憧れの騎士様

エピソード3・リン編

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 青い空、澄んだ海、白い砂浜。
 わたしは相棒のルーサーを引き連れて、常夏の海へと遊びにやってきた。
 冒険者にも休日は必要だ。
 殺伐とした日常から解放されて、思いっきり遊ぶぞ!

 この日のために新調した水着は青地のワンピース型で、できるだけ布地の多いデザインのものを選んだ。露出度の高い水着は、恥ずかしくて抵抗があるからだ。
 ルーサーはトランクス型の水着を着ている。
 意外にも、彼の腹筋は割れていた。二の腕や足にも筋肉がしっかりついていて、見惚れるほど綺麗な体型だった。
 ある程度の予想はついていたけど、砂浜に出るなり、ルーサーは注目を集めた。
 特に若い女性達からは、熱気を帯びた視線を感じる。

「ねえ、あの黒髪の人、カッコ良くない?」
「誘ってみようか?」

 隣にいるわたしのことなど、眼中にないかのごとく囁かれる声。
 ギラギラした目でルーサーを見つめる彼女達は、布地の少ない紐みたいなビキニを着ていて、いかにも男を漁りにきている感じだ。
 わたしはルーサーの腕を抱え込むように抱きしめて、自分の傍に引っ張り寄せた。

「ど、どうしたの、リン!?」

 驚いたルーサーが声を上げた。

「わたしから離れないで。知らない女の人に声をかけられても、ついていっちゃダメ。奢ってあげるとか言われても、それは親切じゃなくて、罠なんだからね!」

 大事な弟分を、飢えたケダモノ共の餌食にしてなるものか。
 ルーサーの貞操はわたしが守ってあげるんだ。

「うん。今日はリンと一緒にいるよ。リンこそ、知らない男についていっちゃだめだよ」

 ルーサーの心配は杞憂だ。
 砂浜には美女が溢れているというのに、わたしに声をかけたがる男などいるはずがない。
 男もこっちを見ているけど、みんなルーサーが狙いなんだ。
 男女問わず虜にしてしまうなんて、わたしの幼なじみはどうしてこんなに綺麗な顔立ちに生まれてきたんだろう。ちょっぴり悔しい。




 わたし達は、人の少ない岩場近くで水遊びを始めた。
 子供の頃に戻ったみたいに、水を掛け合って、はしゃぎまくった。
 村では、夏になると近くの川でよく遊んでいたな。
 裸ででも平気で泳いでいたけど、胸が膨らみかけた頃からは水着を着ていた。
 ルーサーは泳げなくて、浅瀬で水遊びばっかりしていた。
 今はどうなのかな?
 相変わらずカナヅチなんだろうか。
 多分そうだろう、ルーサーが泳いでいるところなんて見たことないもの。

「きゃああああっ!」

 いきなり女性の悲鳴が辺りに響き渡った。
 岩場の向こうから、慌てた様子でカップルが逃げてきた。
 さらに続いて数名の男女が、次々と走ってくる。

「岩場の奥で魔物が出たぞ! すぐに砂浜から離れて避難するんだ!」

 自警団らしき青年達が声を張り上げている。
 魔物?
 この辺には生息していないって話だったのに、どこかから移ってきたの?

「リン、行こう!」

 ルーサーに手を引っ張られて、わたし達も逃げた。
 遊びに来ていたから、戦うための装備を何一つ持っていなかった。
 この場は逃げるしかない。

 宿に避難すると、ほとんどのお客さんが戻ってきていて、不安そうに海の方を見ていた。

「見たこともない魔物だそうだよ。クラゲやタコに似ていて、たくさんの触手を使って襲って来るんだって」

 触手の魔物か、嫌なこと思い出したな。
 あれ以来、時々無性に体が疼いて、我慢しきれずに自慰行為に走っちゃうんだ。
 アパートの壁は薄いから、ルーサーに気づかれないようにするのが大変なんだから。
 触手に触れられた時のおぞましい感覚が蘇ってきて、体に震えが走った。

