お嬢様のわんこ
第一章・お嬢様と可愛いわんこ・8
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ディオンさんには会いたくなかったのだけど、本人が謝罪したいと強く願っていると聞いて会ってみることにした。
怖かったから、クロについててもらう。
謁見の間で、クロの膝の上に乗せられて対面した。
ディオンさんは最初から、頭を床に擦りつけて謝罪の意を示した。
「言葉を幾ら連ねようとも取り返しのつかぬことは承知しております。ご厚情により処罰を逃れたこの身でございますが、今後はあなた様のために、この命投げ出す覚悟でお仕えさせて頂きます。なんなりとお命じください」
見る限り、彼の体は完治していた。
どれほどの怪我だったのかはわからないけど、治るまで三か月もかかったのだから、相当酷いものだったのだろう。
危害を加えないと約束してくれるのなら、私はもう水に流してしまいたいのだけど、それでは納得してもらえないみたい。
「今後、お前をリュミエールに近づかせると思うのか。お前を生かしたのは彼女の負担にさせないためだ。償いなど必要ない、二度と顔を見せるな」
クロが冷たい声で吐き捨てた。
でも、ディオンさんはエドモンさんの孫だもの。
クロを心の底から心配して捜していた、人の好いご老人のことを思うと、この人をお城から追い出すのは躊躇われた。
それに優秀な騎士なら、これから幾らでも挽回できる機会はあるはずだった。
「待って、クロ。彼はあなたのことを思ってあんなことをしたのよ。誤解だとわかってくれたのなら、私はそれでいいの。この人嘘はつけない人だわ、謝罪の気持ちも本心からのもの、追い出してはだめよ」
クロは渋面を作りながらも頷いた。
私は床に額をつけたままのディオンさんに声をかけた。
「頭を上げてください。一つ命令を聞いてくれたら、それであなたの私への狼藉はなかったことにしたいと思います」
跪いたまま頭を上げた彼は、驚いた顔をしていた。
クロも同じ。
私が何を言うのか、想像がつかないらしい。
「リュミエール、命令って?」
「うふふ、クロは黙って見ていてね。邪魔をしてはいけないわ」
クロの膝の上から下りて、ディオンさんの傍まで歩いていく。
緊張で耳がピンと立っていて、灰色の尻尾が不安そうにゆらゆら揺れていた。
「命令です、今からあなたの耳と尻尾を触ります。私が満足するまで動かないで」
「へ?」
「え?」
間抜けな声が二人から上がった。
クロが邪魔しないうちにと、耳を触る。
耳の後ろ側のふかふかした部分を堪能した。
子供達の小さな耳と違って大きいから、手の平にちょうどいい。
次は尻尾。
そうっと撫でて、モフモフ具合を確かめる。
綺麗にブラッシングされているわね。
毛玉のない、柔らかな触り心地は素敵。
クロとは質が少し違うのか、また別の感触がしてそれがまた新鮮だった。
モフモフ、ふかふか、さわさわ。
思う存分触りまくり、満足して手を離した。
「もういいわよ。ありがとう、触り心地が良くて素敵だったわ」
良い汗を掻いてにっこり微笑めば、ディオンさんはぐったりとした様子で蹲っていた。
ふうふうと、荒い息をついている。
あら、触りすぎてしまったかしら?
人によっては尻尾は敏感だからと言われていたのを思い出して、もしかして彼はそうだったのかと思い至る。
悪いことしたかな。
罰も兼ねているからってことで納得して……くれるといいなぁ。
「ええっと、これで水に流します。これからは以前のように王家に仕えて、お役目を全うしてください」
そそくさと切り上げて、クロの下に戻る。
彼の顔を見てぎょっとした。
クロは涙目になっていた。
「ど、どうして他の男を嬉しそうに撫でてるの? お嬢様は俺のなのに、俺にもう飽きたの?」
混乱しているのか、言葉遣いが子供に戻ってる?
