、オレはしばらく残業続きだ。帰りは深夜になるかもしれないから、先に寝ていて構わないぞ」

 今オレは、重要な仕事を任されている。
 副社長なんて肩書きを持っていても、実績と信用がなければただの飾りだ。
 周囲のヤツら、特に鷲見の親族達を黙らせるには、それなりの働きを見せなければならない。
 オレが社会人一年目にして社長の後継者として重役のポストにつけたのも、連中が納得できる条件として提示した学業での成績と、大学時代に起業した事業の成功があったからだ。
 オレには財力が必要だ。
 雛をこの手にして、守れるだけの力が……。
 そのためなら、多少の無茶も苦にならない。
 忙しいといっても、手がけているプロジェクトが成功すれば落ち着く。
 もうしばらくの辛抱だ。




 それは翌日のこと。
 雛が帰宅する時間に来るはずの、渡からの定期連絡が来なかった。
 多少のズレはあるかと、しばらく待ってみたが、鳴らない携帯にイラついて、こっちからかけてやった。
 数コールの後に携帯は繋がった。

「今どこにいる? 帰ったなら連絡しろよ、給料差っ引くぞ!」

 向こうが口を開く前に怒鳴りつけたものの、返事がない。
 不審に思って、今度は冷静に呼びかけてみた。

「渡? おい、渡」

 電話の向こうでは、渡の気配がしている。
 荒い呼吸が聞こえてくるが、応えようとしない。
 まさか、動けないのか?
 強盗、監禁等、最悪の想像が脳裏を駆け巡った。

「わた……」

 再度の呼びかけを試みたオレの耳に、雛の声が聞こえた。

『……気持ちいいですか?』

 想像した状況とはかけ離れたセリフに、オレの思考は停止した。

『……うん…気持ちいいよ、雛ちゃん……』

 恍惚とした囁くような渡の声。
 何が気持ちいいんだ?
 携帯を握り締めながら、耳を済ませて、向こうの様子を懸命に探った。

 電話の向こうで、「あっ」だの「やぁ」だのと、雛の喘ぎに似た小さな声が二度ほど聞こえた。
 嫌な汗をかきながら、電話の向こうで行われているだろう光景を必死で否定する。
 だが、次に聞こえた渡の声で、かろうじて保たれていたオレの理性はぶっ飛んだ。

『雛ちゃん、ごめん…重い? もう少しこのままでいさせて、動くと…キツイ……』

 重い?
 それはつまり、雛が重さを感じるほど密着しているということ。
 動くとキツイって、それは雛の中がってことか?
 渡のアレはオレのよりでかいってのかっ!?

『わたしなら大丈夫ですから、気にしないでください』

 携帯から離れているせいか、雛の声は小さかったが、かろうじて聞き取れた。
 自分の想像が確信に変わっていくのを感じながら、敗北感と怒りで血管が切れそうになった。

『ゆっくりと、慌てないでくださいね』

 何を余裕で受け入れてんだよ。
 オレの時はこっちが手を出さないと、やらせてくれねぇくせに!

『雛ちゃんの…温かい……、もっといけそうだけど、いい?』
『はい、好きなだけどうぞ』

 まだ、やんのか!?
 そりゃあ、雛の体は最高に具合がイイけどよ。
 好きなだけって、雛の口からそんな言葉が出てくるなんて、そんなに渡がいいのかよ!

 通話を切って、拳を壁に叩き付けた。
 羽鳥が飛び上がって怯えていたが、構うものか。
 背広を着込み、扉に向かう。

「ふ、副社長、どちらに!? 外出の予定にはまだ時間が……」
「残りの予定は全て明日にまわせ。スケジュールの調整も秘書の腕の見せ所だ。後は任せる」
「そ、そんな!」

 羽鳥の悲鳴を背に扉を閉めた。
 車に乗り込むと、運転手にマンションへと向かうように指示した。

 渡のヤツ、あれだけ雛には興味がないとか抜かしてやがったくせに許さねぇ。
 オレを裏切った落とし前はきっちりつけさせてもらうぞ。




 マンションに着き、エレベーターに乗り込むと、最上階へのボタンを乱暴に押した。
 信じていた親友に裏切られた怒りと、それを受け入れた雛への憤りに支配される。
 とりあえず、渡をぶっ飛ばしてから後のことは考える。
 ヤツらが逃げる前に、捕まえないと話にならない。

 部屋に入り、リビングまで行くと雛が驚いた顔で立ち上がった。
 渡の姿を探して視線を動かしたがヤツはいなかった。
 テーブルには大学に提出するレポートのようなものが広げてある。
 カモフラージュのつもりか?
 渡との関係を隠して、オレを騙し通すつもりなのか?
 さらに怒りが湧いてくる。

