お嬢様のわんこ

第二章・わんこ、お嬢様への愛を叫ぶ・15

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 その光景はまさしく悪夢だった。
 俺のご主人様であり、世界で一番大好きで愛しい人が、うっとりした顔で愛でているのは俺ではない。
 床に伏せている男の背後に立ち、灰色の狼耳を優しい手つきで摘まみ、撫でている。

「良い感触。ふさふさ、癒されるー」

 しゃがみこんだお嬢様が陶酔した声で独り言を呟き、男――ディオンの尻尾に手を伸ばした。
 蕩けた顔をして両手で掴んだ尻尾を撫で擦る。

「うふふ、なんて触り心地の良い尻尾なの。毛玉の一つもなく、サラサラで素敵だわ」

 飽きることなく繰り返される愛撫に男は呻き声のようなものを上げる。
 それは苦痛ゆえにではない。
 毎日、同様に愛でられている俺にだからこそわかる。
 気持ち良すぎて理性が飛びそうになっているのだ。
 己の立場を弁えているからこそ、アレは石のように固まり、快楽の波状攻撃にひたすら耐えていた。

 獣人にとって、獣の特性を残した耳と尻尾はある意味弱点であり、大切な部分である。
 触れることを許すのは、家族か、または特別に愛した者だけ。
 お嬢様は純粋な人族だった。
 少しずつ学んではいるはずだが、獣人の習性や慣習などまだ何も知らないに等しい。
 俺の方は、お屋敷にいた頃に得た知識や爺さん達との接触によって、常識程度は身についている。
 頭では理解していた。
 彼女に他意はなく、ただ触り心地の良い獣人の毛並みを撫でたいだけなのだと。

 だけど、アレは庭にいる犬じゃない。
 同世代の人型の男だ。
 毛の色が違うだけの、同族の男。
 自分の番が、他所の男にすり寄っている姿を見て、平常心でいられる奴がいるだろうか?

 捨てられる、捨てられる!

 久しく忘れていた恐怖が蘇った。
 涙で視界が歪み、こちらに戻ってきた彼女が驚愕の表情を浮かべた。
 緊張してカラカラに渇いた喉から情けない声が零れ落ちる。

「ど、どうして他の男を嬉しそうに撫でてるの? お嬢様は俺のなのに、俺にもう飽きたの?」

 嫌だ! 嫌だ! 嫌だああああっ!
 彼女を惑わす毛皮が憎い!
 この世界の獣人から、ふさふさの耳と尻尾が消えればいいんだ!

「ちくしょう! 他のヤツの毛なんか全部毟ってやる!」

 手始めに、分不相応にも彼女に撫でられていた男から毟ってやる。
 丸焼きにされる鳥みたいに禿になって嫌われてしまえ!

「きゃー! そんなことしてはだめ!」

 お嬢様が俺に飛びついて来た。
 毟りたい、けどお嬢様に怪我をさせられない!
 全力で振りほどけず、それでも体をよじって逃れようとする俺に、お嬢様は動きを止めようと強く抱きつく。

「クロ! 落ち着いて! 私が悪かったわ! もう御用は済んだからお部屋に戻りましょう!」
「リュミエール様、手を貸します! 早く殿下をお運びするのだ!」
「聞いてください、殿下! リュミエール様はご乱心なされていたのです! 早くお部屋に戻り、殿下の耳と尻尾を触っていただくのです! さすれば万事上手くいきます!」

 側に控えていた近衛騎士達が彼女に加勢して、部屋まで引き摺られて行く。
 寝室に入り、ベッドの上に放り投げられると、お嬢様を残して他の奴らは素早く部屋を出ていった。

「大好きなのはクロだけよ。確かに獣人の人達の耳と尻尾は魅力的だけど、それがなくなっても私はあなたを愛してる」

 クロが一番好き、愛してると、繰り返し囁かれ、熱烈な口づけを受ける。
 本当?
 捨てない?
 愛してる?
 恥も外聞もかなぐり捨てて、彼女の腰にしがみつき、尻尾を振って甘えた。
 この耳と尻尾がなくなっても、お嬢様の愛は変わらない。
 その言葉を信じたいのに信じられないのは、彼女の愛を独占したい、狭くて我侭な俺の心のせい。

 暫くするとパトリスがやってきて、お嬢様に獣人の尻尾を不用意に触るのは駄目だと注意を始めたけど、俺は彼女の匂いを嗅ぐのに夢中になっていた。
 はあー、落ち着く。
 段々と恐怖心が薄れてきた。
 もう、他の男を撫でないで。
 また同じことが起こったら、今度こそ俺は壊れてしまうから。




 ディオンは騎士に復職した後、城内を守る近衛ではなく、国内各地を巡る特別支援部隊に配属された。
 この部隊は騎士と魔術師の混成隊で、警備の手薄な地方や辺境からの応援要請を受けて、魔獣や賊の討伐のため、国内を奔走する外勤部隊だ。
 一か所に落ち着くことなく、日夜移動を余儀なくされるため、所属する者は身軽な独身者ばかりであり、武力を認められた猛者揃いでもある。
 ヤツも例外ではなく、任務を終えて王都の家に帰ってきても、すぐさま別の地域に移動する忙しい日々を送っているらしい。
 城には出入り禁止だが、監視の意味もあり、直属の上司である部隊長から評価を兼ねた報告書が定期的に届く。
 ディオンは本当に反省したらしく、素行もかなり改まったようだ。
 腕力のない文官や魔術師の言葉にも素直に耳を傾け、弱者を侮ることなく平等に扱い、手を差し伸べる。
 上司と同僚はもとより、任務先での評判も悪くはない。