小さな箱に入れられて道端に捨てられて泣いている子犬の姿が重なり、罪悪感が襲ってきた。
捨てないから、そんな顔をしないで。
「ち、違うのよ! 私はただ他の人の耳と尻尾を触りたかっただけで……」
「俺じゃだめなの? 禿げるほど撫でてくれてもいいよ。ちくしょう! 他のヤツの毛なんか全部毟ってやる!」
「きゃー! そんなことしてはだめ!」
なんとか宥めすかしてクロを部屋に連れ帰った。
ご機嫌を取らないと、国中の獣人達の毛を毟りそうな勢いだったもの。
寝台に並んで座り、甘い言葉を並べて、熱烈なキスをしてあげていると、クロは私の腰にしがみついて尻尾をぱたぱた振って甘えだした。
そこへ騒ぎを聞いたパトリスさんがやってきて、お説教をされた。
「いけませんよ、不用意に男性の尻尾に触れるなんて。ディオンには丁寧に説明して誤解を解いておきましたが、誘っていると解釈されても文句は言えませんよ」
年頃の男女の尻尾の触り合いは求愛行動にもなるそうだ。
残念だけど、当分はクロと黒狼と番犬達で満足するしかない。
やっぱり早く赤ちゃんが欲しいなぁ。
自分の子供なら思う存分スキンシップしても、誰も不思議に思わないし、咎められたりしないものね。
もしかすると、人族の赤ちゃんが生まれてしまうかもしれないけれど、獣耳と尻尾がなくても可愛いだろうし、それはそれでいいかもしれないわ。
パトリスさんが出ていくと、再びクロと二人っきり。
クロは私の膝に顔を埋めて、くんくん匂いを嗅いでいた。
機嫌直ったのかしら?
頭を撫でて、耳をさわさわ撫でていると、くぅんと甘えた声が聞こえてくる。
「私が一番好きなのはあなたよ、クロ」
彼の不安が消えるように、何度も告げる。
私がここにいるのも、あなたがいるから。
私を生かしているのもあなただから、離れるなんてあり得ない。
「俺も好き、愛してる」
膝から顔を上げたクロが、唇を重ねてきた。
ちゅっと音を立てるキスを繰り返す。
クロの手が胸を触り始めた。
体に触れながら、器用に私のドレスをするすると脱がせていく。
裸の背中に真っ新なシーツの感触。
クロは仰向けに横たわった私の上に跨って、長い舌を使ってあちこちペロペロ舐めだした。
くすぐったいだけの場所もあれば、敏感に感じる場所もある。
脇はだめ、胸も……。
乳房の裾野からじっくりと円を描くように這っていた舌がペロンと先端を舐めた途端、びくんと背中が反り返った。
「あっ、やんっ」
両方の膨らみが交互に舐められ、吸いつかれる。
舌先で乳首を弄られて、胸を揉まれているうちに、さらなる快感が襲ってきた。
「クロ……、熱いよぉ……」
素肌を晒しているのに体が熱い。
汗ばんでいるのは触れているクロも一緒。
互いが発している熱気と、蕩けそうな快楽のせいで、頭がぼうっとしてくる。
濡れた舌と熱のこもった吐息が、腹部を辿り、足の間に下りてきた。
内腿に舌が這わされて、また体が大きく跳ねた。
肌を嬲る舌が足の付け根までゆっくりと進み、割れ目に触れた時、さらに大きな快感の波が押し寄せてきた。
ペチャピチャと秘部から水音が聞こえてくる。
私の愛液を啜るような勢いで、クロが舌を動かす。
膝を曲げて大きく広げた足の間にクロの頭が見えていて、それがまた私を羞恥で苛ませる。
「クロぉ、いやぁ、恥ずかしい……」
何度も見慣れている光景のはずなのに未だに恥ずかしがる私を、クロは俯せにした。
見えなくなったけど、寝台の上で四つん這いになって、背後から抱きしめられる。
「これなら見えない。もう恥ずかしくないでしょう?」
どこか面白がっているような喜色の混じった声で囁かれる。
尻尾がさわりと撫でられた。
耳を甘噛みされる。
毛づくろいをするように、クロは私の耳を表から裏から中まで丹念に舐めていった。
尻尾の付け根を指でこしょこしょ撫でられるたびに、お尻がぴくぴく反応した。