「渡はどこだ?」

 雛の顔が引きつった。
 ちくしょう、やっぱりそうなのかよ。
 オレよりあいつを選ぶんだな。

「これみよがしにあんな会話を電話口で聞かせやがって、お前ら覚悟はできてんだろうな。渡の野郎もここにいるんだろ? それとも怖気づいて逃げたのか?」

 雛に時間を稼がせて、自分は逃げたのか?
 イラつくオレの神経を逆撫でするように、雛は渡を庇った。

「た、確かに体調管理は大事かもしれないけど、どんな人でも病気になることぐらいあるよ。うちで休んでもらったことがいけなかったの? でも、鳶坂さんはお兄ちゃんの友達でしょう? ほっとけないじゃない」

 オレのダチだから、部屋に入れて抱かれたってのか?
 バカ言え。
 どこの世界に自分が惚れた女をダチにまわす男がいるんだよ。

「あいつとは長い付き合いのダチだが、女まで共有しようとは思わない。病気とか、何をわけのわからん言い訳してるんだ。それを口実にあいつに誘われたのか? それともお前の方からか? いや、どっちでもいい。どのみち渡はぶっ飛ばさねぇとオレの気が収まらん」

 元凶は渡だ。
 あいつを引きずり出して、ぶん殴った上で、弁解があるなら聞いてやる。
 オレから雛を奪っておきながら、隠れて震えている意気地なしの卑怯者にはどんな制裁を加えてやるのが相応しいだろうな。

「ヤツはどこにいる? クビにする前に血祭りに上げて、オレを裏切ったことを死ぬほど後悔させてやる。どこで寝てやがるんだ、ベッドのある部屋だとすれば、ゲストルームか寝室だな」
「ま、待って、お兄ちゃん! 違うの!」

 雛がオレの進路に立ちふさがる。
 それがまたオレの怒りを煽る。
 昔、小さな体を盾にして懸命にオレを庇ってくれた雛が、今は惚れた男を庇うためにオレの前に立っている。
 その皮肉なめぐり合わせに、絶望と共に黒い感情が芽生える。
 二人が本当に思いあっているのなら、渡をぶん殴ってから認めてもいいとさえ思っていたんだ。
 だが、渡は出てこない。
 雛を矢面に立たせて、自分は安全な場所にいる。
 許せるわけがない。
 雛はオレのものだ。
 あいつにも、雛にも、それをわからせてやる。

「何が違うってんだよ。そんな下手な芝居でオレを騙せると思ってんのか?」

 雛を床に引き倒して、冷たく見下ろす。

「言い訳は聞かない。そうだな、先に雛にお仕置きをしてやろう。オレだけじゃ足りないから、他の男を引っ張りこんだんだろ? 満足いくまで抱いてやろうじゃないか。オレに抱かれて喘ぎまくってる声を、あいつに聞かせてやる」

 服を掴んで前を無理やり開いた。
 ボタンが飛んで、雛の白い肌が露わになる。

「や、やだ! 鳶坂さんがいるんだよ、やめて!」

 やはり渡は家の中にいるようだ。
 雛はわかっていてヤツを隠しているんだ。
 お前は一途なヤツだから、あいつが傷つくぐらいなら自分を盾にする方がいいんだな。
 だったら、あいつが出てきたくなるように、いやらしい声で鳴かせてやる。

「何を恥ずかしがっているんだよ。ついさっきヤッたばかりの相手なんだから見られても構わねぇだろ。それともオレに抱かれているところを、あいつには見られたくないとでも言う気か? まさか、本気になったわけじゃねぇだろうな。お前はオレのものだ! 他の男に足を開くようなマネを誰が許すかよっ!」

 雛の下着を全て剥ぎ取り、胸の膨らみを掴んだ。
 加減することなく乱暴に揉みしだき、尖った乳首を口を使って弄ぶ。

「あっ、あっ、……ぅあ、ああん……」

 次第に雛の吐息に艶が混じり、喘ぎ声がもれ聞こえてくる。
 愛撫を下半身へと移していき、足の間にある秘裂に到達した。
 愛液で濡れ始めたそこを舐めて、雛の体を高めていく。

 声が高くなってくると、雛は手で口を覆った。
 渡に声を聞かれたくないんだな。
 そうはさせるかよ。

 ムカつきながら、雛の体をうつ伏せにした。
 床に手をついたため、口を塞ぐものがなくなった。
 オレは指で雛の秘所を撫でた。
 ねっとりと絡みついてくる愛液で指を湿らせ、中へと入れていく。
 動かしてやると、雛が感じるたびに締めつけられ、ますますそこは潤った。

