憧れの騎士様

エピソード2・ルーサー編

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 オレとリンは一緒に暮らしている。
 互いの親はオレの恋を応援してくれていた。
 この同棲生活が実現したのも、四人の後押しがあったからだ。
 その代わり、リンの気持ちを無視して無理やりコトに及んだら、この世から抹殺すると念を押されている。
 オレだって、結ばれる時は両思いになってからと決めているから、いくら脅されても不安はなかった。

 冒険者といっても、年がら年中冒険の旅をしているわけではない。
 故郷の村から少し離れた街に冒険者への依頼を扱うギルドがあったので、この街を本拠地にして、依頼を受けて仕事をしていた。
 オレ達は築百年の古いアパートを借りて、二人っきりの生活を満喫している。




 昨日、冒険から帰る途中に、雨が降ってきた。
 近くまで帰ってきていたこともあって、オレ達は濡れながら走った。それがいけなかったんだろう。朝になって起きてきたリンが、体がだるいと訴えてきた。
 案の定、彼女は熱を出していた。

「どうしてルーサーは平気なのに、わたしだけ……」

 咳き込みながら、リンは不満そうな顔をして言った。
 彼女には、病気ばかりしていた子供の頃のオレのイメージが根強く残っている。
 自分の方が元気で健康なのだと思い込んでいただけに、意外な結果につい不満がもれたんだろう。

 オレだって体を鍛えているんだよ。
 昔と違って、多少の無茶をしても体調を崩さない自信がある。
 わざわざリンには言わないけどね。
 運が良かったんだよと、軽く流して、オレは彼女の世話を焼いていた。

「食料の買出しに言ってくるよ。食べやすいもの作ってあげる」

 医者が帰った後、オレはそう言って、家を出た。
 リンを残していくのは不安だったけど、食料の買い置きがなかったので仕方ない。
 さっさと済ませて帰ってこよう。




「ルーサー、久しぶり」
「しばらく見なかったが、冒険に出てたのか?」
「今度、一緒に飲みに行こうぜ。相談したいことあるんだ」

 商店に行くための近道をしようと歓楽街を通ったら、あちこちで冒険者仲間に声をかけられた。
 冒険者となり、街に出てきて、三年ほど経った。
 顔見知りも増えているし、酒を酌み交わすほど親しい連れもできた。
 リンは酒が苦手で酒場には行かないから、彼女の交友関係はオレほど広くはない。
 冒険者仲間には、オレの相棒が誰だか――つまり、リンのことを知らないヤツまでいる。
 オレもあえて知らしめようとはしなかった。

 だって、必要以上の人間を、リンに近づけたくなかったんだ。
 オレより頼れる男を見つけて、リンの気持ちがそいつに向かったらって怖くなったから。
 空想の騎士なら、まだいい。
 どこにもいないってわかっているから、嫉妬しても安心できる。
 だけど、現実の男は違う。
 声をかけて、手で触れられる。
 オレの鼻先を掠めて、彼女を攫ってしまうかもしれない。

 だから、男は誰もリンには近づけさせない。
 彼女はオレだけのもの。
 リンを守り、手に入れるためなら、魔に染まってもいいぐらい、オレは狂っている。

「そこのお兄さん、見てっておくれ」

 唐突に声をかけられて、目線をそちら――路地裏の方へ動かした。
 声の出所は真っ黒な布の塊だった。
 前に置かれた敷物の上には、薬瓶や道具が置いてある。露天商のようだが、全身を黒布で覆っているために、かろうじて声で、年のいった男だとわかったぐらいだ。

「これなんかどうかね? 人の本音を引き出せる魔法の薬だ。意地っ張りな彼女も、これを飲めばたちまち素直になってくれるよ」

 胡散臭いとは思ったけど、なぜか興味を引かれた。
 特に『意地っ張りな彼女』という言葉が、リンと重なったからだ。

「毒性のない薬草を調合して作ったものだ。変な副作用はない。騙されたと思って試してみんかね?」

 どうしてその品だけを、熱心に薦めるのだろう。
 それにオレは、この露天商人の声に聞き覚えがあった。
 久しぶりに聞いたが、生まれた時から毎日聞いていた声だ、間違いない!
 オレは商人の黒い衣を一気に剥ぎ取った。
 衣の下から現れた男は、紛れもなく、オレの祖父だった。