「遊べないなら、昼食にしようか。ここの宿はエビの料理が有名なんだって」

 ルーサーの提案に乗って、客室に戻り、水着から私服に着替える。
 さっそく昼食を食べに、宿が経営しているレストランに行った。
 魔物騒ぎのせいで海に出られないからか、意外に賑わっている。
 名前を書いて、かなり待たされてからテーブルに案内された。
 店内の話題は、海の魔物のことで持ちきりだった。
 後ろのテーブルでも、冒険者らしき男達が情報交換をしていた。

「今までかなりの数の冒険者が向かったそうだが、ことごとく返り討ちにあって逃げ帰ってきているらしい。こりゃあ、領主が討伐隊を送ってくれるのを待つしかないかもな」
「賞金も一千万ゴールドまで上がったってよ。最近の魔物退治の報酬の中じゃ最高額だ」

 い、一千万!?
 それだけあれば、家が買える。
 ボロアパート暮らしから、一気に夢のマイホーム!
 小さくてもいいの。
 自分のお城は、小さい頃からの憧れだったのよ!

「ルーサー! わたし達も魔物退治に挑戦しましょう!」

 ルーサーの右手を両手で握って、まくしたてる。

「ええ? やめようよ。冒険者が大勢返り討ちに合ってるって言うし、装備だって持ってきてないのに、危ないよ」

 ええい、相変わらず意気地のないヤツめ。
 だけど、決めたの!
 やるったら、やる!

「装備はギルドに行けば何とかなる! 成功したら、家が買えるわ! ルーサーだって欲しいでしょう? わたし達のマイホーム!」

 そう言うと、なぜかルーサーは頬を赤らめた。
 もじもじと照れくさそうに俯き、わたしが握っている手をもう一方の手で包み込んだ。

「も、もちろん欲しいよ。わかった、付き合うよ」

 変なの。
 でも、やる気になったのならいいや。

「決まり! 腹ごしらえが終わったら、冒険者ギルドへ行きましょう。剣は持ってきてるから、鎧を調達しないとね」

 ちょうど運ばれてきたエビにかじりつきながら、わたしは賞金獲得へと闘志を燃やした。




 冒険者ギルドでは、装備の売買や中古の販売もしている。
 旅先で新品を買うほど余裕はないので、中古でいいのがないかを探してみる。
 品揃えは豊富で、武器と防具がたくさん揃えてあったけど、女性でも身につけられる軽い鎧は見当たらなかった。
 それでも諦めずに探し回ってようやく見つけた代物は、とんでもないものだった。

「こ、これだけなの?」

 肩と膝、胸と下腹部に当てる揃いの防具。
 それは俗に言う、ビキニ鎧というヤツだった。
 気のせいか、店のオヤジがニヤついているように見える。

「生憎、お嬢さんに合いそうな装備はそれぐらいしかなくて……。でも、こう見えても防御力はあるんですよ」

 嘘をつくな、嘘を。
 こんな露出度で、防御力が高いわけないじゃない。
 軽いから、良くて回避率が上がる程度でしょう。
 うう……。揃いのアンダーは当然のようにビキニタイプ。
 シャツやズボンを履いては、見た目が悪い。
 締まらないけど、装備なしよりはマシだろうし、これでいくしかないのか……。

 購入して試着室で装備してみたけど、胸が苦しくて、はみだしそう。
 谷間が強調されて、なんだか恥ずかしい。
 水着だって、胸が目立って嫌だから、ビキニなんて着たことないのに。
 でも、これもマイホームのため。
 が、頑張ろう!