「ああっ、やめてぇ……」

 床に這いつくばって尻を突き出し、淫らな姿を晒して雛が懇願する。
 だが、やめる気はなかった。
 オレを欲しがるまで、もっと乱れさせてやる。

 指を動かすたびに、雛の腰が揺れる。
 空いている方の手で乳房をいじってやり、さらに快楽を与えていく。
 体の反応は正直で、咥え込ませたオレの指が幾度も締めつけられた。

「うあぁんっ、いやぁ、お兄ちゃん…お願い……だから…」

 指を抜いてやると、愛液がこぼれ落ちてきた。
 ぐしょぐしょに濡れて光っている。
 前戯はこれで十分だな。
 オレを裏切った雛だが、愛しい気持ちは変わらない。
 痛みより快楽を与えて、オレの方がいいって体に言わせてみせる。

「しっかり濡らしてやったんだから感謝しろ。目を離すと見境なしに男を欲しがるお前には、相応しい格好で入れてやるよ」

 興奮で勃起した分身を取り出して、雛の秘裂に当てた。
 腰を掴んで引き寄せ、一気に挿入する。
 この感触をオレ以外の男が味わったのかと思うと頭に血が上ってくる。

「渡のヤツにはどんな風にかわいがってもらったんだ? オレとヤッてる最中でも、あいつのことを考えてよがってるのか?」

 雛の体を突き上げながら、問い詰める。

「……はぁ、あっ、あうんっ」

 だが、答える余裕はないようだ。
 返ってくるのは喘ぎ声ばかり。

「オレとあいつとどっちがいい? どっちのモノが大好きなのか、あいつにも聞こえるように言えよ。オレを選ばなかったら、二度と抱いてやらねぇからな。これは最後のチャンスだ。お前がオレを裏切ったら親父達がどうなるのか、もう忘れたのか?」

 さあ、雛。
 お前は誰を選ぶ?
 もちろん、オレだよな。
 優しいお前が親父達を見捨てるはずがないもんな。

 雛の瞳に光が戻った。
 はっきりと雛は答えを口にした。

「お兄ちゃんがいいの、雛はお兄ちゃんのモノが大好きだよぉ! 他の人じゃダメなの、お兄ちゃんだけが欲しいよぉ」

 獣が吼えるみたいに、雛は叫んだ。

「そうか、いい子だな。雛はそうやってオレのモノだけ咥えていればいいんだよ。バカなお前でもお利口なペットになるように、ちゃんと躾けてやるからな」

 オレは満足して雛の背中に口付けた。
 その瞬間、雛の体が震えて達した気配がした。
 理性を失い、本能の導きに任せてよがり狂う雛をオレは抱き続けた。

 雛の中に入れたオレ自身を一度引き抜き、再び仰向けにして、正常位から挿入していく。
 雛はオレを拒まない。
 自分から腕をまわして抱きつき、声を上げる。

「あっ、うんっ、あぁ、お兄ちゃあんっ!」

 もう渡のことなんて、頭から飛んでるんだろう。
 押さえることなく雛は大声を上げた。
 勝利に酔い、満足して腰を動かす。
 舌で耳を舐めて、感度を高めてやると、かわいい喘ぎが返ってくる。

 その時、奥の方でドアが開く音がした。
 よほど動揺しているのか、派手な物音を立てて近づいてくる。
 遅いんだよ、バカ。
 雛は取り戻した。
 後はお前とケリをつけるだけだ。
 まずはオレと雛が愛し合っているところを見せ付けてやろうと、ドアが開くのをほくそ笑んで待ちかまえた。

「雛ちゃん、どうしたっ!?」

 ドアを開けるなり、渡は叫んだ。
 ヤツはなぜかオレのパジャマを着ていて、運動してきた後みたいに荒い呼吸を繰り返していた。
 この時点で、訝しく思う。
 渡はオレ達の姿を見て、脱力したように、ドアノブにすがりついた状態で腰を落とした。

「なんだよぉ、雛ちゃんが襲われてるんだと思って、必死こいてベッドから出てきたってのに……。鷹雄も電話聞こえてたんなら、オレがいるって知ってたはずだろ? 節操なく、こんなところで盛るな、ちょっとは…我慢しろ、紛らわ…しい……」

 ふわっと渡の体が前のめりに倒れた。
 カーペットの上に寝転がった渡は、苦しそうに唸っていた。

「渡!?」

 様子がおかしい。
 オレは一気に萎えてしまい、雛の中から抜け出した。
 さっさと後始末をしてズボンを履く。
 雛も立ち上がって、服を着替えていた。
 オレはその間に、渡の熱を見て異常に高いことを確かめた。
 帰ってきた時に雛が言っていた病気はこれのことか。
 ひょっとして、ひょっとしなくても、あの電話の会話もオレの誤解?

