憧れの騎士様

エピソード5・リン編

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 部屋に日の光が射しこみ、起床には程よい時刻になった頃、胸元を這い回る人肌の感触に、くすぐったさを感じて目を覚ました。
 うっすらと瞼を上げると、どアップで近づいてくる綺麗な男の顔が目に入った。
 見慣れている上に、愛しい恋人でもあるのだが、目覚めにいきなり人間の顔が迫ってくると心臓に悪い。
 パジャマの上着は前を開かれて、何の押さえもない裸の胸が、彼の手の平で撫でられていた。

「う、むむっ、ん〜」

 唇を重ねるなり、ちゅうちゅうとディープなキスをされた。
 彼はわたしが目を覚ましてもおかまいなしだった。

「な……に、するのよっ!」

 とりあえず腹に蹴りを入れて、体から引き剥がす。
 んぎゃあとマヌケな悲鳴を上げて、ルーサーはベッドから転げ落ちた。

「朝ぐらいゆっくり寝かせなさい。昨夜、あんなにさせてあげたのに足りないの?」

 不機嫌なわたしとは対照的に、ルーサーはご機嫌だ。
 起き上がり、ベッドに肘をついて、ニコニコ笑っている。

「うん、足りない。オレはいつでもどこでもリンと繋がっていたい」
「わたしは嫌よ。そのせいでアパート追い出されたんだから、少しは反省して慎みなさい」

 パジャマのボタンをはめ直して、ベッドから降りる。
 今は二人で寝ているから、ベッドはダブルに変えた。
 ついでに部屋も変わった。
 恋人同士になったわたし達は、三年ほど住処としてきた築百年のアパートを追い出された。
 それはそれは恥ずかしい理由で。

「こういうことは自然の摂理で、お互い様なんだから、もっと大らかに受け止められないものなのかな」
「お互いさまって言っても、時間を問わずされたら、誰でも苦情を言いたくなるわよ」

 新居に引っ越してきて、すでに一月ほど経った。
 引越しの原因を作ったルーサーは、自分の非を認めようとはしない。
 反省もしていないようだ。
 その証拠に着替えて朝食を食べた後、ソファに並んで座っていると、ルーサーの手がわたしの胸に伸びてきた。
 部屋着の時は胸を解放しているから、くにゅくにゅといいように揉まれて形を変えていく。
 わたしは無言で手の甲をつねってやった。

「いたっ」

 ルーサーの手が離れた。
 自業自得だと冷ややかな目を向ける。

「いたいよぉ、リン」

 ふーふーと赤くなった甲に息を吹きかけ、ルーサーが抗議する。

「万年発情期の男には、これぐらいしないと効かないでしょう?」

 アパートを追い出されたのは、昼夜問わず、ルーサーが迫ってくるからだ。
 今までの想いを遂げるんだとか、わけのわからないことを言いながら、暇さえあれば体を触り、押し倒してくる。
 そして、アノ時の声や物音がうるさいと隣近所の部屋から管理人に苦情が殺到して、出て行ってくれと宣告された。
 拒みきれないわたしにも責任の一端はあるのかもしれないけど、やっぱり7対3ぐらいの割合でルーサーが悪い。

「新しい部屋は音の心配はしなくてよくなったけど、その分家賃が上がったんだから、仕事してお金稼がなくちゃ。ギルドに行って依頼を探そう」

 ルーサーを促して出かける支度を始める。
 ズボンを脱いで、シャツのボタンも外すと、後ろから抱きつかれた。

「あ、こら!」
「行く前に一回させて」
「やだ! 一回で終わったことないじゃない!」

 胸の膨らみを直に揉み解され、力が抜けていく。
 股間がじわっと熱くなってきて、つい股をすり合わせた。

「やだぁ……、いやだよぉ」

 尖がった乳首が指で押された。
 ルーサーの十本の指が、強弱をつけて胸に刺激を送り続ける。
 壁に手をついてしがみつく。
 胸に触れていた手が離れたと思ったら、紐で支えられていた股を覆う下着が取り払われた。
 彼の指がわたしの股の間に触れた。
 割れ目をなぞり、あふれ出てくる愛液を指ですくい取る。

