狂愛

蜂蜜姫の憂鬱・王子様の気持ち・2

BACK INDEX

 ある日の夜、私室で寛いでいるところにクリストがやってきた。
 弟が部屋に来るのは珍しいことではなく、気になる出来事や政務に関することなどを取り留めなく話していた。
 しばらくすると、クリストが話題をこの度の縁談に向けた。

「前からお聞きしたかったんですが、どうしてフィリーナ殿を選んだんです? 確か、縁談は腐るほど来てたでしょう。候補の中には美姫と名高い姫君も大勢いたのに、兄上が選んだのは、……まあ、なんというか普通の姫だったので、重臣達は驚いていたみたいでしたよ」

 フィリーナを選んだと告げた時の家臣達の意外そうな顔を思い出した。
 他の候補の方が彼らには魅力的に映ったのだろうが、価値観の相違というものだ。
 選んだ理由を問われる前に、こちらから納得のいく説明をしてやると、彼らも落ち着いたようだ。

「ルフィアの蜂蜜は上質なんだ」
「え?」

 ルフィアの価値を説明する際に欠かせない要素。
 私が呟くと、クリストは戸惑いの声を上げた。

「大国と繋がりを持つのも悪くはないが、中小国の中で産業の発展が見込める国を取り込むのもいいかと思ってね。その点ではルフィアは理想的なんだ。他国にあまり知られてはいないが、農業と畜産業においてはトップクラスの技術を持っている。領土は花と緑に溢れ、手のついていない山もたくさんある。幸い、ルフィアの王は我が国に好意的な方だし、国力からいっても多少の発展程度ではこちらの主導権は揺るがない。今のうちに投資しておいて損はないだろう。豊かな資源を持つ国を友好国にしておけば非常時にも役に立つ」

 家臣にした説明を繰り返す。
 彼らの希望を取り入れた縁組でもあると、納得させるための建前とも言うべき理由。

「……と、ここまでが表向きの理由だ。決定的だったのは王女自身の性質だ。フィリーナは可愛いだろう? 控えめで素直で温かい。少し自信のないところもいいな。抱きしめて守ってやりたくなる」

 フィリーナのことを思うと顔が綻ぶ。
 クリストが咳払いをした。
 快活な青い瞳が面白いものを見たとばかりに輝いている。

「はいはい、惚気はその辺で勘弁してください。おっしゃる通り、フィリーナ殿は可愛い方だ。ジークリンデもエーベルもすっかり気に入っている。何より、彼女は平民出だと母上を見下したりはしない。兄上の選択は正しかったと兄弟みんなで思っています。理由を尋ねたのは単なる好奇心からですよ」

 フィリーナは弟妹の心も掴んだようだ。
 話題を変えて話を続け、重い腰を上げたクリストが帰っていくと、入れ違いに女官が報告に来た。

「先ほどフィリーナ様がおいでになられましたが、ご気分が悪いとおっしゃられて宮殿にお戻りになられました」

 女官の報告を聞いて、すぐに見舞いに行った。
 フィリーナは大丈夫だと言うものの、憔悴しているように見えた。
 疲れているのかもしれないと思っていたが、その日以来、フィリーナの笑顔に影が落ちるようになった。
 結婚式が近づくにつれて、彼女が憂いの表情を浮かべる機会が増えた。
 私が傍にいることに苦痛を感じているようにも見える。
 それでも拒まれることはない。
 フィリーナにとって、これは政略結婚。
 始まりはそうであっても、これから変えていけばいい。
 私の気持ちもいつかわかってもらえばいいと、長い時間をかける覚悟を決めて式の日を待つことにした。




 花嫁候補の最後の五人に残りながらも、選ばれなかったことを不服に思ったローアル王国のザビーネ王女が、我が国に乗り込んできた。
 プライドの高い姫君をあからさまに拒絶すれば、後々面倒なことになると考えて別室に案内した。
 ザビーネ王女は金を筆頭とした自国の資源と、己の美貌や能力を雄弁な話術で自ら売り込み始めた。
 彼女の言葉に幾度か頷きながら、話を一通り聞き終える。

「わかっていただけまして?」
「ええ、十分わかりました。あなたは素晴らしい方だ」

 ザビーネ王女の瞳が期待で光る。
 しかし、彼女の望み通りの答えを言うつもりはなかった。

「あなたほどの方なら、良縁は幾らでもお有りになるだろう。ザビーネ王女、あなたに不満は何もない。だが、私は美しく輝く金より、美味しい蜂蜜の方が好ましく感じるのです。変わった趣味だと思われるだろうが、どれほど金が価値を高めようとも、私が選ぶのは蜂蜜です」

 頭のいいザビーネ王女は、謁見の間で自分とフィリーナを純金と蜂蜜に例えていたが、私もそれに倣って答えを返した。
 王女は目を見開いて私を凝視した。
 こんな答えを返されるとは想像もしていなかったようだ。

「そ、そうですか、それは残念なこと。ならば金は本物の価値がわかる方にお譲りした方がよろしいですね」
「ええ、そうなされた方が金の輝きも失われないでしょう」

 ザビーネ王女は悔しさを滲ませながらも毅然とした態度を保って帰国していった。
 その日から、フィリーナは就寝と起床時に蜂蜜の前で祈るようになった。
 不思議に思って問いかけたことをきっかけに、私はフィリーナの本心を知った。
 そして、私の言葉を誤解されていたことも。
 我々はようやく心を通わせることができた。
 結婚式の前で良かったと心から思う。
 初めての夜、私とフィリーナは身と心を完全に繋ぎ合わせることができるのだから。




