憧れの騎士様
エピソード4・ルーサー編・後編
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部屋に一人取り残されて、オレはリビングのソファに座った。
薬はすでに抜けていて、普通に動ける。
オレを運んでくれたヤツらを見送ってリンが戻ってきた。
自室に入り、部屋着に着替えて出てきたリンは水を飲んだ。
「気分良くなった? 水でも飲む?」
彼女はオレにも飲むかと尋ねて、隣に座って顔を覗き込んできた。
リンの優しさが惨めな気持ちに拍車をかける。
あんな情けない姿を見られて、恥ずかしくて穴があったら入りたくなった。
おまけにリンに助けられた。
結局、リンに守られてばかりの情けない弟分に逆戻りしてしまった。
「朝になったら村に帰りなさい」
俯いて、拳を握り締めたオレに、リンが優しく諭すように話しかけてきた。
「社会勉強はおしまい。ルーサーは村長さんになるんでしょう? 村に戻って仕事を覚えなくちゃ。かわいい恋人も見つけて、結婚して落ち着かなきゃね。その人のことは大事にしなくちゃだめだよ」
オレの頭を撫でて、抱きしめてくれた。
でも、オレは衝撃で声を出せなかった。
帰れって、何で?
オレ、一人で?
恋人を見つけて結婚しろって、リンの口からそんなことを言われてしまうなんて……。
「リンは帰らないの?」
帰るなら一緒にだ。
結婚だって、リンとじゃなきゃ嫌だ。
リンはオレの頭に頬をくっつけて「うん」と答えた。
「わたしは冒険者を続ける、村にもたまには戻るつもり。新しい相棒もすぐに見つかると思うし、心配することないよ。うちの両親にもそう伝えてね」
新しい相棒なんて、にこにこ笑いながら言わないでよ。
やっぱり嫌いになったんだ。
リンはオレのこと、もういらないんだ。
抑えきれなくて涙が溢れてきた。
オレの本質は変わっていない。
どんなに実力をつけて強くなった気になっていても、心は泣き虫で弱いルーサーのままだった。
「オレのこと、嫌いになった? あんな簡単な罠に引っかかった間抜けだから、相棒にもしておきたくないの?」
必死でリンに訴えた。
捨てられたら、オレはどうしていいのかわからない。
お願いだから冗談だって言って。
「違うよ。ルーサーのことは好き。大事な幼なじみだから、嫌いになんかならない」
「じゃあ、どうして帰れなんて言うんだよ!」
抱きついたら、リンは受け止めてくれた。
彼女は呆れたようなため息をつき、オレを引き離して立ち上がった。
背中を向けて、もう一度息を吐いたのがわかった。
「親の目の届かない場所で、気楽に過ごして遊びたいのはわかるけど、わたしをダシにするのはやめてよね。もう、ルーサーとは一緒にいたくない。離れなくちゃいけないの」
リンにそんな風に思われていたなんて、びっくりした。
そして一緒にいたくないと言われたことがキツかった。
「ルーサーは誰にもわたしのことを言わなかったんだね。酒場はお酒が飲めない人は楽しめないってわたしに言って、人には相棒は男だなんて嘘までついてさ。女と同居なんて言ったら、必ず勘違いされる。その気もないのに誤解されるのって嫌だよね。もっと早く気がつけば良かった。好きになる前に知ってたら、こんなに苦しい思いをしなくてすんだのに」
リンの声は途中から震えていた。
泣いているんだ。
オレが酒場に寄せ付けないようにしていたことがバレて、誤解されていることも知った。
「違う! そうじゃないんだ!」
オレはリンの背中に抱きついた。
引っ張るようにソファに倒れこみ、逃がすまいと力を込めた。
「何するのよ、離しなさい!」
「嫌だ! 話を聞いてよ!」
この手を離したら、リンはいなくなる。