「リン、用意できた?」

 ルーサーが呼んでる。

「うん、今出るから待ってて」

 試着室から出ると、ローブを着たルーサーが待っていた。
 わたしを見るなり、彼は耳まで赤くなった。
 低く呻いて鼻を押さえ、わたしの体を抱きしめて、他の人から見えないように隠してくれた。

「な、何て格好してるのさ! それで外に出る気!?」
「他の装備がないんだから、しょうがないでしょ! わたしだって恥ずかしいよ!」
「し、仕方ないなぁ」

 ルーサーは自分のローブを脱いで、わたしに着せた。

「じゃあ、このローブ着てて。向こうで脱げばいい」
「う、うん」

 ルーサーが貸してくれたローブを着て出て行くと、店のオヤジの舌打ちが聞こえた。
 何を期待していたんだか。
 もしかして、他の装備もあったんじゃないの?
 わたしは疑いの眼差しを、オヤジに向けた。
 オヤジはさっと視線を逸らし、鼻歌でごまかしている。
 ますます怪しい。

「リン、行かないの?」

 ルーサーが振り返って呼びかけた。
 そうそう、とにかく魔物退治だ。
 目指せ、賞金一千万!




 浜辺の岩場にある洞窟が魔物の住みからしい。
 途中で何組ものボロボロの冒険者とすれ違った。
 なぜか女性の冒険者は、装備を裸に近い状態まで破られて、ぐったりとした様子で仲間に支えられていた。
 それを見て、嫌な予感がした。

「ねえ、リン。やめる? 今日は遊びに来たんだから、無理して魔物退治なんかしなくてもいいんだよ」

 立ち止まったわたしに、ルーサーが帰ろうと促した。
 戻った方がいいのかな。
 でも、ここまで来て、今さら怖くなったからやめるなんて言えない。

 意地っ張りな性格が災いして、わたしは行くと言い張った。
 ルーサーは強く引き止めはせずに、黙って後ろをついてきた。
 ルーサーが怖がれば口実にしてやめることもできたけど、彼はここ一番という時に怖気づいたりはしない。
 どんな危険な場所でも、わたしが行くと言えばついてくるのだ。
 彼の勇気を、この時ばかりは恨めしく思った。




 他の冒険者は、逃げ帰った後みたいだった。
 人の気配がない。
 来る前に耳に入れてきた情報によると、魔物の発生源と思しき岩場には洞窟があって、その中に巣を作っているらしい。
 わたしはローブを脱いで、ルーサーに返した。
 見ているのがルーサーだけなら、恥ずかしいけど何とか我慢できる。

 洞内は暗いかと思っていたけど、岩の間に自然にできた隙間があって、そこから光が漏れていた。
 薄暗かったけど、目が慣れれば、動くのに支障がないほどには見えるようになった。
 すぐ脇を海水が川のように流れている。
 流れを辿って奥へと進むと、広い空間に出た。
 水の流れの終着点は、巨大な地底湖だった。

 海水でできた湖には、小さなクラゲ型の魔物達が浮かんでいた。
 魔物達は、侵入者であるわたし達に気づくなり、一斉に襲い掛かってきた。
 わたしはルーサーを下がらせて、剣を抜いて身構えた。
 ルーサーがすかさず補助魔法を使う。

「水と風の力よ、剣に宿りて力となれ! アイスソード!」

 詠唱の言葉通りに、わたしの剣に冷気が宿った。
 触れたものを凍らせて切り裂くことができる。
 ぐにゃぐにゃの体も、これなら剣でどうにかできる。

「はああああっ!」

 気合を込めて、剣を振り下ろす。
 剣で斬られて凍った体は砕け散り、再生を許すこともない。
 飛び掛ってくる魔物を一匹ずつ確実に仕留めていく。
 際限なく湧き出てくる敵を、次々と倒していった。
 気のせいか、魔物はわたしにばかり向かってくる。
 後ろにいるせいもあるけど、ルーサーのことなど眼中にないようだ。
 本能で攻撃の要を先に倒そうとしているの?

