束縛
冬樹サイド・4
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ついに日曜日がやってきた。
今朝は早起きして、デートコースの最終チェックをし、服装も髪型も鏡の前でしつこく見直した。
服もラフなものだけど、近所のスーパーで買った大安売りの服じゃなくて、この日のために母さんを拝み倒して買ってもらった、万単位のブランドものの服だ。
オレは何度もモデルや芸能事務所のスカウトに声をかけられたことがあるので、容姿には自信を持っていいはずだ。
春香の視線を独り占めにするために、姿も最高にカッコイイ男に変身するんだ。
「冬樹、すごい張り切ってるなぁ。今日は何かあるのか?」
リビングで父さんが母さんに問いかけている声が聞こえた。
「春香ちゃんと久しぶりにお出かけするんだって。振られそうだから必死みたいよ。一生のお願いで服を買ってくれって、わたしに土下座して、普段はやらないお手伝いまでやってたんだから」
「え? そうなの? 春香ちゃんが冬樹のお嫁さんになってくれるんだと期待してるのに」
「いくら気心のしれた仲でも手を抜いちゃだめよね。あなたもたまには昔みたいに、食事にでも誘ってよ」
「そうだね。じゃあ、今日は待ち合わせして出かけようか。豪勢なランチをご馳走するよ」
「嬉しいわ、吹雪(ふぶき)。愛してる」
キスをしている熱々な気配は、家のどこにいてもわかる。
夜は女王と下僕になるのに、普段の二人は万年新婚カップルだ。
息子が悲壮な覚悟で決戦に挑もうとしているのに、無視してイチャイチャするなよ、無神経なヤツらめ。
約束の時間が来て、春香の家に行った。
おばさんが出迎えてくれて、春香を呼んでくれた。
外で出てくるのを待っていたら、ほどなく春香は姿を見せた。
白系統でまとめたブラウスとフレアスカート。オレンジのカーディガンも色は淡く品がある。
普段の部屋着と違い、大人っぽく見えた。
春香も高校生なんだよな。
いつまでも子供じゃないんだ。
オレと並んで歩きたくないのか、春香はなかなか傍にこようとしなかった。
「どこ行くの?」
問いながら、春香はしっかり距離を取っていた。
その警戒のされように、表情には出さないものの、激しく落ち込んだ。
どうせオレは強姦魔だよ。
でも、さすがに街中で襲ったりはしないぞ。
それに今日は無理やりにはしないんだ。
春香が自分から求めてくれるまで我慢すると決めたんだ。
「電車に乗るから、駅に行こう」
オレは強引に春香の手を握った。
彼女の体が強張ったのがわかった。
な、何もそこまで嫌がらなくても。
泣きそうになったが、手は離さずに駅に向かって歩き始めた。
しばらくすると、春香の体から徐々に強張りがとれてきた。
これなら、何とかなりそうだ。
手の平から伝わってくる、春香の温もりに頬を緩め、常に手を繋いで歩いていた幼い頃を思い出す。
懐かしいな。
春香も思い出してくれたかな。
目的の街は、電車に乗って一駅で着く。
遊びや買い物のための施設が揃っているこの街には、子供の頃からよく来ていた。
オレと春香の思い出が、あちこちに宿っている。
まずはデパートに入る。
屋上に連れて行き、幼児が遊んでいる傍らで、小さい頃の話を切り出した。
春香は恥ずかしいと言って、不機嫌になったけど、その反応は自然なものだった。
彼女の瞳に怯えはない。
この調子でいけば、きっと元に戻れる。
春香と一緒に思い出の場所をまわった。
街を歩きながら映画館や公園をまわり、どこが変わったとか、あの時は……など、思い出話を途切れなく話した。
受け答えをする春香は、次第に笑顔を見せてくれるようになった。
半年振りに笑顔が見られて、オレは感極まって涙ぐみかけた。
だめだ。
泣くのは完全に元に戻れてからだ。
今はまだ、最初のきっかけを手に入れたに過ぎない。
いよいよ勝負どころの遊園地に着いた。
観覧車に乗って、あのキスを再現するんだ。
この雰囲気ならいける。
絶対に大丈夫だ。
「観覧車に乗るか?」
意を決して誘いかけると、春香はためらうことなく頷いた。
繋いだ手を離し、腕を絡めてきて、体をぴったりとくっつけてきてくれた。
観覧車に乗り込み、狭い席に並んで座った。
扉がしめられて、オレ達を乗せたゴンドラが地上を離れてゆっくりと上昇を始める。
二人っきりの密室。
急にイタズラしたくなって春香の肩を抱き寄せた。
胸に手を伸ばして膨らみを揉み、スカートもめくってショーツの布越しに指を這わせ、耳元で囁いた。
「触って欲しいのはどっち?」
すると、春香は赤面して、オレの手を押さえた。
「どっちも嫌! すぐ地上に着くんだから、こんなところじゃできないよ」
頬袋に食べ物を詰め込んだハムスターみたいに、春香の頬が膨らんだ。
怒った顔もかわいくて、オレは笑ってその頬を両手で包み込んだ。
こんなところじゃできないって、他の所ならしてもいいってことか?