オレの気持ちを誤解したまま行ってしまう。
そんなの嫌だ。
下に組み敷いて、綺麗なうなじに顔を埋めた。
怖いよ。
リンがオレの目の前から消えてしまうことが、一番怖い。
「オレは怖かったんだ。リンが他の男と親しくなって、オレから離れていくのが怖かったんだよぉ!」
カッコをつけることも忘れて叫んでいた。
「帰れなんて言わないで。リンがいない村に帰りたくない。オレを捨てないでぇ」
ぼたぼた涙が落ちていく。
今のオレは小さな頃に戻っていた。
先を急いで走るリンを、泣きながら追いかけていたあの頃に。
泣いているオレを見つめていたリンが、ふわっと微笑んだ。
暖かな、オレを受け止めてくれる時の微笑みだった。
「捨てないよ。大好き」
オレの首に腕をまわして、リンは囁いた。
唇を寄せて、軽く触れ合わせる。
「泣き虫のルーサーには、わたしがついてないとだめなんだね」
「うん、リンがいないとだめ」
夢中で頷いて、すがりついていた。
見栄なんて張っている場合じゃない。
オレは訴え続けた。
リンがどうしようもなく好きで、共にいて欲しいことを。
リンはオレの不安を取り除くために、キスをしてくれた。
何度も何度も唇を重ねて、舌も絡めあった。
「わたしもだめ。ルーサーがいない生活なんて、考えられない」
リンの言葉に目の前が明るくなった。
一緒にいていいんだ。
リンはオレのこと嫌いになってないんだ。
これからも、好きって言えるんだ。
「ベッドに行こう。わたしが欲しいならついてきて」
リンは体を起こして、オレを部屋に誘った。
導かれて移動した。
部屋に入ると、彼女は服を脱ぎだした。
この誘いを受けなければ、オレは永遠にリンを失う。
理想の初体験ではなかったけど、リンがオレを受け入れてくれるのなら迷うことはなかった。
オレもシャツのボタンを外した。
下も全部脱いで、同じく裸になった彼女と向かい合う。
「来て、受け止めてあげる」
差し出された両手をとって、オレはリンと共にベッドに敷かれた白いシーツの海に飛び込んでいった。
リンが上になり、オレの体に触れている。
彼女はオレの胸元についたキスマークを指でなぞり、舌を這わせた。
「たくさんつけられたね。大丈夫、ちゃんと消毒してあげる」
「うん……」
グラディスに触れられた時に抱いた嫌悪の感情は、リンが触れてくれることによって、次第に薄れていった。
はわぁ。
胸板の先についている蕾を嬲られて、昇天しそうになった。
リンはオレの乳首を口に含んで舐め転がし、周りの肌に口付けた。
「ルーサーも気持ちいいんだ。もっと気持ちよくしてあげる」
リードされていても、リンの愛撫なら気持ちいい。
股間のものに触れられても、愛する彼女の手でなら幾らでも触っていて欲しい。
リンはオレに跨って、触っていた股間のものを口に咥えた。
そっちに頭を向けているので、オレの目の前にはリンの大事な部分が曝け出されていた。
その向こうには、大きな乳房がたぷたぷ揺れている。
揺れる乳に両手を伸ばして揉んだ。
リンの体がびくんと反応した。
眼前の秘所にも顔を埋めてむしゃぶりついた。
性感の一つだと聞く秘豆を舐めて、割れ目全体を舌で撫でた。
「う……、うん……」
リンのあそこから、どんどん蜜が溢れてきた。
たまらなくなってきたのか、腰が動いて尻全体が震えた。
「あ、あんっ、あう、やぁあああっ」
オレのものから口を離して、リンが声を上げた。
びくんびくんと大きな反応を見せて、ぐったりと肩を落とし、彼女は息を吐いた。
「ん…はぁ……、ごめんね。先にイッちゃった」
再び咥えようとしたリンを制して、体の位置を入れ替えた。
リンを寝かせて、その上に覆いかぶさる。
「かなり濡れてる。入れてもいい?」