「やだって、して欲しいんでしょ? ほら、もうこんなに濡れてる」
「ばか、やめなさいってばっ」

 抗議も無視して指が中に入ってきた。

「ああっ」

 ルーサーによって、入れられただけで感じるほどに開発されてしまったそこは、指を入れた刺激ですら快感として脳に送り込んできた。
 でも、だめ。
 指じゃ物足りない。
 彼自身のものじゃないと満足できないよぉ。
 ぐちゅぐちゅかき回されて、出し入れされてもイケなくて、腰を振ってしまう。
 イキたいけど、言えない。
 言ったらルーサーの思う壺だ。
 わたしのお願いだからと、気が済むまでする気なんだ。

「我慢しないで言えば? 欲しいんでしょう?」

 右手で秘所を、左手で胸を責めながら、ルーサーが笑う。

「い、言わないからね。わたしは……欲しくなんか……」
「もう強情だなぁ。いいよ、出かけるから一回で我慢する」

 腰を持ち上げられ、愛液で濡れたあそこに彼のものが押し入ってきた。
 後ろから入れられて、体を突き抜けるような痺れに襲われた。
 一度達したのに、体を前後に揺らされて、また快感が戻ってくる。

「ルーサー、だめぇ。変になるよぉ」

 ずるずると上半身が床に崩れ落ちる。
 床にうつ伏せになりながら、お尻を高く上げた格好でルーサーと繋がっている。
 犯されてるみたい。
 彼に征服されていることを、心の奥では喜んでいる。
 再び意識が弾けた。
 惚れた弱みかな。
 こんなことされても彼が愛おしい。

「気持ちいいよぉ、もっとしてぇ」

 すっかり体を解されたわたしは、声を上げてルーサーを求めていた。
 肉のぶつかる音や、荒い息と、わたしの喘ぎ声が部屋に響く。
 前よりずっとルーサーが近くにいる。
 溶け合うほどにくっついて、いつでもどこでも愛を確かめ合う。
 恋人ってこういうものなのかな。
 今までとは違う関係に、わたしは少し戸惑いも覚えていた。




 ルーサーと予想外の戯れをしてしまい、冒険者ギルドに着いたのは夕方だった。
 不覚だ。
 これじゃ、出発は明後日以降になってしまう。

「今日は依頼だけ探そう。準備は明日ね」

 ルーサーと手分けして依頼書を見て、引き受けられそうな仕事を探す。
 洞窟探索、魔物退治、護衛なんて仕事まである。
 まるで何でも屋だな。
 冒険者としては、探索の依頼の方が好きではあるけど、護衛もお金になりそうだ。
 結局、探索の依頼をこなすことにして、帰りは酒場に寄って夕食を済ませることにした。




 いつもの酒場に行くと、顔見知りが大勢集まっていた。
 夕食時だからか、お客さんも多い。
 繁盛しているようで、マスターも忙しそうだ。

「おーい、こっちこっち!」

 大きなテーブル席に陣取っていたガッドが手招きしてきた。
 ルーサーは端っこの席にわたしを座らせて、自分はその隣に座った。
 何となく隔離されている気分になる。
 そう思ったのはわたしだけではなく、仲間の一人が不服そうにルーサーに意見した。

「ルーサーのガードは固いなぁ。みんな姐さんの隣に座りたいんだから、もう一方の席に座らせてくれてもいいじゃないか」
「だめ。お前ら、隙あらば触ろうとするだろ」

 ルーサーは頬を膨らませて両手を伸ばし、みんなの視線からわたしを隠した。
 こんな調子でわたしの隣はルーサーと壁か通路、もしくは女の子となる。
 会話ができないわけじゃないからいいけど、ルーサーは心配性だな。
 わたしが浮気するとでも思っているの?




 みんなと賑やかに食事を楽しんでいると、通路の方から声をかけられた。

「へえ、あんたが噂の姐さんか。どんなゴツイ大女かと思えば、なかなか可愛い子じゃないか」

 妙に軽そうな口調で話す男が、席に近づいてきた。
 腰に下げられた剣に目をやる。
 物腰から飾りではないと判断する。
 この男は生粋の剣士だ。
 それも凄腕クラス。
 顔は細面で愛想も良く、モテそうなタイプだ。
 でも、ルーサーには遠く及ばない。彼と比べてしまえば、どんな美形が来ようと心を動かされることはないと断言できる。
 見かけた覚えはないから、最近この街に来たんだろうか。
 冒険者にはわたし達のように特定の街に定住せずに、旅をしている人も多くいる。