 日程は予定通りに進み、結婚の式典と国中を巻き込んだ祝いの宴が始まった。
 深夜になろうというのに、城内でも広間を中心に人々が浮かれ騒いでいる。
 私とフィリーナは、新居である我々の宮殿の寝室で、床入りの儀式に臨もうとしていた。
 儀式とはいっても形式だけのもので、夜が明けてから侍女達がシーツについた花嫁の純潔の証を確認するだけの簡単なものだ。
 薄い夜着を身につけたフィリーナは、緊張して固まっている。
 髪は下ろされており、薄い夜着を押し上げている胸の膨らみは意外にも豊かで、彼女はそれを隠すように腕を交差させて体を抱きしめていた。

「フィリーナ、おいで」

 先に寝台に座った私が呼びかけると、彼女はゆっくりと近づいてきた。
 膝の上に乗せて、腕を下ろさせる。
 抱き寄せ、唇を重ねながら、指を体に添えて動かす。
 夜着の前を開き、露わになった胸を撫でる。
 膨らみを揉み、頂の尖りを指の腹で擦り、硬くなったそこに口づけた。

「はぁ……、ん……」

 快感からくる喘ぎをこぼし始めた彼女を寝台に横たえ、衣服を脱がせる。
 蜂蜜を思わせる髪がシーツの上で広がり、滑らかな白い肌に映えた。
 唇を肌に押し当て、舌を這わせる。
 彼女の肌が甘いと感じるのは気のせいだろうか。

「フランツ様、恥ずかしいです……」

 頬を赤く染めて、フィリーナが訴えた。
 潤んだ瞳に見つめられて、体の中心が熱くなる。
 欲望を隠す必要はないのだ。
 私も服を脱ぎ去り、彼女の上に跨った。

「恥ずかしがらずに全て見せて。君が欲しいよ、フィリーナ。愛しくてたまらない」

 俯く顔をこちらに向けさせてキスを繰り返す。
 フィリーナの腕が首に絡みつき、口づけを深く求めてくる。

「フランツ様、好きです、愛してます、幸せすぎて死にそうです」

 熱に浮かされたように、フィリーナが囁く。
 二人の望みが一つになり、彼女の足を開かせて、潤った秘所に昂った欲望を押し付けた。
 繋がりが深くなり、フィリーナが声を上げてしがみついてきた。

「フィリーナ、大丈夫か?」
「はい、……大丈夫……で……す」

 健気な返事に愛しさが膨らむ。
 大切にしたいと強く思い、押し流されそうになっていた理性を取り戻して、緩々と動き出す。
 本能が生み出すリズムは次第に早くなり、フィリーナの指が私の背に強く食い込んだ。
 顔をしかめた私を見て、フィリーナの表情も歪む。

「フランツ様……、ごめんなさ……い」
「気にしなくていい、君の痛みを思えば大したことではない」

 彼女を抱きしめて、唇に口付ける。
 胸を触って優しく愛撫すると、フィリーナは恍惚とした表情で震えた。
 自身の快楽にも酔いながら、彼女にも同じだけの悦びを味わってもらいたいと望む。

「あぁっ、フランツ様ぁ……っ!」

 絶頂に達するたびに、フィリーナが私の名を叫ぶ。
 今、彼女の心を占めているのは紛れもなく私だけだ。
 フィリーナは私のもの。
 一生この腕の中に閉じ込めておきたい。

 初めて心に宿った激しい感情に戸惑いを覚えた。
 父が母に抱くのは、このような気持ちなのかもしれない。
 これほど強く求める気持ちを抱えていながら、身分の差ゆえに引き裂かれそうになった時、父がどのような気持ちになったのか今ならわかる気がする。
 それに母上は王妃となっても元の身分に拘っておられるから、父上の不安が消えることは生涯ないだろう。
 複雑な両親の関係をしみじみと振り返り、自分達にはそのような障害がないことを神に感謝した。

「……んっ、あっ……、ああっ!」
「フィリーナ、可愛いよ。愛している」

 己の幸運を噛みしめながら、彼女の中で上り詰めていく。
 フィリーナの足が体にしっかりと絡みつき、肌がぴったりと合わさる。
 柔らかい感触と温かさに欲望を煽られて、ついに私も達した。
 獣のような声を上げて、彼女の中に全てを注ぎ込んだ。




 興奮で寝つけなかったこともあるが、愛を交わした余韻に浸りたくてすぐには離れなかった。
 フィリーナも嬉しそうに抱きついてくる。
 ついばむようにキスを交わしていると、萎えたはずの分身がまた熱くなってきた。
 再び胎内を圧迫しだした私に、フィリーナは小さな悲鳴を上げた。

「きゃっ、あんっ」
「もう一度初めからしよう。これは私がどれほど君が欲しいかの証明だよ」

 キスで唇を塞いで、続いて肌への口づけを再開した。
 舌や指が体の敏感な部分に触れるたびに、フィリーナは体を震わせて感じている。
 先ほどよりも強く欲望を刺激された。
 味わうたびに溺れていく。
 蜂蜜のように甘い私の愛しい姫。
 君がいない世界など、もう考えられない。

 私は父上のように不安を覚えて君を束縛したりはしない。
 大きな翼を与えて、どこにでも自由に行かせよう。
 だけどね、君が戻ってくるのは私の腕の中だ。
 誰よりもどんな場所よりも、私の許に帰りたくなるように、大きな愛で巣を作り、いつでも君を包んであげる。


 END

BACK INDEX

Copyright (C) 2008 usagi tukimaru All rights reserved

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!