秘所が十分潤っているのを確かめて、オレは確認をとった。
リンは頷いて、自分から足を広げていった。
開かれた足の間に体を進めて、入れる場所を探す。
指で見当をつけて、入り口に先端をあてがった。
「痛かったら言って、すぐやめるから」
そうは言ったけど、オレも初めてで余裕がない。
本から得た知識だけでは不安も大きい。
でも、リンとの初めては成功させたいんだ。
「うん、来て」
リンはオレを信じきって、身をまかせてくれた。
思い切って体を進めた。
うっ、なかなか入らない。
ゆっくりだ、ゆっくりと……。
頑張れ、つらいのはリンの方なんだ。
「う、うう……」
痛いのか、リンがうめき声をあげた。
涙が浮かぶ目尻にキスを落とし、気が紛れるようにキスを続けて愛を囁いた。
「愛してるよ。君がずっと欲しかった」
「ルーサー、好き。大好き。あ、愛してるよぉ」
オレにしがみついてきたリンが、痛みを振り切るように声を上げた。
勢いに乗って、奥まで一気に進む。
や、やった。
リンと繋がった。
感動に浸って、じっと堪える。
リンの痛みが退いた頃合を見て、少しずつ動き始めた。
「ああっ!」
背中にリンの爪が食い込んだけど、彼女の痛みを思えばどうってことなかった。
彼女の中でオレ自身が暴れている。
愛していると、うわ言みたいに口にしていた。
快感が頂点に達して頭の中が真っ白になり、オレは避妊のことも忘れて精を放っていた。
終わった後、リンの体が心配になった。
シーツを汚した破瓜の血が目に焼きついて離れない。
出ると知ってはいたものの、いざ目にすると慌ててしまって、リンの方が落ち着いていた。
「リン、痛かった? ごめんね」
腕枕をして彼女を気遣うと、微笑んでくれた。
「平気だよ、でも今日は眠らせて。次はもっとさせてあげるから」
リンの微笑みを見て、オレの胸に温かなものが流れ込んだ。
彼女のことを好きになれて良かったと思った。
「うん、おやすみ」
眠る前におやすみのキスをした。
子供がするような親愛のキスじゃなくて、恋人同士の濃厚なヤツだ。
リンが寝付くと、オレは起き出した。
寝る前にやらなきゃならないことがある。
オレをあんな目に合わせたお返しは、きっちりさせてもらうからな。
自室に入って黒の服で全身を覆った。
黒布で目の部分だけを残して、頭部も隠す。
魔法剣の柄を腰に下げ、ホウキを用意した。
窓を開けて、空へと飛び出す。
真っ暗な空を駆けて、誰にも見つかることなく目的の屋敷へと降り立った。
屋敷に忍び込み、二階の部屋を探って書類を調べた。
帳簿とか几帳面に残してあるな。
これだけあれば証拠は十分だ。
「おいっ、牢が空だ! 商品が逃げたぞ!」
「何だって!? 今日は冒険者共が殴りこんでくるし、どうしたってんだ!」
外が騒がしくなった。
やっと気がついたんだな。
牢に囚われていた人達は、すでに自警団の詰め所近くに逃がしてある。
彼らに託した伝言で、もうすぐここに大勢の人間がヤツらを捕らえにやってくる。
オレがこの書類を盗み出して自警団に渡せば、それでヤツらは終わりだ。
だけど、それだけではオレの気がすまない。
部屋の外に出た。
階段から下を見下ろすと、吹き抜けの広間には、グラディスと手下共が揃っていた。
「冒険者共め、このままでは済まさない。わたしの顔に傷をつけた剣士の女は特にひどい目に合わせてやらないと……」
腫れた頬に張り薬をくっつけて、グラディスが忌々しげに吐き捨てた。
へえ、リンに害を成そうってわけだ。
ますますタダでは済ませられない。
「あれだけやられて、まだ懲りてないんだ?」
オレがかけた声に、全員がぎょっとしてこっちを向いた。
踊り場の手すりに足を組んで腰掛け、ヤツらに手を振ってやる。