ああんっ、耳と尻尾、凄いぃ。
「ああっ、ひぅんっ」
下腹部を何度も切なく締めつけられて、秘部は愛液を溢れさせて満たされている。
クロの指が秘裂を割って、奥へと入り込んできた。
結ばれてから、拒むことなく彼を受け入れてきたそこは、解すために送り込まれた指をたやすく飲み込んでいく。
悪戯するように中を探っていた指が抜かれて、潤んだ泉の入り口に硬く熱くなった肉の棒が押し当てられた。
だけど、先端はすぐに入ろうとせずに、割れ目を往復し、中途半端な刺激を送り込んでくる。
私の意志とは無関係に尻尾がぶんぶん振り回され、興奮が高まった合図をしきりに出していた。
気づいて、クロ。
私、欲しいの。
あなたが欲しいっ。
「もう我慢できないっ、それ、入れてっ、じらさないでぇ」
自分からお尻を突き出して誘っていた。
「クロがいいの、クロが欲しいの、あなたの赤ちゃんが欲しいのぉ!」
雄を求める雌の本能に従って懇願する。
甘噛みされていた耳に、ふうっと息が吹きかけられた。
「もちろんだ。あなたの胎には俺の子だけが入っていい。今からたくさん注いであげるから安心して」
クロが中に入ってきた。
私は彼を歓喜の嬌声を上げながら迎えた。
背後から荒らしく貫かれ、激しく腰を打ちつけられた。
快楽に溺れ、望みのものを与えられた私の口からこぼれる声は、言葉にもなっていない意味不明な喘ぎばかり。
背中越しにクロの荒い息遣いを感じるだけでも昇りつめてしまう。
愛する雄に求められ、組み敷かれて子種を注がれる。
頭の中は幸福感でいっぱいになり、他のことなど考えられなかった。
私の上でクロが達するまで、この幸せに酔いしれた。
嵐のような営みを終えると、裸のまま寝床に入って抱き合っていた。
お互いの尻尾を絡め合い、キスをしているだけでも嬉しくなって笑ってしまう。
日常の小さな出来事などを話しているうちに、私はあの黒い狼のことを思い出した。
「クロは中庭に黒い狼がいるのを知っている?」
「え? ああ、知っていますよ」
「あの子の名前、誰に聞いても知らないのですって。中庭の黒狼のことならラファル殿下に聞いてみてくださいと言われたの。クロが名前つけたの?」
クロはちょっと考えるような顔をしていたけど、私の方を向くと笑って言った。
「クロと呼べばいいですよ」
「でも……」
「俺の本当の名前はラファルだけど、お嬢様が呼んでくれたクロという名も捨てる気はない。俺が黒狼を同じ名で呼ぶように言ったのは、俺とあいつは同じだからですよ」
「同じって、クロとあの子が?」
似ているってことかしら?
確かに毛並みは黒いけど、そういうことでもないのでしょうね?
「あいつもあなたが大好きなのです。庭にいる番犬達の誰よりも、あなたに可愛がられることを望んでいる」
「そ、そうかな?」
クロと同じってそういうことなんだ。
クロが本物の犬だったら、ああいう風に懐いてくれたのかな。
「そうですよ、ふかふかの毛皮に埋まりたければ遠慮なく抱きつけばいい。耳を摘まもうが、尻尾を撫でようが、あなたの思うまま弄べばいいのです」
「弄ぶつもりはないけど、あの子はおとなしいものね。これからはあの子のこともクロと呼ぶわ。まるで、あなたがもう一人いるみたい」
くすくす笑う私を、クロが抱きしめる。
指先が私の肌の上を優しく辿り、慈しむ。
んー、眠くなってきた……。
おやすみなさいと呟いて、クロの温もりに包まれて意識を落とす。
クロが何か言っているけど、良く聞き取れなかった。
「お嬢様の犬はクロだけです。人だろうと犬だろうと、あなたの寵愛を得るのは俺だけでいい」
一部の獣人が、獣化と呼ばれる変身能力を持つこと。
さらにクロが完全な獣の姿になれることなどを知ったのは、何年も後のことだった。
END
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