嬉しいよ、春香。
こんなことができるほど、オレ達の距離はすっかり元通りになっていた。
観覧車が頂点へと向かっていく。
オレは春香と向き合い、顔を寄せた。
「もうすぐ頂上に着く」
静かに唇を重ねた。
子供の時はここまでだったキス。
その続きをと求める。
春香は薄く唇を開けて、オレの舌を迎えてくれた。
時間にすれば数分の間。
二人で夢のようなキスに酔いしれた。
遊園地から出てすぐに、オレは春香を連れて近くのラブホテルに入った。
コースに入れてはいなかったが、どうしても抱きたくなったのだ。
夢が覚める前に現実にしなくては、安心できなかったのだろう。
入り口で一度春香の様子を窺うと、腕を絡めてくっついていた彼女ははにかんだ笑みを浮かべて頷いた。
その仕草を了解ととって、足を踏み入れる。
初めて入ったが、予備知識はそれなりに仕入れてきている。
慌てることなく部屋を選んで、無事に入室できた。
はやる気持ちを抑えて、まずは浴室へと足を向けた。
浴槽にお湯を張り、春香を呼ぶ。
「体洗ってやるから、一緒に入ろう」
春香は素直についてきた。
脱ぎかけた彼女を前に、オレも服を脱ぐ。
気が急いていたからか、先に脱ぎ終わってしまい、手持ち無沙汰となったオレは、春香が脱いでいる姿を見ていた。
オレが裸になったことに気づくと、春香の手が止まった。
こっちをちらちら見て、俯いて脱ぎかけのブラウスの前を掴んでいる。
まさか、オレの飢えた気配が伝わったのか?
いきなり我に返って、やっぱり嫌とか思ってるんじゃ……。
「嫌か?」
手を掴み、問いかける。
断られたらどうしよう。
ここまできて、また無理やり抱くしかないのか?
「そうじゃないけど、お腹出てるかもって思ったら恥ずかしくなった」
オレの葛藤に気づく様子もなく、春香は俯いて恥ずかしそうに呟いた。
「そんなことか」
ホッと胸を撫で下ろす。
よ、良かった。
だけど、そんなことで恥ずかしがるなんて、春香はかわいいな。
奥ゆかしいところも、彼女の魅力の一つだ。
「心配しなくても出てない。毎日見てるオレが言うんだから安心しろ。春香の体は綺麗だよ」
キスをして、ブラウスのボタンを外して脱がせていく。
春香はされるがままになっていて、下着も自分から床に脱ぎ落とした。
「行こう」
「うん」
浴室で体を洗いながら、互いに触れ合う。
泡で滑る肌を撫で、胸の先端を指でくすぐるようにいじった。
春香が淫らに喘ぐ声が浴室に響く。
彼女の手が、硬くなりかけたオレのものに触れた。
目が合って、さらに目線を下に下ろす。
大きく実った膨らみは、オレが揉んで育てたものだ。
挿入が無理な日は、谷間に挟んで満足させてくれたよな。
春香が進んでやってくれる奉仕の一つだったから、強制的にやっても気持ちよくないことはわかっていた。
繋がる時だって、求めてくれなきゃ虚しいだけだった。
春香もそうなんだろう。
いくら体が反応しても、心は満たされない。
今は違うよな?