 何十匹打ち倒したのかもわからなくなった頃、際限なく湧き出ていた魔物達は急に湖の底へと逃げ去った。
 よくわからないけど、この隙に次の攻撃に備えて態勢を整えておこう。

「リン、油断しないで。何か来る!」

 ルーサーの警告と同時に、すぐ近くで海水が盛り上がった。
 狭い洞内に、水が溢れる。
 わたし達にも大量の水が被さってきた。

「わぷっ!」

 水しぶきと一緒に、赤黒い触手が伸びてきた。
 触手はルーサーの足に絡み付いて、彼を海中に引っ張り込んだ。

 声さえ上げる間もなく、ルーサーの体が地上から消える。
 再び大きな水しぶきが上がった。

「ルーサー!」

 腕を伸ばしたけど、つかめなかった。
 海と繋がっているせいか、深さがどのぐらいあるのかもわからない。
 覗きこんでも、彼の姿は見えなかった。
 かなり深く引きずりこまれたんだ。
 ルーサーは泳げない。
 早く助けないと、溺れ死んでしまう。

 ルーサーに気をとられすぎて不覚をとり、別の方向から伸びてきた触手に胴を捕らわれた。
 赤黒くて吸盤のついた、どこかで見たような巨大な触手が体に巻きついている。

「タ、タコ?」

 確かタコ型の魔物もいるって話だった。
 こいつが入れ替わりに出てきたってことは、こっちのが強いってこと?
 ハッ!
 今はそんなこと、どうでもいい!
 ルーサーを助けるのが先だ!

 体を捕らえている魔物の足を断ち切ろうと剣を振り下ろした。
 だけど、魔法の効果はすでに切れていて、虚しく表面を叩いただけだった。
 普通のタコなら剣でも斬れるが、魔物の体は特殊な粘液で覆われているために、刃物による攻撃を受け付けない。
 このタイプの魔物に有効なのは、攻撃魔法か、さっきルーサーがかけてくれたみたいな補助魔法で強化された武器だけだ。

「こ、この! 離せ! あんたに構っている場合じゃないの!」

 焦って剣を振り回しても、大したダメージも与えられずに時間だけが過ぎていく。
 ルーサーが浮かんでこない。
 息はどのぐらい続く?
 早く、早く、助けなきゃ。

 ぐんっといきなり触手が強く動き、体が横に振られた。
 はずみで手がすべり、剣を落としてしまう。
 唯一の武器を失い、わたしはパニックを起こしかけた。

「どうしよう、どうしよ……きゃあ!」

 別の小型のタコが背中に張り付いてきた。
 そのまま背後から、前に足を伸ばしてきて、鎧の隙間から中に入り込んでくる。

「やだ、何するの!」

 鎧の留め金を壊されて、胸当てが外れた。
 ビキニ一枚にされた膨らみを、何本もの足が嬲り始めた。

「やぁ…いやだったら! やめてぇ!」

 絡み付かれているために、腕が動かせず、足だけをバタバタ動かす。
 その間にも、ビキニの中に入り込んだタコの足が、巧みに胸をこね回して乳首を擦った。

「ひゃあんっ!」

 あまりの激しい動きに、とうとう肩紐が千切れた。
 そのせいで胸を覆っていた布が、剥ぎ取られてしまう。
 押さえを失い、ぶるんと飛び出した乳房は、絞られて揺すられ、いつか襲われた緑の触手を思い出すような動きで、形を変えて揉み捏ねられた。

「あ…やぁん……いやあああぁ!」

 気がついたら、足にも一匹絡みついていた。
 たくさんの足を使って這い登り、徐々に股へと迫ってくる。
 下腹部を覆っていた防具も外されてしまい、股布の中に滑り込んできた足が、布を巻き取るように絡めてぐいぐいと引っ張り、脱がそうとし始めた。

「だめ! そこはだめぇ!」

 声を張り上げたけど、魔物が聞き届けるはずもなく、下腹部を覆う布も破り裂かれた。
 秘所を覆う茂みに向かって、タコの足がにゅるにゅると這って行く。
 いやあ、冷たくて気持ち悪いよう。

「やだ、やだ、やだぁ!」

 冷えたゼリーのような感触が秘所を撫でていく。
 言葉が通じないだけに、魔物達の意図もわからないまま、全身を撫で回された。
 ぞわぞわと背筋に悪寒が走る。

「ルーサー、ルーサーぁ! 」

 夢中でルーサーの名前を叫んでいた。
 情けないことに抵抗の手段を全て封じられたわたしには、声を上げることしかできなかった。
 海中に引き込まれた彼が、助けにこられるはずがない。
 それでもわたしはルーサーの名を叫び続けた。
 極限状態に追い込まれた時、わたしが思うのは彼のことだ。
 それが何を意味するのか、今は考えることもできない。