「やっぱり、じいちゃんかっ!」
「バレてしまったか。ルーサーや、元気にしとったか?」

 じいちゃんはひょこっと片手を上げて、人当たりのいい笑みを浮かべた。
 白髪で、肌は年相応に皺が目立つが、姿はすらりと整っている。
 若い頃はモテまくり、今でもご近所のばあさん連中の憧れの的だという。
 オレはじいちゃんそっくりらしいから、生きた未来予想図かもしれない。
 じいちゃんも魔法使いで、オレが魔法使いになったのもその影響だ。

「お前が村を出てから三年ほど経ったが、リンちゃんとはうまくやっとるか? 親の目もないから、毎日ラブラブでエッチし放題じゃろう。いいのう若いモンは、ワシも昔は……」

 じいちゃんは、若かりし頃のばあちゃんとの新婚生活を回想して、不気味な思い出し笑いを始めた。
 この色ボケじじい。
 再会してすぐの話題がそれか。

「はいはい、それは人のいないところで、存分に思い出してくれよ。それより、この薬は本物なわけ?」

 オレは、じいちゃんが先ほどまで熱心に勧めていた薬瓶を指差した。

「ああ、本物じゃよ。わし自らと、ばあさんとで試したが、思いのほか効いてな。この年になると、なかなか素直に愛しているとは言えないもんじゃからのう。その日の夜は久しぶりに熱い思いができたぞ」

 おいおい、仲がいいのはいいことだが、人様の耳があるところで、そんな話をするなよ。
 まあ、これで安全だとはわかったわけだし、ちょっと試してみようかな。

「食事にでも混ぜて、飲ませればいい。後はいい雰囲気に持っていくだけじゃ。媚薬効果も混ぜてあるから、好意を持ってくれておったら、いい感じになれるぞ」

 かなり大雑把な説明だが、なんとなくわかった。

「風邪薬と併用しても大丈夫?」
「ああ、問題ないよ。頑張るんじゃぞ、ルーサー。家族みんなが応援しとるぞ」
「ありがとう、じいちゃん」

 じいちゃんは用事が済むと露店を片付けて、ホウキに乗って空を飛んでいった。
 わざわざ、これを届けるために村から飛んできたのか。
 せっかくだから、使わせてもらおう。
 オレは手早く買い物を済ませて、リンが待つ、オレ達の愛の巣へと帰宅した。




 帰るなり、キッチンに立ち、野菜をザクザク切り始めた。
 リンが食べやすいように、細かくしておかないとな。
 鍋に刻んだ野菜と水を入れて、コトコト煮込んでいく。
 牛乳や調味料を加えて、味を調え、仕上げにじいちゃんの薬を入れる。
 ちょっと後ろめたくてドキドキする。
 リンの本音か。
 実はオレのこと、甘えん坊でうっとうしいとか思っていたらどうしよう。
 彼女の本音を知るのが、怖くなってきたよ。

 お、スープがとろりとして、具合がよくなってきたぞ。
 よし、できた。
 キツイ薬じゃないはずだから、そんなにひどいことにはならないだろう。
 信じてるよ、じいちゃん。
 出来上がったスープを薬と一緒にトレイに乗せて、リンの部屋のドアを開けた。




「気分はどう?」

 声をかけると、リンは起きていたみたいで、こっちを向いた。

「ちょっとマシになったかな。さっきよりは楽になった」

 言葉通り、顔色はよくなっていた。
 でも、まだ苦しそうだ。
 熱が完全に引くには、まだまだ休息が必要だな。

「スープ作ったんだ、食べられる?」

 トレイをサイドテーブルに置いて、ベッドの端に腰掛ける。
 手を貸して起き上がらせ、スープの入った皿を渡した。
 一口、二口と、リンの口にスープが入っていく。
 すぐに効果が現れるわけではなかったけど、緊張して彼女の様子を見守った。

「ごちそうさま。おいしかった、ありがとう」

 スープを全て飲み干して、リンがお礼を言ってくれた。
 邪気のない笑顔を向けられて、オレの顔もだらしなく緩む。
 薬を渡すと、苦そうに顔をしかめながら飲んでいた。
 どんな表情でも、リンはかわいい。
 寝乱れたパジャマ姿が、色気を加えてオレの欲望を煽る。

 危ない、危ない。
 理性を失って、襲いかかるところだった。
 今日のリンなら、たやすく組み伏せられそうだったけど、無理やりは厳禁だ。
 病気で弱っている所をつけこむのは、卑怯だし、必ず後悔する。
 ちょっと離れて、頭と下半身の熱を冷まそう。

