欲張りな彼女
優の独り言
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小さい頃から三人一緒。
昔はそれで良かったものの、思春期に入ったボク達は、微妙なバランスで互いの関係を維持していた。
特に双子の弟である秀とボクは、恋敵と呼べる間柄でもある。
ボク達二人が恋をしている相手は、知恵という幼なじみの女の子。
悲しいことに彼女は鈍く、ボクらの気持ちにちっとも気づいてくれない。
秀は知恵の気を引きたくて、わざと意地悪をする。
意地悪されたと泣きついてくる彼女を慰めるのがボクの役目。
これだけだと、知恵が好きになるのは当然ボクのはずなのだが、知恵がピンチの時に駆けつける時には、いつも秀に先を越されてしまうので、彼女のボクらへの好感度に差がつくことはなかった。
「優ちゃん、秀ちゃん、バレンタインデーのチョコあげる」
毎年、彼女がボクらに渡すチョコレートは、寸分違わず同じもの。
どちらが本命か義理かなんて見分けることもできない。
ボクの焦りは募る一方だった。
中学生になると、男も女も色気づいてくる。
男子の猥談なんてしょっちゅう耳に入ってくる。
ボクは性欲を大っぴらに表に出すことに照れがあり、人前では潔癖を装っているが、秀はそういうことを恥ずかしげもなく口にするタイプで、知恵にもセクハラ紛いの冗談でよく迫っていた。
「知恵、乳揉ませろ」
「やだ、秀ちゃんのスケベっ!」
知恵に肘鉄を食らわされている秀を眺めながら、ボクは羨ましさと脅威を感じていた。
その冗談が、冗談でなくなったら?
知恵が拒絶ではなく、いいよって言えば、秀はためらいなくやるだろう。
ボクはそれを指をくわえて見ているのか?
スタートラインが同じで、より先に近づいた方が彼女を得られるなら、ボクが勝とう。
そう思って、ボクは行動を起こした。
だけど、知恵の心を独占することはできなかった。
ボク達はこの先も永遠に三角形でいるんだろう。
誰も傷つくことのない、決して向かい合うことのない輪を作って。
この関係が幸せだと思えるのだから、ボクと秀は運命共同体か、一心同体と化しているのだろう。秀が本心ではどう思っているのかは、知らないけどね。
諦めにも似た心境で、ボクは双子の片割れと、愛しい彼女を共有している。
END
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