束縛
冬樹サイド・3
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春香のことで口論になってから、オレと穂高は口をきいていなかった。
学校でも無視し合っている。
あからさまではないために、気がついていたのは夏子ぐらいだった。
何もかもがうまくいかない。
オレは春香を守りたかっただけなのに、大事な人を全て失いかけている。
放課後の部活で、オレは雑念を捨てて走ることに集中していた。
夏子がタイムを計ってくれている。
最初はオレとの親密さをアピールするために、陸上部のマネージャーになった夏子だけど、意外に楽しんでやっているみたいだ。
走っている間は、何も考えなくて済む。
最高タイムが出たと彼女に言われて、笑顔が自然に浮かんで駆け寄っていた。
手の平を打ち合わせて、ストップウォッチを見せてもらう。
「すごいね、冬樹。この調子なら、代表に選ばれるかも」
「はは、選ばれたら頑張るよ」
うちは進学校だから、スポーツには大して力を入れていない。
早いとは言っても校内の記録と比べてだ。
この学校においてスポーツとは、勉強の息抜きに嗜む程度。
オレも走ることで気分転換を図っているようなものだから、あまり大会とかには興味がなかった。
何気なく校舎に目を向けた。
窓の人影が重なっているのに気がついて、凝視する。
視力の良さが、オレにその光景をはっきり見せた。
穂高が春香にキスをしていた。
無理やりされたわけではない証拠に、春香は終わった後も逃げずに穂高と向かい合って、何か話していた。
「どうしたの、冬樹?」
夏子の問いも聞こえていなかった。
気がついたら、走り出していた。
穂高は行動を起こしたんだ。
オレから春香を奪う気なんだ。
校舎に入ったところで、階段を下りてきた穂高を捕まえて校舎裏に連れ出した。
「今、何をしてた?」
「何のことだ」
問い詰めると、穂高はとぼけた。
笑みを浮かべる横っ面を張り飛ばしたくなった。
「見てた。春香にキスしてただろ」
「それがどうかしたのか?」
睨みつけるオレに、穂高は平然と言い返した。
悪いとは微塵も思っていない態度に、苛立ちが募る。
穂高はあくまで余裕のある表情を崩すことなく、春香に告白したと話した。
「キスは不意打ちでしたけど、嫌がってはいなかった。メールアドレスと携帯番号の交換もしたし、脈はあるな。今度は遊びに誘ってみるよ。強引にいけば、落とせそうだ」
「ふざけるな!」
胸倉を掴んだオレの右手を、穂高は簡単に外して上に捻り上げた。
「オレは真剣だ。しっかり彼女の心を捉まえておかない、お前が悪いんだよ。好きだって気持ちに嘘はつきたくないからな、これからも積極的にいく」
穂高はそう言って掴んだ手を離し、立ち去った。
焦りが強くなり、オレは拳を握り締めた。
家に帰るまで、色々考えた。
春香の気持ちをこっちに向けるには、抱いているだけではダメなんだ。
他に何か、もっと……。
春香はどうしてオレを嫌いになったんだろう。
昔はあんなに好きあってたのに。
彼女との思い出を、次々と思い起こす。
アルバムを出してきて、さらに強く記憶を呼び起こした。
「これだ!」
目についたのは、遊園地で撮った写真だった。
観覧車でキスをしたことを、昨日のことのように思い出す。
春香だって覚えているはずだ。
二人で作った思い出を辿れば、彼女の心を動かせるかもしれない。
穂高なんかに渡さない。
春香はオレのだ。
オレだけの彼女なんだ。
春香の家に行く前に、両親の部屋に忍び込んだ。
寝室に隠されていた拘束用のアイテムを探し出す。
数あるアイテムの中から手錠を借りて、オレは家を出た。
部屋でオレを迎えた春香の表情には、諦めの気持ちが浮かんでいた。
喜びの感情はなく、俯きがちに黙って座り、オレが近づいて来るのを待っていた。
穂高とキスした時は嫌がってなかったんだろ?
どんな顔をして、あいつを見つめたんだ。
窓の向こうに見たキスの光景が蘇り、嫉妬が胸を焦がす。
「春香、両手を出して」
オレは不機嫌な声音で春香に命じた。
差し出された手首に手錠をはめる。
抵抗を封じるためだ。
特に今日は念入りに抱くつもりだ。
この嫉妬の炎は、そうでもしないと消えそうにない。
乱暴に春香を引き寄せて、唇に口付けた。
奪われたものを取り返す勢いで、執拗に咥内を責める。
他の男の味なんて覚えていなくていい。
春香はオレだけを見ていればいいんだ。
唇も体も、心まで、彼女はオレのものであるべきなんだ。
春香を床に押し倒して腕を上げさせ、手錠に紐を結びつけて、ベッドの足に結んで固定する。
完全に動きを封じてから、不安げな顔でオレを見つめる春香を見下ろした。
「穂高に何を言われた?」
春香は目を見開き、やがて震えながら口を開いた。
「す、好きって……」
「何て答えた?」
「お、お友達からって……」
それでキス?