彼女の気持ちを試す意味もあり、オレは願いを口にした。
「春香の胸でイキたい、アレやってみて」
アレで春香にもすぐに伝わった。
膨らみを持ち上げて、起き上がりかけの肉棒を挟み込む。
ふにゅふにゅと肉が擦れあう不思議な感触と、春香の胸に挟まれているという光景が、次第にオレの興奮を高めていく。
「ん……、冬樹くん、気持ちいい?」
「いいよ、春香ぁ…最高……」
春香は一生懸命にオレを気持ちよくしようと頑張ってくれた。
フェラは相変わらず抵抗があるみたいで無理だったけど、その分は胸でたっぷりしてくれた。
一度目は、彼女の胸で果ててしまった。
こんなに気持ちが昂っているのに、一度で終われるわけはなかった。
一度目の余韻はシャワーで洗い流し、ベッドへと場所を移した。
「あ…あん…んはぁ……、はぁん! あ、ああんっ」
オレの下で、春香の体がぴくんぴくんと跳ねている。
彼女が感じる箇所を舐め、指で撫で、感度を確かめつつ焦らしていった。
開かれた足の間は十分すぎるほど濡れていた。
それでもオレは指すら入れなかった。
いつまで我慢できるだろう。
笑みが自然に浮かび、快感に悶えて耐える春香を見つめた。
オレにはSの気があるのかもしれない。
昔から母さんに似てると言われていたけど、似ているのは外見だけではないようだ。
「やぁ……じらしちゃ嫌ぁ……」
春香は自ら腰を持ち上げて揺らしてみせた。
誘うような動きはいやらしく、清純な見かけとのギャップがたまらない。
だけど、だめだ。
ちゃんと言うまで、入れてあげない。
「どこがいい? 言ってくれないとわからないよ」
耳朶を甘く噛み、舐めて囁いた。
春香は頬を染め、涙で瞳を潤ませてオレを見つめた。
羞恥に震える様が愛おしく、答えを急かしながらも、ずっと見ていたいと矛盾した思いを抱く。
「……し、下がいいの……指じゃなくて……ふ、冬樹くんのを、わたしの中に入れて……」
目を瞑り、春香はついにオレが望む言葉を言ってくれた。
即、飛びついて入れたくなったが、衝動を抑えて余裕のあるフリをしながら起き上がる。
「わかった」
コンドームを手に取り、慎重に着ける。
避妊だけは忘れてはいけない。
春香を大事にしたい気持ちに、偽りはないからだ。
「久しぶりに聞けた春香のお願いだからな、たっぷりかわいがってやる」
体を重ね、中へと進んでいく。
いつもと違って、春香は望んでオレを受け入れてくれていた。
オレがしたかったのは、まさにこの触れ合いだ。
好きだよ、春香。
誰よりもお前が好きだ。
「春香、春香ぁ」
幾度も名を呼び、夢中で唇を重ねた。
全身を使って彼女を求める。
春香もちゃんと応えてくれた。
一方的なものじゃない。
オレ達は愛し合っているんだ。
「あぁ…ん……冬樹くん……好きぃ。……ぁ…離さないでぇ…」
「離すもんか。春香、オレにはお前だけだ。お前がいいんだよ」
もうどのぐらい聞いていなかったのだろう。
彼女からの好きって言葉。
その言葉一つで、オレは天にも昇る気持ちになれる。
繋がった体は、終わりに向けて動き始めた。
「あっ、ああ……、あああああっ!」
「ぅくっ!」
高まった気持ちと一緒に精を放った。
春香の体も大きく跳ねた。
一緒に達して、ぐったりとベッドに沈み込んだ。
名残惜しみながら、彼女の体から離れる。
後始末をしていたら、春香が小さな声でオレを呼んだ。
「ふ、冬樹くん……」
伸ばされた両手はオレを求めている。
春香が戻ってきてくれた。
抱きしめて、肌の温もりを確かめ合いながら、深い安堵の息をつく。
久しぶりの愛ある逢瀬の余韻を楽しみ、オレ達はしばしの眠りについた。
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