「後片付けしてくるから、リンは寝てるんだよ」

 食器を乗せたトレイを持って出て行こうと立ち上がる。
 リンに背中を見せたら、ぐんと後ろに引っ張られた。
 あれ? と思って振り返ると、リンがオレのシャツの裾をしっかりと掴んでいた。

「ルーサー、戻ってくるよね?」

 泣き出しそうな瞳で問われる。
 驚いたけど、嬉しくなって彼女の額に手を当てた。

「今夜は付きっ切りで看病してあげる」
「うん」

 さらに驚いたことに、リンは顔を輝かせた。
 病気の時は心細いものだしな。
 オレでもいないよりマシだよな。
 リンが手を離してくれたので、部屋を出て、洗い物を済ませにいく。
 寝付くまで、本でも読むか。
 変な気を起こさないように、難めの本を持っていこう。




 洗い物を終えると、椅子を運んでベッドの脇に置いた。
 リンが寝ている横で、本を読み始める。
 だけど、視線を感じて落ち着かない。
 ベッドの中からリンが、じっとこちらを見ているようだ。
 気が散って眠れないのかな?

「ルーサー」

 リンが呼んだ。
 どくんと心臓が跳ねたけど、平静を装って顔を上げる。
 リンは熱で潤んだ眼で、オレを見つめていた。

「一緒に寝て」

 彼女から発せられた言葉に、びきっと硬直する。
 石化ってこんな感じかもしれない。
 い、一緒にって、ベッドで一緒にだよな。
 床で寝ろって、オチじゃないよな!?

 固まっているオレを見て、反応をどう受け取ったのか、リンは泣きそうに顔を歪めて、ころんと寝返りを打った。
 向けられた背中が小さく見えた。
 抱きしめて守ってあげたくなるぐらいに、頼りなく見えたんだ。

「嘘だよ。もう、大丈夫だから放っておいて。自分の部屋で寝ればいいよ」

 リンは振り向こうとしないで、オレを追い払おうとした。
 そんな引きつった声で言われても、どれが嘘か本当かはすぐにわかる。
 今まで、こんなに弱々しい彼女を見たことがなかったから、ギャップに激しく心を揺さぶられていた。
 犯罪的に可愛すぎるじゃないか。
 理性の糸が切れそうで、フラフラしてくる。

「リンはどれだけオレの理性を試す気なのさ?」

 ベッドに膝を乗せて、彼女の後ろに急接近。
 パジャマの襟から覗くうなじに口付けたくなって、顔を寄せていく。
 唇から息がこぼれて首筋にかかる。
 びくっとリンの肩が跳ね、我に返って、思いとどまる。

「冗談でも、そういうこと言わないで」

 代わりに忠告の囁きを落とす。
 次はないよ。
 オレには押さえる自信がないからね。

 離れようと体を捻って動いたら、リンが後ろから服を掴んできた。

「冗談なんかじゃないよ」

 振り向くと、そこには半泣きで必死にオレを引き止めるリンがいた。

「一緒にいて、お願い」

 彼女の瞳に、涙が見る間に溢れてくる。
 熱を持った肌は赤く染まり、見上げてくる顔はこの上なく扇情的だった。

「あー、もう! どうして、こんな時にそういう顔するんだよ!」

 髪をぐしゃぐしゃにかき乱して、オレは叫んだ。
 理性も限界を超えた。
 オレはリンを押し倒して、上に覆いかぶさった。
 潰さないように気をつけながら、驚いている彼女と顔を接近させて見つめあう。

「リン、わざとしてる? オレ、もう遠慮しないからね」
「ルーサー。一緒に寝るの、嫌じゃないの?」

 怖々といった感じの上目遣いで、リンが聞いてくる。
 会話がかみ合っていない。
 どうしてリンは、オレが嫌がるなんて思うんだろう。

「嫌なわけない。できれば毎日でも一緒に寝たい」

 オレの気持ちは変わらない。
 リンは疑っているみたいで、横を向いて視線をそらした。

「嫌がっているみたいに見えた」

 拗ねている彼女がたまらなく愛おしくなって、頬に軽くキスをした。

「そうじゃなくて、理性が持つか自信がなかっただけ」
「理性って何の?」
「男と女が一つのベッドで何するかなんて、聞かなくてもわかるだろ。病気の寝込みを襲うほど、オレは卑怯じゃない」