春香は積極的でもないし、節操なしでもない。
あのキスは穂高の言う通り、ヤツが強引にしたものに間違いなかった。
だが、嫌がらなかったということは、まんざらでもないということか。
オレはわざと笑みを作った。
気づかれてはいけない。
春香はオレが穂高に全てを打ち明けていることを知らない。
堅いところがある彼女には、自分が処女でないことは負い目になるはずだ。
「無理だよ、春香は処女じゃないからな。ちょっと触っただけで濡れちまうもんな。おとなしくて純情そうな顔して、男を喰いまくってる淫乱女だって思われて嫌われるぞ」
オレの考えは的中した。
春香の瞳は絶望で陰り、見る間に涙が溢れ出した。
胸が痛んだが、春香を取り戻すためなら何だってする。
「春香は、オレに抱かれていればいい」
穂高のことなど忘れてしまえ。
オレのところに戻ってくるなら、他のヤツに触れられたことぐらい許してあげる。
手放せないほど愛しているから、彼女の幸せを願って物分り良く引き下がることなんて、オレにはできない。
服を脱がせて胸を触る。
手に馴染んだ柔肉は、オレの手の平によって形を自在に変える。
春香の声に喘ぎが混ざり、感じている証拠に股の間がじっとりと濡れはじめた。
足を持ち上げ、奥を覗き込むように顔を近づける。
潤った割れ目を舌で撫でた。
びくびく震えが伝わってくる。
「ああぁん……、やぁ、そんなとこ……」
動けないながらも、春香は身をよじって抵抗していた。
受け入れの準備を終えて、オレも避妊具を取り出して用意をする。
気持ちよくしてやるよ。
オレしか欲しくならないように、最高の快楽を与えてやる。
「やだ、やめて……」
泣き顔に、オレを求めてくれていた頃の彼女の顔が重なった。
精一杯、全身で受け入れてくれていた春香が、今は同じだけの必死さで拒絶している。
なんでだよ。
そんな言葉は聞きたくない。
オレを拒否する言葉を紡ぐ彼女の口を猿轡で封じた。
足の間に体を進めて、中に入り込む。
念入りに馴らしておいたせいか、挿入は容易かった。
繋がり、ゆっくりと動き始める。
「んん…、ううっ! んむううっ!」
体は正直にオレの動きに合わせているというのに、春香は首を振り、まだ抵抗を続けていた。
「強情を張るなよ。気持ちいいんだろ?」
彼女の肌にキスをして、痕をたくさんつけていく。
「お前の体は、オレのものだからな」
誰にも渡さない。
お前はオレのもの。
生まれた時から、そう定まっていたんだ。
体に教え込もうと、オレは春香を深く抱く。
言葉ではなく温もりで。
愛おしい想いを伝えるために。
もうすぐ時間だ。
今夜も春香はオレを拒み続けた。
手錠を外してやり、春香が涙ぐみながら服を着なおしている様子を見つめる。
泣かせたいわけじゃない。
愛したいだけなんだ。
オレは春香を引っ張り寄せた。
唇を触れ合わせて、彼女の涙を指で拭い、額にも口付けた。
「次の日曜、予定はあるのか?」
春香は首を横に振った。
行動を起こすなら早い方がいい。
穂高が入り込んで来る前に、春香の心を取り戻すんだ。
「だったら、予定は入れるな。朝から出かける。九時に迎えに来るから用意しておけ。目一杯めかしこんどけよ」
オレは春香に約束を強引に承知させて、自宅に戻った。
次の日曜日が勝負だ。
寝る前に、思い出をまわるコースを組んでいく。
この機会に指輪も贈ることにする。
高校に入ってから一年半の間、貯め続けたバイト代を使う時がきたのだ。
期待と不安を胸に、眠りについた。
久々に春香の夢を見た。
オレの隣には、幸せそうに微笑む春香がいた。
オレ達は共に裸で、ベッドの上に居た。
初めて結ばれた日のことを思い出す。
怖がって泣いていたけど、春香は頑張ってオレを受け入れてくれた。
「冬樹くん、大好き」
終わった後、そう言って春香は抱きついてきた。
嬉しくて嬉しくて、その日の夜は興奮でなかなか寝つけなかった。
大切で幸せな記憶だ。
夢の中の春香は、昔のようにオレを求めてくれた。
思う存分彼女を抱き、現実に戻ったオレは、必ず正夢にしてみせると決意を新たにした。
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