 彼はわたしの大事な人。
 誰よりも大好きな人。
 こんなにあっけなく失ってしまったの?
 わたしのせいだ。
 守るどころか危険に晒して、こんな冷たく暗い海の底で命を散らせてしまった。
 騎士様、お願い。
 あなたがわたしを見守ってくれているなら、ルーサーを救って。
 わたしはどうなってもいいから……。

 ルーサーを思って涙を落とす。
 ぴちゃんと音を立てた水面がいきなり輝き出して、洞内に眩いほどの光が満ちた。
 わたしを捕らえていた魔物達が、光に溶け込むように消えていく。
 これと似たようなことが、以前にもあった。
 目が覚めたら、きっとルーサーは傍にいる。
 心配そうに『大丈夫?』って聞いてきて、オレも助けてもらったよって、元気な笑顔で言うんだ。
 宙に浮いたわたしの体は光の中に沈み込み、海中へと落ちた。
 真っ暗な世界へと意識が消えていく……。




 意識が戻った時、わたしは白い砂浜の上に寝転んでいた。
 空には丸いお月様が出ていて、あたりを淡く照らし、波が打ち寄せる音が近くで聞こえている。
 柔らかい砂は天然のベッドのようだ。
 体の上には黒いローブが乗せてあった。
 ルーサーのだ。
 名前が書いてあるわけでもない既製品なのに、一目見ただけで、わたしにはわかった。

「リン、大丈夫?」

 ルーサーが顔を覗きこんできた。
 月明かりで顔がはっきり見える。
 止める間もなく、涙が出てきた。
 ローブを跳ね除けて起き上がると、ルーサーに飛びついた。

「うわっ!?」

 尻餅をついたルーサーの上に重なり、首に腕をまわしてしっかり抱きついた。
 温かい。
 本物だ。
 ちゃんと生きてる。

「ルーサーは泳げないから、死んじゃったかと思った」

 今日ばかりは意地を張っていられなかった。
 泣きじゃくって、ルーサーを離すまいと腕に力を込める。
 ルーサーも抱きしめ返してくれた。

「心配かけて、ごめんね。えーと、うん、かなりやばかったけど、いつも通りの良いタイミングで騎士様が来てくれてさ。あの人も、たまたま遊びに来てたらしくて、すごい偶然だよね」

 騎士様、ありがとう。
 大事なルーサーを助けてくれて。
 こうして彼を抱きしめられるのも、あなたのおかげだよ。

「もう無理な仕事はしない。賞金なんかどうでもいい。ルーサーがいなくちゃ、家を建てる意味がないんだよ」

 わたしは無意識に、ルーサーの唇にキスをしていた。
 強く深く抱きしめて、鼓動を確かめる。
 安心できるまで、わたしは彼を離さなかった。

「あれ?」

 ルーサーのズボンの前――つまり股間の部分が膨らんでいた。
 自己主張を始めたそこが、わたしの体に触れて気がついた。

「リ、リンが、悪いんだからね! そ、そんなカッコで抱きつくからっ!」

 焦ったルーサーに指摘されて、わたしは自分が全裸であることを思い出した。
 胸を腕で隠して座り込んだけど、隠しきれなくて、腕の隙間から膨らみがはみ出ている。
 ルーサーは素早く距離を取って離れ、真っ赤になってわたしから目を逸らした。
 だけど、股間のものが鎮まる気配はない。
 気のせいか、脂汗みたいなものも流れているような……。

 夜の海、人気のない砂浜。
 誰にも邪魔されることのない整った舞台が、わたしを解放的な気分にさせた。

「我慢しなくていいよ」

 自分のどこにこんな大胆な面があったのか、少々意外にも思ったが、同じく性的な欲望を感じているらしい愛しい彼を前にしては、理性など飛んでいた。
 腕をどけて立ち上がり、惚けた顔でこっちを向いたルーサーへと、生まれたままの姿で歩み寄った。