 そこまで言って、ようやく理解したのだろう。
 リンはハッとしたように表情を動かして、寂しそうに微笑んだ。

「わかった。一人でも寝られるから出て行って」

 遅いよ、リン。
 ここまで煽られて、出て行けるわけがない。
 今夜は朝まで一緒にいるからね。

「あのね、遠慮しないって言っただろ」

 オレは毛布をめくって、リンを抱きしめた。
 オレが彼女を抱きしめるなんてことは、初めてではないだろうか。
 いつもと逆転した立場は、余裕と自信を与えてくれた。

「リンには憧れの騎士様がいるって知ってても、見込みがある限りは諦めないからね。むしろ、オレの方が近くにいる」

 唇を重ねていく。
 リンの意識がある時にしたのは初めてだ。
 公認でできたのは頬までだったから、すごい進展だ。
 リンは嫌がる素振りもせず、口内に入れた舌も受け入れてくれた。
 唇を離して、オレは頬に首筋、耳へと、いたるところに口付けていく。

「リン、好きだ。ずっと、ずっと好きだった」

 夢中で囁くと、リンが力のこもらない腕でしがみついてきた。
 求めてくれていると確信して、オレは彼女のパジャマを脱がしにかかった。

「わたしも好き、大好きだよぉ」

 熱に浮かされた表情で、リンがうわ言みたいに声を上げた。
 彼女を上から見下ろしながら、冷静な思考が蘇ってきた。
 リンは熱を出している。
 ボタンを外しかけた手を止めて、体を起こす。
 オレは何をしようとしていた?
 体調不良の彼女に行う行為としては、褒められたものじゃない。

「や……、行かないでぇ」

 リンが手を伸ばしてきたので、オレは彼女を抱きしめた。
 今夜は一緒にいるけど、あくまで理性的に行動しないといけない。
 オレは看病をするために、ここにいるんだ。

「ちょっと待っててね。汗をかいているから体を拭いて、着替えなくちゃ」

 リンを安心させたくて、頭を撫でて、額にキスを落とした。
 これは子供の頃、泣いているオレに、リンがよくしてくれたこと。
 今はオレが騎士で、リンがお姫様だよ。

「すぐ戻ってくるよ」
「絶対だからね」

 何度も念を押されてから、ようやく離してもらえた。
 あ、そうだ。
 オレも体を洗っておこう。
 一緒に寝るんだから、汗臭いままだと、嫌がられそうだしな。




 意外に時間がかかったせいか、湯を入れた桶を持って戻ってみると、リンの機嫌が悪くなっていた。

「遅いよぉ」

 頬をぷうっと膨らませて、リンが文句を言った。
 甘えてくれてるみたいで、オレの口元がまた緩む。
 今夜のリンは、素直でかわいい。
 もしかして、じいちゃんの薬の効果か?

「ごめん、オレも汗を流しとこうと思ってさ。リンだって一緒に寝るのに、汗臭かったら嫌だろう?」

 サイドテーブルに桶を置いて、オレはベッドの上に乗った。
 リンのパジャマのボタンを外すと、形の整った豊かな胸が露わになった。
 胡坐をかいて座り、リンを抱き起こして膝の上に乗せる。
 後ろから右腕で抱きかかえて、左手を使って肌を湯で絞ったタオルで拭いていった。

「気持ちいい」

 リンがうっとりとした声を出した。
 首から肩、胸の上辺りまでは、冷静に終了。
 だけど、脇に触れた反動で、たわわに実った乳房が揺れて、魔が差した。
 手の平ですくい上げてゆっくりと揉み、色づいた先端を摘んで、擦り合わせて刺激してみた。

「……はぁ…ん…、ああ……」

 洩れ聞こえた微かな呻きは、官能の喜びに震えていた。
 名残惜しく手を離して胸の下を拭き、もう片方の膨らみも同じように弄ぶ。
 感触をたっぷり味わいたかったけど、リンの負担になるからと我慢した。
 下半身が反応しかけていることも手伝って、早く終わらせないと、ヤバイことになりそうな予感がしたからだ。
 真面目にやろう。

「背中を拭くから、上を脱いで」

 リンは素直に上を脱いだ。
 腕と背中を手早く拭いて、着替えに用意した洗い立てのパジャマを着せる。
 ボタンをはめて、ちょっと一息。
 さて、次は下か。
 最後の部分は、自分でやってもらうしかないな。