「い、いつの間に!?」
「さてはお前の仕業だな! 牢のヤツらをどこにやった!」
この黒ずくめの覆面男が先ほどまで捕らえていたルーサーだとは、誰も気づいていないようだ。
バレても構わないけどね。
どうせこいつらは、もう自由に外を歩くこともない。
「さてね。家に帰ったんじゃないの?」
手すりから飛び降りて、広間に着地した。
手下の男達がオレを取り囲む。
「オレ、すっごく怒ってるんだよね。正義感とかそんなのじゃなくて、ものすごい個人的な理由で」
オレにだって夢があったんだ。
リンと初めて結ばれる時の理想のシチュエーション。
両思いになったオレとリン。
オレが君の騎士だと打ち明けると、リンは陶然と瞳を潤ませてこう言うんだ。
「嬉しい、わたしのために強くなってくれたのね。もう弟分じゃないわ、ルーサーはわたしの騎士様。愛してる、わたしをあなたのものにしてっ」
オレの胸に飛び込んできたリンを受け止めて、唇にキスをする。
「君のためならオレは幾らでも強くなれる。リン、冒険者をやめて村に帰ろう。オレと結婚してくれるよね?」
「もちろんよ、ルーサー。わたしはどこまでもあなたについていくわ」
そして高まった気持ちのままベッドイン。
誰にも邪魔されない激しい夜を過ごして、朝からもイチャイチャと……。
ところが現実は、理想と思いっきりかけ離れた展開になってしまった。
オレはみっともなく泣きながら捨てないでと縋りつき、情にほだされたリンが抱きしめてくれるという、いつものパターンになり、結局弟分からの脱却はできなかった。
愛されているのは確かだし、両思いも本当だ。
それは嬉しいし、幸せだ。
でも、違うんだ。
オレが望んでいた展開とは違うんだ。
あの状況で、どの面下げて言える?
リンの憧れの騎士様がオレだなんて、言えるわけがないじゃないか!
魔法剣の柄を握り、魔力を送り込む。
現れた光の剣を見て、オレを囲む輪が広がり、距離を取って離れていく。
「早く外に出た方がいいよ。建物ごと一緒に消されたくなければね」
せっかくの警告をハッタリととったのか、ヤツらは一斉に飛び掛ってきた。
オレは剣を高く上に掲げて、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。
衝撃波がヤツらを吹き飛ばし、幾人かが窓を突き破って飛んでいった。
「な、なんなのコイツ! ば、化け物!」
剣技とも魔法とも異なった圧倒的な力を目にして、グラディスが血相を変えて逃げ出した。
手下達も我先にと扉に殺到し、男達の悲鳴と怒号が飛び交う。
外に出ても、すでに自警団やら領主の兵隊やらが、屋敷の外に集まっている。逃げても一網打尽だ。
忌まわしい記憶の残るこの屋敷に、怒りを全てぶつけるつもりで、剣を振り下ろした。
オレの理想の初体験を返せ!
ちくしょおおおおっ!
眩い魔力の光が、建物を切り裂いていく。
支柱を幾つも破壊して、内側から崩壊が始まる。
オレは魔法を使って屋敷の上空に体を転移させた。
呼び出したホウキに跨り、宙に浮かんで下の様子を窺う。
屋敷は土煙を吹き上げて沈んでいき、瞬く間にガレキの山と化した。
屋敷の周辺では、大規模な捕り物が繰り広げられていて、屋敷から逃げ出した連中が次々と縄で縛りあげられていた。
この程度の報復じゃ足りないけど、ここまでにしておこう。
持ち出してきた、ヤツらの悪事を暴く証拠の書類を届けたら、帰って寝よう。
オレはホウキを操って、自警団の詰め所に向かった。
見つからないようにポストに書類を投げ込んで、こっそりと飛び去る。
何はともあれ、リンと恋人同士になれたんだ。
明日からは、ラブラブで桃色の幸せな日々が始まるんだ!
