憎しみの檻
真夜中の語らい
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夜中にふと目が覚めた。
隣ではエリーヌが安らいだ顔で眠っている。
起こさないように寝台を抜け出し、夜風に当たろうと庭に出た。
鍛錬に使えるようにと、庭には何も植えていない場所がある。
そちらの方で人の気配がした。
侵入者かと警戒したが、様子が違うようだ。
近づいていくと、向こうも私に気がついたらしい。
互いの姿が月明かりに照らし出され、アシルの姿を確認すると安堵と一緒に笑みがこぼれた。
「どうしたんだ、アシル」
「殿下こそ」
私の問いかけに、アシルは苦笑して肩をすくめた。
夜着の上着を脱ぎ、上半身裸で息を弾ませている彼は、先ほどまで走っていたと思われる。
「熱を冷ますには、運動するのがてっとり早くてね」
アシルは隅のベンチに置いていた上着を着込んだ。
熱と聞いて、彼の言葉の意味を理解した。
「大変だね」
私にも覚えがある。
天使と悪魔が心の中で戦い続けたあの苦しい日々を思い返した。
アシルは今、あれを経験しているのだ。
しかもレリアはエリーヌと違い、何歳になれば大丈夫といった判断もできない。
彼の忍耐の日々は、運が悪ければ私が耐えた歳月よりも長くなるかもしれない。
「大変ですよ。悪魔の囁きに負けて、抱いてしまおうかと思いつめた時もあります」
やはりアシルにも天使と悪魔が降臨しているようだ。
悪魔がどれほど誘惑を囁こうとも、負ける寸前でレリアへの愛が勝ち、彼はこうして庭に逃げてくる。
「レリアがもう少し意識してくれりゃあいいんですがね。あいつ、オレを兄貴と同じような安全な男として見ているらしくて危機感てものが全くないんです」
あの魅力的な体で無邪気に抱きつき、性的に刺激しても何も気づかないとはなんという罪なことを。
思わずアシルに同情し、目頭を押さえた。
「おっと、早く戻らないとレリアが起きたらまずいな。では、フェルナン様、失礼します」
「ああ、お休み」
アシルは急いで部屋に戻っていった。
レリアのために。
彼の背中を微笑ましい気持ちで見送る。
私もエリーヌのためならば戦えた。
頑張れ、アシル。
耐えた先には、きっと素晴らしい未来が待っているはずだ。
END
さらに続きで【おまけのアシル視点】
急いで戻った甲斐もなく、部屋に戻るとレリアは起きていた。
寝台の上で膝を抱え、目にいっぱい涙をためて鼻をすすっている。
「アシル、どこに行ってたの? 一人にしちゃ嫌」
目が覚めて、一人きりだとわかった途端、泣いていたんだろう。
潤んでいる青い瞳を見るなり、罪悪感が胸を刺す。
「悪かった。眠れなかったから、庭を散歩してたんだ」
「だったら私も連れて行って、置いていかないで」
涙をこぼして訴えるレリアの傍に行き、ぎゅっと腕に抱え込む。
レリアも腕をまわしてしがみついてくる。
「また知らない間に誰もいなくなってたらって考えたら怖いの。アシルは傍にいてくれるよね?」
「約束する。お前を一人にはしない」
震える体を撫でて、しっかりと抱きしめた。
泣き止んだレリアを掛け布の中に入れて、額にキスを落とす。
このぐらいなら、触れても別にいいよな?
「アシル、抱っこして」
甘えた声でねだられて顔が引きつった。
オレの体、やっと鎮まったところなんだけどな……。
まあ、仕方ねぇか。
レリアがそれで安心できるなら、喜んでこの苦行にも耐えてやるぜ。
END
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