 リンがズボンを脱ぎ、オレは一度彼女を寝かせて、足下へと移動した。
 足の裏から上へと、順番に拭いていく。
 膝まできた時、太腿、さらにその先の股の方へと視線を向ける。
 上着の裾で肝心の部分はよく見えなかったけど、中途半端に隠されている分、余計にいやらしく思えた。
 心を鎮めて、太腿を拭き終える。
 手で撫でてみたい衝動が沸き起こったが、押さえてタオルを絞りなおした。

「オレができるのはここまで。そこは自分でやって」

 タオルを渡して、目を背ける。
 見てないうちにやるようにと急かしたら、リンが抱きついてきた。

「できないよ、ルーサーがして」

 うろたえてリンを見ると、涙目、上目遣いのコンボで見つめられた。
 緊張と興奮で唾が湧いてきて、ごくんと飲み干す。

「だめ。本当にこれ以上はだめ」

 そこを目にして触れたら、拭くだけで終われないことぐらいわかるだろう?
 一線越えちゃうよ。
 オレはリンを大事にしたいんだよ。

「お願い」

 リンはオレの手を取ると、いきなり秘所へと導いた。
 指が、秘所を隠す布に触れる。
 そこはすでに、ぐっしょり濡れていた。

「オレでいいの?」

 オレの最後の問いに、リンは恥ずかしそうに頷いた。

「いいの。ルーサーじゃないと嫌なの」

 オレでいいと、彼女の口からはっきり聞けた。
 目の前にバラが咲き乱れる花園の幻想が広がる。
 多分、今まで生きてきた中で、最高に幸せな瞬間だ。
 これでリンはオレのもの。
 心も体も、オレだけのものになってくれた。

 濡れた下着を脱がせるのももどかしくて、横から指を差し入れた。
 手探りで蜜壷を見つけて、かきまぜるように動かしてみた。
 くちゅくちゅと音がして、指にねっとりとした愛液が絡みついてくる。
 リンの体がぴくぴく動いて、感じているのが伝わってきた。
 オレの胸にしがみつきながら、喜びの声を上げている。

「ああ…あんっ…、うん……ああぁん……はうんっ」

 秘所に入れた指を動かして、彼女が気持ちよくなる位置を探しながら、肌に口付けて吸い、オレのものである証をつけていく。
 リンには余裕がないようで、ひたすら喘いで反応を返してくる。
 艶めかしく色づいた女の顔。
 オレだけに見せる淫らな表情に、こちらの興奮も高まってくる。
 もうすぐ一つになれる。
 リンの中はどんな感じだろう。
 きっと普段の彼女みたいに、温かくてオレをしっかり受け止めてくれるに違いない。

「あ…ぁ…、ふぁ…あ…あああああっ!」

 達した勢いで、リンの体が大きく仰け反った。
 目が虚ろになっていて仰天した。

「リン! だ、大丈夫? しっかりして!」

 慌ててベッドに寝かせると、彼女はすうっと眠りに入った。
 え、ええっ!?
 ま、まだ、これからなのに!
 オレの方はどうすればいいんだよ。
 ため息をついて、張り裂けそうなほど大きくなった股間のものを見やり、もう一度リンを見る。
 顔がまだ赤い。
 無理させたのかな。
 続きはリンが元気になってからにするか。
 残念だけど、今夜は我慢しよう。

 パジャマの上着を着ただけで、生足を惜しげもなく晒しているリンの寝姿を見ながら、すっかり出来上がった下半身を慰めた。
 その後、彼女の体を綺麗に拭いて、下着とズボンを着せる。
 全部終わると、オレもベッドにもぐりこんだ。
 リンはオレの体に触れると、もぞもぞ動いてくっついてきた。
 無意識の行動だったようで、寝息はずっと聞こえている。
 かわいいなぁ。
 右腕で腕枕をして、オレからも寄り添う。
 一生大事にするよ。
 だからリンも、オレだけを見ていてね。




 深い眠りに身を置いていたら、頬に息がかかった。
 何だろう? 柔らかいものが押し当てられたような気がする。
 目を開けると、リンがいた。

「リン、おはよう。熱は?」

 寝ぼけた頭を覚醒させながら起き上がる。
 んー、さっきのは何だったんだろう?
 頬に当てられた感触、必要以上に接近していたリンの顔。
 一つ一つ思い出して、ようやく寝ているところにキスされたのだと気がつく。

 ああ、なんて最高の目覚めなんだ!
 昨夜のことは夢じゃなかったんだ!
 こんにちは、バラ色の愛の生活!
 今日から、毎朝お目覚めのキスをしてもらえるんだ!