「あんた誰? いきなり失礼じゃないの?」

 不機嫌な態度を隠すことなく言い返したわたしに、男は意外そうな顔で肩をすくめた。

「オレを知らないのか? 剣士バジルっていえば、この界隈じゃ、そこそこ顔も名前も売れてるつもりだったんだがな」
「初めて聞いたわ」
「つれないね。この街の冒険者の男共を虜にしているリンの姐さんに会いたくて、毎日酒場に通っていたのに」

 バジルは馴れた手つきで、わたしの顎に指を這わせた。

「気に入った。今夜の寝床はあんたと共にしよう」

 この男の中では決定事項らしく、わたしに選択権を与える気はないようだ。
 よほど自信があるんだな。
 女が自分の誘いを拒むことなどないと思い込んでいる。

「もっとイイ男と寝るから、お断りよ」

 手を払いのけて、隣にいたルーサーの腕に抱きつく。
 バジルはルーサーに目をやり、ニヤリと笑った。

「これがイイ男? 確かに顔は綺麗だけど軟弱そうな坊ちゃんじゃないか。あんた、こういうのが好みなのか?」

 ムッとした。
 魔法使いだから軟弱なんて決め付けて。
 ルーサーだっていい体してるんだから。
 そりゃ、おとなしくて戦いには不向きなタイプだけどさ。
 でも、こんなヤツにバカにされるほど弱くもない!

「バカにしないで、ルーサーは強いのよ。あんたなんかに負けやしない!」
「それは聞き捨てならないな。だったら、こうしよう。オレがこの坊ちゃんと勝負する。それで勝ったらあんたを一晩好きにさせてもらう。万が一オレが負けたら、裸で街を一周走ってやるよ」
「その勝負、受けて立つ!」

 勢い良く立ち上がり、バジルの胸元に拳を突きつけた。
 頭に血が上って、大変な賭けをしてしまったことに気がつかなかった。
 戦うのはわたしじゃなくてルーサーなのに。
 我に返った時には遅くて、周囲は決闘の知らせで盛り上がっているし、わたしの意地っ張りな性格が災いして、取り消しなどできない状況だった。

「さて、勝負の方法だが、オレは魔法が使えないし、そっちは剣を使えない。だから男らしく拳で決めるってのはどうだ? 体術のみで戦うんだよ。それならフェアだろう」

 バジルの提案に眉を寄せた。
 フェア?
 本当にそうなの?
 確かに補助系魔法が使えるから、何でもありだとルーサーの方が有利だ。
 でも、剣士と魔法使いが体術で戦ったら、どっちが有利かなんて一目瞭然じゃない。
 ルーサーに目をやると、呆然としている。
 そうだよね。
 温厚なルーサーには決闘なんてさせられない。

「待ちなさい、戦うのはわたしよ。同じ剣士なんだから、こっちの方がフェアでしょう?」

 わたしの申し出に、バジルは嘲りの声を上げた。

「何だ、女を戦わせて自分は逃げるのか? その綺麗な顔に傷をつけたくないのか、そりゃまた大事にされてるな。どっちが男か女かわからないぜ」

 バジルはわざと周囲に聞こえるような大声を出して、ルーサーを指差して笑った。
 ルーサーに対する暴言を聞いて、わたしの怒りは頂点に達する。
 殴りかかろうと動いたわたしを、ルーサーが止めた。

「いいよ、リン。オレが戦う」

 ルーサーの表情は真剣で、わたしはうっかり見惚れてしまった。
 いつもと違う毅然とした態度。
 なんか、カッコイイよ。

「ようやくやる気になったようだな。これで盛り上がるぞ。あっさり勝ってもつまらないから、特訓する時間をやるよ。一週間後に街の広場で決着をつけよう」

 バジルは自分の思い通りに話が進んだことが嬉しいのか、上機嫌でそんな提案をしてきた。

 一週間後か。
 大変なことになった。
 何があってもルーサーに勝ってもらわなくちゃ。
 特訓よ、特訓!