「この様子だと、いずれは近衛に戻してもいいかもしれませんね」

 報告書を読んだパトリスは、俺にそう進言した。
 爺さんは身内だからか何も言わないが、周囲の連中はディオンを遠ざけることを良しとしていない。
 父上も、あの一族の男は頼りになると、いつかは許しを与えて側に置くようにと仄めかしてくる。
 本来なら極刑にしてもいいぐらいの男なのに、なぜ周囲は許し、元の地位に戻そうとしているのか。
 俺は納得できないが、被害者であるはずのお嬢様までが皆の声に同調しているのだ。

 誰から話を聞いたのか、切り出してきたのはお嬢様だった。
 就寝前、寝室で二人だけになった所、彼女がディオンの名を口にした。
 何年か様子を見て、今のまま役目を果たしていたのなら、城に呼び戻してあげて欲しいと。

「あの人、裏表が感じられないの。表情で本当に反省していることがわかったから、私はもう気にしていないわ。彼が私を殺そうとしたことも、ただあなたを救いたい一心で起こしたことだしね。それに贖罪の機会を与えるのなら、側にいてもらった方がいいのではないかしら?」

 ディオンの動機を知っていたから、最初から怒りはなかったという。
 ただ怖かっただけ。
 彼女を苛んでいた恐怖心も、あの謝罪の件ですっかり消えてしまったと、お嬢様は笑顔を浮かべた。

「彼のふさふさの尻尾を触っていたら、段々可愛く思えてきたの。私の言うことを聞いて動かないでいてくれたし、まるでやんちゃな子犬がやっと懐いてくれたみたいで……」

 子犬?
 あの大男が?
 可愛いって、俺よりも?
 時々、お嬢様の感覚がよく分からなくなるが、今のは聞き捨てならない。

「あいつが戻ってきたら、側に置いて可愛がるの?」

 じいっとお嬢様の目を見て問いかける。
 視界が滲むが、拭うことなく直視し続けた。
 お嬢様は俺の言葉にびっくりしたみたいだ。
 目を丸くした後、泣いている赤子を癒す聖母のような微笑みを浮かべて両手を差し出してきた。

「そんなことしないわ、私にはクロがいるでしょう? 泣かないで、不安ならこうしていつでも抱きしめてあげるから」

 抱きつく俺を受け止めて、頭を撫でてくれる。

「誰よりもあなたが可愛い。クロの尻尾が一番触り心地が良くて素敵よ」

 嫉妬に狂って泣くと、彼女はこうして俺を甘やかし、愛情に満ちた言葉を囁いてくれるので味をしめた。
 今のは嫉妬半分、甘えたいのが半分で、演技も交えて拗ねて見せただけだ。

 顔を近づけて、唇を重ねる。
 舌を絡め、濃厚な口づけをしながら、お嬢様の尻尾に手を伸ばした。
 漆黒の毛並みを手の平で撫でる。
 お嬢様の体が一瞬強張り、反応したのがわかった。

「リュミエールの尻尾も幾らでも触っていたいほど素敵だよ」

 尻尾の毛を指で梳かしながら、軽く握る。
 ほわほわした毛の感触が気持ち良い。

「あん……、ふぅ……」

 お嬢様の息遣いが荒くなってきた。
 尻尾を撫でていた手をお尻の方へと動かして、柔らかな肉を手の平で包み込む。
 片手で尻を触りつつ、もう片方の手は胸へと置く。
 どこもかしこも柔らかいなぁ。
 肌に触れた指先を揉み込むように動かしながら、口づけの位置を唇から頬を伝って頭の上にある耳へと変えていく。
 片耳をぱくんと咥えて、甘噛みする。
 ここにも性感帯があるようで、こうやって刺激すると甘い吐息と喘ぎ声が聞こえてくるのだ。

 衣服を脱いで、本格的に前戯を始める。
 目の前には形の良いお尻があり、黒い尻尾がふりふりと揺れていた。
 お嬢様は膝を立ててお尻を突き出す姿勢で蹲っていて、俺は後ろに周って曝け出された秘部に顔を埋めた。

「ひゃあんっ……、ああっ、ううんっ……」

 とろとろと蜜が溢れ出てくる割れ目を舐める。
 手触りの良い臀部を撫でまわしつつ、舌を伸ばして態と音を立てながら貪った。
 切ない喘ぎと共に、彼女の尻尾が激しく振られる。
 俺も興奮してぶんぶん尻尾を振りながら、自身が熱く滾ってくるのを感じた。
 獣の本能が早くここに繋がれと指令を送ってくる。
 愛液と唾液に塗れて濡れた入り口に、欲望を漲らせて硬くなった肉棒をゆっくりと侵入させた。
 腰を掴み、前後に動くたびに、淫らな水音と肌を打ち合わせる音が響く。
 横向き、座位など、体勢を変えながら抽送を続ける。
 今は正常位の形で抱き合っている。
 仰向けになったお嬢様の快楽で蕩けた顔を満足して見やりながら、欲望を満たすために腰を振った。
 彼女の中に精液を注ぎ込む行為は、俺に少しばかりの安心感を与える。
 口づけや抱きしめ合うこと以上に、匂いが体に染みつく行為だから、普通の良識を持つ獣人の男は近づいてこないはずだ。
 お嬢様は俺の番。
 そのことを誰もが忘れないように、彼女の体に俺の存在を刻みつける。

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