「ルーサーのそれ、どうすれば治まる? 危ない目に遭わせたお詫びに、何でもしてあげる」

 後ろから彼の背中に抱きついた。
 わざと胸を強く押し当てて、誘いかける。

「な、何でも?」

 彼の喉が鳴る。
 焦っている様子がかわいくて、笑みがこぼれた。

「嘘は言わないよ。ルーサーの好きなこと言って」

 処女が欲しいと言われれば、あげてしまってもいいかなと思った。
 だけど、ルーサーが望んだのは、別のことだった。

「リンの胸をオレの自由にさせて!」

 え? 胸だけでいいの?
 わたしはいいけど、物足りなくないのかな?
 いいか、ルーサーのしたいようにさせてあげよう。

「いいよ、好きにして」

 気軽な気持ちで口にした承諾の言葉を、激しく後悔することになるとも知らず、わたしは笑顔で彼に答えた。




「ちょ、やだ、ルーサー、やめてぇ」

 すでに音を上げ、やめてと声を上げても無視して、ぺちょぺちょと卑猥な音を立てながら、ルーサーがわたしの乳首を舐めている。
 乳房は彼の手で真ん中に寄せられて、接近した二つの突起に交互に舌が這った。
 さっきから、何回イッたのかわからない。
 手が離されて、ぷるんと左右にこぼれた膨らみは、再び掴まれて柔らかく揉み解されていく。

 ルーサーの精力は底なしだと初めて知った。
 彼の願いで胸や口を使って慰めてあげたんだけど、一度や二度の射精では終わらなかった上に、自分ばかり楽しんでいては悪いからと、逆にわたしを責めはじめた。

「ん……いやぁ…、もういい、もういいからぁ……。あん、それ、やぁ……」

 今度は後ろから抱きかかえられて、膨らみを弄ばれる。
 指先で乳輪を撫で、乳首を摘まんだり弾いたり、様々な刺激を与えられて、ぐったりと彼に体を預けていた。
 イき過ぎて、秘所はびしょ濡れになっていた。
 ルーサーは胸だけって言葉を忠実に守って、他のところには触ってくれない。
 仕方なく、自分の指を秘所に這わせて、慰めている。
 彼の前で自慰をしている羞恥から、ますます興奮が高まってきた。
 喘ぎながら痴態を曝すわたしに、ルーサーは笑みを浮かべて囁いた。

「リン、かわいい。もっと声を聞かせて」

 砂の上に仰向けに寝かされて、乳房全体にキスを落とされた。
 その間も彼の手は、休みなく胸を揉んでいる。
 わたしが気持ちよくなるツボを心得ているのか、マッサージみたいで痛くない。
 先端の尖りを愛撫された時には、またまた絶頂に達して声を上げた。

「あ、ああん! あああああっ!」

 がくがく体を揺らしながら、快感に悶える声を響き渡らせる。
 ここまで声を出しているのに、誰もこないのは不思議だったけど、おかげで抑えることも考えず喘ぎ続けていた。

「これで最後にするからね」

 ルーサーが上に跨ってきて、硬くなった肉棒がわたしの胸に挟み込まれた。
 彼は乳房を揉みながら寄せて、腰を使って自分のそれを擦り上げていく。
 息を荒くしながらも、ルーサーは恍惚とした表情をしていた。
 達するのか、胸が解放されて、体の上に彼の精が放たれた。
 これで本当に終わり。
 胸だけでこんなにされてしまうなんて、ルーサーと結ばれる時は、もっと乱れてしまうのだろうか。
 比べる対象はいないけれど、彼が絶倫だってことはわたしにでもわかった。

「良かったよ。おかげですっきりした」

 ルーサーが頬にキスをしてくれた。
 喜んでくれたのだと思うと、わたしまで満ち足りた気持ちになって微笑んだ。
 でも、ちょっと疲れたな。
 眠い……。
 安心したのと、満足したこともあって、わたしはそのまま眠ってしまった。