 冒険に出ることは取りやめて、翌日からわたしはルーサーに体術の稽古をつけることにした。
 夜明けと共にルーサーを叩き起こして街外れの丘まで走り、そこで実戦形式で体に防御の型を教え込む。
 ルーサーは飲み込みが早くて、すぐに動きをマスターした。
 わたしが繰り出す拳や蹴りを、風でしなる柳みたいに自然な動きでかわしていく。
 防御はこれでいい。
 後は攻撃だけ。

「次はわたしを倒すつもりで、遠慮なく打ち込んできなさい!」

 気合を入れて構えると、ルーサーは構えを解いた。

「やだ」

 いきなりやる気を失った彼に苛立ち、わたしは駆け寄って、胸倉を掴んだ。

「やだじゃないの! 特訓しなきゃ、あいつに勝てないでしょう!? ほら、構えて!」
「リンと殴り合いなんてやだ。組み手より、こうしたい」

 むぎゅうと抱きしめられた。
 そ、そりゃあ、わたしだってやりたくないけど、でも、勝つためには……。

「そんなに心配? オレは勝つよ。リンのためだもん」

 頬にルーサーの唇が触れる。
 唇は首筋やら耳朶を這いまわり、わたしの体に火をつけようとしてくる。

「や、こらぁ、ダメよ。こんなところで……」

 慌ててやめさせようとしたけど、ルーサーはわたしを草の上に押し倒して圧し掛かってきた。

「信じてよ。あんなヤツにリンを渡さない。死ぬ気で頑張るから、安心して見守っていて」

 ルーサーの瞳は澄んでいて、とっても穏やかだった。
 張り詰めていた緊張が解けて、わたしは彼の背中に腕をまわして抱きついた。

「絶対に勝って。ルーサー以外の男に抱かれるなんて、わたし、嫌だからね」
「うん、オレもだよ。必ず君を守る」

 そっと瞼を閉じる。
 唇に口付けが降りてきた。
 ルーサーの手の平が頬を包み込み、舌を絡めあった。
 いつの間に、こんなに男らしくなったのかな。
 彼が見せてくれた頼もしさに、わたしは喜びを隠せなかった。

「……うぅん……、ルーサーぁ……」

 流されそうになっている自分にハッと気がつく。
 ダメよ、ダメ!
 こんなことやっている場合じゃないんだから!

「やめなさいっ!」

 服を脱がせようと動いていた彼を、勢いをつけて突き飛ばした。
 油断していたのか、受身もとれずにルーサーは仰向けに転がった。
 さっと立ち上がり、威厳を保つために腰に手を置き、怖い顔を作って彼を見下ろす。

「ルーサーはすぐえっちに持ち込もうとするんだから! 決闘が終わるまでさせてあげない! 今日からは特訓だけに専念するの!」

 ルーサーは目を見開いて、わたしの腰に抱きついてきた。

「そ、そんな、えっちなしって、一週間も? ダメだよ、リンに飢えて、オレ死んじゃうよぉ」

 そんな言葉に惑わされるものか。
 ここは心を鬼にして拒絶しないといけない。

「おかしなこと言わないの! 今までだってなしで生きてきたじゃない! そうね、キスも禁止よ。完全な禁欲生活にしないと流されかねないもんね」

 わたしの宣言に、ルーサーはうずくまって泣き出した。
 ひどいとか、あんまりだとか、恨み言が聞こえてくるけど、耳に蓋をした。
 一週間の我慢じゃない。
 月に一度はしてることでしょう?
 まあ、いつもは挿入なしで触らせてあげてるけどね。
 わたしと離れるわけでもないのに、大げさだな。

 禁欲生活を強いているので、同じベッドで眠るのはつらいだろうと、わたしはソファで寝ることにした。
 寝室からルーサーの泣き声が聞こえてくる。
 寂しいよぉとか、か細い声ももれている。
 小さな子供じゃあるまいし、甘えたがりなんだから。
 ここのところ、甘えさせ過ぎたのかな。
 鍛えるためにも、ちょうど良かったのかもしれない。
 決闘に勝ったら、たくさん甘えさせてあげるから頑張るのよ。
 心の中だけでこっそり声援を送り、わたしは久しぶりにぐっすりと眠ることができた。




 一週間後、決闘の時がやってきた。
 広場には話を聞きつけた街の人達が大勢集まってきている。
 バジルは相変わらずニヤついた笑みを浮かべて、わたし達を待ち構えていた。