「うん、一晩寝たら治っちゃった。ルーサーの看病のおかげだね」

 リンの笑顔が眩しい。
 君はオレのものなんだ。
 もう、我慢しなくていいんだよね。

 オレは辛抱しきれなくなって、リンを抱きしめた。

「良かった。じゃあ、さっそく昨夜の続きをしよう」

 ベッドの上に押し倒して、パジャマの上から豊満な双乳を揉みしだいた。
 驚いている彼女の唇を奪うべく、口を尖がらせて顔を寄せると、腹に鈍い衝撃がきた。

「朝っぱらから、何するの!」

 リンの怒声がオレの耳を打った。
 は、腹に、リンの拳がきっちり入ってる。
 悶絶して、前のめりに倒れこむ。
 リンはさっと身をかわして避けた。
 受け止めてくれないなんて、ひどいよぉ。

「リ、リン……。な、何で? 昨夜はオレのこと好きって……」

 腹を押さえてベッドの上で転がり、うろたえてリンを見上げる。
 だけど、リンはふいっと顔を逸らした。

「知らない。何のこと?」

 あまりのことに、オレは声を失った。
 お、覚えてないの?
 あんなに熱くオレを求めてくれたことも、ルーサーじゃないと嫌って言ってくれたことも、全部!?
 そ、そりゃないよ。
 こんなことなら我慢せずに、強引にでも既成事実作っとけばよかったよ。

「うん、あれは熱のせい、気の迷いよ。わたしが処女を捧げる相手は、やっぱり騎士様なのよ!」

 リンは両手の拳を握り締め、何かを吹っ切ったかのように声を上げた。
 き、気の迷いって。
 ひどすぎる。
 君にとって、オレの存在って何なのさ。

「ちゃんと覚えてるんじゃないかぁ」

 ショックで涙がこぼれる。
 オレにとって、リンだけが世界の全てなんだから、今ので心がめちゃくちゃ傷ついてしまった。
 泣いているオレを見て、リンに動揺が走った。

「な、泣かないの。そういう所がダメなんだからね!」

 叱りつけながらも、リンは傍に来てくれた。
 バツが悪そうにもじもじして、オレの頬に手を添えて、瞳を向けてきた。

「昨夜はありがと。ちょっと頼りになったし、感謝してるよ」

 オレは鼻をすすりあげ、彼女を見つめた。

「ちょっとだけ?」

 不満を口に乗せると、リンは苦笑いを浮かべた。
 困った時の表情だ。

「処女はあげないけど、これはお礼の気持ち」

 リンの唇が、オレのものと重なる。
 いきなりで、びっくりした。
 心臓が止まりそうなぐらい、オレの体は硬直していた。

 リンはさらに舌を入れてきた。
 オレも夢中で貪った。
 もう、理由はどうでも良かった。
 昨夜と同じ熱いキスに、脳まで蕩けそうなほど酔いしれた。

 名残惜しく唇を離すと、リンの顔は真っ赤になっていた。
 オレも恥ずかしくなってきた。

「この調子で、頼れる強い男になってね。騎士様と出会うより先だったら、ルーサーに初めてをあげる」

 リンは横を向くと、照れくさそうに呟いた。

「本当!?」

 オレは彼女に飛びついた。
 組み伏せて、大きく隆起しているパジャマの胸元に顔をすり寄せた。
 ぽよんぽよんしてて、気持ちいい。

 リンがしてくれた約束は、オレにとっては好都合だった。
 いっぱい甘えながら、いつか認めてもらって、身も心もオレのものになってもらうからね。
 騎士様なんて現れるわけないんだから、焦る必要はないからな。

「オレ頑張るから、今の言葉はちゃんと守ってね!」
「頼れる強い男になることが条件よ?」
「うん、わかってる!」

 リンは呆れながらも、オレを抱きしめてくれた。
 いい匂い。
 リンの全てが愛おしい。

 生まれた時から一緒にいて、誰よりも近くにいた。
 弱いオレを見捨てずに、家族以外で好きでいてくれたのは君だけだった。
 成長して、誰がオレを認めてくれても、少しも嬉しくなかった。君が認めてくれないと、何の意味もない。

 昨夜、君の口から聞けた言葉は、本心からだと思いたい。
 オレもリンじゃないと嫌だから。
 君以外の女は欲しくない。

 いつか、わかってくれるかな。
 世界でただ一人、オレが心から望むのは君だけだってことを――。

 END

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