 自分の勘違いに気づいて血の気が引いた。
 冷静になって思い返せば、最中にしては妙な会話だったかもしれない。
 ゲストルームに渡を運びながら、オレは罪悪感と気まずさでどうしようもない心境に陥っていた。




 渡をベッドに転がして、掛け布団を被せる。
 雛が新しく中身を入れ替えた氷枕を持ってきて、渡の額に乗せた。

「減俸一ヶ月」

 気まずい沈黙に耐え切れず、オレは八つ当たり気味に渡に減俸を言い渡した。

「あ、ひどい」
「これでも寛大な処置だ。一応仕事はこなしていたようだから、これだけで許してやる。今後は体調管理に気をつけろ」

 渡は言葉よりはダメージを受けていない様子だ。
 オレが本気ではないことを見抜いているからだろう。
 多分、察しのいいこいつは、オレが誤解した挙句に何をやったかわかっているはずだ。それで気まずく思っていることも見抜かれている。

「何を聞いて誤解したのかは知らないけど、雛ちゃんは看病してくれてただけ。オレが一人暮らししてるから、ぶっ倒れないか心配してくれてさ。雛ちゃんは本当に優しいなぁ、誰かさんとは大違い」

 渡は笑いを堪えている。
 一言多い。
 腹が立ったので、拳骨で頭を軽く小突いておく。

「今夜はここに泊まれ。一晩寝ても治らないようなら、医者を呼んでやる」
「頼むよ。悪いな、世話かけて」

 渡が寝付いてから、オレと雛はリビングに戻った。
 ソファに腰を下ろして、もたれかかり、息を吐く。
 疲れた。
 何やってんだろ、オレ。

「お兄ちゃん、ごめんなさい」

 リビングのドア付近に立っていた雛が急に謝った。
 オレは驚いて雛を見た。
 謝られる覚えがまったくないからだ。
 むしろ、今回のことはオレが全面的に悪く、雛は謂れのないことで責められ、とばっちりを受けた格好だ。

「どうして謝る? オレが勝手に誤解しただけだろう」
「でも、誤解されるようなことをしたのは、わたしだから……」

 オレは雛の損な性格を思い知り、ため息をついた。
 そうだった。
 こいつはまず自分に非がないか考えるタイプだった。
 手招きして雛を呼び、隣に座るように身振りで指示した。

「お前はいつもそうだな。だからバカだって言うんだ」

 関係ない、自分は悪くないで押し通してしまえばいいものを、お前はいらない責任まで背負い込む。
 要領が悪いというか、お人よしというか、そういうバカなところが愛おしい。
 隣に座った雛を抱き寄せて、長い髪に沿って手を動かし、さっきの埋め合わせをするつもりで優しく撫でた。

「さっきは中途半端なところで終わったからな。今から社の方に戻るのも面倒だし、今夜はお前を抱いてさっさと寝る。その代わり、明日は帰れねぇだろうけどな」

 今日の仕事は明日にまわせと言ったから、明日のスケジュールは深夜近くまで埋まってしまっただろう。
 仕方ないか。
 その分を頑張るために、今夜はたっぷり充電しておこう。

 雛がオレに抱きついてきた。
 自分から唇を寄せてきてキスをしてくる。
 オレは物も言わずに応えた。
 差し出された舌にオレのそれを絡めて、何度も唇同士を重ね合わせた。
 愛おしい気持ちが溢れ出てきて、雛に冷たく接するための仮面を剥ぎ取っていく。

「寝室に行くぞ。邪魔はされたくないからな」
「はい」

 おとなしく従う雛を横抱きに抱え上げて運ぶ。
 寝室のベッドまで運ぶと、そっと静かに雛の体を横たえた。

 ベッドサイドの明かりだけを残して、室内の照明は全て落とした。
 互いに裸になり、やり直しの意味で一から体を高め合う。

 白く艶のある綺麗な肌を丹念に撫でていく。
 性感を舌や指で刺激して、雛の口から甘い喘ぎがこぼれるように導いた。

「あ……、ぅはぁ……、お兄ちゃん……」

 呼びかけには愛撫で応えた。
 雛が気持ちよくなるように、たっぷり全身にキスを振りまき、手の平で乳房を包み込んで捏ねた。

「お願い。お兄ちゃんが欲しいの」

 とろんと潤んだ瞳で、雛がねだった。
 キスをしながら、指で雛の花芯を開き、濡れ具合を確かめた。
 そこには申し分なく愛液が満ちている。

「いくぞ、雛」
「う…ん……、あ……っんぁ……」

 雛の体はオレを受け入れて、悦楽を味わって歓喜に震えた。
 贖罪の気持ちを表すために、雛を悦ばせることだけを考えて動いた。

 疑って悪かった。
 お前達がオレを裏切るはずがなかったな。

 オレの不安が一つ消える。
 それと同時に雛を想う気持ちもさらに強くなった。

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