「わかってると思うが、オレが勝ったら今夜あんたはオレのものになるんだぜ」
「あんたが負けたら、裸で街を一周してもらうわよ」

 わたしが睨みつけても、ヤツが怯む様子はない。
 勝利を確信している舐めきった態度に苛立った。
 そんなわたしにルーサーが声をかけた。

「大丈夫だよ。リンにちょっかい出したことを、必ず後悔させてやるから」

 ルーサーがにっこり微笑んだ。
 わたしは彼に歩み寄り、唇にキスをした。
 周囲から驚きや冷やかしの声が上がったけど、気にしなかった。

「お守りのキスだよ。勝たないと許さない」
「わかってるよ」

 ルーサーは肩を解して、軽く足を動かした。
 準備を終えて、バジルへと顔を向ける。

 バジルが上着を脱いで、上半身裸になった。
 鍛え上げた筋肉を見せ付けるように胸を張り、得意げな顔でルーサーと向き合う。

「そこのヤツ、合図を頼むぜ」

 バジルに指名されて、群集の一人が合図の声を放つ。

「始め!」

 先に攻撃を仕掛けたのはバジルだ。
 ルーサーは連続で襲いかかってくる拳や蹴りを軽やかな動きでかわす。
 足払いを仕掛けられても、小さな動作で無駄なく避けている。
 うん、いい調子。
 でも、父さん仕込みのわたしの体術を、たった一週間でマスターしたのは天才かも。
 観客であるわたしも興奮してきて、拳を強く握り締めた。

「ほらほら、どうした! 避けてばかりじゃ、オレには勝てねぇぞ!」

 まだまだ余裕の表情で、バジルが叫んだ。
 ルーサーを追い詰めているつもりなんだ。
 確かに避けてばかりじゃ勝てない。
 攻撃に移らなきゃ。
 心なしか、ルーサーの動きに余裕が見られなくなってきた。

「頑張って!」

 大声を張り上げてルーサーを応援する。
 わたしの応援は効果がなく、どんっと鈍い音がして、ルーサーが前のめりに動いた。
 彼の腹部の辺りに、バジルの拳が入ってる。
 今の、決まった?
 表情は見えないけど、この様子だとかなり大きなダメージを食らったはずだ。

「ルーサー! 負けないで!」

 祈るような気持ちで声援を送り続ける。
 他の男に抱かれるなんて嫌。
 勝って、ルーサー。
 わたしのために。

 前のめりになったルーサーの体が深く沈みこんだ。
 そのまま腕が高く振り上げられる。
 何が起こったのかわからなかった。
 バジルの体が上に吹っ飛んで、どさっと広場の地面に倒れこんだ。
 顎に拳が入ったみたい。
 バジルは白目を剥いて気絶している。
 ルーサーの逆転勝利!
 わたしは彼に駆け寄って飛びついた。

「ルーサー、すごい! よくやったわ!」
「だから言ったでしょう? オレは負けないって」

 わたしは嬉しくて、ルーサーを抱きしめて頬に祝福のキスをした。
 ルーサーも抱きしめ返してくれて、みんなに冷やかされながら、照れくさそうに笑っていた。

「うう……、こ、このオレがたった一発食らっただけで気を失うなんて……」

 気絶していたバジルが目覚めた。
 頭を振って信じられないといった顔をしてブツブツと呟いている。
 わたしはバジルの前に立ち、見下ろしながら勝利の笑みを浮かべた。
 別に見たくはないけど、約束は約束だしね?

「ルーサーの勝ちよ。自分の言ったことはきちんと実行してね」
「ち、仕方ねぇ。男に二言はない。やってやろうじゃねぇかっ!」

 バジルにも妙なプライドがあったらしく、本当に実行してしまった。
 潔い脱ぎっぷりを見せると、大通りへと駆け出していく。
 街のど真ん中を裸で走る男がいれば、事情を知らない人達は大混乱だ。
 行く先々で女性の黄色い悲鳴が飛び交い、風紀を乱すなと自警団の怒声がこだまする。
 見物人はほとんど彼を追いかけて行ってしまった。

「まさか、本当にやるとは思わなかったなぁ」
「泣いて謝れば許してあげようかとは思ってたんだけどね。色々な意味でキツイし」

 わたしとルーサーは群集の消えた広場を連れ立って後にした。
 ルーサーの腕に抱きついて、ベったりと寄り添う。
 何となく甘えたい気分。
 今日のルーサーは情けない弟分じゃなかった。
 わたしを守る一人前の男性だ。
 彼の成長をわたしに教えてくれたんだから、この決闘も無駄なものじゃなかったな。