翌朝、リンが起きてきたのは昼近くになってからだった。
オレがおはようと挨拶すると、リンも照れくさそうに微笑んでおはようって返してくれた。
いいなぁ、この雰囲気。
昨日までとは違う関係を、こんなところでも実感できて嬉しくなった。
昼食を作るのも面倒なので、外食にしようと街に出た。
リンと腕を組んで寄り添って歩く。
どこから見ても熱々のカップルだ。バカップルと呼ばれようが構わない。
これからは隠すことなく見せびらかすんだ。
だって胸を張って、リンはオレの彼女だって言えるんだから。
途中でガッドとボブに会った。
二人はオレ達に気づくと、こっちに寄ってきた。
「昨日はありがとう、助かったわ」
リンが礼を言うと、二人の顔が赤くなった。
こいつらリンに惚れたな。
姐さんなんて言ってるぐらいだから、予想はしてたけどやっぱりか。
昨日、来てた連中も恐らくは……。
こうなるのが嫌だったから、こいつらとリンを会わせたくなかったんだよ。
「いやいや、姐さんのお役に立てて嬉しいですぜ」
デレデレと鼻の下を伸ばす二人。
リンも愛想よく笑うな。
ここはきちんと牽制しておかねば。
リンが簡単に心変わりするとは思わないけど、主張だけはしておかないとな。
「昨日のことは感謝してるけど、リンはオレのだから、手ぇ出さないでね」
リンの腕を引いて引き寄せて、釘を刺す。
オレの本性を知っている二人は、怯えた顔を見せて頭を縦に振った。
「も、もちろんだ。それに姐さんにはキツイお灸をすえられたからな。オレ達は憧れてるだけさ」
「そうそう、知ってるか? あの後、グラディスの屋敷に謎の男が現れて、誘拐されていた男女を解放して、屋敷をぶち壊したらしい。一味は全員お縄について、領主の裁きを受けるために、今朝護送されていったんだってよ。あれだけ余罪があれば、極刑は免れられないだろうなぁ。ほら、これがその号外だ」
ボブが差し出した新聞をリンが受け取った。
オレも横から覗き込み、記事に目を通す。
ふーん、黒尽くめってだけで正体まではバレていないな。
よしよし。
オレが満足そうに頷いている横で、記事を読んでいたリンの目が輝きを帯びた。
あの目はまさか……。
「騎士様がこの街に現れたんだ! ルーサー、騎士様はやっぱりわたし達を見守ってくれてるんだね!」
リンはオレと組んでいた腕を完全に離して、うっとりと空を見上げた。
な……、ちょっと待って!
オレは?
オレはどうなるの?
リンの恋人になれたんじゃなかったの!?
「リンにはオレがいるのに、もう騎士様なんていいじゃないかぁ」
半泣きになって抱きついた。
だけど、無情にもべりっと引き剥がされて、頭を叩かれる。
「ルーサーも騎士様を見習って、もっと頼りがいのある男にならなくちゃ。これからは甘えさせてあげない。わたしが付きっ切りで鍛えてあげるから、覚悟してね」
そう言って、リンはにっこり微笑んだ。
鍛えるって……。
甘えさせてくれないの?
そんなぁ。
リンと甘い生活を送るには、まだまだ時間がかかりそうだ。
でも、オレは幸せだ。
大好きなリンと両思い。
これだけで、明日からも頑張って生きていこうって力が湧いてくるんだから、不思議なものだ。
そうそう。
オレを罠にかけたフェイルとその仲間達は、翌日には街から姿を消していた。
騙されたと知ったジャックは、かわいそうなほど落ち込み、仲間内で励ます会を開いてあげた。
その席に参加したリンにも励まされ、ヤツまで彼女を姐さんと呼ぶファンの一人になってしまった。
ああ、また気がかりが増えた。
リンは今や、冒険者仲間の間では、ちょっとした人気者だ。
竹を割ったような潔い頼れる性格と、時折見せる明るい笑顔がみんなの心を掴んで、自然に人が集まってくる。
リンも冒険について語れる仲間を得て、交流を楽しんでいて、男女問わず幅広く交友範囲を広げている。
「ルーサーのせいで損してた。知り合いも増えたし、これからは一人でも酒場に行こうかな」
「それだけは絶対ダメ!」
恋敵が一気に増えて、少しも油断できない。
村にも、まだまだ帰れない。
今回の汚名を返上して認めてもらうまではプロポーズなんてできないよ。
その時こそは、決めてみせる。
オレは理想の求婚のシチュエーションを考えて妄想に耽った。
END
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