 次に目が覚めたら朝になっていて、わたしは宿のベッドの中で眠っていた。
 パジャマもきちんと着ている。
 ルーサーが運んでくれたんだ。
 面倒ばっかりかけてるな。
 もう、保護者なんて顔できないや。
 
 落ち込み気味に枕に顔を埋めたわたしは、大事なことを思い出した。
 ルーサーは騎士様も偶然遊びに来ていたと言っていた。
 それなら、彼もこの近くにいるはず!
 昨日だけじゃなくて、今までの分もお礼を言わなきゃ!
 そして、そして、わたしの憧れの気持ちを打ち明けるのよ!

 飛び起きると、隣のベッドで寝ていたルーサーを叩き起こした。

「ルーサー、起きて! 騎士様はどこ!」

 胸倉を掴んで、揺すりながら問いただすと、ルーサーは眠そうに眼を開き、あくびを交えて口を開いた。

「うー、騎士様ぁ? ええっとねー、もう、帰っちゃったぁ」

 ルーサーは残念だったねぇと呟くと、再び夢の中を漂い始めた。

 え、ええ!?
 昨日の今日よ?
 騎士様は夜中に帰ったって言うの?

「嘘つくんじゃないわよ! 吐きなさい、知ってるんでしょ!」

 さらに聞き出そうと、ルーサーに詰め寄ると、腕をとられて寝床の中に引っ張りこまれた。

「こら! 離しなさい!」
「やだよ、昨日は色々あって疲れたんだ。リンも寝ようよぉ。騎士様には、オレが代わりにお礼言っといたからさぁ」
「わたしが言わなきゃダメなの! あっ、胸を揉むな!」

 抱きつかれて振り払おうとしたら、ルーサーの手がパジャマの上から膨らみを揉む。

「だって、リンのおっぱいはオレの好きにしていいんでしょう?」
「それは昨夜だけ! 今日は違うの! やっぱりルーサーみたいな甘えん坊に処女はあげない! 騎士様にあげる!」

 ばたばた暴れたけど、ルーサーの力は意外に強く、騎士様を探しに行くことは諦めた。
 わたしが逃げないことがわかったのか、ルーサーは腕を絡めたまま、すやすやと眠り始めた。

「ばか……」

 わたしは彼の頭をコツンと叩いて、隣に寄り添った。
 昨夜、処女が欲しいって言えばあげたのに。
 そうしたら、騎士様を探しに行こうなんて思わなかったのに。

 ルーサーは本当にわたしのことが好きなんだろうか?
 疑念がむくむく湧いてくる。
 はっきりしてるようで、していない彼の態度。
 だから、わたしは不安になる。
 このまま一緒にいていいの?
 わたしが彼を拒むのは、自信がないからだ。
 応える態度を見せた後の、彼の心変わりが怖いから。

「ルーサー、答えて。わたしのこと好き?」

 そう尋ねると、ルーサーは目を薄く開けて、にやぁと笑った。
 こいつ、寝ぼけているな。

「好きだよ、愛してるよぉ。リン……」

 むにゃむにゃと彼は寝言で答えてくれた。
 わたしは頬にキスをして、ありがとうと囁いた。

 騎士様の気持ちはどうなんだろう。
 介抱をルーサーに任せて行ってしまうぐらいだから、単に人助けが趣味の奇特な人なのかな。
 近くにいるのは間違いないのに、手の届かない不思議な人だ。
 いつもなら騎士様が来てくれたと浮かれて騒ぐところだけど、ルーサーの腕の中にいると、そんな気持ちにはなれなかった。
 昨夜にされた彼の愛撫を思い出して、照れて頬を染める。

 明日からはいつもと変わらない日常が戻ってくる。
 だけど、ルーサーへの気持ちは、確実に変わっていた。
 甘く満ち足りた余韻を残し、わたし達の休日は終わった。

 END

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