 アパートに戻るなり、ルーサーはわたしをベッドに押し倒した。

「ねえ、リン。オレ、頑張ったよ。褒めて、褒めて」
「あー、うん。偉い、偉い」

 見直したばかりなのに、いつもの調子で甘えられて気が抜けてしまい、さほど気持ちのこもってない声をかけて頭を撫でてあげる。
 ルーサーの頭が胸の辺りでごそごそ動いている。
 膨らみに頬ずりしているようだ。

「ね、ご褒美にえっちしてもいいでしょう?」
「うん、いいよ。ちゃんと勝ってくれたし、好きなだけさせてあげる」
「やった! 一週間分しようねっ」

 この一週間は特訓に専念しようって言って、我慢させてたからな。
 ルーサーの一週間分か。
 もしかして大変なこと言ったかも。




 お風呂で体を洗って、一緒にベッドに入った。
 首の辺りにキスを散らされ、最も感じる胸を揉まれた。
 乳首が下から上へと弾かれて、その度に軽く達してしまう。

「リンはやっぱり胸が弱いね。かわいい」

 意地悪く囁かれて、乳房の裾野から円を描くように舌で舐めまわされた。
 両手と口を使った愛撫に、瞬く間に虜になる。

「……っ、あ…ふ……、ああうっ……やぁんっ」
「足を開いて。ほら、こっちはどうかな?」

 彼の指が足の間の茂みに触れた。
 中を探って秘密の泉を探り出す。
 愛液が指に絡み付いて、いやらしい水音を立てた。

「溢れてきてるよ。オレの方もいけそう。入れるよ?」
「う…ん……」

 ぼうっとした頭で答える。
 ルーサーの欲望の象徴が濡れた割れ目に徐々に分け入ってきた。

「ふぁあん……や……、っあうんっ……」

 熱を持った彼自身が、わたしの中に楔のように打ち込まれる。
 抱きついて、こぼれる声を抑えるように、彼の体に唇を押し当てた。
 歯は立てずに、ちゅうと強く吸い付く。
 腰が動くたびに、繋がりあった部分から快感と痺れがやってきて、わたしを陶酔させた。
 唇を離して、獣になったみたいに高く声を上げる。
 貪欲なほど彼を求めて、求められて、夜明けまで歓喜の交わりは続いた。




 次の日も、またその次の日も、わたし達は冒険には出ていなかった。
 今日で三日目。
 ルーサーはけろっとして家事をこなしていたけど、わたしはベッドの中。
 やりすぎて腰が立たないなんて、情けない。

「明日こそ、明日こそは冒険に〜」

 ベッドの中でうずくまって呻くわたしに、無理はしないでとルーサーが声をかけた。

「魔法アイテムの作成で仕事はこなしているから、お金の心配はしなくていいよ。万全の体調で出かけないと、危険だからね」

 ルーサーが作る魔法薬やアイテムは評判がいい。
 彼のおじいさんが、故郷の村で魔法アイテムのお店を開いているから、その跡を継ぐ修行もしていたことは知っている。
 でも、わたし達の本業は冒険者。
 旅に出てこそ、意味のある肩書きなのよ。

「だって、わたしは剣で身を立てるって決めたんだから、ルーサーばっかり働かせるわけにはいかないじゃない」
「リンがしたいことを止める気はないけど、せめて調子が戻るまではおとなしくしていて。オレは君が大事なんだ」

 わたしを諭すルーサーはハッとさせるような大人の雰囲気を持っていて、素直に頷いた。
 変なの。
 心がざわざわ騒ぎ出す。
 ルーサーが見せる頼りがいのある男の顔に、わたしはいちいち反応している。
 見つめているだけで、ドキドキ胸が高鳴る。


 これは騎士様に恋していた時と同じ感覚だ。
 浮かれてふわふわした気持ち。
 どうして今頃、こんな気持ちになるの?
 ルーサーの姿に、キラキラの背景が重なって見える。
 だけど騎士様と違って、手を伸ばせば届く距離にいる人。
 わたしは、彼に改めて恋をした。


 END

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